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アヴォカドさんのレビュー一覧

投稿者:アヴォカド

70 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本さよならのあとで

2012/01/30 22:00

心の奥深くひそかに、大事に持っていたい本。

19人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人は必ず死ぬ。死なない人はいない。
順番も時期も死に方も、選ぶことは出来ない。
自分が先か自分の近しい人が先かそれもわからないけれど、誰の死にも会わずに一生を終えることは、まずない。

誰を失った悲しみも、慣れることはない。悲しみの形はいろいろで、麻痺することはない。
いつだって悲しい。けれど避けることは出来ない。

でもそれは自分だけじゃない。今も昔も、王様も貧者も、世界中の誰も、逃れることは出来ない。
生まれた時から死へ向かっている。
生きることは死ぬことと常にセットで、だからこそ貴重でうつくしい。

まだ来ないその日を予測して怯えていても仕方がない。
でも、誰かを失う、その日は必ずやってくる。

その時、心の、いつもは意識しない引き出しの奥深くに、そうだ、この詩がこの言葉がこの本があったんだ…と思い出したら、泣いたあとにきっと顔をあげられる。

自分が生きている限り、どんな悲しみも、その悲しみと共に、また歩いていくしかないと、思うだろう。
うつくしくひそかに、光り続ける一編の詩を胸に。

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紙の本図説英国メイドの日常

2011/12/09 10:15

図版も多く説明も具体的で、想像が広がる。英国メイドのリアルな日常。

11人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

イギリスの小説やお話やコミックの中でしか知らない「メイド」。
その姿はなんとなくイメージするけれど、実際はどうだったのだろう。

メイドにならざるを得ない境遇、その準備に始まって、1日のタイムスケジュールや、仕事の分担、服装、お給料、生活、恋愛や結婚などが具体的に記されている。
資料を集めるのも読み込むのも大変だったろうと思うけれど、そこに現れる彼女たちのなんとリアルなこと。
図版が多く、そのキャプションも細部に渡っているので、読んでいると想像が広がる。

「モスリン」って「タフタ」って、そういうものだったのか。
雇用主階級と使用人との身分違いの恋も、時にはあったのだと知って、少しときめく。
また、故郷の貧しい暮らしでは触れることの出来なかった裕福な暮しや文化に触れたり、つらい労働の合間に隙を見つけ出してたまには語らったり夜遊びをしたり、楽しみもあったのだ、と知ると少しほっとする。

とはいえ、後に役所で働くようになった女性が、かつて自分が働いていたのと同じような建物で働き、もうメイドではないので正面玄関や応接間を出入りして地下の書類庫に行く時、「かつて、この暗い地下牢で、(略)私や私に似た誰かが、文字どおり汗水流して働いたのだ。『おのれの身の程』を受け入れながらー」「そう、幽霊はここにいたー私はそのひとりだったのだ」と感じるのを読むと、きらびやかな生活に紛れてはいてもやはり「幽霊」には違いなかったことは、しっかり受け止めておかなくては、と思う。

現代ニッポンのメイドカフェのメイドと、ここに登場するメイドとの間には、どうやら大きな溝があるようだ。

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涙流れるまま。しかし、それでも。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

誰も経験したことのない、過酷な、あまりにも過酷な現実。
つい今の今まで、普通の暮しを営み、普通の明日が来ることを何一つ疑っていなかった人々を襲った災害。

ページをめくると、早くも冒頭からこみ上げてくるものがあって、涙も鼻水も止めることが出来ない。鼻をすすり涙流れるままに読む。

新聞記者として、地元紙として、何が出来るのかを問い続け、現実に向い続けた、河北新報の記録である。

「われわれはみな被災者だ。今は誰かを責めることは絶対にするな」と戒める報道部長。自分たちも被災しながら、時には無力感と自責に駆られながら、伝え続ける。
生活も、慣れ親しんだ土地も、電気も通信手段も奪われ、自分も九死に一生を得ながら、それを押さえ、昔のように紙にペンで気仙沼総局長が綴る記事からは、苦渋がしたたってくる。
建物の屋上で助けを求める人々に「ごめんなさいね(略)僕たちは撮ることしかできない。助けてあげられないんだ」と呟きながら空中のヘリコプターから写真を撮るカメラマンからにじみ出てくるのは、こらえ難いほどの悔しさだ。

