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先月(2017年8月)

ホラガイさんのレビュー一覧

投稿者:ホラガイ

1 件中 1 件~ 1 件を表示

停滞した「時の牢獄」の中で生きるものたち

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「天顕祭」ー毎年初夏に無病息災を祈り、厄をはらう祭り。五十年に一度の大祭では、ヤマタノオロチの伝説にちなみ、ヒトミゴクウとよばれる笹の人形が供えられ、祭りの主役であるクシナダ姫がえらばれる。
 だが、安寧を祈るはずの祭りの日が近づくにつれ、少女・咲(さき)の体に異変がおこる。背中いちめんに浮かびあがる大蛇の鱗のような痕。身のまわりでおこる数々の怪しい出来事。おそろしさのあまり村を逃げだし、鳶職人のもとに身を隠すものの、土中で光る眼は決して彼女を逃さない。
 ある日、にわかに咲の姿が消えた。

 「天顕祭」の世界は、わたしたちが日々、生活する下町にそっくりだ。しかし、ここでは過去と現在が交錯する一瞬があり、夢をとおして現世(うつしよ)と異界がつながる。登場人物は時として境界を見失う。

 その昔、人は国土の大部分を汚染する爆弾を爆発させ、地の底に眠る「オロチ」を目ざめさせた。だが、回想される戦争は数世紀も前の出来事のはずなのに、戦場で自動機械がうごめくさまは近未来を彷彿とさせ、人々の姿は日本が経験した前の戦争を思わせる。時がゆがみ、ねじれ、破綻したようにも思える世界。話が進むうちに当初の設定がぶれて違うものに変わったのだろうか。でも、あとになって、これはひょっとして停滞した「時の牢獄」の中で生きるものたちの話ではあるまいか、そんな気がしてきた。

 地下の結界で幾度となく殺され切り刻まれ、永劫に死と再生をくりかえしてゆくオロチ。おなじように、人間たちもこの物語には登場しない背後から世界を動かすものの手によって罰をうけているのかもしれないー「汚い戦争」で多くの命を奪い、生命を生む大地を穢(けが)した大きな罪によって。よどんだ沼のように停滞した時間と穢れた大地という煉獄の中で、自分たちの未来が封印されていることも知らずに。
 そう思ったのは、すべてが終わったあと、鳶職人となった咲が高い足場の上から、大地の穢れを清める天顕菩薩の来臨を願いつつ、空の彼方をじっと眺めている場面からだった。このとき人は汚染された大地を浄化する力をもつ竹を使って、決してたどりつくことのできない天の向こう側めざし、上へ上へと足場を作りつづけているように思え、その姿は贖罪をつづけるこの世界の人間そのものを暗示しているようにも見えた。

 読んでいる間、ずっと感じていたのは人の汗の臭いと土の匂いだった。
 この物語の主役でもある鳶職人たちの人間関係は濃い。家出娘が安クラブの新人ホステスになったものの、次の日には鳶職人に化けてたり、ヤミの売人が新入りの人夫をヤク漬けにしてカネを巻き上げにかかる話から感じるようにきわめて人間臭い。なにやら業界の裏の生々しささえ感じる。
 また一方では、古いしきたりを重んじる彼らのなりわいや人々の生活の中には、過去からうけつがれてきたものが脈々と生きている。祝儀物を扱う店の窓に飾られた、笹でつくられたクシナダ姫の人形。湧き水をつかっているときは、「天顕祭」の「姫」の話をしてはいけない、水を伝って地の底にひそむオロチに聞かれてしまうよ、と炊事場で洗いものをしているおばあさんが、日常の中でふと見せるおそろしい忠告。
 ひょっとして、作者は古いものがまだ息づいている場所ーそれは深更、闇を吹きぬける風の中には遠い昔におこった出来事を囁(ささや)く声がかすかに谺(こだま)し、足許の地面では人が経てきた歴史があつい地層となっている土地ーで生まれ、育ったのだろうか。そして、長い時間をかけて降りつもってきたものが、この話を書かせたのだろうか。
 読後、ふと、こんなことを思い、そんな土地を歩いてみたい気がした。

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