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  3. つよしさんのレビュー一覧

つよしさんのレビュー一覧

投稿者:つよし

79 件中 1 件~ 15 件を表示

日本会議の研究

2016/06/13 17:32

日本会議に乗っ取られた国

15人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

安倍政権の閣僚の8割が関係していると言われる国内最大の右派組織、日本会議を動かしているものはなにか。まるでミステリー小説のように解き明かしたのが本書だ。キーワードは生長の家原理主義。新興宗教の信奉者たちがこの国の政治や教育や市民生活にじわじわと触手を伸ばしていく様子は不気味で背筋が凍るようだ。ただ、まだ全貌が明らかになったわけではない。続編を読みたい。

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苦海浄土 わが水俣病 新装版

2016/06/04 23:50

現実と幻想の間で

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

傑作である。魂の奥深くから発せられる言葉、情念が絶妙な語りとともに紡ぎ出される。不知火海の幻想的な風景と、人々の素朴で豊かな暮らし。それが資本主義の象徴ともいうべき工場廃液によって残酷なまでに破壊され、凌辱されるだけに、なお一層、かけがえのない美しさ、はかなさを際立たせる。本作がフィクションなのか、ノンフィクションなのかはあまり問題ではない。水俣病に材を取った世界文学である。

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タックス・ヘイブン 逃げていく税金

2016/04/15 23:42

マネーの暴走

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

極めて面白い。学者の空論ではなく、国際金融行政の一線に立ってきた筆者だから語れる具体論と明晰な視点だ。パナマ文書で注目されるタックスヘイブンがどこにあり、どう運営されているかはもちろん、本書の射程は、各国やOECDなどの国際機関がどう規制に苦慮してきたか、さらには金融危機の歴史やヘッジファンドが果たしてきた負の役割などにも及ぶ。マネーがいかに暴走してきたかが分かる一冊だ。

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青春を山に賭けて 新装版

2016/04/01 10:10

人間力の極み

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

27歳にして五大陸の最高峰を踏破し、その大半が単独山行だったという事実に驚く。20キロ、30キロのザックをかつぎ、氷点下の冬山を登り、氷壁に取り付き、飢えと寒さに震えながらビバークする。ヒマラヤ遠征では仲間の隊員が落ちてきた氷塊で顔を切り、血だらけになったり、心臓発作で命を落としたりする。それでも頂を目指す植村直己の体力、技術、精神力、そして言葉の通じない土地で人々の協力を勝ち取る人間力に脱帽する。ページをめくる度に、山肌に吹き付ける風や照りつける太陽、アマゾンの褐色の流れが目の前に広がるようだ。

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1★9★3★7

2016/01/19 13:19

辺見庸の集大成

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

辺見庸の思考、表現の全てがこの本に注ぎ込まれているといっても過言ではない。著者がたびたび言及しているように、自分の持ち時間が残り少ないことを意識して、妥協なきまでに、日本の過去、現在と自分の内奥を見つめている。1937年の時間が2015年の現在に流れ込み、2015年の時間が1937年に逆流しているかのように錯覚する。時計の針が巻き戻っている。歴史は何度でも繰り返される。そう気付かないうちに。

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われらの時代・男だけの世界

2016/03/17 15:26

氷山のように

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

繰り返し読みたくなる傑作短編集である。骨太で野性的なイメージのあるヘミングウェイだが、本作では繊細でナイーブな感性と、贅肉をそぎおとした引き締まった文体が結合し、唯一無二の作品世界を築いている。描かれるのは瑞々しい自然や、ロマンに生きる男たちだが、その底には戦争や暴力、そして不安が流れている。「氷山理論」と自ら呼んだ文体は、安物のミステリーのように全てを解き明かさないがゆえに、余白や余韻を残す。高見浩の名訳とあいまって、上質な蒸留酒のように味わい深い一冊である。

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時間

2015/12/03 10:00

戦争文学の傑作

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

最初の一行から最後の一行まで緊張感が途切れることなく、戦時下南京の世界に引き込まれる。戦時という特殊な時間に、人間がどう変容するのか。自他に向ける眼差しは峻厳で透徹している。主人公は中国海軍部に務め、内陸部に逃げた兄の代わりに家を守っている。その実態は秘密情報機関のインテリジェンスオフィサーだ。スパイとして使っている友人が日本軍とのダブルスパイだと分かり、湖上のボートで対面する場面や、生き別れた従妹が日本軍にレイプされ、梅毒とアヘン中毒を患った後に主人公と再会する場面は南京虐殺という題材を抜きにしても胸にせまってくる。戦後70年に「復刊」された意義は大きい。

