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十楽水さんのレビュー一覧

投稿者:十楽水

65 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

忘れられた巨人

紙の本忘れられた巨人

2015/11/25 21:13

過去を公正に語れるのか

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

直訳すると「埋葬された(埋められた)巨人」となるのでしょうか。今は姿が見えないだけで、消えてなくなったわけではない。覆い隠すものが除かれると姿を現す。それが巨人という存在です。いったいだれが、なぜ、埋葬したのか。そのことは正しいのか。だれにとって正しいのか。だれかにとっては、正しくないのか。
 いつまで埋葬されるべきなのか。時が経てば正しさは変わるのか。巨人の姿は変わるのか。時が経っても変わらないものはあるのか。

 小説のテーマは「公正に過去を語るとはどういうことなのか」であると思います。過去に起きた出来事を語るとき、その全てについて語れない私たちは、自らが語らなかった過去とどのように向き合えばいいのか。根本的な問いかけは、語り手の次元を個人から共同体に移すと複雑さを増します。「自らの立場に立ち続けることは公正さの達成をもたらすのか、妨げになるのか」「ある条件のもとでは立場の絶対化は許されるのか」「相手に対し、立場に固執しないでほしいと望むことは認められることなのか」。こうした疑問が、解きがたいものとして現れるではないでしょうか。

 果たして公正さは、立場の相違を乗り越えて求められるのか。この問いへのまなざしによって、小説の読み方が変化するかもしれません。基本はファンタジー+ラブストーリー。人々はなぜか過去を忘れ、主人公の老夫婦も記憶が頼りない。ある日二人は息子探しの旅に出ます。鬼やら竜やら異界の住人も出てきて、足腰も頼りない老夫婦の旅(冒険?彷徨?)には本当にはらはらさせられます。ラストは相反する解釈が可能だと思います。
 重たいテーマを前にして、あてどない読後感。自分で答えを見つけよと突き放される感じもありました。でも、もっと自由に読めば、「こんな老人になりたいと思うだろうか」とか「男(女も)はつらいよ」とか思えたかも?とにかく、じっくりと読める一冊です。

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紙の本

教団X

紙の本教団X

2016/11/23 20:48

社会に対する警鐘

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

現代社会に対する警鐘であり、強烈な著者の問題意識が随所に書き記されている。その中でも、胸に突き刺さったのが「軽薄な自己が、大義に飲み込まれることで、役割を与えられる」という一文。この指摘、時代を超えて重く響くのではないだろうか。

大きなものの一部になりたい願望と、思考に飲み込まれる快楽。移植された思考で、自分を尊大に見せる。自分の優位性を信じる。昨今の排他的で攻撃的な言論、同質性の心地良さに安住し異質な価値に開かれない閉鎖性に、通底するものを感じる。著者の問題意識も、近い所にあるのではないかと、勝手ながら想像する。

個人的には、松尾と沢渡を対比させて読んだ。2人を隔てたものは、なんだったのか。戦争体験か? 過剰は常に危険を宿す。凡庸な言い方だが、中庸であることの大切さ、難しさを松尾は訴える。その訴えに耳を傾けたい。

陰謀論的なところ、腰砕け気味のラストも気にならない。スケール感の大きさに圧倒された。

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紙の本

武器としての世論調査 社会をとらえ、未来を変える

世論調査を武器にしよう

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

政治参加というと、特別な人がするたいそうで縁遠いものというイメージはないでしょうか。あるいは単に選挙で投票することと同義とするだと思うことは。著者はいずれも否定し、政治参加の意味を問い直します。
 本書は世論調査をさまざまな角度から分析し、選挙結果の分析と併せて今の社会の姿を描き出します。読者は意外な発見や目から鱗の新情報に出合えるでしょう。中でも醍醐味は5章だと思います。世論がいかに均質に分布していないかがわかり興味深かったです。宗教に関する仮説はユニークで、より専門的な人の意見も聞きたいところ。個人的に引き込まれたのはあとがきです。クールな分析の内に熱い思いがあることが伝わってきます。
 今の社会はこの形でしかありえないのか。この問いに、副題にもある通り「社会をとらえ、未来を変える」方法として、世論調査を武器にすることを繰り返し教えてくれます。この武器は使えると思いました。

