亜綺羅さんのレビュー一覧
投稿者:亜綺羅
2021/11/06 23:10
本音とタテマエ
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ノンケの主人公男性の元を訪れたのは、死んだ双子の弟の夫だった――
義弟とも言えるカナダ人男性を前に、どう接してよいかわからない主人公。
その描写は本音とタテマエのコマが交互に繰り出される。
「やめろ気持ち悪い!」
「男同士の結婚なんてありえない!変だ!」
いまでこそ多様性が叫ばれ、LGBTQ(マイノリティを一括りにすること自体、無理があるのだが…)の認知度があるとはいえ、主人公のように割り切れない考えの人は実のところ多いのだろう……
興味深いのは、主人公と弟の両親が死んだ時、葬式の夢(回想)のシーン。
泣きじゃくる弟と毅然として涙も流さない主人公。
本音で泣く弟に対して、建前として“兄”や“喪主”である“責任(世間体)“に重きを置いていたことを感じさせる。
実際、弟のパートナーが夫であることに対して、どちらかが“女の役”であると無意識的に認識していた事を自覚し、そうではないことを理解する。
2021/12/31 22:41
三頭の犬と書いてケルベロス!
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この造漢字にも感動を覚える、3人の少女たちの戦いに刮目!
冲方丁氏同名小説コミカライズ版。
遠未来設定ながら、原発事故に汚染され流浪の民となってしまった日本人、移民問題に苦しむヨーロッパ、高齢化社会に悩む世界……
2020年代の今となっては、リアリティを伴う設定。
テロの脅威とその戦い、内包している戦争の不安といったディープなテーマとそれを風刺するかわいい少女達の壮絶な世界観。
魅力的なキャラ達とサスペンスな設定が読むものを惹きつける。
2021/08/25 07:48
中世初期、北欧の戦争
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動乱と小競り合いが日常茶飯事であろう中世の、都市部とは離れた北欧の勢力――ヴァイキングと呼ばれた戦闘民族の物語。
まだ人間の生産性が自然に委ねられ、食料・物資が枯渇すれば他地域から略奪――戦争――する世界。
主人公・トルフィンは外の世界・理想郷であるヴィンランドに憧れを抱き、傭兵として旅をしている。父の敵の傍で……
中世の雰囲気が伝わってくる……戦争と略奪、古郷での父との過去など、ロマンを感じる。
2021/03/24 07:04
弐瓶先生らしい閉塞した建物乱立の世界
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『BLAME!』の増殖した肉と建物乱立世界は洗練され、日本の原風景、どこか懐かしい下町風景も取り込んだ、内に閉じた狭い世界になっていた。
主人公・谷風の戦闘風景から始まり、それがシミュレーションであること、断片的な情報から次第にここがシドニアという宇宙船内であること、寄居子(ガウナ)と呼ばれる生命体と戦闘をくり返していることが語られる。
シドニアの生活を知り始めた谷風は、資源収集中の谷風ははじめて実戦を経験する。
2021/03/15 15:48
人間存在を問う物語
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カラーイラストをカラーで見れることで新鮮。
思春期の少年・シンイチと、生命を理解しようと寄生する生き物・ミギーによる、人間存在を問う物語の幕開け。
受験勉強を「あれは一種の暗号だろ?」というミギーに感動を覚えた。
それで人生が左右されてしまう(多少、影響はあるが)ような強迫観念に囚われかけていた私にとって、“ものの見方を変えれば”という具体例だった。
2021/02/22 20:30
苦くて透明感のある青春
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性の目覚めを自負する、思春期特有の葛藤と百合と三角関係。
主人公・あかりの視点で描かれる日常の風景は、トゲがある。
相手を知りたいという渇望と独占欲。
他者の目を気にしたり、仲間意識と対立心……
家庭の事情と貧富の差を意識してしまったり……
しかし、ヒロイン・ユキのような透明感が作品全体に一貫して存在する。
ストレートにあかりに思いを寄せそれを口にする凛太郎。ユキと幼馴染でもあるという。
奇妙な三角関係ができあがりそうな予感。
2021/01/30 11:06
増殖・乱立する建築物情景
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弐瓶先生デビュー作。
説明が無く、淡々と主人公・キリイが閉塞した構造都市を旅している……
様々な人間の集落。それらはどこか困窮し、互いに断絶ている。
機械化した人間?――珪素生物という呼称が後に判明――と、ネット端末遺伝子を持つ存在を巡っての争い、セーフガードと呼ばれる存在も在ること……
ここは何処なのか、何を求め、どこへ行くのかわからない。
その断片的で、見えないところに大きな何かを予感させる緊張感が心地よい。
決して上手とは言えない絵だが、小さな人間を圧倒する建築物と肉の塊の世界に惹かれる。
【期間限定 無料】大砲とスタンプ Guns and Stamps(1)
2020/11/26 09:20
スチームパンクで描かれる大戦のバックヤード。
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第一次世界大戦の兵器・国家間背景で、戦線の部隊ではなく兵站を管理する後方支援部隊。それが珍しかった。
戦線を左右すると言っても過言ではない官僚たちの戦場はデスク・書類の上!事務処理!
