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大阪の北国ファンさんのレビュー一覧

投稿者:大阪の北国ファン

208 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

新しい視点 外国人が赤裸々に綴った日本の官製公文書とは違う生の記録

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ベルギー生まれの著者フレデリック氏が江戸時代のオランダ語で書かれた平戸・長崎商館長の業務日誌を読み解き、われわれが普段使うよりも「格調高い言葉遣いの日本語」で当時の地震、火事、そして火山噴火の模様を再現してくれる。その合間にお馴染みの磯田先生の解説がはいる。ハーグで発見されたオランダ商館長の業務記録がここまで冷静に日本社会の混乱ぶりを記録していたのかと恐れ入った。幕府の役人なら決して書かないような将軍や高級役人、江戸城の慌てぶりや被災状況まで伝えてくれる貴重な書である。当時も今も外国人の報告書には虚飾はなく、彼らは何かに忖度する必要は微塵もないため記述は極めて正確と言える。
一読して驚いたのは、江戸時代における火事の多さと地震や噴火の激烈さである。江戸時代は270年の長きに亘ったとは言え、本書で紹介されている明暦の大火から始まり、四代将軍家綱、五代将軍綱吉、そしてそれ以降の時代は、「強風が吹くと火事になる」というのが大げさでないほど頻発したことがよくわかる。強風の日は毎日どこかで火事がおこっていたのではないかと錯覚さえしてしまう程だ。蝋燭が倒れるためにそうなるのか、行灯が引火するのか、或いは不景気になると建築需要喚起のため放火が横行したという陰謀説もここまで多いと説得力を帯びてくる。
本書はこのあと元禄地震、能代地震、宝永地震、肥前長崎地震、京都天明の大火、雲仙普賢岳の噴火、そして宝永の富士山噴火へと話題が展開していく。繰り返す災害とすべてを灰燼に帰する被害の大きさに読み進むうちに陰鬱な気持ちが増幅してくる。火事はさておき地震、噴火は発生を止めようがない。過去の教訓を生かし自分にできることを通じて一つでも被害を少なくできないかと考えている。
今の時代にはそれらが頻発していることから大変身近な問題と感じる。「大災害など別世界の話」で流すのではなく、真面目に読んでまず「自分の問題」として捉え、災害が起こってから慌てるようであってはならない。これだけの記録が残っていながら「他人事」として受け流してしまうのは我々の怠慢に他ならない。

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紙の本

紙の本女二人のニューギニア

2024/03/24 16:21

未知過ぎる地に女流作家が挑んだ。よく生還できたと称えたい。

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昔、著者の有吉佐和子さんの「複合汚染」を読んだ時には、「なんと強く恐ろしい女性なんだろう」と驚いた。レイチェルカーソン女史の「沈黙の春」が訴えた如く環境破壊が進んでいた時代であり、今考えるとわれわれ自身の空気や水を自ら汚染させていたという信じられない自殺行為を営んでいた時代である。工場や自動車の噴煙に、排水に、毒を垂れ流していたのだが、おおよそ文明社会全体に向けた不平不服がこの作家の口を通して悪、悪、悪と叫ばれたものであったと記憶している。
しかし本書における有吉さんは気の毒なくらいか弱い女性である。「私がニューギニアに行くことを誰も止めてくれなかったのが、向こう見ずにも旅立った原因である」という記述が数回でてくるが、そこだけが「やはりなんでも他人の責任に押し付ける気の強い女性」と思った箇所である。それ以外は現地で人類学のフィールドワークを続ける畑中幸子さんの理不尽な指示に従う、そして殊勝にも畑中さんに尽くそうとする端正(!)な女性であり続ける。
道なき道を掻き分けて、怪我にも吸い付く蛭にも悩まされながらニューギニアの奥地に入っていくことが何と大変なことかということがこれでもかというくらいの重みでのしかかってくる。
集落ごとに言語が違うとも言われる未知の島ニューギニア島。本書を読んで、そこの人々の暮しを踏み込んで知りたいという思いから、今から約70年前に現地で食人族に食べられたとの噂のあるロックフェラー家の御曹司についての書を早速買い込んだ。

