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  3. MESSYさんのレビュー一覧

MESSYさんのレビュー一覧

投稿者:MESSY

29 件中 1 件~ 15 件を表示

満州事変から75周年、岸の孫が首相になった

11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 戦後の日本人にとって「満州」と向き合うことは、苦渋に満ちた歴史と向き合うことにほかならない。そして多くの人が「満州」について多くの記録を残し、語ってきた。にもかかわらず、大部分の日本人は「満州」と向き合うことを避けてきた。この本は、歴史と向き合わず、むしろ「うまく折り合いをつけてきた」戦後日本の醜さを、抑えた筆致で暴く。
 もちろん、戦前の日本がもっと醜かったことは、この本からも十二分に読み取れる。戦前に石橋湛山が唱えた「小日本主義」を敗戦によって図らずも実践し豊かな国づくりに成功することになった戦後日本は、それだけでも戦前よりは醜さを免れているとは思う。
 だが、戦前とは比べようもないほど豊かになり、米国の占領政策のおかげで民主主義がまがりなりにも機能するようになった結果、歴史と向き合わないことの醜さは、かえって鮮明になってきた。なぜ我々は「中国残留孤児」と呼ばれる人々(かつての国策の犠牲者であり、弱者である人々)に対しこんなに冷たいのか?本書を読み終えた現在、自責の念は深く、焦りをも覚える。
 筆者の視点には時に「自虐史観」と批判されかねない面もある。たとえば、中国人と日本人を比べ、ことさらに日本人は情が薄いように指摘するが、現在の中国を観察すれば、筆者の書き振りが冷静さを欠いていることがわかる。ただ、そんな感情的な部分を考慮しても、戦後の日本人が向き合うべき歴史と現実を平易な文章で描き出した本書は「日本人必読の書」と思う。
 柳条湖事件(満州事変)勃発から75周年を過ぎて間もなく、岸信介の孫が「美しい国へ」を掲げて首相になった。その言動から判断すると、祖父と因縁浅からぬ「満州」について正面から向き合う気配はない。
 もちろん、政治家の中で安倍さんが特にダメなわけではない。だが、戦後日本の醜さを全く自覚していない、というより全く正反対の視点から戦後日本を醜いと感じているように見える政治家が最高指導者になったことは、いまの日本を象徴する醜い「事件」として記憶しておきたい。

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題名はひどいが良書(中国を知るために、その2)

11人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 原題を直訳すると「中国は世界を揺るがす」。これを「メチャクチャにする」との題名にしたところに、出版社と訳者の中国への悪意、もしくは感情的な反中の論調に媚びようとする嫌らしさ、あるいは媚びることで販売を伸ばそうとする浅ましさを感じました。さらに言えば、こんな題名を許している著者の良識にも少々疑念を覚えます。なにしろ、本書の終盤で著者は日中関係が一番心配だと述べているのですから。
 とはいえ、内容は明らかに一読の価値があります。さすが世界的な有力メディアで北京市局長を勤めてきた専門家です。特に、米欧やアフリカなどで中国の「台頭」の影響をモロに受けている地域や人々に関する紹介は、日本の中国関連報道がまだ十分に踏み込んでいないだけに、情報価値は高いでしょう。
 グローバル経済の動向に関する洞察も、一流のジャーナリストと言えるだけの深みがあります。とりわけ、中国の台頭は先進国の多国籍企業の収益機会を拡大させた反面、先進国の中産階級の没落をもたらしている、との指摘はうなずけるところです。
 中国の社会が直面し、結果的に世界を揺さぶっている様々な構造問題、たとえば環境・生態系の悪化や腐敗と嘘の蔓延なども、よく取材しています。しかも、半可通の日本人が言うような「中国人は嘘つきばかり」といった感情的な議論には陥っていません。バランスのとれた良書と評価します。
 内容についてあえて問題を指摘するなら、以下の2点。一つは著者の視点が先進国、特に欧米の中産階級の視点を脱却し切れていないこと。中国の台頭が生んでいる機会、特に途上国の人々が豊かになる機会についての取材は不十分です(これは日本の中国報道でも決定的に欠けている面ですが)。もう一つは、様々な構造問題、特に政治体制そのものが中国の持続的な発展にとってネックになるとの説明が、十分に説得的でないこと。この点は人口問題にもっと踏み込むと、よく見えてくると思います。

