サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. hontoトップ
  2. レビュー
  3. コピーマスターさんのレビュー一覧

コピーマスターさんのレビュー一覧

投稿者:コピーマスター

57 件中 16 件~ 30 件を表示

ソ連あるある本

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ソ連時代の日常にあったモノたちを並べたソ連あるある(あったあった)本である。
もちろんそれらモノにはネガティブなエピソードもあったに違いないが、本書の調子は、ひたすら明るく、庶民的で、まさにノスタルジーそのものである。
「三丁目の夕日」ではないが、エピソードの根底にただようビンボーさえ、なんだかラブリーに思える。
なぜこうなるというと、本書のなかでわが国と指しているのが日本ではなくソ連であることにハッして知るに至るのであるが、筆者たちは結局のところ元ソ連人なのである。
(これが西側の人が書くと、最後に腐して終わるといういつもの残念パターンになることだろう)
ところで、本書の内容は、とにかく知らないことばっかりで新鮮だった。それぞれの記述の分量もほどよい。(ハイセンスな蘊蓄が興ざめに転ずるラインをわきまえている!)
興味深かったのは、タンク車の「クワス」なんていう炭酸飲料があったこと。地下鉄専用のトークン。極めつけはソ連の少年少女らが遊んでいたゲーム機が、われらが任天堂の精巧なコピーにほかならなかったことであろうか。なァんだ。これでは昭和の日本の私らも案外よかったのかも知れない。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本萬葉集物語 改訂新版

2017/06/16 20:22

「万葉集+入門書」でググって出てこない極上の入門書

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ひょっとしてググって出てこないのは表記が「萬葉集」からだからかもしれない。
実は戦前からあるロングセラーだという。
(というわけで、ググっても出てこないのは、わが国の民にとって多大なる損失なのでここにレビューを書きます。長文です。)

本書のすばらしい点は、なにより最後まで読み切れる本であるということであろう。
とにかく情報の密度が高いのと、語りの美しさに魅了される。
一見、大き目の文字で「中学生・高校生以上」が対象ということだが、あなどってはならない。
読みながら、37歳のオジサンがこれはすごい本だと何度も感嘆させられた本である。
たとえば、124ページはこんな感じで始まるのだ。

新年のお喜びを述べ、友だちの幸いを祝い、また泰平(たいへい)の御代をことほいだ歌は、いつよんでみましても、気持ちのよいものと思います。そうしたおめでたい歌を賀歌(がのうた)ともうします。

※引用文中のカッコ内は本文中ではルビ。
この一文にて読者は「がのうた」というワードを初めて知ることになる。そして「ことほぐ」というようなワードがスッと出てくるこの感じ、この衝撃。ひらがなと漢字の使い分けの上品さも絶妙だ。惚れてしまう。

入門書として秀逸な点はまだある。
本文中、かなり丁寧にルビがふられているので読みやすい。難読な人名、地名が多々あるので、これは重要なことだ。
また、読んでいて本当に「分かった気になる」ということ。
それは、読まれた歌の内容、時代、地域、当時の人の生活、喜怒哀楽、さらには万葉かな、万葉集の研究史まで、さまざまな観点で解説されているからだろう。
本書の著者は、今はわからないけどとりあえず覚えなさいと勧める。きっと良さが分かるときが来るからと。
若者に対し、こういうことを言う先輩は信頼できる気がする。
歴史教科書も大きく変わる時代。昔の本というと内容の正確性が気になるところだが、実は本書は2008年に最新の研究成果をもとに改訂復刊されたものでロングセラーとはいえ決して陳腐化していない。復刊した出版社の英断と、著者、関係者の尽力には頭が下がる思いだ。

ところで「万葉集」について、全く知らない日本人も多いのではないだろうか。
恥ずかしながら私もそうだった。今も知っているとは到底言えないが、この年まで知らなかった恥ずかしさよりも、本書に出合えた喜びのほうが大きい。
読んでいて、幾度となく、子供のころの学ぶ楽しさを思い出したし、子供のころ食べた懐かしい味を思い出すようなやさしい気分に包み込まれた。
そう。「萬葉集物語」とはかなりの程度、私自身の物語でもあるのである。

