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レビューアーランキング
先月(2017年8月)

T.Dさんのレビュー一覧

投稿者:T.D

6 件中 1 件~ 6 件を表示

紙の本海鳴り 上

2001/03/31 23:43

半身

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 人間は一人では生きていけない。異性の同伴者なしで、十全に生きているとはなかなか思えない。親や,兄弟、友人などに認められても,自分に自信をもてないところがある。何のために生きているのか、生きている価値があるのか、生きていて甲斐があるのか疑問を持ってしまう事がある。認めてくれる、全面的に認めてくれる異性の同伴者が必要だ。そういう人にあえて、相手も自分をそう認めてくれて、結婚できたら、幸せな人生を約束されたようなものだろう。その人といられるだけで幸せ、ぐらいの相手に会えたら。
 しかし、結婚してから知り合った人が自分の半身に感じるぐらいの同伴者だったとわかったらどうだろう。または、相手が既に誰かと結婚してしまっていたら。この小説の時代、それは、不義密通で重罪。それでも主人公の2人は相手と別れられない。
 もう、10年以上前に単行本で読んだ。そのときは若くて、2人の恋愛の切なさ、甘さが強く印象に残った。こんな人とめぐり合えたら幸せだと思った。今回読み返してみて、印象は少し違っていた。主人公の恋愛はより切実に感じられた。それは、主人公のうち男のほうの、老いを意識しての感慨がより身近に感じるようになったせいだ。思い通りにならない、子供、奥さん。そんな中で自分を全部受け入れてくれる女性。切実だと感じる。
 人生が繰り返せない、後戻りできないため、また、老いて死に向かっていく人生であるための切実さ、自分の半身に会えたと思える人は幸せだ、どんな形にしろ。

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秘事

2001/01/14 12:04

一途

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 河野多恵子さんの小説を読むのは初めてなので、この小説が、作者の作品の中でどのような意味をもつか、とか、どういった小説を書いてきた結果書かれたものなのかとかはわからないで、また、内容の予想もしないで読み始めました。
 語られる時点が連想によるように、行き来し、人称も時々で変わる。主役は誰かと考えながら読んでいく。三村の気持ちが話を進めているとも感じるけれど、三村の仕事の事は、家族に影響する部分でしか出てこない。結局、作者の語りたかったのは、三村と言う夫婦の人生、この夫婦に限らない、登場してくる人たちの人生なのだろう、こういう人生がいいと思うでは単純すぎるかもしれないが、そういうことではないのかと思い始めた。
 お互いに、悪い意味ではなく、いたわる意味で言いたいことを言わないで、しかし、分かり合って生きていく三村夫妻の相手に対する一途さ、一途になれる相手があればこその、人生に対する一途さ、誠実さ。昭和30年代の復興期から、高度成長時代、バブルの始まりと終わりまで、個人生活の視点から、時代の流れも良く描かれている。
 一途に思える相手のいなくなった悲しみと、守れなくなりそうになった事もあったけれど、守り通した、相手へのいたわりの気持ち、「自分の臨終のときにすばらしい言葉をいう」、という果たせなかった約束、いろいろの気持ちを、さりげない行動の描写だけで表現した、最後の場面まで、一気に読む事のできる時間によんだほうが、より強く、いくつもの人生を感じることのできる1冊であると思う。

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紙の本私たちが好きだったこと

2000/10/24 23:55

人生

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 学生時代の恋はやり直しがきく。というか、結果を見ないですむ場合が多い。さよならした相手が誰と結婚したなんて知らなくてもすむ、場合が多い。学生時代に好きだった人と結婚した人はある意味幸福だろう。
 女性は、男の人誰とでもSEXしたいと思ってはいない。この人ならいいと思うだけと、きいたことがある。
 女性とのかかわり方は肉体的なものだけなのか、女性は肉体的なことは心が受け入れたあとについてくるような気がする。では男性は肉体的なことだけを女性に求めているのだろうか。
 そんなことを考えているときに読んでみてください。誰かを大切に思うきもちがあるときに読んでみてください。
 最初と最後がとてもやさしく穏やかで、中心の激しい感情が隠れてしまっているけれど、これはとても激しい物語です。しかし、誰か心寄せるような人がいる人は読んでください。その人を自分はここまで大切に思っているだろうかと、考えてみてください。この小説の結末が誰にとっても一番いいわけではないとは、思うのですが。

