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先月(2017年6月)

タノムサクさんのレビュー一覧

投稿者:タノムサク

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本知識の哲学

2006/02/01 20:42

サイエンス・ウォーズの意外な帰結!?

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ポスモの波もとっくに引いた今日、分析哲学の研究者が、「知識の哲学」を解説してくれると言うのだから、さぞやハードな哲学論議を展開した本だと構える人も多いだろう。確かに、基本事項の説明や読書案内も押さえてあるので、良質の教科書の体裁を欠いてはいない。
 しかし本書は、小難しい概念分析をえんえんと並べる本でもなければ、“自然化された認識論”に徹して最新の認知科学の成果を紹介しているわけでもない。もっとずっと先まで突き進んだ、とてもラディカルな本だ。
 認識論をぶっ壊すと宣言したとおり、著者は、精緻な哲学体系の数々から、自然科学も含めたあらゆる知や真理そのもののステータスにまで揺さぶりをかけてゆく。人間の生体構造は真理さえ必要としないかもしれないし、哲学者たちのもっとも真摯な試みが、実は西欧近代特有の地域性と歴史性の産物であったかもしれない、とまで著者は言う。
 「どこかで聞いたような話だぞ?」と気づいた人は勘がいいと思う。かつてポストモダンとされたフランスの批評家たちのテーゼが、分析哲学と認知科学で武装して捲土重来したのだ。
 “自然化された認識論”の先で本書が切り開いたヴィジョンは、“自然化されたポストモダン”だと言ってよいだろう(これが邪推でない証拠に、スティッチの読書案内で、著者自身が「そんじょそこらのポストモダンものよりもよっぽどスリリング」と張り合ってみせている)。
 本書に不満もあるにはある。著者は、懐疑論が近代科学の内部で生まれたものであるかのように言うが、懐疑論は古代ギリシャにまで遡る長い歴史を持つ(であればなおさら、懐疑論に対する著者の開き直りも問題であろう)。また、従来の哲学者が他の学問を顧慮しない怠け者だったかのように書いてあるが、最新の科学的成果と格闘しなかった大哲学者などかつていただろうか。さらに、著者の描く「新しい認識論」の学際化は、従来の哲学というディシプリンがお払い箱になりつつある現状の追認を裏返しただけではないだろうか。などなど。
 とは言え、本書は教科書という枠をはるかに超えた有意義な論考だ。認識論の最先端を解説するだけではなく、認知科学と社会学が盛んな現状の背景を、哲学内部の動向から浮き彫りにしてくれている。そこからまた、かつてのポストモダンなる運動が何だったのかを今一度考えさせる側面もある。そして最後に、これだけあからさまに哲学の終焉を謳った本書は、哲学者に対するもっとも手ごわいチャレンジであるとも言えよう。
 それにしても、かつてサイエンス・ウォーズが賑わった頃、ソーカル陣営に喝采を送った哲学者もいたものだが、当時、誰が本書が描くような未来を予想できただろうか。よもや、かつてのポストモダニストたちの着想を、科学者たちが裏付け、哲学者たちはせいぜいプログラムを書くお手伝いをするしかなくなっていようとは…。

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