万葉集を学ぶには、もっとポップな学生向け参考書とか漫画とかがいくらでもあるだろうが、格調高い本書で学べたことが何よりうれしい。
古代の歌といえば、中高生にとってはなんといっても百人一首ではないだろうか。
春過ぎて夏来にけらし白たへの衣ほすてふあまの香具山
知っていた。結構好きな歌であった。ところがである。いまは断然、万葉集バージョンな自分がここにいる。

春過ぎて夏来(きた)るらし白たへの衣ほしたり天(あめ)の香具山
(本書249ページ)

老若男女の読者をして万葉集ファンにならせしむに十分な入門書である。
なお、本書の造本も実に素朴で「ますらおぶり」で好ましい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

アブサン・ブームの再来なるか

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

終電を逃してしけこんだと或るバーのメニューに「アブサン」とあるのを見ておやっ?と思った。こんなの日本で飲めるのか?溶ける氷の周辺に妖しげな白濁を生じ複雑な芳香を放つそれは本物のアブサンだった。確か昔、ピカソの青の時代の絵画を見たことがあって、アブサン=貧乏画家が飲むアルコール度数の強い安酒で脳髄を破壊する印象があった。調べてみたところ、本場スイスで2005年に解禁されたそうで、今や本物のアブサンは、バーでも飲めるし、ネットでも買える酒になっている。(ただし決して安くはない!また常識的な範囲でたしなむ分には脳髄も破壊されない)
というわけで、アブサンについて気になっていたところに上梓された本書を見つけたときはほぼ即買いであった。そして正直なところ、本書は期待以上の内容であった。図版の多さ、記述の豊富さ、一つ一つの歴史的ストーリーの面白さ。傑作ノンフィクションとして久しぶりに一気読みである。これほど引き込まれたノンフィクション作品はサイモン・シンの著作以来の体験である。
なお、本書の原著は1988年が初版だそうで、今現在のアブサン飲みガイドではなく、主に歴史的な背景に迫ったものである。解禁前で、成分のツヨンの影響についてもまだ曖昧な時代に書かれたもので、本書の最後には著書が現地の密造酒を入手するシーンが出てくる。今となってはだが、本書はそういう先駆的ジャーナリズムの本なのである。
ワインやウイスキー、ビールの本はごまんとあるのに、アブサンに至ってはこれまで皆無であった。本書は日本でのアブサン認識に空白に風穴を開けた快挙といえよう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

献身的に生きるルネサンス的エリート

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「日陰者ジュード」を彷彿とさせる表題につられて思わず手に取ってしまった本書は、ササルという著者の知人の田舎の開業医について、切れ味の鋭い写真と文章でつづったエッセイの傑作であった。
他人のために献身的に生きるルネサンス的エリートであるところのササル医師のストイックな生き方の孤独と苦悩、そして幸福とはどのようなものなのか。
医師という職業の不思議さ、職業の人生における不思議さ、結局のところマウントする場所と時間をひとつ選択せざるを得ない人生の不思議さ、自分と他者、貧困と富、個人と集団、肉体と精神。激しくぶつかり合うパラドックスまで話題を広げ、片田舎のふとした日常の一コマからインフレーション的に演繹していく壮大さには圧倒される。
写真と文章のリズムの饗宴がぴったりとはまり、まるで音楽のようである。だが同時にそれは結論や評価が確定した演奏後の音楽ではなく、まさに演奏中の音楽のそれなのである。
かくいう私も、正直に告白するが、本書の内容をすべて消化しきれているとはいえないし、この書の魅力をつたない言葉ではとても十分に形容し得えない。むしろ、この書物のレビュー欄を拙文で汚してしまうことに罪の意識を感じる。しかし、あえてレビューを書くのは、これがめまいを覚えるほどの凄みのある書物であることは間違いないからである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本渡辺のわたし 新装版