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紙の本

司馬先生を追悼する文集には われわれの知らない先生の顔が溢れていた

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1996年2月12日に逝去された司馬先生を偲んで、先生と親交のあった内外の文化人・学者そして奥さま、若かりし頃の同僚や編集者などの追悼文、手記、インタビュー記事などがまとめられた書。「街道をゆく」の取材に関係する話題が中心であるため、同シリーズを再体験する面白さが満載されている。
作家仲間や学者先生などが紹介する「表の顔」、それを述べた「表の司馬先生像」はどこかで聞いた・見た内容であり、またある程度想像がつく司馬先生像でもあるため、上っ面の、語弊を恐れずに言えば深みのない表面的な司馬先生の姿であった。
しかし私が本書で本当に面白いと思ったのは、先生のサンケイ新聞記者時代の活動ぶりを紹介した記者仲間であったり、「街道をゆく」の取材に随行し まとめにかかわった朝日新聞の記者・編集者の懐古談であった。これらの人びとから見た福田定一・司馬遼太郎像はここで初めて聞く「裏の」、そして「生身の」司馬先生像であった。例えば本名福田定一記者が記者としての第一線を外れて文化部に異動になった時の不服ぶり、記者時代 上司に迎合しない反骨精神ぶりを発揮されたことなど、「作家」としてではなく、「人間福田定一」としての生の声、生の姿に驚かされ、先生をこれまでになく身近に感じた。北河内のご自宅の書斎に作家然として座っていらっしゃる司馬先生ではない姿を強く感じたのであった。
巻末の奥さま福田みどりさんとの「夫婦のやりとり」も今となっては一人の大作家の伝記となっている。ここだけでも読み応えに溢れている。
まことに楽しい書であった。

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紙の本

紙の本日本・食の歴史地図 続

2024/03/03 17:30

えー これをそうやって食べたの!?という驚きに溢れた本

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さすが「NHKの取材力だ」と、食の歴史に関する情報収集力・分析力に唸らせてくれる本。男の食彩に連載されたとのことで、写真も充実しており、聞いたこともない料理への理解は深まる。
内容は越後のひしの実、備後のワニ(!)料理、土佐の碁石茶、房州のくさりずし、など郷土料理22について、実際の素材・料理の作り方と食レポ、そして各料理の起源や発祥に関する充実した「ミニ論文」のような歴史メモが付されている。
地元の皆さんにはお馴染みかも知れないが、22の郷土料理のほぼ全てが今まで知らなかった料理であり、また歴史メモには木の実、荏胡麻、サメ、豆、昆虫、など古代人の献立とその薬効などが紹介されていて、大変読み応えがある。それぞれの料理に驚き、歴史メモに頷くという、「一粒で二度美味しい」を22話すべてに繰り返した。まさにトリビアの泉そのものであった。
「小さな大発見がいっぱい」の楽しい書であった。

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紙の本

この本は極限の生物の話だけではない。表紙のタイトル後段の小さな字が著者の言いたかったことだ。

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著者の長沼先生のお名前と専門については、ビートたけし氏著作の「たけしのグレートジャーニー」に登場されるため、それを読んで知っていたが、今回初めて先生ご自身の著作を手に取った。
本書のタイトルをみると誰でもそう思うだろうが、高山とか砂漠とか北極南極とか深海などの極限状態である場所に生息する生物についてレクチャーいただくつもりで読み始めた。光合成をしない深海生物チューブワームの生態から説き起こし、最終的には「進化は、例えばキリンが高いところの食料を食べるためなど、ある目的を達成するために続いてきた営みの積み重ねではなく、途中の突然変異を挟み環境に適応できることができて生き残ってきた生物の単なる偶然の積み重ねの結果でしかない」という論に達する。これは大変わかりやすく目からウロコであった。環境に適応するために身体を作り変えるのではなく、環境に適応できた個体や種が生き残ったに過ぎないという、わかりやすい理論である。ラマルクの用不用説が否定され、それを述べたダーウインの進化論が支持されている所以である。
ところで本書はかかる生物の不思議のみならず、これらの生物の研究を通して長沼先生が身をもって体験された「生き方論」を語ってくれる面白い本だった。特に「学習」については、昨今の「個性偏重」の初等学校に先生は異を唱えられる。まず「学ぶ=真似る」「習う=慣れる」という語源が物語る如く、学ぶ段階では個性は必要ない、学ばないことは先人が苦労して体得した歴史の否定である。この段階で「自分らしさ」を持ち出し、何も知らない子供たちに「考えさせる」ようなことは「個性偏重」の名のもとに展開する壮大な時間の無駄遣いである、との論を紹介される。
膝を叩いて読んだ。まさに同感である。子供たちには退屈ではあっても、まず効率的に基礎を習得したあと、じっくり個性を引き出すようにさまざまに考えさせればよい。(それとも就学前からシューティングやロールプレイングなどの刺激的なゲームに慣れ、こらえ性のなくなった子供たちには退屈な座学はできないのだろうか。)小中学生の段階での行き過ぎた「個性尊重」は弊害の方が大きい。文部行政関係者に、耳をほじくってよく聞いてもらいたいと思いつつ本を閉じた。
「生物学者」である長沼先生の痛快な書であった。

