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もりそばさんのレビュー一覧

投稿者:もりそば

41 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本啄木歌集

2009/04/25 22:46

辛いときにそばにいてくれる歌人

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 啄木は、私にとって「辛いときにそばにいてくれる歌人」です。

 ”新たな時代のマルクスよ、この盲目な衝動から動く世界を、素晴らしく美しい構成に変えよ”などと力強く導いてくれる宮沢賢治。
 ”自分の感受性くらい 自分でまもれ ばかものよ”と叱咤してくれる茨木のり子。
 彼らも私は大好きです。音読すると、心に張りが生まれてきます。


 でも、気持ちがどうしようもなく落ち込んできて、自分って小せえなあ、と思ったとき、啄木の歌は心に響くのです。

「大いなる彼の身体が 憎かりき その前にゆきて物を言ふ時」

「いつしかに正月が過ぎて わが生活が またもとの道にはまり来たれり」

「新しき明日の来るを信ずといふ 自分の言葉に 嘘はなけれど」

 私を励ましてくれるのではなく、そっと心にふれて、「わかるよ」と言ってくれているような気がします。そういう時、私は何十年も前に死んでいる啄木とテレパシーでつながったような感覚がするのです。

 たとえば仕事がいやになったとき、
「家にかへる時間となるを ただ一つの待つことにして 今日も働けり」

 酒によって現実の問題を後回しにしたときに、
「コニャックの酔いのあとなる やわらかき このかなしみのすずろなるかな」……。

 
 テレパシーで覚える気持ちは、癒しではありません。
 「仕方ないよ。しょっぱい自分を認めて、生きるしかないんだよ」というある意味の達観です。

 しかしその上で、
「こころよく我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ」

「昨日まで朝から晩まで張りつめし あのこころもち 忘れじと思へど」

 などのような、”もっとましな自分になりたい”という願いが込められた歌が、私に力を与えてくれるのです。

 

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紙の本中国の歴史 近・現代篇 1

2008/03/30 21:43

視座を変えつつ読み返したくなる

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 日清戦争後からの、中国の歴史を描いたもの。
 
 著者の陳瞬臣先生は、静かな文体で列強に蹂躙される中国を語ってゆく。だがそれだけに、清王朝の迷走、改革の志を持つ康有為、やくざまがいの列強、生活苦から狂気にかられる国民の姿が、クッキリと映し出されている。
 
 さまざまな人の思惑が錯綜するだけに、その情報量も物凄い。
 どの登場人物に興味をおぼえるかは、読者によって違うだろうが、私は西太后に注目した。
 彼女は、皇后でありながら、光緒帝を傀儡とし、清王朝の実権をにぎっていた。
 西太后の目は、世界ではなく、紫禁城の中の権力争いに向けられていた。光緒帝を旗印とした変法派を弾圧するが、自分にはさしたるビジョンがあるわけでもない。
 ひとえに自分の権力を失うのをおそれただけ。
義和団が外国人を排斥したときには喝采すら送った。列強からどのような報復を受けるのか想像すらしなかったのだろう。
 
 私はユリウス・カエサルの言葉を思い出した。
「人間なら誰もが現実を見ることができるわけではない。多くの人は、自分の欲する現実しか見ていない」

 西太后には現実が見えていなかった。
 中華思想に浸ってきた中国人が、自らの国を弱小国だと認めることは、たいへんな勇気が要っただろう。
 その現実をしっかりと直視し、改革を光緒帝に奏上した康有為たち変法派は、地盤の脆弱さから西太后に攻撃され、敗れてしまった。彼らも「地盤の脆弱さ」という現実が見えていなかったのかもしれない。

 現実を直視するのは難しい。直視したとしても、現実を変えるためには、正しい、持続した努力をしなくてはならない。
 そのために、孫文は世界中を飛び回っているが、彼の「現実を変えるため」の行動によっても大変な血が流れることになるだろう。
 それに非を唱えるつもりはないが、改革を成すということの難しさを痛感させられる。
 
