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南北さんのレビュー一覧

投稿者:南北

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本戦争と平和 1

2011/09/25 11:25

引っかかる翻訳が多いのが気になります。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 登場人物の多さとスケールの雄大さに圧倒されてしまいそうになる作品ですが、ベズーホフ家(ピエール)、ボルコンスキー家(アンドレイやマリア)、ロストフ家(ニコライやナターシャなど)、クラーギン家(イッポリトやアナトール、エレンなど)を中心に系図を作りながら読んでいけば、読みやすくなると思います。

 これまでも同じ岩波文庫の旧訳となった米川正夫氏をはじめとして、多くの方の翻訳で知られていますので、比較しながら読むのもおもしろいと思います。今回の岩波文庫の新訳は、当時の地図だけでなく、「ロシア人とフランス語」や「軍の組織と部隊の種類」などのコラムが各巻に入っているので、この小説がなぜ冒頭からフランス語で始まっているのかなど、小説を読む上で背景がよくわかります。古典文学などは特にこのようなコラムを入れてもらうと親しみが増しますので、今後、岩波書店だけではなく、各出版社ともこうした工夫を行っていただきたいと思います。

 この第1巻と第2巻の前半に収録されている第1部は、アウステルリッツ戦でのフランス軍とロシア-オーストリア連合軍の戦闘までを描いていますが、フランス語しかできない(またはロシア語は片言か話すだけで書けない)ロシア帝国の上流階級とロシア語しかわからない下層階級が、フランスと戦争するために団結して戦うことができるのかを考えながら、読んでいくとわかりやすくなります。いわばフランス語という敵国語を使いながら、ロシア的なものに目覚めていくことができるのか、そもそもロシア的なものは上流階級に残っているのかが、底流となっています。

 今回の新訳ですが、上記のような地図やコラムなどの他にはない工夫があるものの翻訳自体にはいくつか問題があります。もともと岩波文庫の翻訳はわかりにくいものが多く、山本夏彦の「私の岩波物語」にも「最も私が言いたいのは『国語の破壊者としての岩波』である。(中略)それは日本語とは似ても似つかぬ岩波用語で、それで教育された人があるから分かる人が生じるに至った怪しい言葉である。」とあるように読んでいる途中で何度も首をかしげるような翻訳に出会いました。

 1.今回の新訳も含めて未だに修正されていない誤訳がある。
  リーザ(ボルコンスキー公爵夫人)のかわいらしさを表現するために「上唇」を使っているのですが、「ほんの少し黒みがかったうぶ毛のはえている上唇」(31ページ)とあり、「上唇」に「うぶ毛」が生えていることになっています。原文のロシア語では「верхняя губка」となっていますが、ロシア語の「верхняя губка」は日本語の「上唇」と同じではありません。日本語で言うと「上唇」と「鼻の下」にあたる部分全体を指しています。「鼻の下」であれば、汗をかいたり、ひげが生えたり(女性でもうぶ毛ぐらいは生えたり)しますが、日本語の「上唇」にはひげが生えることはありません。この点は確認した限り、すべての訳者で間違えています。リーザのこの描写はこの後も何回も触れる点ですので、そのたびに違和感を感じます。

 2.特に会話で変な受け答えがある。
  アンドレイ公爵が妻のリーザをたしなめる箇所で「リーザ、お願いだからやめてください」(77ページ)は変です。アンドレイ公爵の家庭は「かかあ天下」ではありません。北御門二郎訳の「リーザ、よさないか」が妥当でしょう。

  また、アンドレイ公爵が父のニコライ・ボルコンスキー公爵に「『そんなことは僕に向かって言えないはずですよ、おとうさん』微笑して、息子は言った。」(286ページ)では、まるで父親にけんかを売っているか、反抗期の中学生のようです。しかも「微笑して」となると、前後が全くつながらなくなります。。北御門二郎訳では、「おっしゃるまでもないことです」となっています。

  「負傷した将校はどこに行った?」という問いに対して「おろしました、いかれちゃったんで」(490ページ)では、まるで将校がモノ扱いです。ここは北御門二郎訳の「亡くなられましたので」でしょう。

 3.その他
  「食事をして真っ赤になった二十二歳の非の打ちどころのない将軍」(495ページ)ですが、ロシア帝国でも22歳で将軍になれたとは思えません。北御門二郎訳では「食事のために顔を真っ赤にした、二十二年間手落ちなく勤めた将軍」となっています。
  日本でも昭和天皇の弟君であった秩父宮は37歳で大佐、その後、42歳で少将となられています。また、高松宮は終戦時に40歳で大佐でしたので、将軍にはなっていません。このことから考えても「22歳で将軍」というのはあり得ないのではないかと思います。

  「ラン指揮のフランス軍」(468ページ)とありますが、ジャン・ランヌ元帥のことですので、「ラン」ではなく、「ランヌ」とすべきところです(ロシア語では「ラン」なのかもしれませんが、フランス人ですので、フランス語に近い表記にすべきだと思います)。第2巻の11ページの地図にも「ランヌ」となっていて、地図と本文が一致していません。


 今回初めて翻訳した本であれば別ですが、過去に多くの方が翻訳されているのですから、それらの訳と照合したり、参考にしたりすることは必須です。上記以外にも疑問な箇所がありますが、増刷か改版するときに改めていただきたいと思います。個人的には、上記のコラムや地図を参考にしながら、北御門二郎訳を読むことをお勧めします。

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