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紙の本

現代思想の遭難者たち

紙の本現代思想の遭難者たち

2019/05/21 11:40

思想家を笑い飛ばす

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

単行本は発行からずいぶん経ち、増補版が出ました。新たに追加された内容もあり、読みごたえが増しています。決して簡単な内容ではありませんが、くすっと笑えるところが随所にあり、楽しんで読めると思います。4コマ漫画にして見せる著者はやっぱりすごい。

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紙の本

悲しみが言葉をつむぐとき 往復書簡

いつか再読したい一冊

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

東日本大震災から3年、新聞紙上で詩人と批評家が往復書簡をかわし続ける。お互い顔を合わさないまま。呼び合うように招き合うように言葉が生まれていく。言葉が人間に語らせる、そんな世界があるようだ。多くの言葉が、胸に響いた。

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紙の本

わたしを離さないで

紙の本わたしを離さないで

2019/03/15 23:07

何度でも読みたい作品

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

有名な作品なので、この小説の「残酷な真実」をすでに知ってしまった方もいるかもしれませんが、仮に知ったうえでも深い、あるいは重い読後感が得られるのではないでしょうか。
 誘惑するテクノロジーの前に脆弱な倫理、不可視の少数者と利益を享受する多数派の構造、犠牲を使命だと刷り込む教育と権力、少数の側に立つ運動の偽善性と限界―。相似形の問題は現代社会に見出せます。
 歪みを含む社会から視点を個人に移します。もし当事者になれば何を感じ、何を望むでしょうか。わからなくなります。わからなくても役割を全うする以外行動できないようにも思えます。
 「奪われること」が生きることに等しいような人生において、それでも奪われないもとを求める、「離さないで」と願うことは、きっと普遍的なことではないでしょうか。そしてそれが記憶であるならば、人間味あふれる登場人物たちを育んだヘールシャムという世界を、欺瞞の一言で片づけられなくなります。キャシーがあれほど抑制的でいられるのはヘールシャムの教育の賜物であり、しかし少数者の自己抑制が、残念ながら多数派だけではなく少数者の利益になっていることが理不尽の理不尽たるゆえんに思えます。
 二度読みましたが感想は異なりました。なので三度、四度と読みたいです。

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紙の本

しろくまちゃんのほっとけーき

紙の本しろくまちゃんのほっとけーき

2019/05/30 09:47

絵がかわいい

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

出版からずいぶん経ちますが古びれた感じはしません。絵がかわいくて色がすてき。ホットケーキができていく様子、楽しいです。しろくまちゃんのエプロンが変わっていくのも、お話のポイントとして面白そうです。親子でいろいろ発見しながら読める絵本だと思います。

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紙の本

哲学用語図鑑 続 中国・日本・英米(分析哲学)編

前作に劣らない内容

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あまり知らなかった中国や日本の哲学を取り上げてくれていて、興味深く読めました。わかりやすさは折り紙付き。イラストが親しみやすいのも魅力ではないでしょうか。哲学に興味があるのなら買っておいて損はないと思います。前作に劣らず、お勧めできます。

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紙の本

哲学用語図鑑

紙の本哲学用語図鑑

2019/05/21 09:26

わかりやすい

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

イラスト・図解の力で、いままでぴんと来なかった話がわりとよくわかりました。考えた人がすごい。学生の頃にこんな本があれば、と何度も思いました。個人的には現代が興味深かったですが、どのページを開いても面白いのは間違いないです。哲学に興味がある人におすすめです。

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紙の本

障害者の経済学 新版

紙の本障害者の経済学 新版

2019/05/18 22:40

座右の書に

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

予想以上に面白かった。なんせ説得力があった。経済学的な切り口もそうだけど、なにより筆者の視点の置き方がこの本の魅力だと思う。大事なのはインセンティブであり、それを形作する制度。経済学を知らないものには少し難しいところがあったけれど、何度も読み返せばわかってくるところが多そう。根底に著者の熱い思い伝わってきます。それをそのまま書かずに冷静にまとめあげたのがすごい。