 私はこのような感慨を抱いたが、読者の持つ視座によって、この本から得るものは違うだろう。孫文と日本人との友情、列強の横暴、生活苦から義和団に走る群集心理など、示唆に富んだ話がたっぷり詰まっている。
 私自身も、時折視座を変えつつ読み返していきたい。ずっと本棚に置いておきたい本である。

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紙の本リンゴが教えてくれたこと

2010/01/10 13:38

たゆまぬ観察と実践

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 不可能とされた無農薬リンゴの栽培を志し、周囲の中傷や極貧生活に耐え、十年以上の試行錯誤の末についに成功させた木村秋則さんの物語。

 思い立ったきっかけは、栽培の際に家族が農薬により体を痛めつけられるのが嫌だったからという。
 だが、木村さんはいつしかその目的を超え、何かに駆り立てられるように無農薬栽培を成功させようとする。
 彼が背負ったリスクはすさまじいもので、村八分にされ、収入が激減し、キャバレーの客引きやトイレ掃除で食いつなぐ。
 だが、彼はただ苦難に耐えるだけの人ではない。この著書で木村さんは「観察せよ、観察せよ」と何度も言っている。
 ただ無農薬栽培にして天命を待つのではないのだ。図書館へ行って勉強し(コピー代がないのでチラシの裏にメモしたという)、リンゴに害虫が湧けばひたすら観察し、どう駆除したらいいかを考え、酢を散布したりする。その結果をフィードバックし、新たな仮説を立て、実行する。
 周りから嘲笑されても、あるかどうかもわからない答えを探し続けるのだ。
 しまいには自殺まで考えるようになり、首を吊ろうと山の中に入り・・・・・・そこで見た光景から、リンゴ栽培における大きなヒントを得る。
 その光景は本当になんでもないものだ。普通の人間が見たら、まったく印象に残らないだろう。
 しかし、リンゴのことばかり考え続けていた木村さんには、それが大きなヒントになったのだ。
 それは幸運なひらめきではない。神様からのごほうびでもない。たゆまずアンテナを張り続けていた木村さんだからこそできたのだろう。


 彼はこれほどの苦難の果てに得たノウハウを、惜しげもなく公表する。
「家族を農薬から守る」という目的をいつのまにか越え、「自然栽培をもっと広め、この地球という共有財産を、次の世代に渡す」というさらに大きな目的のために動いている。
 かといって単純な理想主義者ではなく、
「自然栽培でも農家が生活していけるようにしなくては」
 と、いう風に、経済面もきちんと考えている。そうすれば後に続く人が増えるだろうという見込みだ。佐藤さんの試行錯誤は今も続いている。

 この本はサクセス・ストーリーとして読んでもおもしろいし、たゆまぬ観察と実践が大事なのだということを、大変な説得力でもって教えてくれる。何度も読み返したい本である。

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紙の本小説十八史略 1

2007/08/09 00:24

三国志の次に読めば、豊穣な中国史の入り口になってくれる

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 中国の歴史といえば、三国志しか知らない、という人も多いんじゃないでしょうか。
 それだけ三国志という物語が魅力的だともいえますが、中国史は、それだけで終わらせるのはあまりにももったいない。
 せっかく入り口に立ったのだから、もっと奥まで入っていけば、すばらしい沢山の英雄と出会うことができる。

 三国志から一歩進んで、豊穣な中国史の世界に浸かるための架け橋となってくれるのが、この本だと思います。

 この本を読めば、中国史の流れを俯瞰的に見ることができるようになります。古代から、南宋が元に敗れるまでの二千年以上の歳月を書いているからです。
 そうなれば、宮城谷昌光先生のような、一人の英雄にスポットを当てた作家の本を理解しやすくなるでしょう。

