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十楽水さんのレビュー一覧

投稿者:十楽水

81 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本心の傷を癒すということ

2016/06/19 18:20

とても分かりやすく、とても深い

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

災害時の精神医療の教科書であり、ノンフィクションとしても読める一冊。阪神淡路大震災から21年が経ちますが、内容は決して色褪せません。
 むしろ、現在は分業化・専門化が進みますます「プロ」への依存が高い領域になりつつある中、一人の精神科医が生身の人間として苦しみ、迷いながら駆け抜けた日々の記載は、人間が人間を癒す(傷つける)ことを、血の通った温かさを持って教えてくれるようです。専門性に関係なく読んでもらいたいです。

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紙の本

紙の本土の中の子供

2016/09/24 11:39

恐怖の意味とは

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この作品世界は重苦しい。圧倒的な恐怖にさらされ続けると、それが自分の核のようなものになる。それなしには人生を考えられなくなる。

主人公は恐怖に向き合う。それを克服するために恐怖を作り出し、それを乗り越えようとする、自分なりの抵抗だったのではないかと、後に振り返る。恐怖を与えてきた者たちに、勝つためだろうか。恐怖にまみれた人生に、確かな意味を与えるためだろうか。

人生は簡単に、だれかに左右され、支配されるものかもしれない。しかし、わずかな人の支えで、人生の主導権は取り戻せる。終末に差し込んだ光が救いだった。

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紙の本

紙の本忘れられた巨人

2015/11/25 21:13

過去を公正に語れるのか

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

直訳すると「埋葬された(埋められた)巨人」となるのでしょうか。今は姿が見えないだけで、消えてなくなったわけではない。覆い隠すものが除かれると姿を現す。それが巨人という存在です。いったいだれが、なぜ、埋葬したのか。そのことは正しいのか。だれにとって正しいのか。だれかにとっては、正しくないのか。
 いつまで埋葬されるべきなのか。時が経てば正しさは変わるのか。巨人の姿は変わるのか。時が経っても変わらないものはあるのか。

 小説のテーマは「公正に過去を語るとはどういうことなのか」であると思います。過去に起きた出来事を語るとき、その全てについて語れない私たちは、自らが語らなかった過去とどのように向き合えばいいのか。根本的な問いかけは、語り手の次元を個人から共同体に移すと複雑さを増します。「自らの立場に立ち続けることは公正さの達成をもたらすのか、妨げになるのか」「ある条件のもとでは立場の絶対化は許されるのか」「相手に対し、立場に固執しないでほしいと望むことは認められることなのか」。こうした疑問が、解きがたいものとして現れるではないでしょうか。

 果たして公正さは、立場の相違を乗り越えて求められるのか。この問いへのまなざしによって、小説の読み方が変化するかもしれません。基本はファンタジー+ラブストーリー。人々はなぜか過去を忘れ、主人公の老夫婦も記憶が頼りない。ある日二人は息子探しの旅に出ます。鬼やら竜やら異界の住人も出てきて、足腰も頼りない老夫婦の旅(冒険?彷徨?)には本当にはらはらさせられます。ラストは相反する解釈が可能だと思います。
 重たいテーマを前にして、あてどない読後感。自分で答えを見つけよと突き放される感じもありました。でも、もっと自由に読めば、「こんな老人になりたいと思うだろうか」とか「男(女も)はつらいよ」とか思えたかも?とにかく、じっくりと読める一冊です。

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紙の本

良書

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「江戸しぐさの正体」で著者を知りました。本書は、江戸しぐさに加えて親学も取り上げ、偽史と疑似科学にもとづく教育論が社会に蔓延する現状を描き、さらに嘘がばれているのにそれらがまかり通る背景にまで論を進めています。
 都合の良い形に教育を変え、都合の良い人間を「作ろう」とする勢力がいて、彼らの陳腐な物言いが一定の支持を得て、社会に根を下ろし広がっているのが現状のようです。嘘も100回言えば真実に近づくのでしょうか。最近はやりの「日本スゴイ」にも感じますが、杜撰なお話が常識かのように社会的に認知されるのは、我々の側にも問題があるのでしょう。陰謀めいたお話は眉唾物です。それこそ「オカルト」扱いでよいと思います。一度読んでみてください。

