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先月(2017年6月)

いえぽんさんのレビュー一覧

投稿者:いえぽん

185 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本なぜうつ病の人が増えたのか

2010/01/18 18:43

「うつ病増加」の要因とは? その真実を詳細かつ多角的に分析した優れた一冊

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

近年、うつ病などの精神疾患がマスメディアで取り上げられることが、非常に多くなったように感じます。それに伴って、いわゆるメンタルクリニックなどの、精神面での治療を行う病院はぐっと身近になり、心理的な敷居が随分低くなったようにも感じます。SSRIなどの新しい薬の存在も広く知られるようになってきました。しかし、にも関わらず、うつ病に悩む人が減少したという報道ではなく、逆に増加したとの話を良く耳にするようにもなりました。治療を受けられる環境が整い、新薬が用いられるようになったのにも関わらず、減少に転じないのは、一体何故でしょうか?

本書は、そんなうつ病などが「増加」した原因を、詳細なデータを用いて多角的に分析した一冊です。失業等のストレスが増加し、うつ病患者が増加したのだという言説に、日本とは景気動向が異なり、九十年代中頃以降、景気回復基調を辿っていたイギリスでも、年々新型抗うつ剤SSRIの処方量が増加していったというデータで反証し、更に、他の先進国でも一致して、SSRI導入後に抗うつ剤処方総量が増加したことを示し、ストレスの増加がうつ病増加の主要因ではないという仮説を、さらに補強しています。では、何故「増加」したかという点について、本書は、「受診率の増加」という重要な要素を挙げています。ある病気について、受診率が二割から四割に、あるいは三割から六割に増加すれば、統計上の患者の数は二倍に増加します。

では何故、SSRI処方の増加と、受診率の増加が一致するのかという部分ですが、本書では、その点に関する分析も示されています。製薬会社が大々的なプロモーションの一環として、疾患の啓発・広報活動を行い、「誰にでもかかりうる病気で」、「治療することができ」、「早期治療こそが重要だ」というようなメッセージを送ったことが要因として挙げられています。従来の抗うつ剤と比べ、SSRIは薬価が高く、利率も高いので、大々的なプロモーションを行うだけの「価値」があったからでもあります。プロモーションを行うことによって、人はうつ病的な傾向に敏感になり、また、受診率の増加によって、統計上の患者数が増えます。この相乗効果によって、短期間にうつ病患者が数倍以上にまで「増加」するという「SSRI現象」が発生するのだと、本書では指摘しています。また、新たな診断方法の導入によって、非定型うつ病など、従来では病気と診断されなかった症例も疾患として扱われるようになったことにも言及がなされています。

また、本書で紹介されている、製薬会社のプロモーションは、注目すべきものがあります。様々な方法で、市民に啓発・広報活動をしていく一方で、医師に対しては、セミナーや学会をサポート、SSRIが従来の抵うつ剤よりも優れているといった趣旨の研究にも援助を行って、次々に作られる論文によって、医学界の「世論」が形成され、もちろんオーソドックスな営業も大々的に行っていくといった具合で、その戦略性は、洗練され、徹底されていると言っていいでしょう。

本書では、他にも、各国によるうつ病治療の違いや、SSRIの実際の効用はどの程度か等の、専門的な話にも言及がなされています。いずれのテーマにも、徹底したデータ、理詰めでの分析を行っていますが、その中でも最も評価されるべきは、最近、マスメディア等で「社会問題」化されているうつ病「増加」の原因が何かを突きとめ、分かりやすく解説していることです。受診率が増加すれば、統計上患者は「増加」しますし、診察を受けた人が敏感になった結果、診断を下されやすくなれば、当然「増加」するわけですが、それは事態の悪化を示すものではありません。製薬会社等が強力に介入することで中立性が損なわれかねない等々の懸念・問題はあるものの、診察や治療の敷居を低くする啓発活動の結果、受診率が向上することは、基本的に悪いことではないのですから、結果として患者数の「増加」も、特別警戒するにはあたらない状況なのです。

後は、「増加」の事実を、マスメディア等がどう報じるかが課題になって来るところではありますが、本書は発売以来、既に何度も増刷され、新聞各紙でも書評等で取り上げられています。統計上の患者数の「増加」そのものを「社会問題」とするような、報道上の「空気」も、変わりつつあるのかも知れません。



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紙の本幻想の古代史 下

2009/11/23 12:38

証拠の伴わない「異説」の原因や、異説によって教育現場が影響を受けている現状を詳細に解説

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

下巻は、前編で解説した科学的な思考を下敷きとして、考古学にまつわる代表的な様々な「異説」について、批判的な分析を加えています。その対象は、前編で見られるように、既に捏造だと発覚した遺跡や化石ではなく、アトランティス大陸の伝説や、古代文明が突如として宇宙人などから高い知識を授かったという説等々の、「一般的ではない」とされる学説や主張に向けられており、時代背景も内容も広範に及びますが、色々な点から有名な言説でもあるので、あまりとっつきにくさを感じることはないでしょう。

分析の冴えは上巻と変わらず見事なもので、偉大な賢人プラトンが語ったアトランティス伝説が、彼による完全な創作であることの根拠に、プラトンに続く歴史家たちの記述の中に、アテナイとアトランティスの戦いについての記録が見られないのは、当時既に完全なフィクションであるとみなされていたからだという、説得力のある考察を加えており、古代に描かれていた特徴的な絵を宇宙人や何か、人智の及ばない勢力の影響や技術を示しているとする言説には、反証として、当時の文明から、古代の絵画に反映される有力な証拠を提示し、また、絵画制作に際しての技術は、優れてはいても、当時の技術的限界を超えるものではなく、「宇宙人がレーザーを使って」仕事をしたわけではないことを証明しています。これに対して、「宇宙人を介して科学技術が進展した、突然変異的に進化した」というような説は、言説を補強する証拠がなく、説得力のないものと言わざるを得ないというのが、本書が提示している結論で、膨大な証拠と冷静な分析を下地にしている以上、その結論の信頼性は、非常に高いものと言えるでしょう。