中程からは、冷静に読む。
感情的な部分を極力押さえ、記録として淡々と綴っていこうとしている姿勢がわかってくるので。

「死者『万単位に』」の見出しをどうしても打つことが出来ず「犠牲『万単位に』」とした時、そして、津波が人々の命を奪った瞬間を捉えたスクープ写真を被災地の人々が目にすることを苦慮しボツにした時、河北新報は、被災者に寄り添い、被災者と共にあることを選んだのだ。

1年がたとうとしているが、復興への道程はまだまだ続く。時間の経過とともに、状況も人々の要求することも思うことも変化していく。
新聞の、河北新報の、役果たす役割は、変化しながら続いていくだろう。

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紙の本神様2011

2011/11/23 07:09

くまも神様も変わらないのにね。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

怒っているのだな、ということがわかる。川上弘美は、怒って、怒りながらこれを書いたのだな。
だって、くまと散歩して魚をとったりお昼寝したりする、一読してのんびりとも牧歌的とも感じる「神様」を、いくつもある自作の中からわざわざ選んで、そこに、「あのこと」の後の世界を上書きしてしまったのだから。

読み比べてみればわかる。そこここに彼女が差し込んだ、「防護服」「除染」「被爆許容量」などの、くまと散歩して魚をとる昼寝をする世界とは、明らかに異質な単語。
3世帯しか残っていないマンション、子どものいない水辺。
「神様」には出てくるのに「神様2011」には出てこないものと、「神様」にはなかったのに「神様2011」には当然の顔で居座るもの。

その異質なものが、いつか日常になってしまうことを恐れる。
今だって、まだ家に帰れない人々、故郷をうちやったままで断腸の人々がいるのに、そこ以外では、停電もとりあえずなくなって日常を取り戻したつもりになっている。原発も放射線も、何も解決などされていないのに。
その日常に、かつてはSFの中のものだったガイガーカウンターや除染が、言葉としても実質としても、忍び込んでいる。そして忍び込んでいることに慣れてしまうことが怖い。

人智を超えているからこそ、触れてはいけないものがあったはずだ。今だってあるはずだ。
ウランは自然界にあって、ウランの神様はいた、ずっといた。触れずにいる間は牧歌でいられたけれど、でも触れてしまった。触れてしまった後の世界になってしまった。
知りませんでした、で済ませるには、あまりにも大きな破壊、あまりにも長いこの後の何千何万何億年だ。

それでも、「大いなるよろこび」を信じて最善を尽くしてゆくしか、手だてはない。
と、くまの、思ったよりも冷たい体温を想像しながら、やっぱり思う。

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紙の本忘れられた花園 上

2011/12/10 20:38

オトナになった少女たちのミステリアス少女小説。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「秘密の花園」であり「トムは真夜中の庭で」であり「オリヴァー・ツイスト」でもあり「レベッカ」でもある。

1913年、オーストラリアの港に1人取り残されていた少女、から、お話は始まる。
小さな白皮のトランク。トランクの中には身の回りの品と本が1冊。充分に魅力的な幕開けである。
謎、秘密の匂い、ゴシック。

3つの時代といくつかの場所を、コラージュのように貼り合わせた複雑な構成で、4つの世代を解きほどいていく。
それを「あ、これ確かさっき…」と記憶がつないでいく仕掛けが、うまい。何度も螺旋のように巡りながら、次第に秘密の核心へと近づいていく。

大きなストーリーの展開もさることながら、細かい心の糸の震え(見つからない歯ブラシのくだりなど)などの小技も効いていて、サスペンスフル。
キャラクターは男性はいささか弱い気がするけれど、女性は誰もよく描けているのではないか。
一見不必要かとも思える設定も、後になってみると必要だったと思われるし、小道具も作中作も魅力的。

正統ゴシックの香り漂う、オトナになった少女たちのミステリアス少女小説。

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紙の本短くて恐ろしいフィルの時代

2011/12/30 23:21

変てこだけど、目が離せない。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

フィル。フィルは恐ろしい。どんどんエスカレートしてゆく。

国民が一度に一人しか入れないので、残りの六人(!)はその外で自分の国に住む順番を待っていなければならないほど小さい〈内ホーナー国〉と、それを取り囲む〈外ホーナー国〉、という設定だけで既になにやら可笑しいのに、どうも人物たちも人間の形ではないようなのだ。