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紙の本

犬と合体してマンガにも登場する人気抜群の「うなぎ」だが、実は不思議いっぱいの生物だ

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「うなぎ」と言えば世界でも権威者は塚本先生である。その研究室の青山潤先生によるうなぎの本を既に「アフリカ篇」と「タヒチ篇」の二冊読んだが、総帥である塚本勝巳教授ご自身の登場する本を読もうと手に取った。
この本は爆笑問題が登場するテレビ番組を活字化して解説を加えたものであり、内容はごく一般的で平易でわかりやすい。日本人が好んでやまない蒲焼きのうなぎの不思議さへの入門書とも言え、やや専門的な回遊や棲み分けについても言及される。「棲み分け」と言えば京都大学の今西錦司先生が先駆者として有名だが、本書で塚本先生が例に出された理論と今西理論は共通するのかそうでないのか今後両者を比較検討してみたいと読みながら考えた。
本書では塚本先生の研究室にいらっしゃる青山先生と渡邊先生も「黄門様ご一行の助さん格さん」よろしく紹介される。いつも抱腹絶倒の爆笑の旅をされるご一行の研究室における真面目な、学術的な姿を初めて垣間見て感心した。
平易で読みやすい本ながら、うなぎを初めとする海洋生物の不思議さに接し、知識の再整理には絶好の面白さだった。

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紙の本

紙の本うなドン 南の楽園にょろり旅

2024/02/04 08:39

日本人が好んでやまない「うなぎ」の生態を求めて。南海の楽園、タヒチの旅行記を読んでいるようで楽しかった

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本書の著者青山潤先生のうなぎの本は以前に「アフリカにょろり旅」を読んで絶妙に面白かったので、書店で本書を見つけて期待して読み始めた。
「うなぎ」と言えば世界中に名が轟く東京大学の塚本先生がいらっしゃるが、そのもとで青山先生とその後輩分の渡邊俊氏の三氏がうなぎの生態系解明のため地球を駆け巡り、とある地域に深く潜航する。前回はアフリカだったが、本書のテーマとなる今回は南の楽園タヒチである。そこに生息するうなぎを調査する。期待を裏切らない抱腹絶倒の調査紀行、爆笑間違いなし。読んでのお愉しみである。
本書には作家である阿井渉介氏の格調高い解説が付されている。わずか十数ページの短い文章の中に本編360余ページの内容がぐっと凝縮されているのみではなく、青山先生のお人柄や上記の研究者三名が如何に世界的権威であるか、そして次世代を担う子供たちに向けて青山先生が伝えたかったメッセージなどの記事が濃く詰め込まれている。読み応えある解説である。解説を読んで感動したのは私は本書の阿井氏のものが初めてである。

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紙の本

生きた語学、会話力はこの本の例文が口をついて出てくること、そしてそれを聞いて意味がわかることである

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英語の会話を聞いていて、簡単な単語を使っているのに意味がわからない、ということがよくある。それは話しコトバ特有の表現が存在し、それはたぶんわれわれが学校で10年以上習ってきた英語の授業の知識だけでは太刀打ちできない範疇にあるコトバだからである。同じ話しコトバでも、文脈で何を言っているのか想像できるビジネスシーンの英語とは異なり、日常会話で使う英語を知っておきたいという自分自身の欲求を以前から感じていたため、「まさにこれぞ」という感じで本書を手に取った。
昔よく海外旅行に行く際には旅行会話集などを買い込んで、にわか仕込みで単語などを詰め込んだものだが、その労力に比べて実際に海外で役に立ったかと振り返れば大勢の人々の答えは多分NOで一致する。レストランや土産物店などで使う単語レベルは役に立たないこともないが、会話にはほとんど役に立たなかったということだろう。当然である。会話例文には「さまぞまの単語」と「こちらからの質問文例」は出ているが、現地の人たちからの回答例が記載されておらず、しかもそれは答える現地人によって十人十色であるから、まず現地語を聞き取れない日本人の耳には回答を聞いてもその内容を理解できないためである。
しかし本書のように「ネイティブの語る模範文例」と汎用が利くように「そのバリエーション」が多数記載されていれば会話を持続させるのには大変役に立つ。
本書を読破して、繰り返し暗記することにより実際に縦横無尽に文例を使ってみたいと思っている。但し本書冒頭からしばらくは「喧嘩や不快感を語る時の例文」が続く。これは余り使いたくない文例である。