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紙の本

いまを生きるための思想キーワード

読み応えあり

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

帯の「高校生もわかる」はかなり?で、この本をしっかりと理解するのは大人だって大変だと思います。正直言うと、よく理解できないところがあったのだけど、今の生きるのに役立つものの見方や視座が得られる、とても示唆に富んだ一冊でした。思想・哲学・政治学・社会学が好きな方にはお勧め。対人援助職の方にも役に立ちそうです。
 「アーキテクチャ」「イマジナリーな領域への権利」は、特に興味を引かれました。後者は初めて知ったけど、困難な環境で生育した人に関わる立場の人なら、一度は考えてみる価値がある概念だと思います。

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紙の本

日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実

繰り返し読むべき本

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本を読むと、戦争にまつわる美談がおよそ白々しく見えてしまう。美談にでもして視線をそらし、おそまつ過ぎる実態を隠したいのかとさえ思える。どんなに高尚な国家戦略なり死活的な利益があろうとも、戦争が起きれば人は死ぬ。困窮すればするほど死に方は悲惨になる。死者を英霊として讃える意義もあるのだろうが、死者が無益に死なず、生きられていたら、その人と家族には幸せな後世があっただろう。
 英霊への感謝を掲げる言説にとらわれず、精神論に凝り固まり、無残に兵士たちを殺した為政者の責任を考えるべきだろう。そう思わずにはいられない労作である。

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紙の本

大正=歴史の踊り場とは何か 現代の起点を探る

もっと注目されていい時代

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

着眼点というか発想が良かった。実は様々な可能性をはらんでいたかもしれない大正。明治と昭和の大きな時代に挟まれ、単なる通過点のようにほとんど注目したことがなかったけど、案外面白い時代だと分かった。本書は切り口が多彩で、かつ当時の人々の生活や生き方がさまざまに描かれていて面白い。人々の息遣いが聞こえるといえばオーバーだけど、確かな質感のある歴史本と言えるだろう。

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紙の本

オルテガ『大衆の反逆』 多数という「驕り」

アーレント「全体主義の起源」と併せて

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アーレントと同じく「大衆」が登場し、批判的に分析します。リベラルが嘲笑されがちな今の日本にあって、多数決によっても覆せない価値を説くことは、我々が大衆だからこそ大切なことです。「敵とともに生きる」「反対者とともに統治する」「生きている死者の存在」「人は後ろ向きに未来に入っていく」「永遠の微調整」…覚えておきたい多くのキーワードに出合えました。
 この民主主義と立憲主義の間の緊張関係、日本の場合「統治行為論」で民主主義を優先したという解説に納得。相反する両者の関係性があまり語られていない気がするのは、対立を根源まで掘り下げずにいたせいかもと推測しました。
 急進主義的な変革と対峙したオルテガはもしかしたら孤独だったのでは、と思いました。自分と異なる価値観を持つ他者を排除せず、対話し共存する生き方を実践するのは大変かもしれませんが、この本を読むとリベラルの重要性がすとんと胸に落ちました。

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紙の本

反〈絆〉論

紙の本反〈絆〉論

2019/04/13 22:21

付録を含めて面白い

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優勢な物語は、他の物語を圧殺しうる。多数派は、優勢な物語に心地よい涙を流す。読んでいて心が重くなるところもあったが、欺瞞を排する徹底ぶりには脱帽。著者だからこそ、「絆からの自由」も「絆への自由」も説得力を持って説くことができる。どちらも人生の支えになる視点である。著者のような精神の持ち主には今後もその違和感を世に発表してほしい。

以下、忘備録として。
「共同体が窮地に陥った時、緊急事態の名のもとに、人間の思考の質は低下し、感受性や信念の違いは無視され、社会全体の効率的機能だけが求められ、繊細な精神は根こそぎ失われる」。

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