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中国共産党に向き合う気構えが必要だ

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 中国共産主義青年団の機関紙「中国青年報」に「氷点週刊」という特別編集版がある。2006年に中国共産党の歴史教育を批判する学者の論文を掲載して一時停刊処分となり、世界的なニュースとなった。その編集長だった李大同氏が、現役だった時代に「氷点故事」という本を出したことがある。
 日本では「氷点は読者とともに」という題名で日本語版が出ているようだが、私が読んだのは中国語版の方で、その冒頭部分に李氏が中国青年報の内モンゴル駐在記者として経験したエピソードが出てくる。それは以下のような内容である。
 1980年代の初め、内モンゴルの首府であるフフホトで少数民族の学生たちが「中央政府のある内モンゴル政策」を改めるよう求めてデモをした。デモは1カ月におよび、「有力な政治的背景」があるに違いないと判断した李氏は「中央メディアの駐在記者として『内参報道』としなければならない」との義務感から取材に着手した。その過程で学生たちのリーダーに取材した際、モンゴル語で質問したところ、その学生はモンゴル語が理解できず非情に周章狼狽した、という。
 ここで出てくる「内参報道」というのは「内部参考報道」の略で、要するに一般読者向けの記事ではなく「内部」つまり「党の限られた幹部向けの報道」のことである。報道と言うよりも報告と言うべきかもしれない。
 さて、李氏はその後取材を深め、そして送った「内参報道」は高い評価を得た。社内では「内参記者」というニックネームまでいただいたという。
 このときのデモに関する記述が、本書「墓標なき草原」に出てくる。李氏の説明では「中央政府のある政策」としかわからない問題もはっきりと説明してあり、なぜ学生たちがデモをしたのかが理解できる。
 李氏は中国のマスメディア界では数少ない硬骨漢だ。氷点停刊事件が示すように、共産党政権との対決もいとわない。だが、そんな人物でも、民族問題に関する記述はあいまいで、核心の問題をぼかしてしまう。
 さらに残念なことに、こうした報道を「内部参考」としてしか報じられない中国メディアのあり方にも、深刻な疑問を抱いているようではない。
 もっと言えば、モンゴル語を話せないモンゴル族学生の存在を、民族政策や教育政策への疑問へとつなげてもいない。むしろ、自分がモンゴル語で語りかけ学生が周章狼狽したことを、自慢している印象がある。
 以上のことから推測できるのは、中国共産党の下で公になっている文献をいくら読んでも、中国共産党の幹部の説明をいくら聞いても、中国の民族問題は理解できないおそれがあることだ。むしろ誤解してしまうおそれがある。
 とにかく中国共産党と向き合うには、尋常ではない気構えがないと真実に気づけない可能性が大きい。
 だからこそ、本書の存在は貴重である。
 上巻に続いて下巻にまで書評を投稿するのは初めてだ。それほど、この本を強く推薦したい。
 なお、今年出た本に「内モンゴルには民族問題が存在しない」と指摘した迷著がある。真実に気づいていない典型例だろう。次回はその本についての書評を投稿したいと思う。 

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紙の本イラク占領 戦争と抵抗

2007/05/16 02:32

世界には優れたジャーナリストがいる

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 イラク戦争が馬鹿げたことなのはもはや常識ですが、実態はどんなものなのか、日本の報道に接しているだけでは余りよくわかりません。もともと中東事情に詳しく、戦争が始まってからもほぼ一貫してイラクに駐在する英国のジャーナリストが書いた本書は、この「実態」を知るうえでとても役に立ちます。「世界のいま」に関心がある人は必読だと思います。
 まっとうなジャーナリストらしく、筆者はその目で見、その耳で聞いたことを、普通の読者にもわかるように丁寧に書き連ねています。もちろん、筆者も誘拐や自爆テロなどにおびえており、それゆえに取材が決して満足できるものではないことも認めています。その結果、いわば体系的に整理された「報告」になっていないきらいはあります。でも、読者は筆者のさまざまな友人たちーーレストランの経営者や政府高官、さらには同業者もいますーーの発言や経験を通じて、イラクの現状、恐るべき雰囲気に生々しく向き合うことになります。登場する筆者の友人のうち少なくない人たちが、本書完成時(2006年の秋)にはこの世の人でなくなっていたという事実には、粛然とします。
 あえて感想を記すならば、民族・宗教問題がいかに難しいか、ブッシュ政権がいかに愚かか、国際政治にはいかに慎重な目配りが必要か、よく理解できた、というところでしょうか。そして、世界には本当に優れたジャーナリストがいるのだと、痛感しました。蛇足で付け加えると、ブッシュ政権については毎日新聞社から出ている「戦争大統領」がそのアホぶりの「実態」を詳細にレポートしていますので、併読をお勧めします。

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筑摩書房さん、頑張って!お願い!!

