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大阪の北国ファンさんのレビュー一覧

投稿者:大阪の北国ファン

249 件中 1 件~ 15 件を表示

竜馬がゆく 新装版 1

2020/08/23 09:20

いきなり痛快な剣士の生い立ちに魅了された

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

身の回りでよくみる有名な竜馬の写真。その風貌だけではそれほど豪傑な人柄とは思えなかったことと、文庫8巻分の長さに圧倒されていたことで食わず嫌い的にこの本を手に取ることを避けていた。しかし同じく風貌だけで少し敬遠していた高杉晋作を『世に棲む日々』で読み、その生き方に感銘を受けたあと、同じく幕末を動かした竜馬を読まなければと思い立ち手に取った。
今まで読まなかったことが迂闊だった。巻を開き、いきなり数ページ目から面白い。竜馬の素直で飾らない生き方、そして剣士として成長していく過程を武市半平太、桂小五郎など剣の達人たちとの息をのむような出会いや、魅力溢れる女性たちとの甘酸っぱいやりとりなどが織り交ぜられながら描かれていく。
片道20分ばかりの毎日の電車の中でページをめくる速度はどんどん上がってゆき、数日で読み終えてしまった。それほど痛快で面白く、また全くの素人である私も剣道の世界の精神的深さとその歴史に引きずりこまれていった。
司馬先生の代表作を食わず嫌いした自分を恥ずかしく思った一冊だった。

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丁先生、漢方って、おもしろいです。

2021/08/29 20:05

これは面白い。漢方の入門書として最適

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

健康療法と称して、薬を売りたいだけの目的で出版される怪しげな漢方の本が氾濫しているなかで、素人にも少々学術的で、しかも著名な学者であり医師である丁先生がわかりやすく説いてくれた出色の本。いつも通り、南伸坊氏にわかるように易しく説明されているのがよい。
本書には有名どころでは、葛根湯、麻黄湯、八味地黄丸、紫胡四物湯、当帰芍薬散など各種の「薬」の効能なども解説されるが、そもそも漢方は西洋医薬の如く対症療法として優れた効能を表す薬を開発するのが目的ではなく、身体そのものを強く豊かな健康体に仕立てていくことが目的であるとの分かり易い説明がある。
その上で丁先生は、普段好き放題な放蕩的生活を送っておいて、病気になった時だけ病院に丸投げした上で、回復が遅いことを医師や病院の責任になすりつける日本人を叱りつける。その通りだと思う。日頃から心身の健康を目指し努力するなかで、失調した時にだけ医師や薬を頼るのが正しい姿であると読みながら頷いた。
マスクもせず大声で会話し、やりたい放題飲み屋や路上で酒を飲み、「自己責任」とうそぶいて憚らない人々。コロナに感染しても入院することは辞退するのか?自分に死が迫っている時に、逼迫している医師の手を借りずに「自己責任」を貫けるのか?問いかけてみたい。
丁先生の言葉は大変心に沁みた。

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知の逆転

2021/05/30 16:03

知の巨人6人の思想と我々に向けたアドバイス ー 素晴らしい

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まさに知の巨人のオンパレード。
それぞれの専門領域からスタートして、これからの我々に対して生き方のアドバイスを与えてくれる。
一部のレビュアーが物足りないとか、それぞれの書を読めとか書いているが、新書一冊に何を期待しているのか。本書を入口に興味ある著書を読めばよいではないか。
本書はインタビューを紙に落とた口語文であるため大変読みやすい。かつ吉成氏が平易な言葉で誘導してくれ、内容も理解し易い。
巨人に迫れる一冊。読後の充実感に満たされた。