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紙の本

「不自由を障害にするのは環境」はその通り

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

発達障害はそのままでも、周囲(特に大切な人)の関わり方や住まいといった環境が変われば、本人の行きづらさが軽減され、本来の長所が発揮されやすくなる。こう書いてしまうと当たり前のことですが、決して簡単なことではありません。発達障害を理解したい人にはもちろん、大切な人と上手くかかわれず悩んでいる人にも読んでもらいたいです。
 ユーモラスな筆致に時に笑いながら読み進めましたが、特に最終章はいろいろと考えさせられました。環境、あるいは社会の構造が、どれだけ私たちの視座を規定し、ある人の特性を障害としてしまうのか。本来支援されるべき人を加害的な立場に追いやるのか。著者の踏み込んだ考察に賛否両論はあるでしょうが、少なくともそれは「私たちがもう少し生きやすくなるにはどうしたらいいのか」という問いかけを、著者なりの答えとともに読者に投げかけているように読めました。

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紙の本

紙の本わたしを離さないで

2019/03/15 23:07

何度でも読みたい作品

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

有名な作品なので、この小説の「残酷な真実」をすでに知ってしまった方もいるかもしれませんが、仮に知ったうえでも深い、あるいは重い読後感が得られるのではないでしょうか。
 誘惑するテクノロジーの前に脆弱な倫理、不可視の少数者と利益を享受する多数派の構造、犠牲を使命だと刷り込む教育と権力、少数の側に立つ運動の偽善性と限界―。相似形の問題は現代社会に見出せます。
 歪みを含む社会から視点を個人に移します。もし当事者になれば何を感じ、何を望むでしょうか。わからなくなります。わからなくても役割を全うする以外行動できないようにも思えます。
 「奪われること」が生きることに等しいような人生において、それでも奪われないもとを求める、「離さないで」と願うことは、きっと普遍的なことではないでしょうか。そしてそれが記憶であるならば、人間味あふれる登場人物たちを育んだヘールシャムという世界を、欺瞞の一言で片づけられなくなります。キャシーがあれほど抑制的でいられるのはヘールシャムの教育の賜物であり、しかし少数者の自己抑制が、残念ながら多数派だけではなく少数者の利益になっていることが理不尽の理不尽たるゆえんに思えます。
 二度読みましたが感想は異なりました。なので三度、四度と読みたいです。

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紙の本

紙の本教団X

2016/11/23 20:48

社会に対する警鐘

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

現代社会に対する警鐘であり、強烈な著者の問題意識が随所に書き記されている。その中でも、胸に突き刺さったのが「軽薄な自己が、大義に飲み込まれることで、役割を与えられる」という一文。この指摘、時代を超えて重く響くのではないだろうか。

大きなものの一部になりたい願望と、思考に飲み込まれる快楽。移植された思考で、自分を尊大に見せる。自分の優位性を信じる。昨今の排他的で攻撃的な言論、同質性の心地良さに安住し異質な価値に開かれない閉鎖性に、通底するものを感じる。著者の問題意識も、近い所にあるのではないかと、勝手ながら想像する。

個人的には、松尾と沢渡を対比させて読んだ。2人を隔てたものは、なんだったのか。戦争体験か? 過剰は常に危険を宿す。凡庸な言い方だが、中庸であることの大切さ、難しさを松尾は訴える。その訴えに耳を傾けたい。

陰謀論的なところ、腰砕け気味のラストも気にならない。スケール感の大きさに圧倒された。

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紙の本

こちらも必読

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

筆者は歴史についてどういう姿勢で考えたらいいかという問いを立て、「一方の極端な意見に性急に飛びついて、他を全否定しない」と答えています。これとは対極のスタンスが昨今まん延しているように感じます。
 また、筆者は「歴史を説明すること」と「歴史で説明すること」の違いを「古代~近世編」の序章で述べていますが、この本でもその視点を脇に置いておくと百田本の性格がつかみやすくなると思います。百田本に細かいくらい訂正を入れていますが、これらは揚げ足取りではなく、どこまでも歴史に対し真摯に向き合う著者のストイックさ、さらには危機感のように思えました。ちょっと高いけど、2冊ともおすすめです。