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ひょんなことから久しぶりに「エドの舞踏会」を読み返して改めて感動し、書評を書こうと思ったのですが・・・。絶版状態なんですね。で、本書の書評を投稿することにしました。
といっても、山田風太郎の明治小説が珠玉揃いなのは周知のことだし、本書について今更ぐたらぐたら褒め称える書評を書く必要もないでしょう。で、以下は明治小説集に関連していくつか気づいたことを。
1)風太郎は川路利良が好きなんだろうなあ:明治小説集には数多くの歴史上の人物が登場し、いろいろ活躍するのですが(本書の冒頭に神田の半七親分が出てくるのが、なかなか笑えます)、そのなかでも登場回数や役割の重要度では川路が一番だと思います。もちろん「日本のフーシェ」とまで呼ばれた男のことでもあり、風太郎の視線には厳しさがあるのですが、それでもなんとなく好意を抱いているような印象です
2)風太郎は軍人も好きなんだろうなあ:「エドの舞踏会」では山本権兵衛が、「ラスプーチンが来た!」では明石元二郎が狂言回しの役をつとめます。日本の近代を、というより歴史とそれを織りなす人間という存在を、冷徹なまでに突き放して見ていた風太郎は、日本の軍にきわめて厳しい視線を向けていました。にもかかわらず、近代日本を支えた優れた軍人に対しては後世の目で一方的に断罪することなく、一定の尊敬の念を抱いていたように思います。司馬遼太郎の小説が好きな人々に、複眼的な歴史観を養ってもらうための解毒剤として最適でしょう(司馬遼の歴史観が単眼というわけではなく、あくまで読者のことです)
3)復刊すべきでしょう:漫画「バジリスク」がヒットしたおかげもあるのでしょうが、忍法小説集は現在かなり容易に手に入ります。しかしながら、明治モノは困難です。近所の図書館にもほとんどありません。これは日本の文化の悲劇であす。次代を担う青少年の教育上も好ましい状況ではありません。個人的にも、手元にあるのは文春文庫と新潮文庫で既にかなりボロボロになっており、しかも全巻揃えたわけでもないので、筑摩さんには是非、復刊をお願いします

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「国のために」の内実

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 日中戦争以後に軍を指導した人々の多くが官僚的で出世志向が強かったこと、視野が狭く弱者への思いやりがなかったことは、いわば常識だと思っていました。しかし、安倍首相をはじめオピニオン・リーダーとも言うべき人たちが靖国問題にからんで繰り返し「国のために戦った方々」を称えなくてはならないと述べるのを聞いていると、改めて常識を確立しなくてはならないのだと痛感しています。
 本書は広く多面的に、そして何より実証的に「生活者でもあった」旧陸軍将校たちの内面に迫っています。上記の常識を覆すものではなく、むしろ綿密な資料の収集と丹念な資料の解析、そして社会学的・心理学的な検討の積み重ねによって、上記の常識をむしろ強固な基盤のうえで再確認した内容だと言えます。
 学者さんの仕事らしく、ねちっこくて大部な著書で、読むのは少々しんどいのですが、それだけに充実しています。内実に踏み込まないで「国のために戦った方々」を称えたがる、そんな人々にこそ読んでもらいたいと思います。もっとも、彼らにそれだけの読書力があるとは思えず、こうした優れた研究も彼らには届かないのだろうとも思うのですが・・・
 連想が働いて不安になったのは、中国人民解放軍の今後。軍の近代化にとそれにともなう兵員削減を背景に、かなり多くの軍人の間で不満が鬱積しているようです。腐敗で失脚する将軍があるかと思えば、退役軍人たちが待遇改善を求めてデモをしています。共産党政権は国有企業などに退役軍人を押し付けて不満解消につとめていますが、国有企業も市場での競争に直面するようになった今では、これも限界があるようです。昭和初期の軍人たちが置かれた状況と似ており、彼らが「出世の機会」として戦争に期待する可能性はありそうです。
 それでも北朝鮮人民軍よりは良いのかもしれません。よく知りませんが・・・

