une femmeさんのレビュー一覧
投稿者:une femme
貝に続く場所にて
2021/11/05 03:54
卓越し、凝縮された表現
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
卓越した表現力や、凝縮され、的確に表される文章に、目を見張りながら読み始めた。
過去と現在ー現在暮らすドイツと生まれ育った日本の東北ー、生者と死者の間を見つめながら、二重に引き裂かれる中を生きるかのような主人公の眼差しを通して、ノスタルジーに浸り切ることのできない記憶を描写しているのではないかと思った。
直情的な表現ではないが、気持ちが静かに揺さぶられ、心情が浮かび、淡い切なさを呼ぶ。
不可避な断絶に対して目を逸らすことなく見つめる現実感と、記憶から浮かび上がる像の幻想性のバランスが絶妙であり、上質で濃厚な描写となっている。著者の絵画についての見識も、堅固な下地になっているように思う。
こういう小説作品をずっと読みたかったと、上質な時間をいただいたように思った。
わたしたちのすべての昨日
2016/04/12 18:04
おススメしたくなる一冊
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
イタリアのある家族の物語。隣人や友人との交流や迫り来る戦争のなかで、一家族とその子供たちの成長が描かれている。読んでいると、端的な言葉を綴っているのに、情景や人物の人となりが、広がるように想像できる。イタリアの雰囲気も伝わるのはもちろんのこと、単に、本を読むことの面白ささえ、思い起こさせてくれる、そんな素朴さもある。
物語に流れる時を追うように、読み進むうちに、「これは小説なのか、作者の物語なのか」という疑問が、何度も浮かんだ。解説によると、自らの人生を投影した人物(主人公のアンナとその夫)なのは明らかだが、そのほかの設定は、作者が創ったという。解説には、本書の後に書かれた『ある家族の会話』についても書かれている。どちらの作品も、飾り気がないのに、品があり、(『ある家族の会話』は、ユーモアもあり)とても、素敵な作家だと思う。
月の三相
2023/01/19 16:16
重層的で知的な物語
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
言葉の選び方が知的で、美しく、イメージの描写がとても繊細。ゆっくり、味わいながら、読み進めたくなるような作品。
西洋絵画の知識があることで、小説をより楽しめる。
時間と空間を意識させ、不変と可変、形あるもの(身体、面)と形なきもの(想いや言葉)などが、ある秩序を保って織り込まれ、物語を成していく。一方で、時間の歪みと隙間が、見え隠れする。また、芸術作品(面)と現実の境界の歪みから零れ落ちるように現れる世界を辿ることになり、面と身体の在り方を考えさせる。
ひとつひとつの手触りを確かめるように、また、隠された意味を探るように、丁寧に読むことができる。
前作と同様に、現実と非現実の織り交ぜ方が巧みで、また、前作以上に、非現実を成立させる仕掛けや描写が精巧だと思わされた。素晴らしい作品。
アレクサンドリア四重奏 2 バルタザール
2019/07/18 05:57
第一部の裏側の物語
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
第 一部において描かれた時間を、主人公が別の視点から見直して、描いているのだが、第一部では、美しさやロマンスの雰囲気を醸し出していた物語の、いわば、裏側を垣間見るようである。
アレクサンドリアという都市が、ヨーロッパ化された、中途半端さを持ち、また、ジュスティーヌの策略のような罠を、主人公は、知ることになる。それでも尚、ジュスティーヌが、この土地が生み出した独特の女神のように描かれているのが、面白い。
また、最終部で、時間や記憶について、芸術作品と作家の現実的な生活についての言及が、登場人物らの意見や引用を用いて、主人公の探求として、曖昧に記されるところにも、巧みさがあると思う。
人生の、もっとも濃密な時間を、振り返り眺め描くことでらこのような幾重にも重なる物語となることに、興味深さと、力強さのような魅力を感じる。
最終的に、記憶とは、過去とは、芸術とは、芸術家の生とはというところに、辿り着くのだが、それらの問題に対する答えのなさが、この小説の面白く、素晴らしいところだと思った。
二都物語 下
2017/06/24 03:23
不朽の名作
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
フランス革命時という舞台で、その時代の様子と、個人的な苦悩や葛藤の物語が、どちらかに偏ることなく、巧く描かれ、飽くことなく読み進められる。その一時代の、個人と社会の問題に物語性を持たせて、面白く読むことのできる作品。