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イヴの七人の娘たち 遺伝子が語る人類の絆

2021/04/04 20:21

現代の分子生物学で解けた謎が次々に明らかになっていく - 圧倒される面白さだった

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

20年前にスイスアルプスの雪と氷の世界から発見された5千年前の遺体「アイスマン」からDNAが取り出され、それが現代ヨーロッパ人から採集されたDNAサンプルと全く同じ配列だった…。これは本書の冒頭部分だが、既にここから本書の深みに引きずり込まれた。
母から受け継ぐミトコンドリアDNAの配列はその子供全員が同じである。そしてその娘を通して孫にも同じ配列が伝えられていく。このことから、ポリネシアの島々の祖先はコンチキ号よろしく本当に南米から来たのか、またロシア最後の皇帝一家ロマノフ家の墓と言われる場所に埋葬されたのは本当にそれらの人々だったのか、そのうち失踪したアナスタシアだと後日名乗り出た女性は本当にアナスタシア本人だったのか、現代ヨーロッパ人とネアンデルタール人とは関係があるのか、など遺伝子の知識を深めながら興味ある話題に次々に意外な解答が与えられていく。石器や土器、遺骨の形状が似ている(ように見える)とかそうでないとか言う文系的ファジーな解答ではない。ミトコンドリアDNAの配列が同じか違うかという極めてわかりやすい探求結果である。胸のすくような筋書きであった。
後半は現代ヨーロッパ人の95%の母である七人の女性たちの生活の様子が語られる。文句抜きに面白い。数日で一気に読み終えた。

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予告された殺人の記録

2021/02/21 18:14

題名から想像される残酷さとは相容れない人情の機微に触れるドラマが展開される

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ノーベル賞作家の著者ガルシア・マルケス一家が暮したことのある町、マグダレーナ川河畔のスクレに実際に起きた殺人事件を題材とした中編小説。次々に展開していく場面構成が面白く、読者を退屈させず一気に終幕まで導いてくれる。
筋書きはレビュアー諸氏が書いているので重複を避けるが、物語のポイントは被害者の日頃の立居振舞いと直接の動機を惹起した出来事に「そういうことなら被害者は殺されても仕方ない」と思われたこと、また犯行を事前に止めて欲しかった“善人”の犯人たちを「彼らがそんな蛮行をする筈がない」と考えた人々が阻止しなかったこと が輻輳して起こった事故のようなアクシデントを、当日現場近くに居合わせた一人ひとり の目を通して述べていくことである。そして犯行の起点となった女性の、意表をつく独白が用意されている。
どこかの書評に本書を「淡々と事実を述べ重ねていく」とコメントされていたが、作者は決して新聞記者のような無味乾燥な第三者目線ではなく、関係市民一人ひとりの目線で事実をみて述べていく。それが臨場感溢れる叙述となっている。読者まで現場に引きずりこまれるような語り口だ。あっという間に物語りは終わる。読み応え溢れた作品だった。
中編小説ではあったが、これでもかというくらい多くの人物が登場する。それぞれが深いパーソナリティーを背負って描かれている。一人ひとりの人物を思い浮かべながら、味読を求められた作品である。作者が「読み飛ばしは認めませんよ」と笑っているように感じた。

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項羽と劉邦 改版 上

2020/12/19 22:34

大陸の民族誌を読んでいるように面白かった

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書の主題はタイトルの通り項羽と劉邦の応報にあるのだが、その前に「秦の始皇帝」とはどういう人物でいかなる治世をしたのか、また秦という統一王朝が何故ほんの数年で歴史から消えたのか、司馬先生は丹念に語ってくれるため後日発生する」。高校生以前の歴史の授業では触れてもくれない内容である。しかし司馬先生はこれらを平易かつ面白く描いてくれる。そこには後代の環ガ何故そういう大帝国を築きあげ得たのかという重要な問題を含んでいる。とにかく面白い。情報量が多すぎて、なかなか読書がはかどらないが読んでいくに連れて筋の展開が面白くなり、調子づいてすぐに読み終えてしまった。行間に溢れてくる民族学的叙述も面白く、非常に内容の濃い一冊であった。

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竜馬がゆく 新装版 8

2020/11/14 12:55

頂上に駆け上り、長い登山は成功した。そして主人公が消える寂しさが残った。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

目の前で壮大なスケールで展開した物語が、あっという間に終わった。
竜馬と中岡慎太郎が両輪を回し、爆走してきた革命が大政奉還をもって終結した。
いや終結させた という方が正しいだろう。
その直前には岩倉具視による公卿工作、越前藩主松平春嶽公の大きな器が竜馬を支える場面など、読みどころも多いが手に汗握る頂上直前の舞台は目まぐるしく展開していく。お田鶴さまの不意の来訪に慌てる竜馬の姿など和めるシーンが笑いを誘ったりもする。
よく竜馬殺害の真犯人を探すなどという娯楽に過ぎないテレビ番組をみかけるが、既に慶喜による奉還の意思表明が行われたあとのことであり、現代からみればこの蛮行はその妨害にも役立たなければ、何のためにもなっていないことがよくわかる。歴史がそれを証明している。とすればそれは 私怨により、貴重な人物たちを単に殺めた愚にもつかない犯行であったと言っていいだろう。そのような、人ひとりの命が余りにも軽かった時代の過ちを今日生きる我々も胸に留め、身の回りにある「暴力」や「武力行使」などという言葉自体に怒りを燃やす生き方をすべき とこの物語りを読んで考えた。深読み過ぎるとは思いながらも、憎しみと分断が募る現代への警鐘かとも受け止めた。「おれはそんなことまで考えちょらん」と竜馬にも司馬先生にも笑われそうだが。
物語は少々の後日譚とともにそこで終わるが、後奏のほとんどないあっさりとした幕切れだった。ベートーベン第九の第四楽章の終わりに似ている。余韻は深い。