特にこの下巻では、様々な言説を対象にしていますが、しばしば、世界的なベストセラーにもなった著作にさえ見られる、「エジプトや、古代文明の勃興や衰退が急激になされた」、などの主張の多くが、文明が発展し、知られるようになる以前についての基本的な知識や、文明の衰退を招いた、社会的システムの疲弊など、本来であれば真っ先に目を向けられるべき事実に、知識不足等の原因で目が向けられていない、あるいは、古代の絵画から宇宙人を「連想」して見せるような、思い込みによって生まれているという共通点を持っていることには驚かされます。これは逆説的に言うと、慎重でしっかりした基礎的な知識を身につけていれば、こうした言説を無批判に信じ込んでしまうリスクは随分減るということです。この姿勢は、常に様々な情報を受ける立場にある私たちにとって財産になるものでしょうし、また、考古学に限らず、あらゆる分野の学問にとっても、確実にプラスになるはずです。

本書の後半では、いわゆる疑似科学が教育現場に浸透しつつある米国の現状について言及がなされています。進化論とは別の形で世界や生物が作り出されたとする「創造論」と呼ばれる言説を対象にしているのですが、アメリカで行われた、進化論教育に関して行われた有名な裁判以後、勃興してきた学説について、いかにして公教育の場で政治的な働きかけがなされてきたのかというレポートと、それに対する反論が詳しく記されています。この点については、単に考古学分析という枠組みを超えて、「科学」の衣をまとった特定の主張が、政治的な分野において確たる地位を占めてしまいかねない懸念と、それに対しては、何よりも正確な知識と分析力が必要になってくるという社会的な意味での対策を示しているという点で、普遍的な有意義さを持っていると言えるのではないかと思われます。

「ゲーム脳」、や「少年犯罪の凶悪化」、「体感治安の悪化」といった形で、実情とは全く異なる、根拠のない主張が、マスメディアによって大々的に取り上げられ、それが国家レベルの政策にまで影響を及ぼすということも珍しくないのが現状ですが、対象分野が何であるにせよ、誤った対策から導かれた結論は、良い成果をもたらすどころか、逆の結果を招いてしまうということも少なくないわけで、いかにして、根拠に乏しい言説に批判的でいられるかは、良い形での市民社会を維持する上において、重要なポイントであるとも言えます。その意味において本書は、考古学をしっかり学びたい方にとって、最良の入門書であると同時に、「批判的な思考力を養う」ために、あらゆる学問や、社会的問題に触れていこうとしている方に、強くお勧めできる一冊と言えるでしょう。

個人的には、無数の「疑似科学」的言説や、実情とは異なる政策運営がまかり通ってしまっている現在の日本で、本書が出版されたことは、社会的にも大きなプラスであると思います。

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小説を書くための「軸」を教えてくれる一冊編集者にも!

8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 非常に幅広いジャンルで作家として活躍し、インストラクターとしても、数多くの新人作家を育成してきた若桜木氏の、新ノウハウ本です。氏のこれまでの著書(ノウハウ本)とは異なり、カバーに今風のイラストが描かれていますが、実用性の高さについては変わりありません。扱いやすさを最大限に意識した「若桜木流」のシステムですので、読みながらでも、自身の創作活動に活かしていくことが可能です。
 本書の最大の特徴は、小説を書くためのテクニックではなく、その「土台」を極めてシステマティックに分析し、ヒットするためのパターンを、キッチリと類型化したところにあります。ヒット作品に共通した「パターン」や「バリエーション」を見つけ出し、話の材料を膨らませるために、漫画などの、他メディアの作品を参考にすべしと言っている部分には、大変な説得力が感じられました。小説よりも、漫画やアニメ、ゲームに多く触れてきた層にとっては、このシステムはかなり使い勝手のいいものではないでしょうか(もちろん、小説も読む必要がある、と言及されていますが)。
 世の中には、無数の作家入門・小説入門のための本がありますが、本書は、作家や作家志望者の技能に関係なく、もっとも最初に読むことができる一冊です。コアになっている、「パターン」と「バリエーション」についてのノウハウの部分だけでも、値段分の価値は充分にあると言えましょう。入門書全体の中でも、かなりのおススメ度を誇っているように思えました。
 また、本書は、小説や漫画等の編集志望者にも役に立つでしょう。ヒットするためのシステムを分析し、本編に例示されているように、簡潔にあらすじやポイントをまとめることができれば、企画の成功に大いに役立つからです。現役の作家と編集者が参加したことで、両方の職業を志す人のために役立つ本が誕生しました。画期的な一冊と言えるでしょう。

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紙の本トンデモ偽史の世界

2008/09/10 04:29

古今東西の偽史のエピソードを軸に、「偽史が求められる状況」の危険性にも言及した好著

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

民族や人種の起源や、長いスパンにおいての歴史上の流れなどについては、エピソードを問わず、様々な解釈がなされるのが常ですが、本書は、その中でも客観的な歴史的事実から捏造や誤りだと判断された、言わば「公式上の偽史」に焦点を当てています。

紹介しているエピソードは、古今東西を問わず、事柄にしても、意図的な書物の偽造(偽書)や遺跡や化石等の捏造から、思い込みによって突飛な説が登場するに至ったケースまで、非常に多彩で、なおかつ無数の資料を用いて、一つ一つの事例について、単なる概説に留まらない掘り下げが行われています。また、「偽史」と言っても、堅苦しい題材は少なく、台湾が「日本皇帝」によって統治されていると「主張」した、十八世紀の超級奇書「台湾誌」や、空前の遺跡捏造事件として世間を騒がせた、かの「ゴッドハンド」事件等々、柔らかいテーマが多数を占めるので、肩に力を入れずとも、すらすらと読み進めていくことができるでしょう。

