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先月(2017年6月)

飯倉明夫さんのレビュー一覧

投稿者:飯倉明夫

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本村上春樹にご用心

2009/02/20 00:08

移ろいゆくもの

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書は村上春樹に関する小文を集めたものだ。五章の「ふるさとは遠くにありて思うもの」には感銘を受けた。内田氏曰く、「およそ私たちが価値ありと思うすべてのものは、その本質的な無常性に担保されているのだ」230頁 という、人は移ろいゆくものにより価値を見出すものらしい。
 
 また「何か存在したことを人に信じさせる最良の方法は、それはもう失われたと歌うことだ。だから、私たちは執拗に失われた恋を歌い、失われた青春を歌い、失われた故郷を歌う~それがほんとうはどこにも存在しなかった偽造された記憶である場合でさえ」233頁
これは物語においても当てはまるだろう。例えばキングのスタンドバイミーでは、おとなになったゴードンの視点で少年時代を回想するというものだった。すでに失われた少年時代の失われた友情。4人の少年の友情もまた暫定的で一時的なものであるからこそ、多くの人を惹きつけたのだ。
 
 長いお別れのマーロウとテリー・レノックスの関係もそうだ。フランク・マクシェイン著「レイモンドチャンドラーの生涯より」にこうある、「孤独なマーロウには友情が必要だが、彼はそれを得られない。彼はそれがいかに薄弱で、いかに仮定的なものであるか、友情について多くを知りすぎている」369頁
長いお別れもまた書き出しが、レノックスと初めて会った時の回想から始まっている。無常性とは、読まれる小説の条件でもあるのだ。
 
 

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