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竜馬がゆく 新装版 5

2020/10/04 17:35

幕末に向けて重量級の薩摩、長州が音を立てて動き始めた。しかし竜馬の周りの人間関係も目が離せない。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この巻はまず長州藩を巡る動向から幕を開ける。
政治的な信条も主義も持たない単なる武力軍団、頭脳もない殺し屋集団である新選組がそのーダー網にかかった長州・土佐浪士を中心とした集会に踏込む池田屋ノ変、そして薩摩藩の政治工作によって京都を追われた長州藩が再興をかけ、敗れ去った蛤御門ノ変へと展開してゆく。
われらの竜馬と勝先生は神戸や大坂、江戸を忙しく駆け回り京都の情勢がわからない。が、彼らの神戸海軍塾の塾生の数名がこの長州の動きにくみしたことから、後にその責任を追及されることになる。
そして本巻で最も重要なのは竜馬と西郷吉之助が出会い、それぞれに惹かれあっていくところである。
しかしながら読んでいて愉しいのは、いそがしく駆け抜けていく竜馬の旅の足跡を追っていく寺田屋のおりょう、そして龍馬に好意以上の感情を抱くお登勢、思わぬ登場で読者のどきもを抜くお田鶴さま、それぞれの竜馬を挟んでの機微に富んだ心情の遣り取りである。これは司馬先生の人物活写力そのものであり、今回も脱帽させられた。
また西郷どんは薩摩ことばを喋り、竜馬は土佐ことばを話し、それぞれ朴訥な性格が活き活きと表現されている。司馬先生はモンゴル語学科の出身ながら、日本語方言まで使い分けるバイリンガルだったかと見直した次第である。
いま、河原町三条から三条通りを高瀬川に向かってすぐの池田屋は居酒屋のチェーン店の経営になるが、それらしい店構えが復活しており懐古の情に駆られる。またそこから高瀬川沿いを少し北に上って御池通りを越えたところには桂小五郎の愛した婦人の名を冠した料亭幾松がある。ここは鴨川堤への抜け穴があることで知られている。また鴨川とは反対側の高瀬川には当時の高瀬舟を浮かべた一の舟入の入り口があり、当時の伏見と京を結ぶ船運の様子が再現されている。
この辺りの高瀬川はソメイヨシノやオオシマザクラが植えられていて、祇園東山の円山公園と同じ時に見事な都心の花見が楽しめる。それが散ったあと1-2週間後には同じこの場所で、これまた見事な八重桜が満開を迎える。無念にも散っていった志士たちの思いを慰めるかのような大輪の八重桜が華々しさの中に悲哀を語っているかのように感じる。
この巻を読んでから、それぞれ歩いて数分の距離にあるこれらの地を訪ねて幕末の一舞台に思いを馳せるのも一興である。