2016/10/11 00:26

“初版になかった解説もつけた。お得だ。”だって?!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これは好きだなあ。と思う。腐女子的な表現を借りるとすれば“好きすぎる!”とか“わたしホイホイ”といったところか。
もう本当に素晴らしい。
「うつむいて並。 とつぶやいた男は激しい真顔となった」の妙味や如何。
いやしくも日本語を語るならば、斉藤斎藤は押さえておかねばなるまい。新装版のあとがきが振るっている。「お得だ」とはなんと控えめな物言いではないか!
もし自分にこんな才能があればこの1冊を5分冊くらいにしてリリースするくらいのことはやってのけたことだろう。
1ページ3行。信号機に、盛り上がるタイトル字。チクショー。港の人がまたやってくれましたwww

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本その姿の消し方

2016/04/16 03:37

吐く吐かないwww

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

堀江氏の本を読むの体験といふのは、骨董品を愛でる心持ちに似てゐる。本作も、そのうち新潮文庫として出るに違ひないであろうが、ぜひ単行本で手に取って、1頁1頁を読む人生の時間を楽しんでいただきたい。年季の這入つた書物を思はせる装丁が前作に増してエスカレートしていてあざといなァと尽々思ふが、かういふ趣向は個人的には好きである。本作の物語ハ、架空の詩に出会うミステリーである。矩形に収まるよう書かれたフランス語の詩を矩形に揃えた日本語譯。読者が繰り返し味わわされるのは専らその譯詩のほうなのであるがそれは五感を刺激し、たしかな情景を生む筈だ。それは「私だけ」の時間・空気の享受にほかならない。この体験がじつに美しいため、堀江氏の小説の読み手はその魅力に取り憑かれるのである。ところで堀江氏は常に読む人であると思ふ。そこで読まれてゐるのは「言葉」だけではない。堀江氏は飲み物を読み、食べ物を読み、過ぎ去った時間を読み、絵葉書を読み、家屋の佇まいを読み、ラヴェルの水の戯れを読むのである。そしてヨーロッパで、ユーロを使って「お買い物」をし、得も言われぬ陶酔に浸るのである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

ハウツーでも行動心理学でもない一風変わった「ビジネス書」

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

HONZで絶賛されていたので、気になって読んだ。
これはビジネス書というより、理系ノンフィクションを読んでいる気がしてくる不思議な本である。
巷のビジネス書のように、商業道徳や精神論を説くのではなく、人はどのように注目するのか、注目の段階とトリガーについて論理的かつクールに説明している。
ハウツー本というわけでもない。
むしろ、この分野を本を読みまくっている人にとって、すぐに使える方法は少ないと思う。
たとえば「破壊トリガー」を挙げれば、どう「破壊」するかは結局自分で考えなければならず、他人の真似事など意味はない。
また、行動心理学の本というわけでもない。
この分野の本を読みまくっている人には目新しい発見は少ないだろうし、どうして人間はこういう行動パターンをとりがちなのかという興味への追及だけにとどまらず、むしろ、人間はこうだから、注目を惹くにはこういう方向性で仕掛けるべきだという話につなげているところがキモだ。
つまり一貫して「実利」につなげるためという目的意識で書かれている。
だから、やっぱり本書はビジネス書なのである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

圧倒的な面白さ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これは、8篇とも外れなしの短編小説である。とにかく面白い。金原瑞人氏の翻訳も素晴らしいと思う。
(「征服されざる者」だけは、えっ、これは本当にモーム?と思ってしまうほど異色作だったが)
モームの作品は、また少しずつ書店に並ぶようになってきているが、モームの珍しい短編作品を新刊で出す新潮社の英断に快哉を叫びたい。
これは第2弾も出してほしいと思う。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本こちら横浜ポートシティ不動産

2023/08/11 15:26

ちゃんと「お仕事」している小説(楽しいほう)