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紙の本

紙の本金田一先生のことば学入門

2024/01/07 16:46

なるほど と読みどころ満載の書。コトバが面白くなってくる。

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テレビでおなじみの金田一先生がわれわれ一般大衆向けにわかりやすくエッセイ風に言語学の問題意識入門編を語ってくれた書。大変読みやすくわかりやすい。
読みながら目からウロコが落ちる話題が豊富である。一例を紹介すると、
〇犬や馬は生まれや育ちの場所にかかわらず同じ言語を話している。ドイツ育ちの犬と中国育ちの犬は出会ってすぐにケンカしたり、愛を語れるらしい。
〇ほとんどの言語に普遍的な概念は、A音やO音、濁音系は大きいとか男性とか強いとか悪いとかを示す。I音や清音系は小さいとか女性とか弱いとか善いとかを示す。
〇三味線の音を高い音から並べると、誰の意識においてもチン、ツン、テン、トン、ドンであるとはほとんど例外がない。
〇二者択一のイエスノークエスチョンで答えに迫っていくのは構造主義の方法論で「レヴィストロースの野性の思考」と基本的には同じ。
このほか明治時代に誕生した某新興宗教の教祖に憑依した「神」が語ったコトバの社会生活的背景、人類の誕生とコトバの関係など、入門書ではあるが、さらに深く読んでみたいという知識欲に駆り立ててくれる読みどころ満載の一冊であった。
面白かった。

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紙の本

紙の本岩波文庫の80年

2023/12/24 09:03

「日本の良識」を醸成した書籍群の歴史を知る

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ページ数でいうと9割以上が書名の目次(発行順、書名順、著者別など)であり、残りが略年表と略史(読んで字の如く歴史の紹介、約30ページ)、岩波文庫論(岩波茂雄氏の発刊紹介文、4ページ)、定価変遷・整理番号の紹介(6ページ)、大戦時の岩波文庫(2ページ)、過去の主な岩波文庫フェアで抽出された書名(13ページ)などの記事となっている。「レクラム」の如き日本の良識の書としての歩みがわかる貴重な資料である。読んで面白いかは個人の興味にどれほどバッティングするかによるので深入りは避けるが、私にとっては略史が大変面白く、ここだけを詳述した百ページ程度の小文庫本として発刊を望みたいところである。
ただ私は事前に誤解していたところがあって、本書は「岩波新書総解説目録」のように一冊一冊の短い解説文が付されているものだと期待していた。それを見て特に海外作品などで読んでいないものに次々にチャレンジしようかと考えていたのだ。しかし残念ばことに本書は全作品の「目次」でしかなく、各書の解説などはどこにも記載されていない。本書を手に取ろうと考えている方は私と同じ間違いをされないようにアラームを鳴らしておく。