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紙の本錦繡

2001/03/29 00:45

手紙

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 人はどんな時に手紙を書くだろう。面と向かってでも、電話を通してでも、言葉にできない事がある場合。相手に会えない場合。話すという事は、一方的な行為ではない。相手が黙ったままであったにしても、相手のある行為である。手紙は、一方的なものになり易い。また、手紙を書くことで、書くことに集中し、普段考えつかないような事を思いついたり、思いがけないほど、相手をいたわったり、傷つけるような言葉が書けてしまったりする。
 人と人との出会い。住んでいる場所が近い、学校が一緒、職場が一緒、友人が共通、好きな店が同じ、通勤手段、時間が一緒、年齢が近い、いろいろの縁で、人が出会う。もしかしたら、人生を繰り返してまで出会いたいと思うほどに。良い出会いが必ず良い結果を生むわけではない。また、良い結果ではなかったからといって、出会い自体が良くなかったということでもない。
 取り返しのつかない別れをした事に、冷静になってから気がつく場合もあるが、人生の時間は戻らない。後悔の中で、別れてしまった人に、面と向かってはいえなかった事を手紙で書ける関係にはまだ救いがあるのかもしれない。逆に、手紙で語れるという事は何かが終わってしまっているという事かもしれない。
 自分が一番好きな人に一番好かれて一生一緒に暮らせたら、それはとても幸福で幸運な事だろう。そして、その状態がずっと続いたら。では、一番好きというわけではない人と暮らすことはどう言う意味を持つのだろう。片方にとっては相手が一番で、一方は一番ではなかったら、それは二人にとって、ともに幸福な事なのか。やり直しのきかない、後戻りのできない人生の中で、そんなことを考えたことのない人はいるだろうか。

 人生の悲しみ、歓び、いろいろのことを考えさせられる、切ない小説。年に何回か読みたくなって、読み返してしまう小説です。後悔しない人生なんて難しいし、どうすれば後悔しないかなんて、過ぎてからしかわからない場合が多いのですが、若いうちに読んで、人生の全体像ではないけれど、感触を感じてみては。



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紙の本ピカレスク 太宰治伝

2001/03/04 16:41

生業

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 太宰治と、井伏鱒二の二人の事を書いている。あとがきに、太宰治を若く何かを達成しようとしている人物として書きたかったという言葉がある。太宰治の今までの印象を変えることが本書の書かれた目的のひとつと思われる。読み終えて印象に残るのは、文章で食べていく事の難しさ、発想、書くための材料を手にいれることの苦労だ。太宰治、井伏鱒二ともに、他人の手記、日記を当てにしているところがある。文章は自分の文章だが、材料は別。井伏鱒二の作品に著者はより厳しい。太宰治は自分の文章にしているが、井伏鱒二は材料のままだったり、材料のほうが良いようにかかれている。しかし、書くことで生きるとは、書くべき内容を考える事も含めての事ではないのだろうか。そんなペースでは食べていけない場合もあるのだろうか。
 太宰治という文学者の面と実生活の津島修治と、印象の差は大きい。何度か繰り返された心中事件の経緯、発生の理由なども冷静に描かれ、後に小説に書かれたというか、太宰治が書いた内容との違い、その違いの原因まで精密に描かれている。文学活動は小説家にとって当然重要な事であるが、人生において絶対無比なことではないと著者は言っているようである。これは三島由紀夫を描いた『ペルソナ』においても同様であった。文学論ではない作家論。作品からではなく、作家の人生から分析された作家論。これまであまり、かかれなかった方向からの作家論として違和感もあるが、興味深い内容であった。

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紙の本

2000/11/18 16:02

記憶

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 あっけないほど簡単に読み終えてしまった。話者のみではなく何人かの人生をたどった筈なのに簡単に読み終えてしまった。
 記憶が取捨選択をしてしまっていること、夫婦とはいえ、他人のことで、全部見ているわけではないこと、公開を前提にしていて、全てが語られたわけではないことなど、理由はいろいろあるだろう。共感できるというか、共鳴できる、興味の持てる内容であったことが大きな理由であることはもちろんであるけれど。
 話し手は、夫に、「人生を楽しみなさい」と言われる。自身も、不器用で感情などを素直に表現できなかったと反省する。
 自分に引き寄せて考えてしまう。今この本,この言葉に出会えたことを無駄にしたくない。不器用で済ませてしまってはいけない、人生を楽しみたいと強く思う。後悔しない人生にしたい。
 「火宅の人」を読みたくなった。

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