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先月(2017年8月)

yuminさんのレビュー一覧

投稿者:yumin

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紙の本動物園革命

2010/12/22 22:49

歴史の実りとはじまり

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本日、店頭に並んだ新刊。早速買い求めて読んでみた。
著者は大阪芸大教授で動物園デザイナー。大阪市天王寺動物園のアフリカサバンナ・アジアの熱帯雨林、ズーラシア(よこはま動物園)のチンパンジーの森、長野市茶臼山動物園のレッサーパンダの森などを手掛けている。
著者の目指すものは、ひとことで言えば「生息環境展示」。「同じ生息地にすんでいる、さまざまな動物たちが、同じ場面にいっしょに展示されており、動物の生活のありさまが、そのままわかる」ような展示を意味する。動物たちが本来に近い環境で暮らし、わたしたち来園者がそんな野生の地に足を踏み入れたように感じられる場、それが「生息環境展示」の目標だ。そのための生きた植栽の重視や、来園者に臨場感を持たせるための園路・目線の誘導の工夫といった実際は、本書の記述に触れ、何よりも各園館での実例を訪ねていただきたいが、本書の前半は、著者の少年時代からの遍歴を綴り、アメリカを中心とした最先端の動物園改革のリアルタイムでの見聞を記して「生息環境展示」に至る系譜を明らかにしている。
さらに、日本とアメリカの動物園史に関する独自の探究もコンパクトにまとめられており、こうして読者は「生息環境展示」が著者個人にとっても、古今の動物園の転変を踏まえても、ひとつの豊かな「歴史的実り」であることを実感するだろう。この歴史篇の数章だけでも、今後の動物園史研究に多くの重要な論点を提供しているのは紛れもない(特に、前近代の動物見世物等を、単に過去の遺物としてでなく、その後の動物園の実際と連結する議論は刺激的だ)。
 しかし、著者は単にアメリカ中心の最新の動物園システムの、日本への導入者にとどまるわけではない。著者の学問のベースは造園学である。ここから日本庭園の伝統もまた参照される。天然自然の風景美を凝縮・再現し、歩く者を包み込む日本の回遊式庭園の技法が、著者の動物園デザインの中に意識的に活かされている (勿論、著者はイギリスの風景式庭園等への的確な目配りも行なっている)。
 そして、これらすべてが「生息環境展示」を巡る、著者独自のスタンスを形成している。後半の実践記録と実例紹介が示しているのは、そういうことである。
 「歩く」ということに関して、著者はどの展示構想においても、許される限りで野生現地を踏査している。実際にそこを歩くことで「生息環境」の精粋を吸収し、展示の中に再現するのである。
 さらに、人々の連携にも注目しておきたい。著者が主導した数々の実践記録において、著者は、園長から飼育スタッフまでの動物園や地方自治体の人々、さらには著者とともに設計・施工などを行なってきた各社の人々、そして学生たちの姿までを描くことを忘れていない。それら多くの人々の知見・発想・感性の複合が、毎回新鮮な展示を実現している(それぞれの園館自身が変革を目指して著者を現場に招き、計画の推進の中でも、多くの討論が積み重ねられたことが記されている)。
 著者はこう述べている。
「……求められるのは、世界に一つしかない作品を造るという姿勢である。動物園展示をつくることはシステムではなく、文化として解くことを意味する。システムは収斂し、文化は拡散する」
 本書は『動物園革命』と題されているが、そのこころはおそらく果てしなく多様に展開・持続する文化的運動を促すことであろう。東西の人々の長い歴史と著者自身の研鑽に支えられた、いくつかの果実の呈示は、さらなる新しい文化的拡散を啓発してやまないだろう。その意味で、本書は「新たな歴史のはじまり」にほかならないのだ。何よりも著者自身がそういう拡散の現場に立ち続けようとしている。

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