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紙の本

紙の本疑惑 新装版

2023/12/17 10:29

息つく心理描写、そして市民社会が踊らされた陰謀、と内容の深い二作品

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松本清張先生の著作では「シルクロードを辿った文物や文化などを扱った歴史もの」や「日本各地の風土・特産物が事件の根底を流れているような紀行もの」には興味があるのだが、本タイトル作「疑惑」はそのどちらでもなく、私からみればトリックを扱った「ただの推理小説」でしかなかったため興味の対象外であった。しかし北海道の開発に隠された裏面史でもある月形監獄を扱った併録作品があることを知り、それが読みたかったのでタイトル作も自動的に読むことになった。そして、主人公である正義感の強い新聞記者の揺れ動く心理描写が鋭く抉られた見事な作品だと感じ、「ただの推理小説」を見直した。「社会派」といわれる松本先生は本作において、警察官もしくは検察官よろしく「独りよがりの正義感を振りかざして行き過ぎた捜査まがいの取材と記事発表」を行った新聞記者に警鐘を鳴らしたかったのかと邪推までしてしまった。警察や検察が犯罪を捜査し、調書に纏めてもその内容はまだ捜査関係者に知られうるレベルにとどまる。しかし独断や思い込みによって新聞記者が記事にしてしまうと大衆の心情にはほぼそれが真実として既成事実化してしまう恐れがある。松本先生の「警鐘」はそれかと感じた。そして記者自身が記事を書いたことによって追い詰められていく。ほとんどスリラーの世界だ。
さて月形監獄ゆかりの作品「不運な名前」は明治期のニセ札事件を扱った事件で、実在の事業家藤田伝三郎と藤田組も事件との関係を糺され、また不運な名前の画家が罪を着せられ投獄された事件の冤罪性を追究する小説である。国宝「曜変天目茶碗」を所蔵するあの大阪の著名な博物館の当時の当主にこのような疑惑がかけられたことを知らなかった。推理小説というよりも、松本先生が歴史上の冤罪事件の真相に一考察を与えるという作品である。当時の紙幣印刷にかかわる紙、デザイン、印刷技法、インク製造などへの深い造詣がないと書けないし、われわれ凡人が読んでも大変わかりにくい内容で、理解へのハードルの高さを感じた。社会派松本先生が当時の陰謀まがいの犯罪に切り込んだ気迫に溢れた作品であることはよくわかった。
以上二作品による読み応えのある内容の濃い一冊であった。

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紙の本

紙の本ロシア語だけの青春

2023/12/10 18:44

外国語ってそうやって学ぶんだという楽しくも厳しい話

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書架に面白い書名の本があると目にとまり、著者黒田龍之助先生のお名前はスラブ系言語や言語学入門書の著者として知っていたため早速読んでみた。
先生が高校生の時に外国語の中からロシア語を選んだきっかけから始まり、それを勉強するならと勧められた代々木駅前のミール・ロシア語学研究所でのスパルタ式語学教育を体験する話、そして当時は貴重な人材であったロシア語会話力を生かしてのお仕事と先生の半生が綴られる。先生が仰る通り、外国語のマスターには嫌になるほど聞いて、覚えて、話すことしかないと私も同感である。読み進むにつれどれだけその繰り返しの鍛錬が役に立たかを教えられた。そもそも言語学の本を書かれる先生なんてどれほど厳めしい方かと思っていたが、失礼ながら等身大の若者像が伺えて楽しく読める。
本書は肩の凝らないエッセーでもあり楽しくロシア語学習、そして外国語学習の基本について語ってくれる。私も今まで縁がなかったスラブ系言語に近づきたいと思い、早速本書に何度も登場するミール・ロシア語研究所の教科書でもあった「標準ロシア語入門」を購入した。

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紙の本

英語辞典の最高峰OED 膨大な原典への興味はますます膨れる

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英語辞典の最高峰オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー(以下「OED」)について、第一部で辞典そのものの成り立ちやそれが編纂された背景、第二部で実際にOEDに採り上げられている言語文化的に興味深い単語とその来歴が解説される。英語辞典の権威である永嶋先生の読みやすくわかりやすい文章ですらすら読める。
第一部で面白かったのはOEDより前のネイサン・ベイリーやサミュエル・ジョンソンなどの先駆的業績、また現在「インドヨーロッパ語族」と呼ばれる起源となったインド駐在武官サー・ウイリアム・ジョーンズによるサンスクリット語とギリシア語・ラテン語との類似性の指摘などの項である。実際の編集の段になると、「博士と狂人」の主人公マレー博士・マイナー博士のエピソードも(控え目な分量ながら)登場する。永嶋先生はサミュエル・ジョンソンの生涯について数々の論文もお書きになっており、本書も要領よくわかりやすく纏められている。
第二部では、日本語では「愛」の一言で片づけられても、欧州においては「神の愛」アガペーと「人間の愛」エロスが厳密に分けられ(後者は現代世界ではほとんど違う意味に使われているが)また「神の愛」はチャリティとも英訳されていること、アメリカなどで使われている通貨単位「ドル」は実はドイツの片田舎の地名でそれは「谷」というドイツ語普通名詞に由来すること、「茶」のチャとテは前者は北京官話・広東方言でマカオ・ポルトガル経由、後者は厦門方言でジャワ・マライ語経由欧州へ伝わったこと、また日月火水木金土の曜日の由来など興味は尽きない。特に第二部は一般向きの文庫本になっているような英単語語源書の内容が薄っぺら過ぎるのに比して随所にOEDからの引用があり読み応えがある。
本文が200ページ余りと厚い本ではないが、ずっしりした内容で読み応えがあった。