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日本人とモンゴル人、漢人、ロシア人、米国人は読むべし

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 辛い本です。歴史の真実に迫る本はえてしてそうだと言えばそれまでですが、やりきれない思いはどうにもなりません。
 まず、中国共産党政権による内モンゴルのモンゴル人たちに対する仕打ち。特に文化大革命の時の民族虐殺は、おぞましいとしか言いようがありません。
 次いで、この民族虐殺のことがこれまでほとんど具体的に語られてこなかったこと。共産党政権は文革を否定した後も、自らの悪行について真摯に反省してはいないことがよくわかります。そしてわが日本の学界、ジャーナリズムも、はっきり言って怠慢のそしりをまぬがれません。内モンゴルから日本に留学したモンゴル人の著者が、この本を日本語で出したことに、心からの感動を覚えました。
 第3に、内モンゴルと日本の深いかかわり。かつて日本の跳ね返りたちが「満蒙は日本の生命線」と唱え、モンゴルの民族主義者たちと様々な連携を進めていたことは知識として知ってはいましたが(たとえば川島芳子とモンゴル貴族の縁組)、それがこの本を読むことで脈絡のある理解に深まったと思います。安彦良和さんの「虹色のトロツキー」の理解を深めるのにも役立ちました。裏返すと、近代日本についての理解がまだまだ浅いことを実感してしまうことになりました。
 さらに、国際政治の非情。内モンゴルの民族主義者たちの夢を粉砕したのは、なによりもまず中国(国民党と共産党)ですが、それに同調したソ連と米国の影響もありました。そして、外モンゴル(当時のモンゴル人民共和国)の、いわば裏切りも。
 できればモンゴル語やロシア語、英語、そしてとくに中国語に訳されて、世界中の人たちに読んでもらえたらと思います。
 前回、「鹿鼎記」の書評をマンガ版「射ちょう英雄伝」につけてしまうミスをして以来、新たな書評は控えておりましたが、とにかくこの本はできるかぎり多くの人に読んで欲しいと思い、矢も楯もたまらない気分でこれを書きました。

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紙の本邪魅の雫

2006/10/31 18:58

平成の横溝

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 時代は昭和20年代後半、おもな登場人物はすべてあの大戦をくぐり抜けてきた人々。このシリーズには、あの大戦とその前後の社会の激変が濃い陰影を与えていますが、今回は713部隊と帝銀事件という実際にあったことに焦点をあて、シリーズ中の異色作となりました。作者に対しては、かねて「平成の横溝」との評価を(心の中で)与えてきましたが、今回は「清張」風の味わいも発見!十分に楽しめる内容になっています。
 とはいえ、物足りなかった点もありました。まず、恒例の中禅寺による妖怪学講義が影をひそめ、その結果として「憑物落とし」にも従来ほどの爆発力がなく、カタルシスは今ひとつ。
 薔薇十字探偵が炸裂しなかったのも、シリーズ愛読者としてはちょっと寂しいところ。もっとも、全体のストーリーの中で決定的な役割を演じてはいるので、これはこれでありかなあ、という感じです。
 実際にあったことが重要な題材になっているためか、作者が想像力を十分に広げられなかった印象も受けました。中禅寺に思いっきり薀蓄をかたむけて欲しかったのですが、これも今ひとつ深みがありません。731も帝銀事件も、なお事実を掘り起こす作業こそが最もエキサイティングな段階だからかもしれません(たとえば、作者が参考文献の一つにあげている青木さんの「731」は読み応え十分ですが、しかもなお明らかにされない闇の広さに茫然とします)。
 シリーズはなお続くようで、今回の榎木津に続き中禅寺が苦悩するストーリーがそろそろ登場しないかと期待しています。