責任の所在を明確に、不正や嘘を許さず、正確にこなす。
正に「ペンは剣よりも強し!」(違)
これがどう前線に影響するか、戦況や外交についてはくわしく描かれていない。
軍備の運搬、お金(戦費や兵隊のサラリーまで)の問題、軍需機密と報道の問題と駆け引きなどが仄めかされて、「戦争」が武器を持って正面対決だけではないことを改めて思う。
悲壮感がないかわいいイラストと、丸みのある70~80年代風のSFっぽい丸みのあるメカデザインがたまらない。
Golondrina 5 (IKKI COMIX)
2015/03/25 23:39
闘牛批判を考え、チカのアイデンティティーを考える。
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物語の殆どで、チカの目は死んだようになっている。
ヴィセンテの“事故”を受け、闘牛が思い通りにならないもの、死よりも怪我により目的を見失って生きる可能性があることに恐怖するチカ。
反闘牛活動家シンガー・ジョラとの関係は、マリアのそれと似て、まるで物語の始まる前に回帰、或いはそれよりも悪化した「死」に近い状態だった。
スペインにおける闘牛批判にも踏み込んだ巻。
それに対するチカ(えすとえむ氏)の闘牛観は彼女だからこそ言える、自分の存在を叫ぶものだった。
生と死の遊戯、牛を殺す事だけが目的ではない闘牛。
闘牛の本質に切り込み、肯定も否定も踏まえた上での達観に感嘆した。
メヘンディデザイン帖
2014/04/13 00:36
ヘナタトゥの図案集。
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ヒンディー語で「ヘナを使って肌を染めること」を意味するというメヘンディ。
美しさと吉祥と願いを込めたその意匠に思いを馳せる。どの図案も独特で惹き込まれた。
マタニティ・メヘンディは美しさと喜びに満ちた雰囲気に、自身も機会があればしてみたいと思った。
日本ではボディアートとして認知度が上がったと思うが、そのルーツ、本質にも目を向けるきっかけになった。
2021/07/26 07:23
粋と無粋
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与太郎が勢いだけで落語の世界に飛び込んでくる…その無粋さと対比を成すように、門戸をたたいた八雲師匠の粋。
師弟/子弟の関係、男と女、先輩と後輩、さらには先代からのライバル同士、その生死まで、あらゆる“対”によって物語が構成されている。
その対から生まれる葛藤がたたみかけるように物語を構成している。
個人的には怪談落語くらいしかしっかり聴いたことがなかった私にとって、寄席、その舞台裏の世界というのは新鮮で、ワクワクしながら読んだ。
2021/07/24 22:29
子供の(幸福な)世界と大人の世界
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児童特融の嫉妬とそれに端を発するいじめの予感、それに大人が絡むことで不安な展開を感じさせるが、遥の大人な対応で解決…
ある意味、子供らしい後腐れの無さと、その次の子供らしい相手を喜ばせたいと誕生日会をサプライズで行おうとするのが微笑ましくもある。
真宏がどうしても真一のライバルに成り切れないところ、トリックスター(道化的)な役割になってしまうもどかしさもまた、ご愛敬。
それに対を成すように大人な真一の暗い面を象徴するような“女性”の存在の気配が、次巻の波乱の予感…
2021/07/24 22:17
機能不全家族の予感…
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真一と遥の関係は、それぞれで異なる。遥は真一に恋をしているが、真一から遥は自身の生い立ちのトラウマからくる共感と同情だ。その違いをサトミは心配し、大垣は真一の創作の糧(刺激)にしようとする。
大人と子供、立場と人生経験の量の違い、双方の異なる考え方を浮き彫りにしている。
しかしその根底には、過去(真一)と現在(遥)で共通する機能不全家族が横たわっている。
それは真一、大垣、サトミの関係が、友人というよりどこか疑似家族の雰囲気があるところからもうかがえる。
彼らの関係が、相互に癒しをもたらすのか、という期待。そして遥の恋が実りそうで至らないもどかしさに胸がキュンとなる。
2021/01/28 06:57
マルキ・ド・サド短編小説『エルネスティナ』
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原作者がサド侯爵である時点でお察し。
私は現時点で原作未読。
しかし純粋な愛が世間体を隠れ蓑にした理不尽な暴力に蹂躙されるであろうことは創造にかたくない。
そう思って読んでしまうから、ヘルマンとエルネスティナを応援したい半分、対応の詰めの甘さに不安になる。
暴力的ポルノグラフィティー古典の、埃っぽい体臭をむせかえる薔薇の香水の匂いで隠したような雰囲気が、2巻から始まる予感で終わる。
2021/01/28 06:37
コンプレックスと自己表現
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ヘアメイクの美空は雑誌表紙担当に抜擢される程活躍しているように思えるが、その心の内にはモデルとして活躍する妹へのコンプレックスがある。
ヘアメイクも特殊メイクも、コンプレックスと“変身願望”、自己実現という表現であることを根底に持っていることを意識させる。
美空のコンプレックスは昇華されてゆくのか、アトリエの人間関係にも何か波乱があるのだろうけれど……
お仕事系・業界系としても今後の展開が気になる。
