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先月(2017年2月)

赤い羽根の先生さんのレビュー一覧

投稿者:赤い羽根の先生

1 件中 1 件~ 1 件を表示

クォーレ 心の学校

2007/02/18 22:56

名作に新しい命吹き込む

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 翻訳というと、とかく文章がゴツゴツして途中でうんざりしてしまうことも少なくないのだが、この本には、それはまったく当てはまらなかった。とても柔らかく、滑らかな訳。言葉や文章のひとつひとつに、翻訳者の練りに練った、苦心の跡がうかがえる。本の帯に「新翻訳」とわざわざうたっているのも伊達ではないようだ。
 多大な犠牲のもとに達成されたイタリア統一(1861年)から25年後の1886年に出版された、エドモンド・デ・アミーチスの名作「クォーレ」は、いくつもの読み方ができる懐の深い本である。
 誕生間もないイタリアを、隙あらばと狙う欧州の列強。そうした戦塵が生々しく漂う時代背景からすると、「愛国」もひとつのテーマではある。
 愛国といっても、アミーチスは、猛々しい愛国心を強調しているのでもなければ、戦争を賛美しているのでもない。イタリア軍の行進を見て「かっこいい」と無邪気にはしゃぐ主人公・エンリーコ(小学校4年生)を、おとうさんがたしなめる場面を読めばよくわかると思う。
 また、この本は、エンリーコとその家族との交換日記という形式になっており、親子・姉弟とのやりとりを読み進んでいくと、「家族のきずな」の素晴らしさが素直に伝わってくる。両親やお姉さんは、エンリーコを温かく見守るばかりではなく、悪いことをしたら、きちんと叱ることも忘れない。なぜ悪いかを丁寧に教えながら戒める。躾(しつけ)とは、こうありたいものだと、今から120年前のイタリアの本から改めて教わった。
 本に登場する舞台の多くは、当然のことながら、エンリーコと、級友、先生が絡んだ学校生活である。「友情」や「思いやり」、「先生への敬愛」など、集団生活の中で培われるはずの大切なものが、エンリーコの綴った毎日の出来事を通して語られる。
 もちろん、きれいごとばかりではない。いたずらなんて可愛いもので、けんかや、差別、いじめ、暴力、虐待まで登場する。時代こそ違うが、子どもたちの行為は、現代の学校で問題になっていることと同じである。傷ついた子ども、傷つけられた子ども、さらに先生や親たちは、どのように悩み、対処したのか。解決できたこともあれば、当然できなかった問題もある。そこが、この本のリアルで面白いところなのだ。これ以上書いては、これから読む人に申し訳ないので、詳細は省く。
 本の中には、日記のほかに、先生が読んでくれる「毎月のお話」が出てくる。「クォーレ」を知らなくても、これなら知っているという人も多いだろう。実は、あの「母をたずねて三千里」も、そのお話のひとつなのである。本全体の1割強を占めるほど長いのだが、本のほうが、アニメよりはるかに味わい深く、コクがある。
 ところで、これまで書いたように、いくつもの興味深い読み方ができるのも、文章が読みやすいからなのだ。これこそ、翻訳者の腕の見せ所。女性ということもあるのだろうか、エンリーコのお母さんが登場する場面の訳は、特に魅力的だ。やさしく、品のあるお母さんが浮かんでくる。クォーレ全訳まで足掛け7年。物語の舞台・トリーノにあるトリーノ大学に留学するほど、どっぷりと「クォーレ漬け」になった翻訳者の真骨頂だろう。
 おしまいに、気になった点も書いておきたい。冒頭の地図は、あったほうが親切なのでありがたいのだが、やや粗雑。もう少し丁寧に作ってほしかった。また、挿入されているイラストは、タッチもきれいで色も美しいのだが、イラスト作者が本をきちんと読み込んでいないと感じるものもあった。惜しいことである。これらは、翻訳者というよりも編集者の課題であろう。増刷するときは、是非こうした細かい点にも気を配ってほしい。
 ただ、強調しておきたいのは、これらはあくまで欲を言えば、ということであって、新翻訳「クォーレ−心の学校」の評価をいささかも下げるものではないということだ。

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