しかし、本書は、事柄の羅列に留まらない、より深い問題意識を、私たち読者に投げかけてもいます。それは、冒頭で、「誰が何のために偽書を記し、何故それが受け入れられたか」に言及したことに代表される、偽史や捏造品の「需要と供給」の関係性です。愛国的な意識をくすぐられたフランス人の大学教授が、こともあろうに、「フランス語で書かれた」アレクサンダー大王の書簡に感銘を受けたり、ナチスドイツにとって都合の良い歴史観が構築される前段において、一度は完全に否定されたものを含む、ひどく出来の悪い偽史書が出回ったりすることに代表される、様々なケースにおいては、洋の東西や、知識や経験を問わず、ついつい人は客観的な事実ではなく、情報を受ける側にとって耳触りの良いエピソードに飛びついてしまいがちになってしまうという一致点を示していますし、イースター島の文化研究や、一時は、イギリスの考古学関係者の多くが騙されたというピルトダウン事件では、無根拠な思い込みが、人々を真実から遠ざけてしまったという酷似点を有しています。また、多くの人々に支持されやすく、時に政治にすら影響を与えてしまうだけの力を持っている偽史は、しばしば強い権力によって守られてしまう性質を持っており、どれほど杜撰な偽史や捏造の類でも、権力と結びついた時点で、「正史」とされてしまい、批判することが極めて難しくなることも、「偽史」の危険性の一つだと考察することもできます。更に、いわゆる「ユダヤ人陰謀論」の根拠の無さにも関わらず、ナチスがユダヤ人を迫害する根拠として陰謀論を大いに利用した事例からは、どれほど荒唐無稽な偽史でも、それが為政者の意向と手を組んだ瞬間、恐るべき残虐な行為を推進するブースターとして機能しかねないという真実を示していると言えるでしょう。本当に恐ろしいのは偽史ではなく、それに躍らされる人々の熱情と権勢であると言えるのかも知れません。

繰り返しになりますが、本書がフォローしている範囲は極めて広く、しかも古今東西を問いません。にも関わらず偽史の「需要と供給」には、これほど多くの一致点があります。つまり、よほど注意していなければ、様々な「性質的な一致」によって、いつ掲載されているような、とんでもない誤解に陥らないとも限らないのです。そんな中で、古今の無数のエピソードを紹介すると同時に、「偽史の扱われ方」を分析し、全く関係なさそうなケースに、意外な一致点を見出すことに成功した本書は、安易にうまい話に賛同することなく、冷静な分析を促すという点で、情報の取捨選択を円滑にするテキストであると同時に、心理的な側面においても有用だと言えます。また、難しい話を抜きにしても、雑学本として非常に面白く読めますので、あまり教科書に載らないような歴史を、様々な観点から分析したり、既に手元にある書物がどのような扱いをされているかを見てみたりするような楽しみ方をすることもできるでしょう。

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世界陰謀史事典

2008/08/03 02:45

入門から専門レベルまでをフォローする、かつてない充実ぶりと信頼性を持った「陰謀」事典

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

情報化社会と呼ばれて久しい今日にあっても、古今東西の陰謀を扱った書籍は、変わらない人気ぶりを示していますが、それは、公然化されていない秘密的な事柄によって、歴史的に重要な役割を果たしてきたという仮説が、多くの人々に説得力のあるものとして受け止められている証明に他なりません。時の権力者が、様々な密室での謀議や後暗い陰謀によって重大事を決定するという図式は、為政者にとって極めて効率が良く、「安全」なものであるが故に、現代でも様々な秘密の謀略が蠢いているのではないかとまことしやかに語られているのです。しかし、そうした説の多くは、どうしても公然的な情報に頼ることができない部分が多いため、客観的なデータによる説得力を持たせることができず、半ばガゼネタの「陰謀論」として扱われることが少なくないのが現状です。情報を秘匿するか否かの権限を握っている人々が、一から百まで全ての情報を公開することなど考えられないにも関わらず、「陰謀」と呼ばれる説に、今一つ信憑性を感じられないことの原因の一つに、情報の確度の問題を挙げることができるでしょう。

その点、本書「世界陰謀史事典」は、類書の持つ欠点を、ほぼ完全に克服していると言えます。秘密結社や儀礼的要素にのっとった秘密組織、諜報網の暗躍、政府の黒幕、国家間で結ばれた秘密の外交関係や戦争での計略、国家の秘密計画等々、およそ「陰謀」と呼べる全ての種類の主だった事柄を完全に網羅しており、ほとんどの「陰謀」に関する概説書・入門書としての役割を果たしているだけでなく、個々の「陰謀」を扱った諸説の信頼性を徹底的に検証・分析し、実際にあった事柄や、極めて確度の高い説を抽出するというシステムを取っているため、一つ一つの項目に限っても、類書に見劣りしないだけの充実度と、専門的な研究に移っていくのに充分な基礎知識を身に付けることができます。また、時系列を見落とさないよう、極めて丹念に描写された本文の記述を、巻末の年表や人物索引が補完するという丁寧ぶりで、読み手の理解を深めるための配慮もなされています。一冊あたりの文字数や、覚えるべき単語の数は膨大と言ってもよく、短期間で全てを覚えるのはかなり難しいと思われますが、じっくりと時間をかけて何度も読み込んでいけばいくほど、自分の身になるタイプの書籍だと言えるでしょう。また、ある一つの事象について理解を深めたいのであれば、一つの項目の部分を読んで、知識を得ていくこともできます。

そして、何より、本書が素晴らしいのは、単なる「陰謀」に関する知識を集積したに留まらず、現代社会の「裏面」に関する予測力と分析力を、読み手に与える役割を果たしていることです。日々のニュースを賑わすような事件の裏面について思いを馳せることは、事象に対する立体的かつ重層的な理解と想像力をもたらします。確かに、本格的な「陰謀」に直接関われるのは、ごくごく一部の人々に限られており、一般市民にはそれを察知することはもちろん、防ぐことも極めて困難なわけですが、大がかりな陰謀であればあるほど、世界中の人々に影響が及ぶことも事実です。あらゆる国際的な事態に対しての精神的な「転ばぬ先の杖」として、本書が機能する可能性は、決して少なくないと言えるでしょう。情報の確度や信頼性、内容の充実性からして、「陰謀」関係書籍の中でもトップクラスの一冊であり、今後の裏面史研究にあたっては必携とも言えるほどの本書ですが、これまで興味がなかった人に対しても、概説的入門書や、新たな現実への向き合い方を提案する本としての役割を果たしています。タイトルや価格から、一見取っ付き辛い印象を受けますが、実際は、多くの層をフォローするだけの汎用性をも持つ好著だと言えるでしょう。