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紙の本

世界最高峰の英語辞典 その編纂に貢献した二人の大立役者の人情あふれる物語

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世界最高の英語辞典「オックスフォード英語辞典」の歴史を勉強しようと思って手に取った。
どこかで見たことがある著者名だと思ったが、何と先だって読んだ「クラカトアの大噴火」を書いたジャーナリストだった。それはインドネシアで噴火した火山の噴火音がアフリカ大陸の手前まで聞こえたという驚くべき大噴火のいきさつをドラマ仕立てかつ詳細な歴史絵巻仕立てにした本で、卓越したストーリー展開を楽しめたのだった。「これは期待できる」と思い本書のページを開いた。するといきなり英国紳士が登場し、郊外に向かう汽車に乗る。そして古城ばりの大邸宅で待ち受けていたもう一人の英国紳士と出会う。しかしその人物は目当ての面会相手ではない。・・・、イギリスの名探偵の小説さながらの幕開けである。
この本は「辞書編集」という、そこだけ聞くと何やら抑揚のない地味なストーリーが淡々と進んでいくような気がするが、映画にもなった如く劇中にはサスペンスあり、人情噺ありと英語最高峰の辞書の歴史を語る中に濃厚な人間ドラマが展開していく。
しかも本書はドキュメンタリー的描写のみならず、シェイクスピアの時代には存在しなかった英国における「辞書」について、その編纂の歴史を1721年のナサニエル・ベイリーにまで遡ってきちんと教えてくれる。辞書編集から英語の歴史、それを通してこの地にやってきた文明・文化の足跡が追えるのが楽しい。
そして書名にもなっている「狂人」とはどんな人物か、狂人がどういう形で辞書編集の大立役者となり得たのか、推理小説ばりのストーリー展開で”解明”してくれる。歴史書と推理小説を同時に読んだ充実感がある。
壮大な辞書編纂とともに繰り広げられたいくつもの人間ドラマが綾織のように展開していく読みどころ満載の本であった。

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紙の本

名詞に男性女性中性がなく、動詞の語尾変化は時々sがつく程度。圧倒的に簡単な英語にも複雑な歴史があったことを知る。

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読みやすくわかりやすい。
「英語の歴史」という書名ながら、英語というコトバの歴史だけではなく、ブリテン島を中心として成り立つ「英国」という地域の歴史から説き明かされる。コトバはそれを話し、使う人とともに移動し変化していくものなので、「そりゃそうだ」と頷く。今まで知らなかったイギリスの歴史も本書で要領よく学んだ。
この地域には
1.もともとストーンサークルなどを建造した先住民が存在していたが、
2.BC1000年頃ケルト系民族が大陸から侵入、ローマ帝国の支配を受けたあと、
3.AD500年頃から大陸にいたアングル人、サクソン人、ジュート人、フリジア人などゲルマン民族がやってきた。
このためケルト系の人々は西辺のウェールズ、コーンウォールなどに追いやられて、「アーサー王伝説」を残した。これはいわゆる「ゲルマン民族の大移動」の影響を受けている。この一連の歴史を聞くと、現代のドイツ語、オランダ語と英語の単語が似ているのも納得がいく。
英国にはこの後、1066年のフランス人の侵攻を受けフランス語が、イスラム世界との交流によりアラビア語が、聖書の英語訳により原典のラテン語が流入し、現在の英語が形成されていくことも説明される。これ以外にもヴァイキングたちと接触のあったことによる北欧語、ルネサンス期の人間回帰に伴うギリシア・ラテン文学の再流入など数々の言語接触がある。
さらに凄いのは英国人ウイリアム・ジョーンズが1786年にこれらの欧州言語とサンスクリット語の類似点を指摘し、「インド・ヨーロッパ語族」の誕生に繋がったというストーリーだ。因みにこれに属さない欧州語は
〇フィンランド・ハンガリーのアジア系フィン・ウゴル語派 
〇スペイン・フランス国境のバスク語 
〇アフロアジア語派のヘブライ語 
らしい。ここまで読んで私の言語学への探求心は一気にヒートアップした。
これらの英語史に加えて発音や綴りの(不)規則性についても解説される。皆英語を勉強し始めてから「なぜ?」と思ったことは多いだろう、なぜ書いてあるとおりに読まないの?なぜ読まない文字があるの?など。新書一冊ではあるが読みどころ満載である。じっくり読み通して密度の濃い知識を得た。

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