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2016/12/01 23:46

壮絶な山岳小説

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いやあ素晴らしい。心が震えるというのはこのことだ。山野井夫妻のクライミングの壮絶さに、ヒマラヤの高峰ギャチュンカンの自然の峻厳さに、ただただ圧倒される。簡潔で平易で臨場感のある沢木耕太郎の文章も相まって、読んでいるこちらも垂壁にとりつき、吹雪に身をすくめ、凍傷に苦しんでいるかのような錯覚に陥った。

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紀ノ川 改版

2016/11/12 20:46

豊穣な物語

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

見事というほかない。無駄がなく、豊穣なイメージに満ちた文体。紀ノ川の流れのように、優雅に、力強く物語が紡がれていく。豊乃、花、文緒、華子。明治から大正、昭和へとそれぞれの時代を生きる女系家族の絆が、おかしみと切なさを伴って描かれている。時が経っても色あせない名作である。

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全貌ウィキリークス

2016/07/06 16:21

ジャーナリズムの現在

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ウィキリークス本の決定版であり、ジャーナリズムの現在地を知る好著である。ウィキリークスと従来型のジャーナリズムがどう連携し、双方にどう影響したかがよく分かる。情報公開のあり方についても、ジュリアン・アサンジの主張、彼に批判的な意見の双方がバランスよく配されていて信頼できる。それにしても日本のマスコミ、ジャーナリズムと欧米のそれとのレベルの差たるや、愕然とするばかりだ。

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悲しみの歌 改版

2016/05/12 11:05

人は人を裁けるのか

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「海と毒薬」の続編。導入部が巧みだ。新宿・ゴールデン街のあたりに行き交う人々の群像を活写している。主語をAからB、BからCへとくるくると変えながら、人間臭い街の情景を生き生きと浮き上がらせる。その回転運動に引き込まれるように読み進めると、海と毒薬の主人公、勝呂医師が登場する。そこからは、(1)勝呂(2)勝呂が面倒を見る末期がん患者とその家族、友人たち(3)勝呂の過去を追及しようとする新聞記者とその友人たち、という三角関係を軸に物語は進む。ありていにいえば、「人は人を裁けるのか」「人は人を救済できるのか」というのが本書の底流にある問いかけだ。他人だけじゃなく自分を裁く、救済することも含めて。それは巷にあふれる「社会正義」なるものへの疑義、と言い換えてもいい。だがこの物語には、そのように要約しようがない豊かさがある。避けることのできない宿命のなかで、あえぐように生きる人間たちの悲しみ、それがゆえの、いとおしさのようなものが詰まっている。傑作である。

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こころ朗らなれ、誰もみな

2015/10/20 22:36

イノセンス

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ヘミングウェイといえば子供のころに読んだ「老人と海」「武器よさらば」がうっすらと記憶に残っている程度で、以来、何となく敬遠していた。今回、柴田訳ということで短編集を初めて読んだが、こんなに素晴らしいとは思わなかった。無駄な装飾をはぎとった簡潔で乾いた文体。ニックアダムズものに代表されるイノセンス。「殺し屋たち」や「清潔な、明かりの心地よい場所」などに感じられる不気味さや根元的な悪。文体は違うけどサリンジャーや村上春樹に通じるものがある。柴田訳も絶妙。

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レディ・ジョーカー 上

2015/10/20 20:59

男たちの挽歌

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

単行本からの再読。ディテールを積み重ねて情景を描写する筆致には無駄がない。貧困、被差別、在日、障害という重いテーマをはらみつつ、「人生の不確かさ」というキーワードが印象的に繰り返される。自負と鬱屈を抱えた男たちがぶつかりあう、その激しさに目眩すら覚える。

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午後の曳航 改版

2017/02/04 01:00

青春小説の極北

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いやあ、面白かった。三島由紀夫がこれほど面白いとは。三島らしいナルシシズム、肉体美の観念はあるけれど、これは青春小説である。村上春樹の「海辺のカフカ」と似た読み味で、比喩の巧みさも村上春樹を思わせる。もちろん三島のほうが早いんだけど。本書に表現されているのは思春期の鮮烈な、透き通った感性と、その残酷さ、屈折、グロテスクなまでの死への傾倒である。三島はこの時からすでに、その身の内に死をはらんでいたのだ。

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アメリカ・ジャーナリズム

2017/01/30 02:31

米国における調査報道の盛衰

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

メディアを取り巻く激変は、米国では20年前に既に起きていた。ネット、ケーブルテレビなどの隆盛で「後退戦」を余儀なくされる米国ジャーナリズムの真髄、調査報道の実態が、生々しく描かれている。無駄のない達意の文章で、非常に読みやすい。現在でも十分に通じる内容で、著者の慧眼、取材力に感服する。

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