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メイソンにまつわる誤解、陰謀への反論から、シンボルや儀礼に関することまで 資料集的な構成

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

上巻が、フリーメイソンの歴史や組織等々を、マクロ的な部分から紹介した概説書的な構成だったのに対して、本書は、メイソンの大幹部だったアルバート・パイクにまつわる伝説や、メイソンを標的にしたレオ・タクシルの途方もない虚偽のでっち上げ、メイソンにまつわる都市伝説の詳細な証明といった、いわゆる「陰謀論」への解答を示すところから、メイソンで用いられる独特のシンボルや儀礼形式、儀式的な服飾に関する部分までをフォローしており、より専門的な部分へのアプローチと、副読本的な解説に主軸を置いた構成になっています。巻末には、本書よりも更に詳細な情報が得られる文献やウェブサイトの紹介、著名なメイソンの一覧表、メイソン年表等々が附録として掲載されており、非常に丁寧かつ親切です。特に、儀礼的シンボルや服飾に関する項目に関しては、図説や写真がふんだんに使われていて、読む者の目を楽しませてもくれます。

概説的な性質を持つ上巻を予め読んでいた方が、本書の内容をより深くできるのは確かですが、単体として見ても、「メイソン主犯説」に対するより具体的な論破、誇張された都市伝説に対する誤解の証明、あるいは、メイソンの具体性を理解するための、実用的な解説書として、完成度は非常に高いものがあります。特に、レオ・タクシルがでっち上げた、パイクやメイソンがルシファー信仰と関係があるとした「証言」の顛末(公衆の面前で、タクシル自身が事実無根の嘘であると言い切った)や実際には、パイクとKKKの関連など全く存在していないという事実証明、創作としては面白いものの、詳細な調査の結果、実際には関係ないことが判明した「都市伝説」の数々などで記されている、様々な信頼のおけるエピソードは、多くの「メイソン主犯論(メイソン脅威論)」を掲げる著作への、これ以上ない反論として機能していますし、様々な言説や都市伝説に対する、徹底した調査の姿勢は、本書全般に見られる丁寧かつ誠実な仕事ぶりを一層強調しているとも言えます。

この「フリーメイソン完全ガイド」が刊行されたことで、メイソンに対する知識や研究、メイソンに対する言説のレベルは、従来よりも高く、公正な段階へと引き上げられることになるでしょう。もっとも、一世紀以上前に、全くの事実無根であると証明(それも自身の告白によって)された、タクシルの言説や著作が、今なお「メイソン脅威論」の中軸をなす「理論」の一つとして認知されてしまっているように、今後も、「メイソンが何か巨大な陰謀を企て、世界を支配しようとしている」というような言説は無くなることはないでしょう。しかし、本書の一貫した冷静な筆致や分析の姿勢は、今後、「メイソン脅威論」の説得力を大いに減らしていくことになるかも知れません。脅威論を掲げる人々は、「証拠が出ないことこそが陰謀の証拠だ」、「最高位階者が『公式』に書いたものなど信用できるはずがない」と反論してくるかも知れませんが、本書で示されている様々な明快な情報源が、不確かでおどろおどろしい謀略論で用いられてきたそれとは、信頼性において明らかな違いがある以上、「メイソン主犯論」が説得力を維持するのは、極めて難しくなってくるのは明白です。

本書が、「メイソン脅威論」に対する有効な反論書であり、実態のない不安や恐怖と向き合うにあたって有効な一冊であることは、上巻を評した際にも述べましたが、いわゆる「体感治安」や、「少年犯罪悪化」が声高に語られたのは、マスメディア等の報道を介して、実態のない恐怖や不安が煽られた結果生み出されたものだったことが、優れた何冊もの書籍によって明らかになったように、正確な資料に基づくデータは、現実を正しく見ることを読者に促し、正確な分析によって導き出される結論は、必然的に、単なる思い込みから出された結論よりも、ずっと有効な解決策となる可能性が高いものです。

そうした俯瞰的な視点で見るのであれば、本書は、単なる一つの友愛結社に対する誤解を解くものにとどまらず、様々な問題の責任を、メイソンへと転嫁されることを防いだことで、より正確な分析と解決を促しているという意味で、社会的にも価値のあるものだと言えるかも知れません。丹念な記述と、怜悧な筆致が非常に素晴らしい成果をもたらした、稀有な一冊だと言えるでしょう。

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実像を詳述することで、誤解や謀略論から人々を遠ざける、最高位階者による「フリーメイソン」研究書の決定版

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

世の中が、ある特定の組織や結社によって牛耳られている、あるいは支配されようとしているといった論調を展開する書籍や記事は無数にありますが、その中でも、もっとも「主犯」として挙げられた頻度の高い組織の一つに、フリーメイソンが挙げられることは、まず間違いないでしょう。組織が有している特徴的なシンボルや儀礼、著名人関係率の高さは、陰謀への関与を示す「根拠」として、長い間一定の説得力を有し続けており、我が国においても、主にオカルト的な枠組みの中で、何冊もの「メイソン陰謀」本が刊行されてきました。オカルト趣味が全盛だった一昔前には、書店でもかなりの存在感を示していたようにも記憶しています。

しかし、「フリーメイソン完全ガイド」と銘打たれた本書の登場によって、そうした結社の秘匿性や神秘性等々を「論拠」とした、一部で流れている「メイソン害悪説」は、根本的に説得力を失い、メイソンに注がれる視線も、一変するかも知れません。本書の著者は、メイソンの最高位階者ですが、その筆致は極めて冷静かつ慎重なものであり、中立的な歴史家、研究者としての評価に耐えるものです。

メイソンの歴史と現状、組織や儀礼性の大枠を記した上巻の中で、一例を挙げるならば、女性の参入の可否や、信仰を持っているか否かというような根本的な部分で袂を別った「フランス大東社」や「東方の星」などのグループにも積極的に言及、評価を下している他、全くの自己流で儀礼を経ずに、構築されていった「メイソン系組織」の存在に言及してもいます。また、現代的な様式が完成して以来、ずっとメイソンに関する「暴露本」が発行される事態に直面してきたこと、しかしながら、その事が逆に、類似する性質を持つ友愛団体を誕生させる結果となった事に繋がったと記されてもいます。このような、俯瞰的かつジャーナリスティックな記述は、組織の内部にいる人にとって、なかなか書き辛い部分であるわけで、著者の熱意と、組織の開放性を同時に示していると言えます。

