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不二さんのレビュー一覧

投稿者:不二

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人間の現実を直視する正気の言葉

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 一気に読んだ。
 前作『団塊の世代とは何だったのか』(洋泉社新書y)では暗示的に提出されていた著者のモチーフ、「戦後思潮の批判的な見直し」が、ここでは全面的に展開されている。それを一言で言えば、「平和主義」の美名で隠蔽されてきた我々の欺瞞を摘出することである。
 例えば、1990年の湾岸戦争時、日本は総額130億ドルを多国籍軍のために醵出した。これは日本が戦争に参加したということだ、とこの頃の『朝まで生テレビ』で田原総一朗が言っていたのを覚えている。彼程度でもそんなことはわかっていたのだ。で、この「事実」と憲法第9条とのかねあいはどうなるのか? この重い問いかけに誰かが正面から答えたろうか? むしろ、日本人が戦死したわけではあるまいし、そう深刻に考えることもないだろ、とばかりに、あれからもなんとなく時を過ごしてしまった。イラクへの自衛隊派遣でも、同じことだ。遠い中東での出来事だから、という以上に、我々は「戦争」という世界の現実に、なんとなく現実感を持てないようになっている。それが証拠に、北朝鮮がミサイルを発射しても、一過性の騒ぎだけでなんとなく終わってしまったではないか。
 このように、憲法第9条の最大の効果は、日本人が世界の戦争の現実に背を向け、何より、その現実と無縁に生きているわけでは決してない我々の、都合の悪いところには目を瞑るような精神を形成したことだ。平和ボケとは、ここのところを言う。
 筆者は、トルストイのような超大物から始まって、高橋哲哉や内田樹らを筆頭とする現代日本の平和主義者=護憲論者の言説を俎上に乗せて、具に分析していく。言葉の調子は柔らかいが、我々と現実の間に張られた煙幕が徐々に、確実に晴れていくような爽快感が味わえる。
 ただし、この著者の立場を、単純に保守派のものと混同してはならない。小林よしのりのような、「戦争で死んだじっちゃんたちの名誉を守る」というような素朴なナショナリズムは遠慮がちに批判されているし、軍事の強大な危険性を熟知した上で再軍備せよ、とも主張されている。感傷的な左もいやだが、ファナティックな右も剣呑なのだ。それが、慎重な、悪く言えばあちこち迷っているかのような印象の文体を生む。
 私もまた、右も左もいやな人間なので、そして、左を斬ると自動的に右に絡めとられるような風潮が何よりもいやなので、この用心はよくわかる。しかし、小泉がよく口にした寸言に、わかりやすさと覚悟のようなものを感じて、もてはやす最近の風潮からすると、これは苛立たしく見えるかもしれない。願わくは、どうぞ頭を冷やして、このような正気の言説を味読してもらいたいものだ。

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