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相楽知幸さんのレビュー一覧

投稿者:相楽知幸

3 件中 1 件~ 3 件を表示

平井呈一による訳文の魅力。、

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

選りすぐりのホラーの名篇ばかりを集めたラインナップもさることながら、平井呈一の実に個性的な訳も面白い。
中でも圧巻なのは、A・ブラックウッド「秘書奇譚」。
訳者もこの一篇には他の作品にも増して、凝りに凝った姿勢で臨んだに違いない。なんといっても、これだけの面子の中から「A・ブラックウッド他」とするほどの入れ込みようなんだから。
この平井訳を読むと、原文が気になる。実に気になる。例えば、次の二箇所。
「社長はその間に、さがしていた書類を見つけだした。見つけた書類を小手にかざし、右手の甲でそいつをポンポンとたたいたところは、さしずめまず、その書類が舞台で使う小道具の手紙で、ご主人は赤ッ面の悪役になりすました……という見得である」
(311ページ)
「むかしはシカゴで、なんのなにがし殿とはばをきかしたジョエル・ガーヴィーが、みずから選んで居を卜したところは、ナント見る影もない荒涼たる寒村で、とりわけその日はふだんよりも、あたりの景は蕭殺たるものを見せていた。(中略)その木立の根方を寒々とした青い刈草で巻いてあるのが、まるでしおたれた土左衛門に薦をかけたようだった」
(316ページ)
「ねぇ、平井先生、これ一体、原文ではどう書いてあったんですか?」
なんだかもう、思わずそう尋ねたくなってしまう。
そして、この訳文が、作品のその内容を大きく活かすものにもなっているのがなんともスゴイ。
何故かといえば、この話の謎解きというかネタの割れ方というか、その抜けぬけとした馬鹿馬鹿しさというのはそれこそ、一部の歌舞伎狂言------例えば歌舞伎十八番の『毛抜』------と同じくらい強烈な代物だから。その印象に、この訳は実によく似合う。
こういった具合で、ただ奇をてらったり、趣味に走ったのではなく、作品に合わせてそれぞれ訳の調子が少しずつ違う。
うーん、平井呈一というのはえらい人だったんだなぁ。

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紙の本スキップ

2006/08/13 00:26

「反タイムスリップ」もの。《それでも》という意志。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

(いつの間にか、無駄に時間を重ねて来てしまった------)
(あの時、もし、別の選択が出来たなら------)
(自分には、もっと他の人生が送れたのでは------)
『スキップ』は一種の《タイムスリップもの》です。
ただ、この作品は、《タイムスリップもの》の定番ともいえる冒頭に挙げたような悔恨に対し、その逆回しの構造をもって毅然として向かいあうもの。いわば《反タイムスリップもの》なのだといえます。
《人生をやり直したくはならないのか》と問われ、主人公・真理子はこう答えます。
「途中で何があったか知りませんけど、結局、彼女が選んでここまで来たわけですよね。だったら、今のわたしが時間をもらってやりなおしても同じことになる筈です。ならなかったら、おかしい」
勿論、真理子は、後ろ向きの思いをカケラも持たない、《揺るがぬ信念の人》などではありません。そうでなければ、これは血の通わぬ偉人伝になってしまう。
誰もが抱えずにはいられない苦しみの中で、《それでも》そう言い切り、顔を上げ、止まる事なく歩んでいくのが、この小説の主人公・真理子という人間です。
それは例えば、時を《SKIP》してしまった直後の、真理子と(その娘である)美也子とのやりとりを見れば明らかだと思えます。
まずは人前で無様な真似は出来ないという《意地》で、続いてあまりにも納得のいかない《理不尽への怒り》で、それに流されるまいとする《理知》で-------そして、それをも突き崩された時には、全ての誇りと自尊心を懸けた「地団駄を踏むような思い」を込めた叫びで。
真理子は自分の中から引き出せるあらゆる力を振り絞り、事態と向かい合います。それが、真理子という人物です。
この本を読み、その《それでも》という意志が感じ取れた人は、主人公・真理子を好きにならずにはいられないと思います。

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紙の本ひとがた流し

2006/08/02 18:28

『秋の花』と響きあう物語------《一所懸命》はどこに残るか。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

物語も中盤の第三章「道路標識」以降、《一所懸命》という言葉が繰り返し出てきます。
------尊敬する父、類の言葉を受け止めようとする玲の姿の表現として。
------美々と類の夫婦が、父を慕う娘=玲の心を語る言葉として。
------牧子が類に語った、彼の写真に見入る親友・千波の姿を示す表現として。
------千波が類に、自らの病を宣告された時の思いを語る言葉として。
------鴨足屋良秋が初めて自分で考えて出した企画、千波が彼にとって忘れられない存在になるきっかけになったものについて書いた手紙の中に。
* * *
若き日の屈辱を胸に、二十年以上、病も寄せ付けずに誇りを持って仕事を続けてきた千波。
その心に秘めた目標が正に現実のものになろうととした時、その未来は唐突に奪われます。
------これまで《一所懸命》に生きてきて、これからもそう生きていこうとしていた人。その生が明日を失った時、その美しい人の《一所懸命》はどこに残るのか。
読者の中に自然に生まれるこの叫びは、『秋の花』の《私》が円紫さんに投げかけた疑問、「明日輝くような何かをしようと思った、その明日が消えてしまったら、どうなのですか。その人の《生きた》ということはどこに残るのです」 と重なります。
その答えもまた、『秋の花』のそれと響きあう。------思い出が残る。同じく《一所懸命》に生き、彼女と触れ合い、彼女が《生きていて欲しい》と心から願い、支えた人の中に。
真理子が明日へと向けた《きっと》という清冽な思い。
千波がその胸に棘が刺さった時から抱き続けた思いと、重ねていった《時》の重み。
北村薫はそうして宝石のような輝ける意志を描いた上で、そうした美しいものが、花開かないまま終わることもあることを示します。
そして、彼らに餞(はなむけ)を贈り、《それでも》その意志には意味があると謳うのです。
* * *
《子、川の上に在りて曰く、逝く者は斯くのごときか。晝夜を舍かず。》
玲が大学受験の出題で出逢った「川上の嘆」。「昼も夜も休みなく、川は流れ続ける」。
ひとがたは思いを乗せ、消えない記憶を残し、《時》という川を流れていく。

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