本書は、極めて詳細な概説書であると同時に、冷静で開かれたニュアンスを有する記述が、フリーメイソンという団体の歴史や特色を強調していることで、「メイソン主犯説」を唱える論者たちに対して、ほとんど完全な反論として成り立っているという特徴を有しています。

仮に、密室において、何か重大なことを企み、人知れず実行に移す秘密組織なら、必然的に、鉄のように硬い規律と、何よりも組織そのものに他者に知られることがないことが大前提なのですが、社会に広く名が知られており、暴露本で儀礼に対する知識を持った人々が食事にありつきに赴くこともあったようなメイソンには、既に何の秘匿性も存在せず、彼らにしても、歴史、組織、儀礼などをこれ以上ないほど詳述した本を刊行する位なのですから、そもそも、陰謀に必要なほど強度の高い秘匿性を持つ気がないことも自明と言えるのです。

また、人類全体を支配下に置こうとしているという論に関しては、勧誘をしないという彼らの方針が、これ以上ないほどの反論になっています。物理的な問題として、全人的支配を目論むならば、一般人を直接取り込むプロセスは必要不可欠だからです。更には、本書内で「すべては、どこかしらに対して正規である(134P)」とまで言い切り、自分たちの流派とは全く相容れない派閥の価値を担保してすらいるのです。どんな世界であれ、異論や少数派の価値を徹底的に廃し、自らの正当性を一元的な概念として当てはめることで初めて、中央集権的な体制というのは成り立つわけですから、価値の許容を全面に押し出しているメイソンの枠組みのもとでは、集権制の究極である「世界支配」など、あまりにも不可能であることが分かります(本書では、メイソン組織を「大学」になぞらえることが少なくありません。つまり、学内サークルのように、縛りの緩いシステムのもとで成り立っているというわけです)。更に言えば、もし政治的影響力を行使したいと彼らが考えていたのなら、当時としてはかなり急進的で、近現代の民主的憲法の中でも相当リベラルな部類に入る「政教分離」を組織にいち早く当てはめ、「メイソンは政治に立ち入らず」という制約を設けるなどと言うことは考えられないでしょう。

このように、本書は、「メイソン陰謀論」への誤解を解くことに対し、非常に大きな貢献をしており、この国における「メイソン観」が一変し得るポテンシャルを持っている一冊と評することができますが、大多数は、アメリカを中心とするメイソンの発展や変遷、組織等々に言及したものです。冷静な筆致と正確な分析に基づいた、膨大な記述の数々は、まさしく「完全ガイド」の名に恥じないものがありますが、入門書としての配慮も充分になされており、随所に挟まれるコラムや、章末の箇条書きにされたまとめによって、逐一知識を整理しながら、読み進めていくことが可能です。図説など、レイアウトにも、多くの工夫がなされていますので、ディープな内容の割に、「読み疲れ」しないのも特徴の一つとして挙げることができるかも知れません。
 
秘密結社全体の概説書から、さらにメイソンに的を絞って学んでいきたいという方や、結社から人種・男女問題を考えて行きたい方、更には、現役の最高位階者が執筆したメイソン解説書ということで、専門家の方にもお勧めできる内容だと言えますが、個人的には、これまでに、「メイソン陰謀論」を唱える書籍や雑誌の記事などを読み、メイソンに対して、恐れや不安などを抱いている方に、読んで頂ければと思います。客観的に見て、この本は記載されている様々な事象は、とても「メイソンが勝手に主張しているだけ」と断じることはできないだけの信頼性を、言葉による反論ではなく事実でもって明示しているだけに、これまで抱いてきた焦りや不安、誤解が解消され、ひいては、メイソンに対する警戒心から解放されるということも期待できるかも知れません。

何かを主張する代わりに、事実を積み重ねていくことによって、本書は、メイソンと、一部社会に生じている心理的な溝を埋めるだけの力を持つことになったとすら言えるかも知れません。歴史的な名著になりうる一冊です。

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叱咤激励してくれる、モチベーションが高まる指南書 技術的にも「入りやすい」一冊

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

何かを「書いてみたい」と思うことはありますが、そのモチベーションを持続させ、作品の完結まで持っていくのは、なかなか大変なことです。特に、締め切りが設定されていない原稿などの場合、気が付いたら先延ばしになってしまい、完成しないままパソコンのメモリに埋まっているなんてことも珍しくありません。そして、どんなに表現力に富み、技巧を凝らした作品であっても、未完成のままでは、人に読んでもらったり、商品化されたりということは困難です。つまり、完成させることができて、初めて技術的なメソッドが活きると言えるのです。

 もっとも、言うは易し行うは難しで、孤独な執筆作業を続けていると、ついつい心が萎え、投げ出したくなってしまうものです。また、新たな作品を書き出すのにも、相当なモチベーションを要することがあります。そうした「つかえ」に対し、心のサプリメントになってくれるのが本書です。この本は、指南書ではありますが、「何かを書きたい、でも書けない」という人に、作家としてのあり方など、心理的な面からのアドバイスから入っています。著者の内藤氏自身の体験談や苦労話がふんだんに盛り込まれているため、助言には単なる一般論ではない「熱」があり、読み進めているうちに、「よし、書くぞ」という気になってくるのが凄いところです。何を書いたらいいのかわからない、という方はもちろん、書き続ける毎日に疲れている文筆業志望者やプロの方にとっても、大きな助けになるでしょう。

 また、技術的な面についてのアドバイスも的確で、電子メールや日記、ブログや作文、携帯小説と、様々な媒体で、同一のテーマを取り入れ、それぞれの様式に即していくというシステムは、入りやすく、継続も比較的簡単な上に、実戦的でもあります。本書で紹介されている方法で練習を重ねていけば、それぞれのフィールドでの習熟度も増すでしょうし、自分に一番適した表現方法も見つけることができるでしょう。ここでも、「初心者から熟練者まで」収穫のある方法が提示されていると言えます。