そこに現れたフィル。
恐ろしいけれど、目が離せないのは、ある集団には必ずいる人、どんな人の中にもその片鱗がきっとあるに違いない人、だからかもしれない。

こんな、奇妙でユーモラスな物語、訳すのはさぞかし大変だろうな、と思うけれど、喜々として訳してやっしゃるようにも思われる。
岸本さんの書かれるエッセイと通ずるものがあるようだ。(私はふと「枕の中の行軍」を思い出した。)

でも、教訓として読んだらつまらない。
ただ、奇妙で、ちょっとシニカルで、くすくす笑ってしまう物語として、楽しんで読めばそれでいいんじゃないかな。

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紙の本忘れられる過去

2012/03/13 13:44

そうだった、時間って、こういうふうに流れるものだった。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本についてや生活についての文章が多いけれど、しかし読んでいると、何よりも時間について思いを致すことになるような気がする。

解説で川上弘美さんも書いていたらしたが、例えば「芥川龍之介の外出」。芥川の年譜をもとに、人の家を訪ねた芥川が、その家の主にどれくらいの率で会えたかを、荒川さんは丁寧に調べる。
そうだよなあ、芥川の時代にはメールももちろん電話だって一般家庭にはないのだから、人に何か用があれば会いに行くわけだよなあということに今さらのように気付く。相手がいるかいないかは行ってみないとわからないのに、それでも行って、いなければいないで待たせてもらったり、一旦帰ってあらためたり。
人と話す、人に伝える、というのは、そういう情熱の必要な、濃密なものだったのだ。

メールや電話で繋がっている現在は、いつでも連絡がとれて便利なような、いつも繋がっているような錯覚を起こすけれど、連絡がとれる分、会わずに済んでしまう。
人と話すこと、伝えることに、芥川ほどの情熱は要らなくなった。

荒川さんの文章は全体に先を急がず、要点やあらすじにのみ重きを置いていない、と感じる。時間がゆったりとそしてしっかりと流れ、だから、時間ってこういうふうに流れるものだったよなあ、と考えてしまうのかもしれない。

「メール」という短い文章もよかった。
初めて、メールをやってみようという気になって、設定に取り組む。「さっぱり意味がわからない」「ちがう星のコトバかと思われた」「途中で何度も死にそうになった」とさんざん悪戦苦闘して、メールが出来るようになった時のこと。簡潔にして、苦労と喜びが伝わる。

気になるというより、いいなと思うことがいろいろあって、付箋をペタペタとたくさん貼った。よかった。


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いつか、原発が昔話になるといい。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「昔、原発というものがあった」と言えるようになりたい。本当に。
いつかなれるんだろうか?ならなければいけないんじゃなかろうか?
この文章を読んでいると、そうそう荒唐無稽とは思えないのだけれど。

「自然にはいかなる意思もない」、自然は意図して人間に天災を与えているわけではない。しかし人間は逃れることが出来ない。

東日本の大震災のあと、多くの作家はたぶん、言葉がなんの役に立つのか、作家に何が出来るのか、と自問自答したことだろう。無力だと思ったことだろう。
誰にとっても、自分の無力さが身にしみた。

そして、徐々に作家は言葉を持って立ち向かう。言葉に出来ないような悲惨を悔恨を、それでも言葉にして、忘れないように自身の心と人の心に刻む。
前を向く。
「なんで俺がこんな目にと愚痴を言わない気仙沼人」のような「強靭な心」で。

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紙の本第2図書係補佐

2011/12/04 18:56

本に取り憑かれた男がここにも1人。ピース又吉さんの、「本」愛エッセイ。

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いきなり尾崎放哉である。
そのほかにも織田作之助に古井由吉に…と、今時の人は読まないんじゃないの?というメンツが並ぶ。エラソーな物言いに聞こえたら恐縮なのだけれど、選んだ本がなかなか「渋い」んである。
そのあと徐々に町田康や絲山秋子、そしてどうやら最も共感を感じているらしい?中村文則ら、比較的最近のメンツが加わっていくが、それとてどちらかというと「渋い」ほうのメンツなんである。

「僕の役割は本の解説や批評ではありません。僕にそんな能力はありません」という謙虚な姿勢に大変好感が持てる。
「だから、僕は自分の生活の傍らに常に本という存在があることを書こうと思いました。」と言う言葉通り、生活や思ったことを綿々と連ねたあと最後のほうでポツンと本に言及したりして、え、これだけ?とも思うが、それがよく出来ているんである。