 そしてなにより、面白い。
 車椅子の名軍師・孫ピン、
 元に捕らえられ、帰順を求められても屈せず、永遠に語り継がれる詩を残して斬首された文天祥、
 数十年にも及ぶ流浪の果て、ついに覇者となった文公・・・
 胸を熱くさせてくれる英雄たちが、これでもか! と出てきます。

 これを読み終わったら、もっともっと中国史の本が読みたくなります。
 そういう連鎖反応の起爆剤となってくれて、しかも読んでいてワクワクできる。こんなにお得な本は、なかなか無いと思います。

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冷徹な書体。でも熱くなれる

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 第一次ポエニ戦役において、シチリア島、サルデーニャ島などをローマに奪われたカルタゴ。名将ハミルカルの息子ハンニバルは、ローマ征服を誓い、アルプスを越えてイタリア半島に攻め込んだ。
 天才的な手腕により、ローマ軍を会戦で次々と打ち破る。だが、ローマ連合の結束は乱れず、ハンニバルの猛攻を凌ぎに凌ぐ・・・
 
 個人的にローマ人の物語で一番面白いと思う巻です。
 冷徹な文体でありながら、読んでいて熱くなれる。

 ローマ人は、この巻では本当にボコボコにやられるんです。ハンニバルの騎兵を使った戦術により、数万人死ぬ連敗を繰り返す。
 ハンニバルはマケドニアなどとも同盟を結んだため、ローマは国外にも敵がいる。
 でも、ローマ人はそんな現実から目をそらさず、自分にできる戦略をたて、それを着実に実行して少しずつハンニバルの戦力を減らす・・・
 
 
 対するハンニバルの天才ぶりも凄い。彼の立てた大戦略もすさまじいですが、それ以上に魅力なのは、彼の鉄の意思。
 イタリア半島に少数精鋭を連れて行くために、途中極寒のアルプスで二万の兵士が死亡することも計算に入れていた、というのは凡人の測りでは考えられません。
 会戦で彼が用いた戦術も図解入りでわかりやすく説明してあり、その戦場にローマ軍を誘い込むための心理作戦も、実に味わい深い。


 もう私は十読しました。この本が400円ちょっとというのは安すぎます。
「新しい本を書架に置くとき、私は言う。私の目が見える間はここに立っていてくれと。そうすると、喜びの戦慄が私の体を走る」と、言った人がいますが、まさにそういう気持ちにさせてくれる本です。
 一生、読み返していきたいです。

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ここからはじまる決勝は、福本漫画最高傑作のひとつ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 この巻から、物語中もっとも面白い東西戦決勝がはじまる。
 
 東軍メンバーは天才・赤木、関東最強の天、ガンパイの達人銀二、そして、凡人ひろゆき。
 西軍は首領・原田、怪物・曽我……他二名。
 彼らが一切ヘタレることなく、ギリギリの攻防を見せる。
 状況が刻々と変わり、それにともない戦略が生まれ、さらにそれを打ち破る闘牌を行う……このダイナミックなプロセスが絶え間なく行われるのが、東西戦決勝だ。福本麻雀でも白眉ともいえる戦いである。
 
 福本麻雀では、展開に意外性を持たせるためか、麻雀にいくつかの「縛り」を用意することが多い。
 「アカギ」の”吸血麻雀”、本作でのちに出てくる”クリア麻雀”などである。
 その「縛り」のなかで最も有効に働いたのが、この東西戦決勝だ。
「マンガンしばり」、「10回交代制」、「点棒は減るのみで、決して増えない」、「ハコテンまで打ち続ける」
 この四つの「縛り」を福本伸行は有効に使い、凡弱の麻雀漫画では決して見られない展開を見せてくれる。
 それだけではない。人物描写がまた素晴らしいのだ。ひろゆきは、原田に「弱者は悪……存在そのものが毒なのだ……」などと評され、東軍の足を引っ張ってもらうために、あえて生き延びさせられる始末。
 だが、後半には思わぬ成長を見せ、地力では圧倒的に上回る曽我を苦しめる。ひろゆきと赤木との交流も、福本節が満載で楽しい。
 