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いま1番好きなマンガ

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 待ちに待った第6巻。期待は裏切られず、5巻までと同じように何度も読み返しています。
 どうしてこんなに好きなんだろう?いろいろ考えてみました。
 最初に「読んでみるか」という気になったのは、シンプルだけど力強く、しかも不思議でさえある題名に魅かれたからです。次いで1巻の表紙をみて、力強いけど美しい絵柄に魅かれました。
 それからは読めば読むほど好きになっていきました。
 まず登場人物たち。中心になるのは高校1年生の女子バレー部員たち6人ですが、それぞれに心に抱えている傷を乗り越えていく過程が丁寧に描かれており、感情移入してしまいます。
 作者の芸の細やかさを感じさせるのが、6人の間の呼び方。日本人にとって(実は世界中のどんな民族でも多かれ少なかれそうではないかと思うのですが)相手をどう呼ぶかはその人との距離感を表す重要な問題ですが、作者はこの変わり方を(変わらないぶりも含めて)とても丹念に描くことで、登場人物の性格や距離感の変化を鮮やかに浮き彫りにしています。青年マンガですが、この辺のセンスは女性の作者ならではと思います。
 物語はいかにもマンガらしい荒唐無稽なところがいっぱいありますが、それでも作者の強いメッセージが十分に補っていると思います。人と人の触れ合い、人としてのあるべき優しさ、といったことについて、作者は読者に盛んに語りかけていると思います。
 もっとも、私は作者についてほとんど知りません。他の作品も読んだことがありません。偉そうにコメントできる立場ではないとも思いますが、それでもこのマンガは傑作だ、という気持ちはまったく揺るぎません。絵柄を含めて登場人物もストーリーも心に沁み込んでくる、そんなたぐい稀な傑作だと思います。
 この6巻では、作者の自負も感じ取れました。作中で重要な役割を与えられている少年マンガを原作とした映画について、登場人物の一人に「女の子にこそ観てほしい」と言わせているのは、作者の本音だと思います。そういう意味では、私のようなおっさんが書評を書くというのは作者にとって不満かもしれません。
 次の巻が出るのはまた先になりますが、とにかく楽しみに待ちたいと思います。マンガで次巻がこれほど待ち遠しいのは、今年刊行が再開した「西遊妖猿伝」くらいです(本当は中断したままの「カムイ伝」と「青龍」も出てきたら同じほど熱狂するとは思いますが)。

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紙の本遊牧民から見た世界史 増補版

2011/08/29 00:45

目から鱗が落ちまくる面白さ

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 前々から読みたい、読みたいと思っていた本で、増補版が出たのを機に、ついに読みました。期待にたがわない面白さです。次から次に目から鱗が落ち、歴史を、そして世界を見る目が変わってしまうような気にさえなります。たとえば・・・
 10世紀から割と最近までの世界史は「テュルク・イスラーム時代」と呼びうる時代だった(P80)。
 「陸と弓矢の時代」と「海と銃器の時代」が並存していた時期があった(P82)。
 漢字文化圏で「漢楚の攻防」と理解されている東アジアでの覇権争いは、匈奴も交えた三つ巴の覇権争いとして理解すべきであり、そのことを司馬遷は読む人が読めばわかるように「史記」に書いている(P152)。
 漢の武帝のときの匈奴との戦争は異様な長期戦で、それは武帝という異様な帝王の個性によるところが大きい(P190)。
 中国の24の正史のうち三分の一は唐の太宗の時に編まれた(P253)。太宗ほど歴史の中での自分の演出に長けた帝王は少ない(P255)。唐の建国を支えたのは東突厥だった(P289)。
 いろいろ書き出すと限りがありません。要するに、中国の正史や欧州の歴史観の観点を超越した、歴史ひいては世界の観方ともいうべきものを、学べるような気がします。そして、より深く、世界を理解しよう、という意欲を掻き立てられます。
 たとえば、冒頭の「追記」のなかで著者は、ロシア・ソ連がカザフスタンにもたらした悲劇を少しだけ紹介していますが、その具体的な実像は本書ではわかりません。おそらく、日本人でカザフの歴史を多少なりとも知っている人はごく少数でしょう。
 1997年にこの本の初版が出て以来、遊牧民、あるいは中央アジアについての情報はずいぶん多く日本でも流通するようにはなっています。しかし、まだまだ足りないのが実情という気もします。
 
 