それぞれの個人の出自や家族のストーリーを軸にしながら、反面、客観的な視点で、世の不条理が、示される。ダイナミックな舞台設定と、個人的な情が、巧妙にバランス良く織り交ざることで、ごく自然に、しかし、映画のように、読むことができる。
読んでいる中で、何度も、ユーゴの『レ・ミゼラブル』を思い出した。しかし、舞台がロンドンとパリを行き来する二都であることと、革命によって弾劾される側に関しても、平等ともいえるまなざしを当て、人間味ある描き方している。
とにもかくにも、練りに練られた構成のもと、物語が絡まり合いながら、次第に繋がり収束していく様は、見事としか言いようがない。
(格調を損なわないが、理解しやすい翻訳が、物語の面白さを伝えてくれたことで、読書がすすんだように思う。また、解説が、興味深く、ディケンズの生い立ちなども書かれ、作品との関連性なども、解りやすかった。)
聖火
2017/05/15 05:42
時代を感じさせないテーマ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
無駄のないストーリーが、わずか三日の出来事を、一日に一幕を当てて、展開される。推理小説仕立てであることも手伝い、一気に読んでしまった。ただ、犯人を探して落着するのではなく、最後の場面は、感動を呼ぶ。
また、短い時間のなかに詰め込まれたテーマは、この時代の作品だとは思えない。今もって、ここに描かれているテーマを考えることは、まったく、時代錯誤ではないことに、驚く。
これまでに読んだモームの作品の中で、これほど、自由な、女性像や男女の関係が、描かれているのを読んだことがなく、その思想に、意外さと驚きと、興味と敬意を抱いた。
(解説にもあるが、戯曲として、舞台で演じるのを見るよりも、もしかしたら、文字を目で追う形で、読む方が、楽しめるのかもしれない。)
虹いくたび 改版
2016/05/13 05:21
美しい日本語
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
以前にも、一度読んだことがあったが、やはり、日本語の美しさと、その世界観の綺麗さには、溜息が出る。改めて読んでみると、他者との距離感が、現代とは異なるように感じた。
なかでも、女性のしぐさや振る舞いが現代とは異なり、一見すると、しおらしさだけが、目につくようだが、凛とした強さが見え隠れする。登場する女性、それぞれが、底にある強さやしなやかさ、したたかさ、プライド、そのようなものを、心に抱え、支えられ、突き動かされているようだ。その様子が、日本人らしく慎ましやかで、美しい。
このような美しい日本語と、日本人にしかないような<間>が、美しく存在した世界が、眩しいような、羨ましいような、切ないような、また、懐かしいような気持ちになる。
折につけて、何度も読み直したいと思った。
森のバルコニー
2023/11/20 16:23
詩的な世界
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〈自然〉のなかで行われる戦争(準備、待機、敗北)を描いた物語ともいえるだろうか。
戦禍の悲惨さや暗さ、虚しさよりも、人の営みや自然の移ろいに目を向け、途切れることなく流れる時間を描写しているように思う。決して非現実的ではなく、こういった側面から見た現実もあるだろう。
自然の無関心さと泰然さ、人の生の行き着くところを、丁寧に見つめることを通して、詩と共に、詩の美しさと共に在ることを知らされるように思った。
百年の散歩
2020/03/17 03:18
現代詩のような短編集
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言葉遊びが、ところどころに散りばめられた現代詩のようであり、しかし、エッセイのような、一つずつの物語になっていて、とても面白い。
不時着する流星たち
2019/06/30 06:16
はみ出した者らの物語
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片隅に居るようなひとや、片隅にあるような物語が、ひっそりとだが、強く存在していることを、想像させてくれるような短編集だと思った。
ささやかに生きることを、あるいは、片隅に目を向けることを肯定することで、世界は、肯定的な広がりや、やさしさ、面白みを持つのかもしれない。
詩の誕生
2019/06/15 04:11
詩を書く人から見た問題についての対談
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この対談は、詩を書く人や、物語を書こうとしている人には、共感するところが多分にあるだろうと思われる。