 東西戦の決勝は、とにかく何回読み返しても飽きない。本当に少しだけ、「ここ少しおかしくないか……」と思うところもあるけれど、ささいな傷にすぎない。
 
 自分で設けた「縛り」を活かし、達人たちの戦いを描ききった福本伸行。
 東西戦決勝は、彼の最高傑作のひとつである。

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「弱さ」のもたらすオモシロさ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 この巻まで一気に読みました。いやー、おもしろかった。

 名作と誉れ高い「バジリスク」の流れを汲んだ作品ですけど、「バジリスク」と違うのは勧善懲悪であること。それに、二つの勢力のうち一つが圧倒的に弱いこと。

 筋は、肉親を目の前で惨殺された美女七人が、仇である会津藩主とその部下「七本槍」を討つため柳生十兵衛の弟子となる、というものです。

「バジリスク」は正義も悪もない殺し合いでしたが、この作品は敵側の「七本槍」が拉致、監禁、強姦などすさまじい鬼畜っぷりです。しかも物凄く強い。

 それを討たんとする美女たちはなんの力もありません。十兵衛のもとで必死に特訓しますが、運動能力が上がって「細い棒の上を渡る」とか、「併走する馬に飛び乗る」とかできる程度。

 戦力差はいかんともしがたいのに、それを兵法で埋めて仇を討っていくプロセスが非常に楽しい。
 美女たちが弱いからこそ、十兵衛は頭を使い、「七本槍」に力を発揮させず、特訓の成果を活かせるような戦いを考えるわけです。
 「あの特訓が、こんなところで活きるのか!」という描写にはカタルシスすらおぼえます。

 十兵衛と美女たちが、特訓や戦いを通して心を通わせていくのも見ていて微笑ましいです。彼らに感情移入しまくりで、「死ぬな!」と思いながらページをめくりました。「バジリスク」では鬼のように死にましたからね。
 
 とにかく先が楽しみ。「バジリスク」の容赦ない展開が頭にあるため、「誰か死ぬんじゃないか」という緊張感を保ちながら読み進められます。

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紙の本ゴミ箱から失礼いたします

2010/02/10 00:06

主人公は常時ゴミ箱の中。異様な状況と会話が楽しい

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 主人公の萌太は、ゴミ箱に突然見入られてしまい、その中に入り恍惚をおぼえた。
 我に帰ると、もう抜けられなくなってしまっている。彼は妖怪「ゴミ箱男」になってしまったのだ。
 萌太は、毒舌少女である水無の協力のもとに解決策を探す。

 「ゴミ箱に常時入ってる主人公」というのも、たぶん世界初でしょうが、設定をしっかり活かしております。
 「なんでお前はゴミ箱に入っているんだ」と家族会議を開かれたり、スケボーに乗って移動したり。
 そういう、しなくていい苦労を、主人公が耐える姿が非情に楽しい。

 あと会話が面白い。主人公がセリフや地の分で突っ込むのですが、強すぎず弱すぎず絶妙。ボケ役も、毒舌ヒロイン達がいい仕事をしてくれてます。
 「化物語」の会話が好きな人は楽しめると思います。テンポいいし。ヒロイン毒舌だし。

 この巻の最後で、「妖怪ゴミ箱男」問題は解決してしまうのですが、何とか、主人公にはゴミ箱に入り続けて欲しいものです。その設定から生まれる異様な状況が、実に面白かったので。

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紙の本“文学少女”見習いの、初戀。

2009/05/02 20:04

新主人公が予想以上に魅力的

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ”文学少女”遠子先輩が卒業したにもかかわらず、続編が始まった。魅力あふれる彼女が抜けた穴を埋められるのかと思ったが……。
 新キャラクター菜乃の立ち位置と性格が絶妙すぎてニヤニヤがとまらない!
 