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ミャンマー(ビルマ)理解の基本書

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 12年も前に出た本(原書はもっと古い)ですが、ミャンマー(ビルマ)に関する日本語の書籍としては依然として、最もまとまった1冊だと思います。
 この国を理解するうえで最重要なのは少数民族問題でしょう。多数派のビルマ族による支配を受け入れず、分離・独立や高度な自治を求める少数民族勢力がいくつもあるうえ、その相当部分が武装して事実上の自治を実現しているのです。
 中央政府の立場からすれば、ウイグル族やチベット族が時々暴動を引き起こす程度の中国の民族問題よりずっと深刻な状況だと言えるでしょう。
 本書を読めば、むしろアフガニスタンの一歩手前、という印象を受けます。イスラム過激派やタリバンこそいませんが、一つの国としての一体感が極めて弱い点が共通しているのです。
 独立後しばらくはアジアで最も輝かしい民主国家のひとつだったこの国で軍人によるクーデターが起きたのも、民族問題が大きな要因だったと言えるでしょう。
 軍人というのは、国の分裂とか領土の喪失を特に嫌悪する人たちだと思います。まあ、領土のような問題では結構ふつうの人たちまで強硬で硬直的な意見に傾きがちですが、軍人の場合ははほとんど生理的な嫌悪感につながるような気がします。
 つまり、ミャンマー(ビルマ)の軍事政権の指導者達にとって権力維持の最大の理由が、少数民族を押さえ込んで統一を維持することにあると思えるのです。アウン・サン・スー・チーさんが率いる民主化勢力への締め付けも、その一方で来年に向けて進む総選挙の準備もすべては権力維持が目的ですが、それを正当化する「大義」が統一の維持なのだと思います。
 本書は12年も前の本なので古びてしまった部分も相当あります。それでも、この国の未来を展望するには、特に軍事政権の政策を考えるには最適です。ただ、神保町のアジア文庫ではまだ初版が並んでいました。売れていないんだろうなあ・・・

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イブの息子たち 1

2007/05/25 02:12

危険なギャグ満載!永遠の名作です

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 30年も前のギャクマンガですが、いま読んでも強烈なパワーを感じます。架空の人物も含めて、人類の歴史上に輝く有名人たちが次から次に変態として登場し、俗っぽい欲望をむき出しにして右往左往するどたばたコメディーです。そのなかで、ヤマトタケルやジークフリート、高杉晋作らごく少数が、作者の好みなのでしょうが、かっこよく描かれていて、そこがまたなんとも魅力的なのです。
 とりわけ強い印象を残すのは、ニジンスキーという登場人物。言うまでもなく、あの偉大なダンサーのパロディーですが、今風に言えば「キャラが立っている」のです。私にとっては、最も好きな漫画キャラクターの1人です。
 連載当時は私も幼く、あまり考えもしなかったのですが、今になって考えると、かなり危険な漫画と言えます。国民的英雄、民族のヒーロー、あるいは教祖といった存在を、独断と偏見で変態として描き、そして大抵の場合はコケにしているのですから。
 例をあげると、ジンギスカン、ロビン・フッド、ケネディ、モーゼ、大仏(?)・・・・。そして余りひどい描き方ではないのですが、現在の世界情勢の混迷に深い関係のある宗教の教祖も、登場します。もし今、私がこの漫画の編集者だったら、彼を登場させることには反対すると思います。
 作者が好きだったであろうロックミュージシャンが次々登場するのも、楽しい仕掛けです。当時の私にはわからないお遊びがいっぱいありました。たとえば「混乱、それが私の墓碑銘」という、あの詩です。
 ともかくも、作者の出世作となった記念碑的作品というだけでなく、私自身は今も「エロイカより愛をこめて」より面白いと評価しています。

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紙の本オリエンタリズム 上

2006/12/28 20:25

「目からうろこ」の名著だが

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 これほど世に知られた名著についての書評を改めて書く必要があるのか、と思いつつ、敢えて取り上げるのは二つの理由からです。一つには、恥ずかしながらようやく読み終えた感動を何らかの形で表したかったから。いまさら、と言われるかもしれませんが、文字通り「目からうろこ」で、世界を見る目が変わります。
 もう一つの理由は、日本の状況への不安がますます強まったためです。イラク戦争に対し、さらにイラク戦争に自国政府が協力した際は自国政府に対し、欧州の少なくない人々は反対と抗議の声を明確な形で表明しました。ところが日本では、そういった声は余りに小さく、ほとんど目立ちませんでした。「米国も含めた世界の先進国で、イラク戦争に抗議するデモが唯一起きていない国」が日本です。
 それどころか、小泉純一郎首相は選挙で勝利しました。これまた「イラクに軍隊を派遣した国で唯一与党が勝利した国」です。
 この本を読んだことのある人なら、ブッシュ政権の胡散臭さは発足当初から、ましてイラク戦争の胡散臭さは始まる前から、容易に感じ取っていたはずです。日本人は知的に、道徳的に、おそらくは政治的にも、余りにレベルが低いのではないでしょうか?特にひどいのはジャーナリズムかも知れません。
 この本のあとがきで監修者も指摘している通り、日本人が欧米以外の地域の人々を見る目には「オリエンタリズム」が浸透しています。恐ろしいことに、最近の中国論や韓国論などではむしろ「オリエンタリズム」の影響が強まっていることさえ読み取れます。自らのモノの見方を客観的に検討するという哲学的な作業が簡単じゃないのは確かですが、このままでは日本は永遠に米国の属国のままです。

