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先月(2017年6月)

下楠昌哉さんのレビュー一覧

投稿者:下楠昌哉

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翻訳者からのメッセージ

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 『吸血鬼ドラキュラ』の冒頭、イングランド人ジョナサン・ハーカーは、ヨーロッパの東の果ての、森の向こうの土地、トランシルヴァニアへと向かう。百余年後、イングランド人ジョン・レドモンドは、ヨーロッパの西の果て、アイルランドのゴールウェイを目指す。ふたりのイングランドからやって来る旅人を待ち受けるのは、辺境の闇に潜む吸血鬼……。
 『吸血鬼ドラキュラ』の作者、ブラム・ストーカーことエイブラハム・ストーカーは、アイルランド人である。ロンドンのライシーアム劇場のマネージャーとして活躍する期間が長かったために、比較的看過されがちなこの事実にあらためて焦点を合わせ、アイルランドを舞台に吸血鬼譚を語りなおそうという野心作、それが、北アイルランドはコウルレイン在住ボブ・カランの連作吸血鬼作品集、『アイリッシュ・ヴァンパイア』だ。
 現代人が辺境の土俗に潜む恐怖と邂逅する「炉辺にて」、恐ろしい童話を下敷きにしたような、生活に疲れたヒロインの自己回復の物語でもある「森を行く道」、正統英国幽霊譚を思わせる「乾涸びた手」、子どものころわくわくしながら読んだ、同じ年ごろの少年を主人公にした小説を思わる「仕えた女」と、さまざまな姿形の吸血鬼によって引き起こされる忌まわしい事件が、アイルランドに伝わる伝承を下敷きに、ときに『吸血鬼ドラキュラ』を十二分に意識しつつ、ヴァラエティ豊かなスタイルで物語られる。
 みなさんが今こうしてインターネット書店のサイトをのぞいていらっしゃるように、本をネットで購入することは、当たり前の時代になった。特に、洋書や古書の購入に関しては、インターネットの貢献度は計り知れない。
 しかしながら、訳者がこの本の原書のことを知り、初めて手に取ったのは、出版された現地、アイルランドの書店においてだった。ウィリアム・バトラー・イェイツ縁(ゆかり)の地、スライゴーの小さな書店の書棚で、この書物は、私のことをひっそりと待ち受けていたのかもしれない。日本の読者のみなさんに、アイルランドの吸血鬼の呼び声を届けさせるために……。

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