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トゥバ紀行

2020/08/30 14:49

日本人の祖先がシベリアの地から来たのかも知れないと考えさせてくれた

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

シベリアに住むブリヤートモンゴルの人々。その喉歌ホーミー、本書の舞台トゥバではフーメイと呼ばれる歌を聴いた時、これは幼い頃聞いた近所のお寺のお坊さんのあげてくれたお経と同じ発声法なのではないかと懐かしい気持ちになった。モンゴルの大草原に響く何か郷愁を感じさせるその歌声。
今ではロシアのテリトリーとなっているトゥバと呼ばれる地域がブリヤートやモンゴルに隣接し、そこに過去数十年間だけ幻の共和国が存在したという浦島太郎のようなロマン溢れるお伽話。しかしそれはトゥバに生きる人々にとっては中国とロシアという大国に蹂躙された苦しみと屈辱の日々だった。
近代の政治史はさておき、本書は日本文化の原始を知りたいという知的欲望に見事に応えてくれる素晴らしい作品だった。巻末の田中克彦氏の解説にはこの地が露清国境にてアジアの近世史においては如何に重要な地域だったかが語られているが、私のような圧倒的多数の日本人には未知の場所である。この地の地誌や歴史、習俗が文庫本とは思えない密度で語られていく。密度の高い民族学の講義を受けているに等しい。読書メモがノート何十ページにも膨れた。
日本人の有するY染色体のハプログループは弥生人とブリヤート人の近接性を語る。弥生時代に渡来した日本人はバイカル湖畔からやってきたのではないかと。また本書でトゥバ人とともにページを割いて語られる隣国キルギス人と日本人は容貌が大変似ているという興味深い話も聞く。解説には江上波夫先生の「騎馬民族渡来説」と佐原真先生の「騎馬民族は来なかった」説にも触れられ、訳者の透徹したコメントが付されている。
トゥバは唐代には「都波」「都播」と表記された。その同じ字を用いた日本神話の高天原を想像させる格式の高い神社が奈良県御所市に存在する。また日本人の心の故郷ともいえる伊勢神宮に隣接して三重県鳥羽市があることもただの音声的パズルだけではないものを感じさせる。
これらのことを考えながら読んだが、南シベリアにあるわれわれと顔がよく似た人々の地であるトゥバをよく知るためのかけがえのない一冊であった。内容が濃いため読破に時間はかかったが、「日本人」を知るために読んでおくべき書であると感じた。

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ペスト

2025/04/29 07:34

罹患すると数時間で死が待っている恐怖の病。その時代の市民に自分を重ねるとまさにホラー体験となる

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

死神がすぐ隣に迫ってきたようなすさまじい恐怖の描写に圧倒された。その筆致はまさにペストの大流行を著者自ら体験したかの如く、鮮烈かつ気迫に溢れるものであったが、本書の主題であるロンドンの大疫病の流行期間が1665-1666年であるのに対して、著者は1660年の生まれであるから、同時代を生きたことに違いはないが、直接の見聞を綴ったものではないことに読み切ってから気づいた。だからといって、本書は小説のような創作物ではなく、「少し遅れてきたドキュメンタリー」と言っても差し支えないと考える。
本書に最も魅力を感じるのは、歴史家が淡々と事実を並べて無味乾燥な病気の歴史を綴っていくようなものではなく、罹患すれば数時間で死が待っているという命の危機にさらされながら生きた、恐怖感漂う当時の庶民目線で全編が綴られていくところだ。現代からみれば、その原因も治療法もわからなかった当時のことは、他人事でしかない。しかし著者の筆致は他人事のまま読み終えることを許してくれない。それほど臨場感溢れる鬼気迫る描写だ。また著者の正義感からみた当時のロンドン市行政に対する賞賛点や疑問点も随所に描かれていて興味をもって読み進められた。これなどは、緊急事態に直面した際の行政当局の行動指針にも生かせるものであり、コロナ禍で同主旨の体験をしたわれわれの世代としては、対感染症行政に携わる人々に必ず読んで貰いたい書だと思った。本書のレビュアーの皆さんも「コロナ禍との驚くほどの類似点」に言及しているが、全く同感である。
今までにいくつかの感染症関連著作を読んだが、「恐怖感体験度」からみると本書は間違いなくナンバーワンである。

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博士の愛した数式

2024/10/20 17:53

背広の好々爺、飾らない「私」、心のまっすぐな男の子 が綴っていくやさしい物語

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「面白い!」のは勿論だが「心がほっこりほっこり温まった」と言ってもしっくりくる。
「私」が初めて家政婦として訪れた博士宅。当然初対面である。限られた期間しか記憶が続かない博士なので、翌日もそれ以降も博士にとっては「私」は初対面の相手。しかし博士はメモを作り一生懸命誰だか忘れないようにしようと努める。そんな博士の姿に接して、家政婦の「私」が何をしてあげられるのか、昨日より今日の方が、そして今日より明日の方が優しくできるにはどうすればよいか、そんな「私」の姿に心打たれる。
「私」の不倫の母の姿を綴るなかで、自分自身の生い立ちについて実に細やかな心の動きが描写される。小川先生の筆恐るべしである。そして自分の子供の出生についても語るが、その男の子が育っていくなかでの気持ちの健気さにも切なくなる。
「私」と博士の関係の中にこの男の子が入ってきて、物語は最高潮を迎える。博士が子供を慈しむ姿、「私」も含めて3人がお互いにどこまで優しくなれるかを競い合うような姿に読んでいる方も嬉しくなる。途中さまざまなハプニングも発生するが、ハラハラしながらページをめくる手に力が入る。
博士が得意とした素数、フェルマー、オイラーなどさまざまな数学の蘊蓄に頷きながら、しかし一文一文の季節の描写、人の心の動きの描写に含蓄がありすぎ、示唆に富んでいて決して読み飛ばせない。深い叙述、深い抒情文が続く。厚い本ではないが、読み終えてセピア色の夕日が三丁目に出ているような、ほっこり感、余韻にひたっている。小川先生、素敵な作品をありがとう。