 物語は、菜乃の一人称で語られる。そこで「遠子先輩と離れ、一人になった心葉」を描写しているのだが……これがファンにはたまらない。心葉は黙々と小説を書いていたり、あのストップウォッチを大切にしていたり、「文芸部を潰したら、遠子先輩に叱られるから」部員を集めようとしていたりするのだ。仕草の端々から遠子先輩への思いがにじみ出ているのである! くうっ、心葉!
 
 さて、菜乃は入学早々心葉に惚れる。ストーカーまがいのアプローチをするが、彼女のカラリとした性格のおかげで微塵もいやらしさがない。むしろ心葉とのやりとりは、この本最大の魅力だ。
 最初は「いい先輩」という感じで彼女と接していた心葉も、打ち解ける(?)につれて容赦ないツッコミを繰り出しはじめる。まるで遠子先輩との会話のようである。
 
 サブキャラもしっかりと登場し、心葉と固い友情を築いている芥川君や、身を引いた琴吹さんも出てきて……作者はファンを悶え死にさせる気だろうか。

 冒頭六十ページあたりまでは菜乃と心葉の出会いが書かれ、そこからはいつもの、重めのミステリが始まる。心葉はしっかりと探偵役を受け継いでおり、「真実を見つめることのできる人間になる」と菜乃に力強く語る。成長してるんだなあ……心葉……。
 
 エンディングを見ると話はまだまだ続きそうである。いや、楽しみ!
 心葉は菜乃とどう接するのか、好きな気持ちを断ち切れない琴吹さん、そしていずれ失恋する運命にある菜乃と、今後の見所が盛りだくさんだ。早く続きが読みたい!
 

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紙の本赤い指

2007/09/08 18:21

弱い人間が、絶望の中でもがき苦しむ。その先にある小さな救い。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 主人公は、同居する母親の痴呆に悩むサラリーマン。
 終業後、妻からかかってきた電話により帰宅すると、庭に見知らぬ女の子の死体があった。ひきこもり気味の息子が殺したのだ。
 息子の将来を考え、事件を隠蔽しようとする妻に押され、主人公は必死の工作を始める・・・

 主人公の行う隠ぺい工作は、所詮素人考えなので、東野作品の誇る名刑事・加賀の前に結構簡単に崩れ去っていきます。
 しかしそれでも読者をぐいぐいひきつけるのは、これまでずっと厳しい現実(息子の歪んだ性癖や、母の介護など)から目をそらしつづけてきた主人公が、身内による殺人という、とびっきりの現実をつきつけられて、もがき苦しむからでしょう。
 良心の呵責。息子をかばう妻。自分が殺したことも直視せずゲームに興じる息子。
 そういう発狂寸前の状況で、おぞましい計画を考え、実行に移す主人公。
 
 そんな絶望に満ちた話でも、読後に小さな救いをおぼえるのは、東野先生らしい、どんでん返しがあるからでしょう。
 時間をとって一気に読むのがオススメ。主人公一家のあがきと救いを堪能しましょう。

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最強のラスボス。伏せて牙を研ぐヒーロー

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 前巻で平行世界に飛ばされてしまった春男とクラスメイトたち。

 そこでついに姿を現したラスボス”尊長”。「はぁぁぁぁるぅぅおくぅぅぅん」などと喋り方が小物くさいヤツだな、と思っていたが、とんでもない。この巻では、その強さとイカレっぷりをいかんなく発揮してくれる。
 幾多もの事件を解決してきた春男でも、ほとんど歯が立たない。ただ強いだけではなく、「春男と相思相愛」と思い込んでいるので、春男に足をグチャクチャにされても逃げられても「SMプレイ」「放置プレイ」だと本気で思っているところが素晴らしい。

