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山本 新衛さんのレビュー一覧

投稿者:山本 新衛

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本五年の梅

2006/04/24 00:58

乙川作品は現代をうつす鏡

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作品のひとつひとつをかみしめ、大切に読みたいと思う作家の一人がこの乙川優三郎です。▼作品は、宿命ともいえるこころの重荷を背負ったそれぞれの登場人物の再出発を描いています。ただし、それがハッピーエンドで終わらないところにかれの持ち味が発揮されます。▼冒頭の作品「後瀬の花」が、この作品集を象徴しています。この作は、ちょっと軽薄な男女の後悔譚です。店の手代としてまずまずの出世を遂げた男が、呑み屋のお姉さんに入れあげてしまい、お店の金にまで手をつけてしまう。お手軽にすべてのものを手に入れようとした結果、追い詰められ、女を道連れに崖下へ飛ぶ。この飛んだあとの二人の会話から始まっています。乙川にとっての再出発とは、このような眺めを意味しています。▼「ようやく不安から開放されると思ったのに」「やっと幸せをつかめそうなところまできていたのに」「このひととならなんとかうまくやっていけそうだ」▼このような心理状態のときに限って立ち現れるやっかいな落とし穴。さらに増殖する不安と、不安定が続く確かな予感。つまり、一難が去ったあとの新たなる不安の世界、この地点こそ乙川がもっとも力を発揮する場所です。かれの描く不安はいつも過去のじぶん自身に起因しており、実にやっかいなものです。▼「行き道」は、人への思いやりには欠けるが商人としてばりばり働いた男が突然病に伏せ、今は女房のおさいに店を任せています。おさいは突然の夫の病で無我夢中で店を切りまわし、ようやくまわりを見る余裕ができたとき、昔の幼友達に声をかけられます。どうしてもこころが踊ることを抑えることができないじぶんに不安がよぎります。そして、自分から離れていく女房の心の動きを病人はしっかり読んでいる、という構図の作品です。どうしようもなく奔出する女の性(さが)を、作者は、「聞き違いでなければ、おかみさんが水性で心配だって・・・」と近所のおかみに言わせています。▼「蟹」は、重臣が妾に産ませた娘・志乃の苦悩です。彼女は、断るに断れない嫁として迷惑がられ、二人の夫をたらい回しにされ、いずれの輿入れもうまくいかず藩内では知らないもののいないめいわく娘です。そんな志乃が次に回されたのが、ある理由から謹慎を申し渡され貧乏暮らしを強いられている師範で、ここから彼女の光明がひらけます。この貧乏侍は生来の明るさで志乃のこころを徐々にひらいてきます。と、ここまでは順風漫歩ですが、すぐさま志乃の新たなる苦悩が始まります。夫にようやく立身出世の道筋が見え始めたとき、それを邪魔しようと現れたのが、彼女が世を拗ね、すさんだ気分のときに、気まぐれから遊んだことのある男たちだったのです。▼乙川は、一歩まちがうと女性蔑視につながりかねない女性の「水性」(浮気心)を男からみた女の本質的な一面として正面からテーマに据え、人生の落とし穴として警告します。かれにとっては、女と歩く人生は薄氷の連続として見えていることでしょう。こうした視点は、藤沢周平や山本周五郎にはないものです。よほど辛い女性経験をお持ちなのかもしれません。▼時代小説もまた、現代をうつす鏡であることをまぬがれえないのであれば、時代とともにテーマも視点も変わっていくものです。恒久的なものなどありえないし、あったとしても、それは貧相にちがいありません。少なくとも、私たちのトキメキの素は、つねに現在の感性の中ですくい取られてこそ感動に耐えうると信じます。▼乙川作品の数々は、定まった価値観ではするりと抜け出てしまう人間のもつ本性を、生きていることのあかしとして、時代小説という意匠に身を包みながらいまの私たちに差し出そうとしているように思えます。

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