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山岸真さんのレビュー一覧

投稿者:山岸真

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紙の本しあわせの理由

2003/07/22 17:35

編・訳者コメント

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 きくところでは、グレッグ・イーガンの日本オリジナル第1短篇集『祈りの海』は、bk1で売れ行き良好であるとか。そのおかげもあって、こうして2冊目の短篇集『しあわせの理由』を、これも日本オリジナル編集でお届けすることができました。“祈り”の次が“しあわせ”では、抹香くさい本と勘違いされそうですが、イーガンの作品はその対極にあります。
 イーガンがとりあげる題材は、大脳生理学、バイオテクノロジー、免疫学、仮想現実、人工知能、ナノテクノロジー、などなど。ここに並んだ単語を見ただけで、自分とは縁遠い世界の話に感じてしまう人も多いでしょう。しかし、そうした最新の科学や技術の告げる新しい世界観や人間像が、じつは読者であるあなたの生きている世界の姿、そしてあなた自身の姿にほかならないことを、イーガンの作品は描いているのです。
 そこで描かれる世界観や人間像には、常識に反するものや感情的にうけいれがたいものもあるかもしれません。だからといって、それが真実であることに変わりはなく……それでもやはり、割りきれない思いが残ってしまうことを、主人公たちの葛藤を通じてイーガンは語っていきます。それはSFだけに可能な、現代人のための——あなたのための切実な物語。本書巻頭の「適切な愛」や巻末の表題作は、その典型といえるでしょう。
 2冊の短篇集の収録作のレベルに遜色はありません。ただまあ、『祈りの海』の収録作がすべて男性主人公の一人称なのに対して、本書には女性主人公の作品も三人称の作品もあるので、その分バラエティ豊かといえるかも。ともあれ、『祈りの海』収録の11篇、本書収録の9篇、ともに並べかたには気を使いましたので、どちらも巻頭から順に読んでいただくのがベストだと思います(本書収録の「ボーダー・ガード」はSF的にかなり“敷居の高い”作品ですが、読み進むにつれて真のテーマが見えてきます)。
 また本書では坂村健氏、『祈りの海』では瀬名秀明氏が、きわめて的確な解説を書いてくださいました。編者として望外の喜びであり、収録作と並ぶ読みどころといえます。
 SFの約束ごとに縛られないイーガンの作品、とくに中・短篇は、SFになじみがない人にも読みやすく、SFねえ昔はよく読んだなあという人にはSFの面白さを再発見させる力があり、熱心なSF読者にも斬新な驚きをあたえてくれるでしょう。

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