 尊長は「春男のことを好きな女子」が現れたら問答無用で殺すのである。だから春男は、クラスメイト女子に「キモイ」とか言われると、傷つくと同時にホッとしている。女子が尊長に殺されないということを意味するからだ。
 そんな風に思われても、春男はクラスメイトを平行世界から脱出させるために戦う。
 圧倒的に戦力が劣っているため、春男は「相思相愛」という演技をして尊長を油断させる。顔を舐められまくり、「私の処女半世紀を破ってね(注:尊長は50歳女性)」などと狂ったことを言われても、耐えつづけるのである。
 その隙に勝つための策を練っていくのだ。

 まさにラスボス戦にふさわしく、最高の盛り上がりを見せてくれる。本来ならこの巻で終わりだったようだが……次が最終巻なのかは、明記されていない。魅力的なキャラが多いし、もっと続けて欲しいシリーズだ。

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紙の本賭博覇王伝零 4 (KCDX)

2008/11/01 19:39

福本ギャンブルのキレが戻った

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 最近の福本先生のギャンブル漫画は、一勝負の時間が長すぎてだれ気味になることが多い(”アカギ”の鷲巣麻雀なんて何年続いているのか……)。
 昔のキレはもうないのか、と私は思っていたが、その懸念を吹き飛ばしてくれたのが本作である。
 とにかくテンポがいい。この巻までで、もう五種類目のギャンブルに入っている。しかも、その一つ一つの密度が濃いのだ。
 クォータージャンプ、サイコロ鉄球落としなどといったオリジナルの種目。「負けたら死ぬ」とか、「指を失う」とかいう福本イズムも健在だ。何気なく示されたギャンブルのルールや、参加者の行動……主人公の零は、それらの情報を活用して、ギャンブルの攻略法を編み出していく。「このルールは、そういう意味があったのか!」などと零に気づかされるのは実に楽しい。
 構成は初期の「カイジ」に似ているが、あの漫画ほど人生への示唆に満ちてはいない。だがその分ギャンブルの密度はたっぷりで、十分に楽しめる。

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紙の本しをんのしおり

2007/11/05 21:18

想像を裏切られ、この作者がもっと好きになった

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 箱根駅伝を描いた小説「風が強く吹いている」があまりにもおもしろかったので(ちゃぶ台の向こうにいる親父に気付かれないよう、本で顔を隠して号泣した)、なんだこの作家は! と思い本屋で買ってきたのがデビュー作とこのエッセイ。
 「風~」はまっすぐな青春小説。「俺たちが目指すのは、箱根じゃない。走ることによってたどり着ける、どこかもっと遠く、深く、美しい場所」などというアツいモノローグがある。
 その作風から、作者をスポーツができてカッコイイ「できる女」ではないかと想像していたのだが、このエッセイを読んでびっくり。
 腐女子っぷりがすさまじいのである。
 中でも凄いエッセイは、友人と街へ出た作者が、たまたま覗き込んだフランス料理店の男性スタッフ四人を登場人物とした、ホモ会話を捏造するやつ。
 しかもその捏造は、作者と友人の阿吽の呼吸で始まる。
 二人は店を覗き込んだあと、視線を真っ直ぐ前に向け、道行く人に気付かれないよう、自然にホモ会話をつむいでいくのである。四ページに渡って。
 
 他にも高倉健の一日をひたすら妄想するエッセイがあったりして、とにかく、凄い。
 あっという間に読破した。華やかではないけれど、なんか楽しそうな日常が小気味よい文体で書かれていて、顔をニヤつかせながら読んだ。

 想像を思いっきり裏切られたけど、この作者がさらに好きになった。

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こんなに食べるシーンが美味そうに見える漫画はない。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 繁盛する弁当屋の店主が主人公。奥さんの計らいで鉄道による日本一周のひとり旅をするのだ。鉄オタである彼は、各地の鉄道や駅弁に胸を打たれまくる。

