テラちゃんさんのレビュー一覧
投稿者:テラちゃん
紙の本コンビニ人間
2016/07/30 23:48
マニュアル
11人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
大学1年以来コンビニで18年間、アルバイトを続けている女性が主人公。コンビニにはマニュアルがあり、そこから逸脱することは出来ないのだが、マニュアル通りの生き方も、またある。それを歯車に例えるななら、さしずめチヤプリンの映画か。取り分けて台詞がユーモラスであり、「火花」など比ではない。優れた書き手が現れたと思う。
2015/10/05 06:04
又吉より良い
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
芥川賞は「火花」ばかりに注目が集まってしまったが、文章の上手さ、ち密さは、この人の方がはるかに優れている。「火花」がなければもっと…と思っていたら、段々、注目されてきた。楽しみな作家だと思っている。
紙の本父の詫び状 新装版
2015/11/18 21:43
天才
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
テレビドラマを手掛けながら、本も書く。今でこそ山田太一氏ら両刀使いは増えてきたが、向田さんは、その先駆けであり、しかも図抜けた存在である。とにかく、上手いとしか言いようがない。「父の詫び状」は、特にオチが素晴らしく、著書の第一作から凄いレベルだと感心させられる。肝心のオチを書くわけにいかぬのが、辛いところ。
紙の本むらさきのスカートの女
2019/07/22 13:38
視点
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
公園や商店街に現れる、むらさきのスカートの女。彼女の行動を<わたし>の視点で描く。駅前のシティホテルの清掃員に導き、先には思わぬ展開が。芥川賞受賞作というと、何故か独りよがりな小説が多く、本作も多少、その傾向はあるものの、他の作家にはない構成、視点は評価されてよかろう。
紙の本AX
2017/10/10 20:06
構成力
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
主人公の兜は、文房具メーカーの社員。が、裏の顔は殺し屋。「グラスホッパー」「マリアビートル」と同じ設定で、実際、その第3弾に当たるのだが、シリーズとしては初めて連作短編の形を取っている。しかし、書きおろしを含む5作が見事に繋がっており、巧みな構成力によりリンクしている。過去の2シリーズ以上の出来と評価してよかろう。
紙の本六人の噓つきな大学生
2022/04/13 23:12
就活と月
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急成長中のIT企業。最終選考に残った6人の学生たち。グループ・ミーティングで最初は、全員合格もあり、と聞かされていたにもかかわらず、一転、人事から採用は1人だけと通告される。そして騙し合いへと繋がるのだが、二転、三転の展開は新手のミステリーと言ってもよく、最後まで惹き付けられた。たかだか1時間やそこらの面接で、人の内面まで知ることは出来ない。月の裏側に喩えたあたりが興味深い。
紙の本テミスの剣
2017/07/13 23:12
エピローグ
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埼玉県浦和市で不動産業の夫婦が殺され、現金が奪われる。逮捕された青年は、鳴海刑事の強引な取り調べで自供。死刑判決を受ける。しかも獄中で自死。が、その後、冤罪と判明。鳴海とともに取り調べに当たった渡瀬は…どんでん返しの帝王と呼ばれる中山七里氏だけに、物語は四半世紀にわたって二転三転。息もつかっせぬとは、まさに本作と言っていい。死刑制度、ひいては司法、さらには警察の在り方まで考えさせられる佳作である。とんでもない取り調べは、昭和59年という時代設定を考慮すれば頷けるし、著者の狙いは前述の司法制度、つまり表題のテミスの剣なのだから、深く考える必要はないだろう。とりわけてエピローグが良い。大概は、本編の補充のように使われるエピローグだが、これは例外。
2016/10/08 02:42
新手法
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チェルノブイリの原発事故を、関係した人々の証言で綴る。新手法のノンフィクション。この手法が、旧ソ連の隠された真実に迫っていく。彼の国は機密だらけだが、日本の場合は、東電がまた隠ぺい体質で、チェルノブイリの教訓が東日本大震災に生かされなかったのが残念。権力の恐ろしさを感じさせられた。
紙の本本日は、お日柄もよく
2016/08/29 05:51
言葉
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政治家や企業の社長らが演説する際、その原稿を作る”スピーチライター”という影の仕事があるとか。目の付け所が一番。笑わせ、泣かせ、最後まで引っ張っていく。スピーチも小説も、言葉で仕事をする点では同じと考えさせられる。もちろん、書き言葉と話し言葉の違いはあるにしても。重厚な作品から、こうした軽い小説までこなす手腕は見事。
紙の本私にふさわしいホテル
2015/12/30 21:10
世渡り
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一見、B級。テレビドラマかと思いながら、しかし読み進むうち、実力のある書き手だと脱帽。様々な文学賞や作家が実名で登場し、とりわけ朝井リョウ氏とのやりとりは、多分、この二人は仲が良いのだろうと想像できて笑える。もう一つの読み方は、文壇遊泳術か。編集者らの裏側を描きつつ、これまた奥深さを感じさせる。
2015/11/22 09:40
二匹目もいた
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ロケットの次は人工心臓。佃製作所を舞台に直木賞を獲った池井戸氏が、第二作を書き下ろした。二匹目のどじょうほど難しいものはない筈だが、この人は軽いタッチながら見事に仕上げてしまう。プロの筆力である。もともと、大銀行に勤めながら銀行に批判的、また、中小企業に思いやりが深いのも、バンカーとして、その思い上がりをつぶさに見てきたからか。そうした視点が、ある意味の勧善懲悪として、池井戸作品を支えている。ラストの佃社長の台詞「仕事から夢がなくなってしまったら、ただの金儲け」。これが池井戸氏のポリシーか。
紙の本友は野末に 九つの短篇
2015/10/14 05:21
神様
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博打、とりわけ麻雀の神様とうたわれ、その一方で直木賞も獲るほどの作家。人脈の広さ。面倒見の良さ。生き様という言葉は好きでないが、この人には、しかと当てはまる。奥深さを十分に味わった。
紙の本色ざんげ
2019/07/26 16:55
事実は小説より……
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洋行帰りの画家、湯浅譲二は、奇妙な女、高尾と知り合い、更に彼女の友人、つゆ子と関係を深めていく。もとより譲二には妻子があり、また更に、絵のファンを名乗るとも子も現れて男女間の混迷を増していく。譲二が東郷青児であり、当然、相手は宇野千代自身となる訳だが、二人の関係をここまであからさまに書けるのは、本物の芸術家だからに違いない。事実は小説より奇なり、というけれども、凄いの一言。
紙の本蜜蜂と遠雷
2017/03/16 17:22
重厚・力作
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国際的なピアノコンクール。出場者のうち、神童というレベルを突き抜けた破天荒な少年、一度は音楽界を去りながら、戻ってきた少女、その幼馴染…この3人を中心に物語は展開。個性的なキャラクターが深く掘り下げられ、また、コンクールや、音楽することだけに固執し、一切の無駄を省いた文章は見事。クラシック音楽の世界、そして本のボリュームから、やや読むことに躊躇いがあったが、一部を除いて重厚な力作と評価。一部は、読み手の音楽の知識の無さ。