巻末に、他のノウハウ本についての記述がなされているなど、フォローにも抜かりが無く、丁寧という表現が本当にしっくり来る一冊です。各ジャンルをフォローする、専門的な指南書に比べると、システム・メソッド的な限界はありますが、それでも、誰にでもわかる書き方で、ジャンルを並行的に移動する方法を提供しているのは、とても大きな功績と言えます。文筆分野において、何らかの「悩み」を抱えている方は、この本を手にとってみるといいいでしょう。

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世界の「背骨」を知るために

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 国旗・国家の問題は、今日の日本でも、重要な政治的問題として語られています。それは、問題に、どのようなスタンスで向き合うにせよ、国旗という存在が、国を示す象徴的なものとして、あるいは精神的な支柱として人々の間で認識されているということを示しています。国旗は、ただの図形ではなく、それぞれ重要な意味を持ったものなのです。
 本書は、そうした認識を持つ人はもちろん、今まで国旗にそれほど興味を示してこなかった人にも、受け入れられやすい形式を取っています。アメリカや中国といったメジャーな国ばかりでなく、私たちからすればなじみの無い国々の国旗を徹底解析し、その歴史的な経緯や国旗の意味を、抜かりなく詳述しています。とりわけ、本書が優れているのは、全ての国旗に公正な形でページを割り当てている点です。この点からは、各国の国旗を等しく尊敬し、一般にその価値を周知させていこうとする強い意思を感じ取ることができます。監修した辻原氏の確かな手腕と「愛」が感じられる構成と言えましょう。
 本書は、フルカラーで作成されており、限られた分量の中で国旗に関する雑学を豊富に盛り込むなど、仕事ぶりは、極めて丁寧かつ適切です。表面的な情報の普及に留まることなく、本編から分離したコラムの形式で、専門的な国旗学のエッセンスをまじえた上に、各国の基礎データを示した事で、国旗学の勉強のみならず、世界史や現代史への手がかりを示しているところも嬉しいところです。レアな話題も多く、帯に記載されていた「へぇー度満点」というコメントは、正に看板に偽りなしです。これまで、地理や歴史に興味が持てないでいた方も、この本なら、と思わせるだけのポテンシャルがあります。
 本書は、国旗を掲げた国家群がそうであるように、無限の可能性に満ちています。本書を導入に、より専門的な国旗学の本をひも解いてもよし、世界史の勉強に入るもよし、国歌に関することを、ワンセットとして学んでみるのも面白いでしょう。また、学生でなくても、「日の丸・君が代」の問題に興味を持たれた方は、周辺知識を得るためのツールとして効果的に活用できるはずです。

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ジャーナリズムの世界に「謎本」を上手くコラボレートさせた画期的著作

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 本書は、明確に反米的なポジションに立っています。事実をもとに、明快かつ丹念にアメリカのダークサイドを解析した力作です。この本が刊行された当時はイラク戦争が開始されたばかりで、アメリカとイラクは極めてタイムリーなコンテンツだったため、安易に刊行されたものでも売れる土壌ができてしまっていたとも言えるわけですが、本書に、甘えは一切感じられません。
 この本は、端的に言うならば力作です。しかし、単なる力作にとどまらず、出版に新風を巻き起こすだけの可能性も示してくれています。それは、本書が「謎本」のシステムをふんだんに取り込み、成功しているからです。
 まず、本書の表紙には、タイトル(タイトルも、購買層とリアクションを絞り込んだという意味でシステマチックと言えます)の他に、本来であれば目次に書かれているであろう単元を列挙して、背表紙には、アメリカ・ウオッチャーズという執筆組織名だけを記載しています。これらは、謎本には多く見られる手法である反面、硬く、著者の「権威」が反映されることの多い政治的なジャンルでは、あまり見られることはありません。前者は、読者を安心させる効果が、後者の試みには、チームプレイを徹底させることによって、個人での論理の飛躍を防げる効果が期待できるのですが、本書の内容を見る限り、見事に功を奏して言えます。
「イラスト図解」と表紙にあるように、本書の半分強はイラストで構成されており、文章も極めて平易ですが、内容は非常にディープでコアなものがあります。専門書をひも解かなければ正確には理解できそうにない「白人・黒人・ヒスパニック別の週給」、「アメリカの銃に関する諸々の統計」、「米軍各兵器のお値段」等々の事柄が、ページを開くだけでたちどころに分かる実用性は、特筆に価するものがありますが、それも、一つの事柄を二ページで解説する「一問一答形式」で構成されているからです。謎本が持つ「わかりやすく、手にとってもらいやすい」特性が、存分に活かされていると言えましょう。硬いことを解説する上での、新たなフォーマットになっていくかも知れません。
 世界がどういった方向に進むにせよ、アメリカの動向が自国の内政に近いニュアンスで語られることも少なくない現状で、本書の持つ意義は大きいと言えます。一つ難を言うなら、100ページ程度で千円と、大型本とは言え、ちょっと割高です。文庫か新書に体裁を改め、加筆修正した形で、再び読んでみたい一冊。

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紙の本幻想の古代史 上

2009/11/19 16:45

古代史を軸に、情報の確度の分析や嘘・捏造の暴き方についての知識が身に付く実用的大著

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歴史の中でも、特に一般に「古代史」や「考古学」にあたる分野は、様々な「ミステリー」が存在し、人の心を惹きつけてやみません。アトランティス大陸や宇宙から知恵を受けた古代人の存在などを、もっともらしく記してある書籍は、無数に見ることができます。しかし、それらの情報の信ぴょう性をどう判断するのか、どのように情報を分析し、いかに古代史や考古学に向き合っていけばいいのかを分かりやすく示した本に巡り合うのは困難な状況があります。

