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    5つ星のうち 4.0 レビュー詳細を見る

YORICZKAさんのレビュー一覧

投稿者:YORICZKA

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本赤目四十八滝心中未遂

2005/04/18 18:03

私小説を生き返らせた作家

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

かつて東京で会社勤めをしていた男は尼崎にたどり着く。テレビもエアコンもないぼろアパートで来る日も来る日も牛や豚の臓物を串刺しにし、その日暮に明け暮れていた。そして彼を取り巻く人物達が時折発する、生命から絞り発せられる言葉や声が綴られ男を否応なく更に奥底へ押し流す。
この小説には血と死と隣り合う生の一瞬の煌めきが一言一言に込められている。そこには二元論的なココロが感じる悲喜も絶望感もない。一見陰惨で極限の境遇を書いているにも関わらず読んでいても胸糞悪くならないのは、美しい風景の描写だとか「アヤちゃん」の不思議な美しさだとかにこの一瞬の煌めきを見ているからだろう。また、作者の他者に対する愛情の深さや実直さが根底にあるからかもしれないと読み取れる節もある。読者を引き込む文章の巧みさも、嫌味に映るケレンではなく実に素直なのである。そしてこの小説は官能的でもある。
昨今の世相や喧騒から目を背けるように人々は娯楽を求め、作家もそれにまみれるように世の浮き草を掬い取るだけの小説が今、氾濫している。そして己と正面から対峙する器量を欠き、生ぬるいナルシストの垂れ流しと堕した私小説というジャンルの退廃に私達は文学史の中でこのジャンルの終焉を見て取った。この小説はいずれの認識に冷や水を浴びせ、私達の目を覚ませるだけの力がある小説である。現在においても尚ここまで優れた私小説が存在する貴重さは誰もが驚きを以って認められるだろう。

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