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パウリーナさんのレビュー一覧

投稿者:パウリーナ

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他者への想像力を育てるには

11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

1959年に刊行されたノーベル賞作家の小説が50年近くも日本で翻訳出版されなかったのはなぜ?というのが真っ先に浮かんだ疑問だ。
 被爆国日本の国民感情から、原爆をつくった人たちの物語は忌避される、と、どの出版社も火中の栗を拾おうとしなかったのだろうか。

 私たちは被爆国日本に生きて、概ね誰でもが共感できることとして「この悲惨なできごとを繰り返すな」「核兵器廃絶を」という感情やメッセージを抱いていると思う。しかし原爆を投下した国アメリカの国民的な物語は「ナチスを許すな」「戦争の早期終結を」であり、原爆はそのために貢献したという世論が優勢だ。それがスミソニアン博物館での「エノラ・ゲイ号」展示を巡る混乱を引き起こしたことも記憶に新しい。
 なぜ、アメリカ国民の物語は「自分たちが投下した原爆によっておそるべき被害を受けた国の人々」へ向かわなかったのか。また、日本国民の物語は「アメリカに復讐せよ」に向かわなかったのか。

 そんなことを思いながらこの小説を読んだ。

 小説は、欧州のホロコーストを逃れてアメリカに亡命したユダヤ系科学者にアメリカの最先端の科学者たちが共鳴協力して原爆が開発される様子を描いている。そこに、科学者たちの夫婦関係や恋愛を入れ込んでいるために読みやすい展開となっている。

 タテマエは、アメリカが核兵器を(ナチスが開発に成功する前に)開発・保有することで世界大戦を終結させることができる、という抑止力の理屈だ。しかし、兵器は、使用を前提にしてしかつくられないのではないか。そのために掛かる莫大な費用は誰が負担し、どう回収されるのか。戦後の冷戦時代における核兵器の抑止力理論は、実は、ヒロシマ・ナガサキへの実際の投下があったからこそのものではないのか。

 さまざまな疑問を含み、抱えながら、小説は科学者たちの葛藤と人間模様を描き出す。
 小説のスタイルでパール・バックが伝えたかったメッセージは何だろうか。私はそれは、原爆ほどのものを作りえる能力と政治力を持った人びとも、非常に限定された情報と感情世界の中に生きていたということではないかと思った。小説に描かれる科学者たちの人間関係は実に狭く、広がりがない。登場人物の中でただひとり、スターリンのスパイであった者ひとりが、その狭さを突き抜けているのも印象的だ。

 狭いこと、突き抜けないこと、それは他者への想像力が育たないことと同義だと思う。原爆をつくった人びとは被爆の恐ろしさへの想像力を育て得なかった。また、私たち日本人は、ホロコーストについて余りにも無知無関心に戦後を生きてきたかもしれない。
 他者を想像し、その痛み、そしてまたその他者の喜びに考えを至らせる意味を改めて知るために、この小説は多くのことを教えてくれる。

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