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中国の地の底で

2006/11/01 01:47

中国を知るために、その1

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 13年も前に出た本ですが、古びていません。読み返して、改めて目を開かれました。出版当時は「6・4」の印象が強かったこともあり、ずいぶん読み飛ばしていたのだと反省しました。高度経済成長にともなって中国社会が急激に変わっている今こそ、読む価値があると思います。以下、読み返して発見したことをいくつかメモします。
(1)文革世代と6・4世代:作者は文革初期の紅衛兵であり、しかも6・4の民主化運動の助言者だった。これは、今年はじめに中国青年報「氷点週刊」の編集長をクビになった李大同氏とほぼ同じ。ほぼ同年齢の日本の団塊の世代は全共闘のあと高度消費社会に同化し「島耕作」のような能天気なサラリーマンになり果てたが、中国のこの世代は民主と自由を求めて戦い続けてきた。そして今、中国も都市部では高度消費社会を迎えつつあり、改めて彼らの思想が問われている。
(2)文革の遺産と6・4の遺産:文革の遺産は多々あるが、とりわけ大きいのは共産党政権指導部が大衆運動を極度に恐れるようになったこと。6・4の時の指導部の過敏な反応は、文革の記憶による面が大きい。そして、6・4の記憶は指導部に新たなトラウマを植え付け、現在に至っている。
(3)毛沢東の文革と下からの文革:作者が(というより監訳者が)もっとも強調しているのが、下からの文革という視点。日本では特に反中感情の持ち主が「毛沢東の奪権闘争」の側面を盛んに強調するが、それはむしろ中国共産党政権にとっては歓迎できる論調だという見方を、作者は示す。
 中国については感情的で愚劣な文章が乱れ飛んでいるだけに、こういった良書(感情的でないわけではありませんが)こそもっと多くの日本人に読まれるべきでしょう。

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紙の本白夫人の幻

2006/10/31 23:47

読書の快楽

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本好きにとって最高の快楽の一つは「本屋さんの店頭でわけもなく魅了されて買った本が読んでみたら当たりだった」という経験でしょう。私にとってこのシリーズは、そんな快楽をもたらしてくれた貴重な存在です。あれから15年以上が経過し、このシリーズの出版元や訳者にはかなり出入りがありましたが、早川書房さんに移ってからは着実に新刊が出、そのたびに至福の時を与えてくれています。ウラにはいろんな方の努力があったようで、心から感謝申し上げます。
 さて今回は、骨董を軸に愛憎が渦巻き、犯罪が連鎖的に広がる物語です。毎度おなじみ、おどろおどろしいムードはふんだんにありますが、アクションと色気は低調。でも、読み終わって一番強く心に残ったのは、美女の姿です。プレーボーイでもあったと言われる作者の人生観みたいなものを感じました。
 主人公のディー判事は例によって小市民的な(といっても古代中国の高級官僚としての、ですが)家庭の幸福を味わう一方で、果敢な行動力や、恐ろしく冷徹な人間観に基づいて推理の組み立ても披露します。シリーズの魅力の一つであるディー判事の存在感、相変わらずです。
 もちろん、舞台として描かれるむかしの中国の姿は、やっぱり最高に魅力的です。ほんの300年ほど前までは世界最強の先進国であり、当時の世界においては極めて近代的な社会を築いていたことがうかがえます。
 あとがきによれば、今後は旧訳の改訂版も出すとのこと。絶版になっている(らしい)初期の名作群が再び日本の読者の手元に届くなら、これは本当に嬉しいことです。

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