この人はいつも本とともにあったのだなあ、本とともに生き、本に助けられてきたのだなあ、ということがよくわかる。とてもとてもわかる。

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紙の本みんなの図書室 1

2011/11/25 17:54

何度でも何度でも

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

読んでいるうちに、どんどん語り合いたくなってしまう!
何度でも読み直したくなる、あの本この本。

「心と響き合う読書案内」に続いて、本を紹介するラジオ番組の2008年7月〜2009年6月のぶんをまとめたもの。作品も有名どころだし、リスナーを想定したものだけあって語り口もソフトでわかりやすい。
まだ読んでいないものはきっと読みたくなるだろうし、読んだものもきっと読み返したくなる、ということで、紹介番組として充分にその目的を果たしている。耳を澄ませて、物語についてこんなふうに語られるのを聞くとは、なんといい時間か、と思う。

読んでいて辛くて辛くて二度と読みたくないと思った「火垂の墓」や、過酷さに憤懣やるかたなかった「蟹工船」なども、彼女の読みにかかると、なるほど辛い部分だけじゃなくてその底にあるものも読み取らないとね、と思う。

また、「家庭の医学」「ささやかだけれど、役に立つこと」など自分の好きな作家の好きな作品で同じような感じ方をされていると、そうそう!と心強い同士を得たような、古い知己を得たような気持ちになる。

そして、いつも作家としての視点、「文学」という視点で読んでおられるのだなあ、ということも、何にも増して心強く感じる。

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紙の本極北

2012/04/26 09:01

シンプルで、力強い。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この作品の紹介を書くことは大変に難しい。
(まあ何の作品でもそうであるが)とりわけ、何の先入観もなしに、何の推測もなしに読むのが最もいいと思われる作品だから。
性別も時代もジャンルの思い込みも。何一つ持たないまままっさらで読むのが、最も、作者の描きたい世界に導かれる、と思う。

シンプルなタイトルからは、先の想像がつかない。
展開は意外と言っていいと思う。今まで読んだ中で、似た感じのものはちょっと思いつかない。

ロードノベル、と言うことは出来ると思う。
主人公は移動し、移動する中でいろいろなことが起こる。

種を蒔いて育つ、それを収穫して食べる。
獲物を自分でしとめて、それを自分で捌いて食べる。
妊娠して産んで、子どもを育てる。
そういう生き物としての人類の、シンプルさを思い出す。

そういえば、今ほど文明やテクノロジーが発達し、そのことになんの疑問も抱かずに多くの人々が享受している時代は、これまでの人類の歴史の中でもごく短く、ここ何十年だけのことでしかない、ということを思い出させられる。
電気も電話もインターネットもなかった時期のほうが、それがある時期より遥かに長かったはずなのに、人類はさっさと適応し、いとも簡単にそのことを忘れる。

悲惨とか苦労とか、そういうマイナスの言葉がどこかへすっ飛んでいく。ただ目の前の食糧、目の前の寒さ、目の前の危機。

主人公の自己憐憫のなさが眩しく、そして力強い。

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紙の本木挽町月光夜咄

2012/02/27 19:02

帽子をとって、や、奇遇ですな、と。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

流行りの言葉を使っていないというだけで、安心出来る。
だからと言って、古くさいわけでもない。とても丁寧に言葉を操るので、時間がゆったりと流れていく。

著者初のエッセイ集。
流れる時間の速さは、小説の時と同じように感じる。

自分の好きな小説のタイトルが登場すると(「体の贈物」「オン・ザ・ロード」「原稿零枚日記」など)、や、奇遇ですな、と帽子をとって挨拶したくなる。
音楽(ロック)の話も、食事の話も。

過去、現在、未来が入り組む。
江戸も今もちょっと先も、みな等しい距離にあるような。

確かに音吉さんは、そこにいて、「ぴしゃりとばかりに店の戸を」閉めた、と思うよ。

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紙の本シェリ

2012/02/19 11:25

あくまで崩れのない硬質な文体で描く、40代女性と20代男性の恋愛。

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

40代女性と20代男性という、恋愛としては稀少な組み合わせのこのお話、もっと稀少なのは、夢中になるのが年上の女性のほうではなく年下男性のほう、というところ。

恋愛がより燃えあがるためにはいくつかの障壁が必要だが、昔の定番であった「家柄」「貧富の差」「戦争」などに始まり、「不治の病」「三角関係」「国際」「年の差」「不倫」「遠距離」「バツイチ」「子連れ」「同性愛」などを経て、今ではその障壁も出尽くした感。障壁らしい障壁はもう残っていない。