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金田一先生のことば学入門

2024/01/07 16:46

なるほど と読みどころ満載の書。コトバが面白くなってくる。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

テレビでおなじみの金田一先生がわれわれ一般大衆向けにわかりやすくエッセイ風に言語学の問題意識入門編を語ってくれた書。大変読みやすくわかりやすい。
読みながら目からウロコが落ちる話題が豊富である。一例を紹介すると、
〇犬や馬は生まれや育ちの場所にかかわらず同じ言語を話している。ドイツ育ちの犬と中国育ちの犬は出会ってすぐにケンカしたり、愛を語れるらしい。
〇ほとんどの言語に普遍的な概念は、A音やO音、濁音系は大きいとか男性とか強いとか悪いとかを示す。I音や清音系は小さいとか女性とか弱いとか善いとかを示す。
〇三味線の音を高い音から並べると、誰の意識においてもチン、ツン、テン、トン、ドンであるとはほとんど例外がない。
〇二者択一のイエスノークエスチョンで答えに迫っていくのは構造主義の方法論で「レヴィストロースの野性の思考」と基本的には同じ。
このほか明治時代に誕生した某新興宗教の教祖に憑依した「神」が語ったコトバの社会生活的背景、人類の誕生とコトバの関係など、入門書ではあるが、さらに深く読んでみたいという知識欲に駆り立ててくれる読みどころ満載の一冊であった。
面白かった。

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言海 復刻

2023/09/09 20:51

単なる日本の本格国語辞典の復刻版にとどまらない - 巻末に付された「読み方」が見事である

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

先日読んだ『中世ラテン語の辞書を編む』に語られていた「辞書作りの深遠な理念と不屈の精神力」の一端に触れてみたいと思い、日本語の最初期の大辞典である本書を購入した。
恥ずかしながら国語辞典と言えば『広辞苑』といくつかの類書しか知らなかったが、近代日本最初の記念碑的辞書がこの『言海』であったことを先のラテン語辞書の本で初めて知り、また私財を投げうって本来国家が推進すべきような大事業を完成させた大槻文彦先生のお名前とその偉大な業績も知った。
本書は文庫本なので、大判の辞書の縮刷版かと思ったが、明治37年出版の『言海小型版』をその大きさのまま複製したものとの解説があり、明治の人々の目のよさに驚いた。
そして圧巻は、巻末70ページにわたる武藤康史先生の詳細な解説である。『言海』について丹念に教えてくれる大変充実した内容で、その歴史から編集方針、そして創刊当時の賛否両論(例えばいろは順でなく、五十音順に配列されたことについての)などの詳しい説明がある。この解説のみを一書にするほど価値ある内容と思いながら読んだ。
「国語辞典をはじめから通読する」などということは今まで念頭に置いたこともなかったが、辞書とは当時の時代背景や考え方を忠実に集積しているため、本書においては明治時代という黎明期を迎えた近代日本の姿を写す時代の鏡であると言える。その歴史を知った今は、一ページめから読み通してみようかと考えている。