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紙の本

必読

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

労作。本当によく書いてくれたと思うし、百田本の過ちを逐一発見し、淡々と改める語り口がとても良いです。筆者の知識量に脱帽。というか、高校の歴史の先生ってここまですごいの?と驚き。

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紙の本

紙の本薬物依存症

2021/12/23 22:53

生きづらさという視点

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

依存症者の根底にある生きづらさに、真摯に眼を向けた良書。筆者は臨床家であり、依存症者を死に追いやる偏見と闘うアクティビストでもある。「人間やめますか」「ダメ。ゼッタイ」といった公的なキャッチコピーは今なお優勢で、普通に生きていたら当然視してしまうだろう。だが、これらに疑問を持つことが、ひいては人を生きやすくする。それくら依存症は誰の身にも起こるもので、人間臭い。少し長いが読んで損はない一冊である。

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紙の本

世論調査を武器にしよう

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

政治参加というと、特別な人がするたいそうで縁遠いものというイメージはないでしょうか。あるいは単に選挙で投票することと同義とするだと思うことは。著者はいずれも否定し、政治参加の意味を問い直します。
 本書は世論調査をさまざまな角度から分析し、選挙結果の分析と併せて今の社会の姿を描き出します。読者は意外な発見や目から鱗の新情報に出合えるでしょう。中でも醍醐味は5章だと思います。世論がいかに均質に分布していないかがわかり興味深かったです。宗教に関する仮説はユニークで、より専門的な人の意見も聞きたいところ。個人的に引き込まれたのはあとがきです。クールな分析の内に熱い思いがあることが伝わってきます。
 今の社会はこの形でしかありえないのか。この問いに、副題にもある通り「社会をとらえ、未来を変える」方法として、世論調査を武器にすることを繰り返し教えてくれます。この武器は使えると思いました。

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紙の本

紙の本現代思想の遭難者たち

2019/05/21 11:40

思想家を笑い飛ばす

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

単行本は発行からずいぶん経ち、増補版が出ました。新たに追加された内容もあり、読みごたえが増しています。決して簡単な内容ではありませんが、くすっと笑えるところが随所にあり、楽しんで読めると思います。4コマ漫画にして見せる著者はやっぱりすごい。

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紙の本

前作に劣らない内容

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

あまり知らなかった中国や日本の哲学を取り上げてくれていて、興味深く読めました。わかりやすさは折り紙付き。イラストが親しみやすいのも魅力ではないでしょうか。哲学に興味があるのなら買っておいて損はないと思います。前作に劣らず、お勧めできます。

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紙の本

いつか再読したい一冊

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

東日本大震災から3年、新聞紙上で詩人と批評家が往復書簡をかわし続ける。お互い顔を合わさないまま。呼び合うように招き合うように言葉が生まれていく。言葉が人間に語らせる、そんな世界があるようだ。多くの言葉が、胸に響いた。

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紙の本

アーレント「全体主義の起源」と併せて

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アーレントと同じく「大衆」が登場し、批判的に分析します。リベラルが嘲笑されがちな今の日本にあって、多数決によっても覆せない価値を説くことは、我々が大衆だからこそ大切なことです。「敵とともに生きる」「反対者とともに統治する」「生きている死者の存在」「人は後ろ向きに未来に入っていく」「永遠の微調整」…覚えておきたい多くのキーワードに出合えました。
 この民主主義と立憲主義の間の緊張関係、日本の場合「統治行為論」で民主主義を優先したという解説に納得。相反する両者の関係性があまり語られていない気がするのは、対立を根源まで掘り下げずにいたせいかもと推測しました。
 急進主義的な変革と対峙したオルテガはもしかしたら孤独だったのでは、と思いました。自分と異なる価値観を持つ他者を排除せず、対話し共存する生き方を実践するのは大変かもしれませんが、この本を読むとリベラルの重要性がすとんと胸に落ちました。

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