年の差恋愛も、男性が年上、女性が年下であれば、親子級であっても最早大きな障壁とは言えない。
「持てる者」が「持たざる者」に分け与える、「持たざる者」が「持てる者」を求め、焦がれる、という恋愛の王道を踏み外していないからである。

逆に女性が年上、男性が年下であっても、多少ならば障壁にならないけれど、女性が年上で大差(親子級)の場合のみ、「持てる者」「持たざる者」のバランスが崩れるので、まだいくらか障壁として有効なようである。

「シェリ」では、誰もが振り向く美青年シェリのほうが、40代のレアに夢中になっていく。
財産も教養も知恵も「持てる者」しかし若さを「持たざる者」レアが、
財産も教養も知恵も「持たざる者」しかし若さ(と美貌を)「持てる者」シェリを引きつける、
という構図でひねりが入り、うまくバランスを崩して不均衡を生む。心が揺れ動く。

硬質な文体と、シェリに、”悔しいのは、彼女の年齢じゃない、(彼女に比べて若すぎる)自分の年齢なんだ”と言わしめることで、他の恋愛小説と明らかに一線を画すのである。

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紙の本遠い町から来た話

2012/01/16 09:35

「アライバル」とは変わって、こぼれ出る言葉で綴られるお話の数々。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

こんなに言葉を持っている人だとは、思わなかった。

文字の言葉が一つもない「アライバル」で知った作家さんなので、寡黙な、文字でなく絵で語るタイプの作家さんなのかと思っていた。
言葉が、とてもとても豊富。こぼれるように紡ぎだされるお話の数々。

「あなたは考えたことがあるだろうか?/誰かが書いた詩の/その後について」で始まる「遠くに降る雨」は、いろんな人の手書き文字と絵で綴られる。散文詩のよう。
手書きの文字ってやっぱり味があるなあ。でもこれを全部でやっちゃうと効果が減ってしまうから、こうしてここぞで使うと効果あるなあ。(よくわかってるなあ)

昔の話は子どもにはホラ話のように聞こえるほど遠い話だけれど、でも本当なんだよ、「お祖父さんの話」は。

「エリック」は、とびきり可愛い別離話。

家の中の穴に中庭がある、という設定がたまらない「他にはない国」。

あ、そうだよね、そうだよね、これってやっぱりそうなるよね、町の果てってそうなってると思ってたよ、と何やらプリミティヴな感覚を思い起こさせられる「ぼくらの探検旅行」。

と、好きな話がたくさんある。
何度も穴を覗き込んでしまうように、何度でもめくって見てしまう。

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紙の本犯罪

2011/12/14 14:37

複雑で、少し奇妙で、憎めない。人って、やっぱり不思議なものだなあ。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いや、それが、なんとも不思議なことに、苦くないんである。
もちろん犯罪は犯罪である、犯罪はいけない。けれど、そこに見え隠れする、どうにもならない不条理と人間臭さ。
伝わってくるのは、人の心の不思議さ、のようなもの。憎めない。

孤独な姉と弟の、最後が切ない「チェロ」。

兄たちから馬鹿にされながらこっそり勉強し知恵をつけてきた弟が、兄を救うため法廷中を騙そうと頭を働かせるたくましさ。「ハリネズミ」。

不幸な過去の2人がつかむ「幸運」。

よく出来たスパイ小説のような後味を残す、「正当防衛」。

「棘」が気になってならない男。

幸せになってほしいと願わずにいられなくなる「エチオピアの男」。

犯罪はいけない。罪は罪である、償わなければならない。
しかし「罪を憎んで人を憎まず」とはよく言ったものである。その犯罪は確かにいけないけれど、それを犯した人間がいつも100%わるい人間なわけではない。
そこここに漂うどうにもならない不条理と、それを越える人間臭さ。
それを綴るのに、この調度よい距離を保っていられるのは、さすがに弁護士としての職業柄というものかもしれない。

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