本書「幻想の古代史」は、古代史や考古学に存在する、そうした様々な怪しげな伝説に対し、極めて詳細に、かつ理性的な批判を行っているにとどまらず、「どうやって情報の確度を分析し、正誤を結論付けるか」、「一体どのような手法や意図でもって、捏造や怪しげな主張がなされたのか」、「何故、怪しげな情報を人は信じ込んでしまうのか」という、より根本的な部分にまで踏み込んだ、画期的な一冊で、原書は、海外では長く親しまれ、版を重ねてきたという高い評価を得ています。

本書は、上下巻でハードカバーの大著であるため、一見難解な印象を受けますが、実のところ、その分かりやすさにこそ特筆すべき点があります。「考古学の教育に意味のある貢献(12P)」のために記されたこの本は、学生たちに講義を行うように順を追って整然と記されています。まずは「クイックスタートガイド」として、「主張や発見が提示されている場所」、「主張を補強するデータの有無」、「他の専門家の意見」等々の、情報の正確性を判断するための基本的な要素を提示し、次いで「科学と疑似科学」の章で、何故、根拠の不確かな疑似科学や異説を信じてしまうかを説き、珍説を主張する人々の動機、目的を六つに分類しています。続いて「認識論」の章においては、いかに情報の確度を分析し、仮説を立て、真実へと近づけていくのかという思考法を、かつて十九世紀のヨーロッパで猛威をふるった「産褥熱」の原因と対処法を、どういった仮説を立て、対処成功に至ったのかという過去の事例から示しています。

そして、そう言った点をしっかりと押さえていった上で、考古学の分野において、いかに捏造事件が起こり、どういった経緯で捏造が「説得力」を持ったか、そしてどのような科学的判定によって露見したのかという、具体的な話に入っていくことになります。かつて、日本において教科書の内容が一挙に変わるという混乱を招いた「ゴッドハンド」事件にもページが割かれています。また、最初から偽物であると分かっていれば、あまり騙されることはないと思われるような「巨人発掘」等の事例を楽しむことができます。本書は、章の終わりに、「よくある質問」として、章で取り上げられた物品や言説に対してのまとめと、理解を深めるために有効なウェブサイトが逐一記されているという、とても親切な構成になっており、豊富な情報量を、無理なく理解することができます。また、練習問題を解くことで、内容への理解度を試すことも可能です。

取り上げられている事象に対する経緯を読んでいくだけでも、非常に面白く、また、「考古学的事例の真偽がいかにして明らかになったか」というような、硬いテーマを軽妙に記している著者の筆力も高く評価できる点ですが、本書の最大の特筆点は、論理的・科学的思考法の習得と、何故人は怪しげな情報に騙されてしまうのかというメカニズムへの理解が、同時にできるということにあると言えるでしょう。

古代史は、怪しげな言説が多い分野ではありますが、こうした分野でなくとも、様々な分野で根拠の薄い言説、いわゆる疑似科学が数多くのジャンルで、さも事実であるように語られている昨今、様々なところで、怪しげな言説に向かい合わなければならない現状があります。本書で、科学的・論理的思考方法を培うことは、あらゆるジャンルの怪しげな言説に対する抵抗力を養うという意味で、非常に有意義と言えます。考古学分析の名著でありながら、普遍的な、しかも継続的な価値を持つ本書は、思考的な意味での実用書として、広くお勧めできます。

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紙の本スラムダンクの秘密完全版

2007/01/08 01:59

年月を経たファンをも唸らせる、「完全版」の名に恥じない一冊

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 データハウス社が刊行した「スラムダンクの秘密」シリーズは、アツいファンたちの投稿を積極的に採り入れ、一冊ごとに微細に入った「キャラ付け」をしていくことで、大人気を博しました。その売れ行きは、短期間に四冊もの刊行がなされたことからも容易に想像できます。バスケットボールが一気にメジャーなスポーツと化した、当時の「空気」を作品に上手く反映させたが故の快挙と言えるでしょう。
 本書は、過去に刊行された四冊の謎本が新装再発行されてから登場した第五作目です。今までの比較的軽い文体は維持しつつ、読者参加型ではなく、完全にライターが書き下ろす形にシフトし、キャラクター解説の欄でも、武藤や潮崎、角田といった脇役に焦点を合わせていくなど、これまでのシリーズに比べて、想定読者層を高めに設定したと見られる構成が光っています。内容も、コミックスは言うに及ばず、アニメやDVD、果ては完全版や「一億冊記念」の「黒板」のイラストまでフォローした上で、各キャラの関係を探って行ったり、専門雑誌で見られるような、秋の大会と冬の選抜での各校の戦力レビューや作中で行われた試合のスコアブックを掲載するなど、非常にしっかりとしています。「完全版」の名に恥じない仕事ぶりだと言えるでしょう(また、スラムダンクの同人誌出身のプロ漫画家についても言及されており、その人数の多さに驚かされるかも知れません)。
 脇役、チョイ役への指摘が非常に多いため、作品未読者には、ちょっと辛いかも知れませんが、長年のスラムダンクファンである筆者からすれば、「こんな本が欲しかった」という感じです。連載終了からこれだけ時間が経っている状況で、普段は目立たない脇役たちの意外な側面を見ることが出来たのは、本当に嬉しいものでした。本当にイイ仕事をしていると思います。

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価格、内容、そして分量ともに文句なし!謎本界に出現した新たな刺客