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ラテン語の世界 ローマが残した無限の遺産

2023/08/13 17:29

ヨーロッパの歴史の大部分に触れることができたような幸せを感じる

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は某新書シリーズの「はじめての●●語」のような文法の入門書ではない。だから面白い。何語でもよいが、某新書シリーズを手に取って、その文法解説を理解し通読し終えた読者が自分のものとしてそれを使えるようになるのか、またそもそも無味乾燥な文法解説書を最後まで読み通せるのかかなり疑問である。わたしも挫折組の一人であり、冒頭30ページも読めばよい方であった。
ところが本書はかかる文法の解説書ではない。ヨーロッパ、そして人類の歴史上に燦然と輝くラテン語の歴史とそれを使い育ててきた民族、その前史であるギリシア語、イタリア半島の先住民でありギリシア文化の一端を引き継いだエトルリア人、そしてロマンス語と呼ばれる子孫の言語であるスペイン語、フランス語、イタリア語などと、英語、ドイツ語などのゲルマン語系言語と共有する語源、またラテン文学とキリスト教などラテン語を語るのに欠かすことのできないいわば「ラテン文化通史」の入門書と言って差し支えないであろう。文法の解説は最低限であり、ほとんどがラテン語とその他の言語をとりまく文化の解説である。
どこかで読んだが、本書のような文化通史を書くのには「語学だけ」、「歴史だけ」、そして「ラテン系言語だけ」の知識では到底無理であり、これらすべてに加えて本書中にも出てくる「英語、ドイツ語などゲルマン系言語」そして極めつきは「サンスクリット語史」にまで通暁していないとインドヨーロッパ語族の語源については書けないし、それができるのは本書の著者である小林先生だけだとの解説があった。読み終えてなるほどと唸った。
これらの知識をてんこ盛りのように盛り込んだ本書はまさに文化史の入門解説書と言える。文法は、ラテン語の特筆すべき事項として少し紹介されるのみである。私のようにラテン語のラの字も知らない読者がこれからその知識を習得する入り口には最適な書だと思いながら最後のページを閉じた。ラテン語の語尾変化の勉強から始めようか思い、さっそく羅和事典を購入してしまった。

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クラカトアの大噴火 世界の歴史を動かした火山

2023/04/09 09:36

圧巻の噴火の爆発力まで伝わってくる

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

400ページを超える大作に圧倒的な読後充実感を味わった。
史上最大の火山噴火といわれるクラカトア大噴火。それが今からたったの140年前の出来事で場所は日本からも遠くないインドネシアのスマトラ島とジャワ島の間、噴火音はアフリカやマダガスカルの手前ロドリゲス島でも聞こえた史上最大の自然音、しかも噴火で火山が一つ吹き飛んでしまったと驚きのプロフィールだ。しかし私も含めた日本人が広くこのことを知っているとは言い難い。が、火山や地震に携わっている人々や海洋学の関係者には当たり前の話らしい。海洋学者レイチェルカーソン女史の書物にも登場したため私はこの火山のことを読もうと思った。
読み始めて驚嘆したのは、本書はよくある火山の噴火の科学的分析で留まる本ではなかったことだ。この史上最大の火山噴火に影響を与えた地質学的背景の説明、それは、ヴェゲナーの大陸移動説とその前史から始まり、アジアとオーストラリアの生物学的境界線であるウオーレス線やその前のスクレーター学説、神話にも取り入れられているハワイ諸島の歴史、そして海底ケーブル敷設が契機となった通信会社ロイター、海上保険先駆者のロイズ協同組合などの歴史、果てはインドネシアにおけるオランダ統治の悪行やイスラム教主導のバンテン農民反乱にまで話は及ぶ。火山の本を読んでいたら、いつの間にか大航海時代後の世界情勢の解説書を読んでいたという面白さである。近代インドネシア史、地学史などの知識の洪水に溢れた本である。
この火山の噴火は世界中に影響を与え、ヨーロッパでは太陽が血のように赤く見えたこともあったらしい。ムンクの代表作「叫び」はその影響を受けているとの説も紹介されている。しかしながら、日本では明治15年のこの出来事に、当時の日本国内で、爆音や冷害、津波などの影響を記載した記事は見当たらず、その形跡がないのが不思議である。 また、この地域の地誌や動植物相を詳細に綴った書であるA.R.ウオーレスの「マレー諸島」の冒頭に、この海域に集中分布している火山群の爆発的な活動に触れている箇所がある。しかし同書は1850-60年頃の書であるからクラカタウより30年ほど前のことになる。この順序が逆転していればウオーレス氏の同書にも必ず触れられた筈である。
読みながらも感じていたが、この大著の翻訳に取り組まれ見事に読みやすい訳書を完成された柴田裕之氏の仕事にも敬意を表する次第である。一点、本書で氏はイスラム教の「予言者」と訳しておられる箇所があるが、その箇所で語っている宗教的指導者を表す場合、通常は「預言者」と訳すことをアドバイスしたい。
いま、この大著を読み終えて、大いなる知識の海を泳ぎ切った心地よい疲労感に浸っている。

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