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林幸司さんのレビュー一覧

投稿者:林幸司

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タブーに挑む渾身のルポ!

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 いわゆるレッサーパンダ帽男による浅草女子短大生殺人事件を扱っている。平均的視聴者である私には異常者による通り魔事件ぐらいにしか映っていなかったが,本書を一読して冒頭から驚かされた。男は高等養護学校を出た障害者であったが,ほとんどの新聞はこれを黙殺して中卒とした。障害者の人権を謳うべきマスメディアとしては,凶悪犯が養護学校卒では犯罪報道しにくかったのである。本書はマスメディアがタブー視した障害者による犯罪を真正面から捉え,自閉症裁判のリーディングケースとなった裁判過程を丹念に追う。
 前半,男の障害を巡って精神遅滞か自閉症かを争う二人の医師の攻防は,それぞれの知識と経験を総動員して双方に説得力がある。不謹慎な言い方かもしれないが,法廷ミステリーのための拵え物ではないかと思わせるほどにスリリングで,見識の限りを尽くした学術論争の一手一手につい引き込まれてしまった。対照的なのは裁判長とのやり取りである。裁判所はつまるところ責任能力にしか関心はなく,落としどころを捕まえてほっとしている様がありありと浮かぶ,そしてこれもまたリアルである。
 もとより一診断名がその人の全てを描くものではない。自閉症という診断名に全てを託して「減刑を,情状酌量を」と訴えるのが著者の狙いなら,おそらくは唯のひとりの支持も得られないだろう。本書が投げかけているのは,「人としての罪と罰を求めればこそ,障害への理解が不可欠となるのであり,それなくして責任も贖罪も十全足るものとはならないのではないか。ほんとうの意味での再犯の防止とはならないのではないか」という問いである。都合の良い人権擁護マスメディア,支援に値する人々に対象を限ってきた福祉,責任能力論争に明け暮れて治療や処遇に無頓着な司法精神医学,時間はかけるが型通りの判決に安住しがちな刑事司法,などなど既得権化した既成の枠組みに重要課題を突きつけているのである。
 副島洋明,大石剛一郎両弁護士の方針如何ではこの問題提起も本作も生まれなかった。弁護の冒頭で自閉性の障害を持ち出したことは障害と福祉の専門家である佐藤氏でさえ「意外」と感じさせたほどであり,おそらくはこの不意打ちが氏に取材と著作の決心をさせたのではないか。その後三年に渡って努力の限りを尽くした弁護活動は詳細にルポされ本書の核を成す。ところがこれだけの苦労をしながらその弁護は一審判決に何ら影響を与えられず,弁護士をして「自閉症にこだわりすぎた。もっと事実関係で争うべきだった」と(一旦ではあるが)述懐させているくだりはあまりにも哀しい。外形的事実の大枠は争いようのないものであるから,弁護方針は正しく意義のあるものであった。判決はリーディングケースとならなくとも,その弁護過程は自閉症と犯罪と再犯防止という等閑視された領域に大きな一歩を残したのである。
 判決にも新聞にも黙殺された弁護活動を丹念に追い,困難を極めたであろう被害者加害者双方の当事者への取材を重ねて,障害の理解による真の贖罪と再犯防止を世に問うた佐藤氏の労作の意義は大きい。ボーイフレンドの柔術大会出場応援という曇りなき青春の休日をその道行きで永遠に奪われたO.M.さんへの,難病の上に男に無心され続け心身ぼろぼろになりながら皮肉にも男のしでかした事件故に共生舎の支援に出会い最後の数ヶ月だけの幸福を享受して他界した妹への,鎮魂の書でもある。

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