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 世の中には無数のモノが販売されていますが、ジャンルを問わず、消費者を惹きつける絶対的な法則として挙げられているのが、「より安く、より良質なものを提供する」ことでしょう。このフレーズほど、言うのは簡単で、行うのが難しい事もなかなかありませんが、だからこそ、難関を突破した企業・あるいは個人には、多くの評価と利益がもたらされてきました。
 謎本業界においても、その法則は全く同じで、し烈な戦国時代的な状況を勝ち抜いた数社は、それぞれの特徴を活かしつつ、読者へのアピールを続けています。中でも、データハウスは、積み重ねた情報量と分析力でもって、過去刊行物の再販という「守り」と、リーズナブルかつ読みやすさを意識した新刊販売の「攻め」を組み合わせており、その総合力は、まるで要塞を思わせるものがあります。
 しかし、どんな堅固な砦でも、突破することは不可能ではない、と筆者に再認識させたのが本書です。サイズ・分量ともデータハウス社のものと同じであるにも関わらず、価格は二割引。凝ったカバーに、帯までついています。そして、肝心の内容についても、丁寧に練り上げられており、作品論から、人物・ストーリー紹介、デスノート使用法解説、更には、原作者の正体についても考察している凝りようで、初読者にも安心です。フォローしている内容は、第一部終了までですが、情報量が多いので、全ての結末を知っている人も、充分に楽しむことができます。
 補足すると、本書の構成は、フットワーク出版社から刊行された、比較的大型の謎本のシステムを踏襲しています。そう考えると、1400円クラスの作品が、およそ半額強の値段で読むことができると判定することができ、より一層お得感が強まります。
 千円が基準の価格と、作品に通読していない読者を置いてきぼりにしかねない一問一答方式のデメリットという、データハウス系の刊行物に共通する僅かな弱点を、見事についた一冊と言えるでしょう。リーズナブルかつハイクオリティですので、初読者から上級者まで万人におススメできます。
 ひょっとすると、今後、本書で提示された価格帯が、謎本の一つの基準になっていくかも知れません。

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隙や緩みが見えない上、新しい可能性まで示している、謎本単体で作品として完成している逸品

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 成人向けのライトノベル小説や、成人向けゲームのノベライズ、そしてソフトな実用書などの分野で台頭著しいイーグルパブリシングから刊行された謎本です。この出版社には、こうした謎本の類はほとんど確認できず、本書は、「NANA」人気の沸騰により企画された単発モノだということがわかります。
 ですが、その内容は、既存の謎本を得意とする出版社から出されているモノを凌ぐレベルにまで達していました。文章・構成共に手堅く穴のない作りになっており、ファンサイト「NaNa.NET」の管理人さんを執筆協力として起用したことで、考証面のズレの是正にも成功しています。
 原作との照らし合わせは、謎本において基本中の基本と言えるものですが、謎本を制作するプロの執筆陣にとっては、限られた(謎本は、刊行タイミングが極めてシビアなジャンルの一つです)時間の多くを消耗してしまう上、一字一句を拾う、校正者のような細やかさが必要とされる「鬼門」だったわけですが、ブレーンを分業化させた本書のシステムは、この難問に対しての、一つの答えを提示しているとすら言えます。これまでは、原作の事象を、いかに正しく拾えるかが、謎本の出来を左右していたわけですが、熱心かつコアなファンを、積極的に登用するようになって来れば、謎本の評価は、一歩進んだところでなされるようになるかも知れません。
 本書は、驚くべきことに、その「次」の段階に業界が移行したとしても、トップの座を狙えるシステムをも兼ね備えてもいます。技術的には至って簡単な、「キーワードやポイントとなる台詞に対して、フォントの大きさを変える」だけのものなのですが、そのフォントの使い方が絶妙なのです。ネットでは、以前からフォントの大きさや色を変えて、読者を楽しませる手法が使われていますが、この技の冴えは、パソコンに対して詳しいと思われるイーグルパブリシングならではのものかも知れません。少なくとも、費用や技術をかけずに、読者への感心を惹く、効率的な手段を本書は実現しています。
 内容も素晴らしく、特に、作中にちょっと出てきた未来のシーンを用いての予測の項目では、詩的なモノローグが浮き出てくるようで、思わずじん、と来てしまいました。本書は謎本ですが、単体で作品として成立していると言えるかも知れません。本編を未読の人にも、読み物としておススメできる一冊、特に謎本関係者は必読でしょう。
 個人的には、これだけいい仕事をした出版社には、是非とも謎本のシリーズ化をして貰いたいと感じました。この出版社は、難しい知識を柔らかくアレンジする謎本的スキルを持っている上、ノベライズを扱っている関係上、著作権等々にも詳しいだろうと思われるからです。安定株のデータハウスだけが常勝路線を突き進んでいる、昨今の状況で、割って入る余地は充分にありそうな気がするのですが……

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様々な「サイテー」が楽しめる映画版「超クソゲー」。意外にためになります

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「超クソゲー」という本があります。駄作・怪作を徹底的にレビューしたその本は、ある種画一的だったゲーム評論の世界、そしてファンの視点に革命的とも言える変化をもたらしました。「超クソゲー」のレビューシステムが、一般にも知られるようになると、一部の熱心なファンたちは、クソゲーをいかに面白く論じるかに全力を投入するようになり、ついには、有志によってネット上でのレビュー大会が開催されるまでになりました。
「サイテー」な映画を様々なジャンルに分けて徹底的に紹介した本書は、「映画版超クソゲー」と言えるだけの作り込みと、研究がなされています。記事形式のため、紙面構成にはそれほどの統一性を見ることは出来ませんが、(あんまり作る映画が「サイテー」だったもんだから、局地的な人気を呼び、ついには半生が映画化までされた)エド・ウッドをはじめ、様々な「サイテー」映画関係者を紹介し、長い映画の歴史の中で、星の数ほど存在する「サイテー」映画を分類・研究し、見つけること自体困難と思われるようなZ級映画を、レビューし倒しています。ちょっと見た感じのバカバカしさとは対照的な難易度を誇るこれらの仕事をなしえたのは、圧倒的な「無駄の蓄積(前書きより)」があったからに他なりません。映画の「新しい扉」を力ずくでこじ開けた本書の功績は、決して小さくないと言えます。(堅苦しい映画評論ではなく、エンターテイメントに撤した構成がなされているのもポイント)
なお、本書には、「いかに低予算で映画を作り黒字を出すか」に特化した「サイテー」映画群を作る際のノウハウも記載されています。「エクスプロイテーション映画の基本テクニック」と題された、十八項目からなるその単元には、実用的なエッセンスが満載されています(中には、映画ではなく詐欺のテクニックに近いようなものもありますが)。市場という「実戦」で磨かれたそのノウハウの説得力は非常に高いものがあります。映画に限らず、「今ひとつ自分の作ったものが受けない」と悩んでいる方には、思わぬ助けになるかも知れません。
普段映画を見ないような方からコアなファン、さらには各種作品の製作者まで、とても幅広い層に推薦できる、映画レビューの隠れた傑作と言えるでしょう。

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