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雲取さんのレビュー一覧

投稿者:雲取

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本冬の夜ひとりの旅人が

2006/01/24 15:20

無題

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

物語は「あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている。」という書き出しで始まる。男性読者が取り掛かったその『冬の夜ひとりの旅人が』、順調に滑り出した物語はしかし突然に中断される。なんとそれは乱丁本だった。繰り返されるばかりで先に進まない物語に腹立ち、落胆した男性読者は本を購入した書店に向かう。彼が語り終えないうちに、店員は事情を話す。すなわち、製本上のミスで他の作者の本と混じってしまったのだ、と。熱中し始めていたのが別の作品だったと知り、そちらを売ってくれと男性読者は頼む。もちろん、と請合った店員は、彼と同じことを言ってその別の本と交換した女性がそこにいると指す。ここで「男性読者」と「女性読者」が揃う。だが、そうして手に入れた新しい物語は、またも分断されて他の話に取って代わってしまう。
繰り返し断ち切られ、行方不明になる物語たちを何とか繋ぎ合わせようと、男性読者は世界中を巡る(まるで作者の分身のように)。一方、女性読者は作者にとっての理想的読者象として存在するのみである。
彼女が求めるのは「読んでいる事柄がそれに触れるような堅固なものとしてそっくりそこにあるのではなくて、そのまわりになにかは分からないけれどなにか別のものの存在を感じさすよう」な作品であり、「物語ろうとする欲求のみが、ストーリーにストーリーを積み重ねようとする欲求のみが原動力になっているような作品」であり、「謎や苦悩がちょうどチェスをしている人の頭のように精密で冷徹で影のない思考力によって濾過されているような本」なのである。
女性読者ルドッミラの姉ロターリアは、作品を批評する無粋で強引な人間=理想的でない読者、として存在する。
また後半で登場するサイラス・フラナリーという作家は、まさしく作者イタロ・カルヴィーノ本人のものと思われる主張を日記に記す。創作の困難、理想の物語と読者、そして分析者への批判を。
そして最後の章に出てくる七人の新たな読者によって語られる、彼らが求める本の在り方。読者と作者の二方向に引き裂かれた作者が選ぶ、物語の着地点とは…。
手法が型破りに見えるけれど、それ自体は重要ではない。「部分的なイメージを通じてあらゆるものを追求しうるように、あらゆる本を書く」という無謀にも思える試みが成し遂げられていることが素晴らしく、書くことと読むことについてここまで真摯に、繊細かつ大胆に描かれてしまっては、私たち読者はただ瞠目するしかない。

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