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先月(2017年6月)

風野春樹さんのレビュー一覧

投稿者:風野春樹

2 件中 1 件~ 2 件を表示

シビュラの目

2000/07/15 02:31

ディックには珍しい政治風刺小説などを収録した短編集

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 死後18年たつ現在でも絶大な人気を誇るフィリップ・K・ディックの短篇集。収録作は、ディックにしては珍しい政治諷刺小説「待機員」や、冷凍睡眠、パラレルワールドなどのガジェットが次々と繰り出されるおもちゃ箱のような力作中篇「カンタータ一四〇番」、そして後期の神秘主義的長篇群へと至る重要なステップである表題作などなど。表題作以外は、ディックの最も油の乗り切った1960年代に書かれた作品だ。
 日本オリジナルの短篇集なのだが、収録作は政治的なテーマが共通していて、まるで連作短篇集のよう。今まであまり知られていなかったディックの一面が発見できるし、随所にのちの傑作の萌芽を読み取る楽しみもあるはず。
 ただし、ディック初心者は、いきなり本書を読むんじゃなく、まずは『パーキー・パットの日々』など代表的な短篇集を先に読み、ディック世界にハマってから改めて本書を読んで下さい。この本は、日本のディック中毒者へのささやかな贈物なのだから。

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時の扉をあけて

2000/07/10 01:35

最近珍しい本格的時間SFの佳作。心的外傷からの回復という現代的テーマも

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 人間嫌いの祖父が遺したのは、田舎町にそびえる一軒の古い屋敷。アルコール依存症の父親と、暴力に耐えるばかりの母親の間に育った少年は、両親とともに訪れたその屋敷で、隠された扉を発見する。扉の向こうに広がっていたのは五十年前の世界だった。崩壊した家庭から逃れ、少年は過去の世界で新たな生活を始める。しかしそれは、少年にとってさらに苦難に満ちた数奇な人生の始まりだった……。
 こういったあらすじや「心に残る傷、癒される魂」といった帯の惹句からは、なんだか地味で辛気臭い物語を連想するかもしれないが、これが意外にも、最近では珍しい本格的な時間SFの佳作。結末でパズルのピースがすべてはまり、きっちりと円環が閉じる快感は、まさに良質の時間SFならではのもの。時間論理の楽しさと、心的外傷からの回復という現代的テーマを兼ね備えた、初心者にもSF通にもお勧めできる作品である。

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