 「駅弁ひとり旅」といっても、道中では代わる代わる美女が主人公の連れとなる。彼女たちはおしなべて魅力的であり、オッさんの一人旅に花を添えてくれる。それに彼のうんちくや、弁当の感想の聞き役となっている。配役として絶妙といえるだろう。
 
 主人公が語る鉄道うんちくは、知識をひけらかすのではなく、鉄道関係者に対する敬意や愛情が感じられ少しも邪魔にならない。
 「原爆を落とされても、人々がわずかな期間で再開させた電車」のうんちくが出てきたときは、鉄オタでない私も胸が熱くなった。

 「駅弁ひとり旅」というくらいだから駅弁を各地で食うのだが、それが実にうまそうなのである。駅弁は図解され、一品食べるごとに主人公はいちいち、
「んん~これこれ、独特な味と風味がくせになるね」
 とか、
「これはいいゴボウだ、体が喜んでる」
 などと過剰なまでの独り言で賛辞する。
 こういう描写を見るたび、私は「美味しんぼ」を読んだ時とは比較にならないほどヨダレが出てくる。
 技巧の限りを尽くし、最高の材料を使う「美味しんぼ」の方がうまさの絶対値は高いはず。しかし「駅弁ひとり旅」の方がより「食いたい!」と思わせてくれるのである。
 おそらく、この漫画で出てくる駅弁が、身近な食材を使っていることで味を想像しやすいし、電車で行けば自分にも食えるということにあるだろう。
 その距離感が絶妙なのだ。
「美味しんぼ」に出てくる「ゆで卵トリュフソース」などどんな味か見当もつかないし、食べるのに莫大な金が必要となる。自分と「地続き」でないのだ。この違いは大きいと思う。

 「駅弁ひとり旅」は読めばヨダレがわいてくるし、旅もしたくなる理想的な旅行漫画といえる。主人公が駅弁を食べつつ、ビールを飲むシーンなどは心の底からうらやましいと思った。
 いつかこんな旅に出たい。そう思わせてくれる漫画なのだ。

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エヴァすら登場しない、もう一つの「エヴァンゲリオン」

9人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 舞台は2015年の第3新東京市でありながら、使徒は襲来せず、エヴァすら登場しない。そんなどこか違う世界の「新世紀エヴァンゲリオン」だ。
 
 アスカがシンジの幼馴染であったり、碇ユイが生存していたり、碇ゲンドウが子煩悩なパパになっていたり、レイがシンジのことを好きであったりと若干の変更が加えられている。
 
 そこで起こる話は、ひたすらぬるい日常だ。
 修学旅行、料理を作るなどのイベントでシンジとレイが仲良くしているのを、アスカが見て焼きもちを焼く。そんな展開ばっかりである。
 シンジのことをアスカもレイも好きであり、怒涛のごとくお約束な描写が出てくる。「調味料を取ろうとして男女の手が重なる」、「料理ベタの少女が弁当を作ってくれる」、「少女が転びそうになったのを抱きとめる」……挙げればきりがない。
 それに、シンジはやたらと「おいしいハプニング」にめぐまれる。「偶然」レイやアスカの股間に顔を突っ込み、胸を触り、パンツを見る。どこのTO LOVEるですか?という勢いである。
 普通の漫画なら、陳腐極まりない描写ばかりだ。だが、本編であれほど悲惨だったキャラたちが、あえて「お約束」をするのである……。その破壊力はすさまじく、ニヤニヤが止まらない。こういう世界があってもよくね? と思わせてくれるのだ。
 
 碇ゲンドウの変貌ぶりも一見の価値があるだろう。タバコを吸う加持に、「受動喫煙でシンジに悪影響があったらどうしてくれる」などと怒ったり、運動会の応援に来ていたりと親バカぶりを発揮している。
 シンジの母・碇ユイの可愛さは常軌を逸しており、これならゲンドウも赤城リツコなど相手にすまいと思わせる。
 
 
 登場人物が楽しそうに暮らす、もう一つの「エヴァ」。魅力は十分である。


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