北村 佳澄さんのレビュー一覧
投稿者:北村 佳澄
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2010/03/03 17:00
読んだ記憶
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
最初にこの本を読んだのはいつだったろう。
ずっと昔、作者が誰か、などと気にもとめずに濫読していた頃に、友人の誰かから借りて読んだ記憶があった。印象深かったはずなのに、作者も題名も忘れてしまっていた。きっと借りたものだったから、自分の中にきちんと根を生やすことなく、すべるように意識の上を通り過ぎていってしまったのだろう。
そのくせ、その内容は、ふとしたときに意識の上に浮かび上がってきた。
書店の前で、図書館で。
あの話、もう一回読みたいんだけど、あの話、なんて題名だった?
幻の本が中古として人々の手を渡って、旅をしていく。旅の末に、また巡り合う『旅する本』という短編。
この本に収録されているその短編こそが、私にとっての「旅する本」そのものだった。
『この本が、世界に存在することに』題名に惹かれて手にしたこの本で、この短編に再会し、ああ、もう絶対に手放すまい、と思った。
本を愛するのにまだこの短編を未読の人には、運命の出会いを果たして欲しいし、旅に出さずに本棚に納めておいて欲しい。
紙の本Presents
2010/03/03 16:34
贈り物の価値
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
贈り物の価値は、「物」じゃなかった!
ごくありふれた名前に物足りなさを感じていた主人公が、その名前のルーツともなる場面に出会ったとき、母がその名を贈った意味を知る。
自分にとって意味のない、ただ高価なプレゼントより、派手じゃなくても心落ち着く、ささやかな贈り物にほっとしたりする。
「贈り物」をテーマに、生まれてからこの世を去るまでに出会うであろう、出会うかもしれない、素敵な12の贈り物が、まるごと短編集になっている。
贈られるのは物ではなくて、状況だったり、それにまつわる背景だったり、そういう全てがこめられているから、贈られた物以上の価値があって心に染み入るのだと改めて思わされた。
ぜひ、誰かにプレゼントしてみたくなる一冊。
紙の本森に眠る魚
2010/03/01 17:15
ママともだちの闇
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
怖い。中途半端なホラーなんかより、よっぽど怖い。
おばけより、幽霊より、怖いのは人間だと聞くけれど、人の心というのはどうしようもない闇を抱えているものだ。
育ちも経済状態もさまざまに違う母親同士が、子どもが同じ年頃である、という共通項一つでさも親しいかのような友人関係を築いていく。馴れ合っている間の空気は、春のうららかなひざしのように心地よい。だからこそ、それがどす黒く変色していく様は恐ろしい。
きっかけは、ほんのわずかなすれ違い。一つの歯車がずれただけ。
小さなひずみが少しずつ、少しずつ、闇をおびき寄せる。
これは現実ではなくフィクションなのだから、と祈るように思いながら、怖さを払拭することができないのは、きっと真実が秘められているから。ママともだちの心地よさと気疲れを知っている者なら、この闇の深さが身体の芯で実感できてしまうのではないでしょうか。
息苦しくて、狂っていく自分を救えるものは誰もいない。
堕ちるところまで堕ちたとき、真に守るべきものが何であるか、自分自身と向き合って見出していく以外には、救いなんて訪れないのだろう。
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