詩を書くということ、詩とは何か、日本と西洋の世界観の相違について、自身のなかで、あやふやなまま、もやもやとわだかまっていた問題が、お二人の言葉で、織り成されていくようで、面白かった。同人誌や結社の話題の辺りでは、日本の現代詩が、なぜか一人遊びになってしまうことの問題や、閉塞的にならずに、競いながら、個性を出して、プロの詩人たるべきという、的を得た指摘に、非常に納得し、励まされるように思った。
小さな美徳
2017/09/11 01:18
強さに包まれた哀しみと切なさ
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ギンズブルグの著作のなかで、最も彼女の人生や私生活、彼女の想いや気持ちがストレートに描かれていように思う。
友人でもあった作家パヴェーゼのことが描かれるなど、それぞれの章に青春、友愛、家族、郷愁、望郷などが、詰まっている素敵な本。
「アブルッツォの冬」の章の終りに書かれた言葉、「夢はけっしてかなわず、私たちはそれが砕けるのを見たとき不意に、自分たちの生活の最大の喜びは現実の外にあるのだと理解する。それらが砕けるのを見たとき、それらが自分のなかで燃えていたときへの郷愁に苛まれる。私たちの運命はこのような希望と郷愁の連続のうちに過ぎゆく。」を読んだとき、共感と感動で、胸がいっぱいになった。
解説でも指摘されていたが、どの章にも、どんなことが起ころうと、どんな気持ちになろうと、当然のように、前を向いているような強さが感じられた。その強さの中で、小さくなったかのような、哀しみや切なさに、胸がじんとなる。
また、その強さは、人生に対する愛から生じると気付かされ、あるいは、人生を愛する気持ち、そのものとも思われ、納得すると同時、はっと目を覚まさせられたかのように、勇気づけられた。
また、第二部では、著者の人生哲学や、書くことについての考えが、力強く記されていて、興味深かった。
折あるごとに、読み返したいと思った。
迷子たちの街
2016/10/30 06:18
理由の付けられない大切さ
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とりとめのない時間のなかで、日々、起こる出来事がある。それらを大切に思う過去として振り返ってみても、やはり、そのような過去の日々は、とりとめがなく、纏めることはできないだろう。そんな、時の流れからあふれてしまう、日々を、あふれる形のまま、描き取ったような物語。
そうして描かれる過去は、孤独であり、現在の時間の流れでは、主人公に大きな変化が起こらないために、とても静かだ。また、気取らない文体や表現が、軽やかな切なさをそっと呼び、静かに心に響いてくる。
ある時期の<過去>が、わけもなく大切で、一つの理屈や形で説明できない時間であることを思い出させてくれる小説だと思った。
トルストイ 戦争と平和(ダイジェストと抄訳)|五月のセヴァストーポリ|セルギー神父|ハジ・ムラート|舞踏会の後でほか
2016/03/09 04:45
作品を読むきっかけに
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
編者も言うように、この本を読み、トルストイと大作『戦争と平和』を読むきっかけになると思う。あまりにも偉大で、また長編ともあり、これまで手付かずだった私も、この本の、編者による物語の大胆とも言えるダイジェストを読むことで、是非、作品を、丁寧に呼んでみたい気持ちになった。
このダイジェストを読んだ印象は、当世の貴族の生活と、戦争により変化した生活が、人の生死という普遍的なテーマと相まって、三人称による冷静な物語運びと、登場人物らの細かな心理描写により語られ、戦争を題材にした小説の、まさに「お手本」のようだと思った。例えば、イレーヌ・ネミロフスキーなども影響を受けテ執筆したのだろうか...。
その他、トルストイの短編も、いくつか監修されており、面白い本だと思う。
女であること 改版
2014/10/06 04:19
古きよき時代…
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
まず、さすが文豪というのが第一印象。しかしながら、その他の有名な作品に比べ、世俗的な作品のように思われる。東京を舞台にして、一般的な家族や、そのなかで起こる、ささいな出来事を描いているからだろう。描かれる時代は異なっても、なんとなく、身近に感じられる。
一歩間違うと、昼メロになりそうな話だが、作品世界の美しさが、それを防いでいる。登場人物が、それぞれ、なかなかの個性を持って描かれていて、面白い。
少し長いため、途中で飽きがきたが、なかなか現代的な、川端作品を楽しめた。