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

レビューの評価が高かったので読んでみた。(装幀のイラストも良い)
テンポの良さ、展開の都合のよさは、まさにエンタメ小説である。
主人公の若手スタッフの女性が機密情報を周囲に漏らし過ぎなのには心底呆れてしまったが・・・
フィクションながらリアルさがあるのは、やはりその道のプロが書いている小説だからなのだろう。
相続関連の税金対策とか横浜の地元ネタや戦後史みたいな使える知識も織り交ぜながら、遺産相続の「落としどころ」を探っていく。
最後には何となく「いい仕事をした」という達成感を味わえてしまえる小説なので一読して損はない。
この作者はおそらく違ったシチュエーションでも書けるはずで、そういう展開も見てみたい気がする。続編、映像化の可能性は十分にあると思う。
(評価は迷ったが、ストーリーの面白さ、読後感の爽快さ、有用度、設定のポテンシャルの総合的観点から評価5とした)

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本原点が存在する

2022/09/08 12:13

1頁目10行でノックアウトされた

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

告白しよう。まだ1頁しか読んでいない。1頁10行。だがレビューを走り書き的に書くにはもはや十二分の材料を得たと秒速で判断したのでとりあえずぶっ飛ばして了おうと思ふ。いやあ、ここまでカッコいい文章を読んだことは40年以上生きてきてちょっと思い当たらないナァと。ちょっと宇宙を感じさせる天才の文章ではなかろうか。ウソだと思う方向けに書き出しの1文だけ引用してみることにする。こうである。「まるでワグナア歌劇の装置を思わせた。」どうです。参ったでしょう。このような日本語の可能性が存在したのか。造本も至って素晴らしい。インパクト絶大な装画、活版を彷彿とさせる活字がゆったりと組まれシルクのようなウエットな手触りの紙質。森崎和江再評価に便乗したやっつけ企画ではなく、校閲も徹底したという。4巻堂々復刊という月曜社の本気を感じる打ち上げ花火。令和の文士たちよ。いざ、ここから初めようではないか!

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

銀行がまだオワコンではないと思わせてくれる良書

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ほんらい新書というジャンルのミッションは過去・現在をハッキリ判らしめることであろうが、本書は単に過去を総括するにとどまらず、閉塞感きわまる日本社会のあかるい未来を創造する兆しを垣間見させてくれるところがよい。エグい手数料で高齢の女性顧客の財産を食い物にする金融商品を売りつける不道徳経営から脱却し、顧客の生活資源である財産を育て、一方見込みるベンチャー企業を支援するという銀行ほんらいのミッションに立ち返り、あかるい未来を創造する具体的な提言がなされている。たしかに本書で語られる理想やアイデアは実装段階で幾多の壁にぶちあたるしろものかもしれぬが、こういうビジョンやリーダシップは大事である。度重なるシステム障害と容赦なきリストラ、仁義なき合併を繰り替す銀行業界の復権があるとすればかくのごとし形かもしれないと思わせてくれるきらぼしのような夢のような至福の237頁。金融にたずさわる諸氏にはぜひ読まれたし。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本O侯爵夫人 他六篇

2021/08/07 23:26

女性たちの言動が斜め上過ぎる小説

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

そもそもの事の発端は川上未映子の『夏物語』に主人公が少女時代に読んだ海外古典の文庫本を眺めるシーンがあって、見知ったタイトルに交じって「チリの地震」とあるのが気になったからである。おそらくその「文庫」は実体としては河出文庫であろう。そしてクライスト短編集のもう一つの翻訳がこの岩波文庫である(本書にも『チリの地震』は収録されている)。岩波文庫でよくある戦後間もない翻訳の復刊で旧字体、活版印刷のキヨズリでやや読み辛さはある。ただし訳文は実に秀逸で、読み始めるとクライストの文章の勢いに気圧されてどこまでもグイグイ読ませるのだから凄いものである。基本的に人間の業(ごう)をあぶりだす破滅型文学。ジャーナリスティックな真実さとそこはかとなくただよう宗教性やヒューマニズムに独特な味わいがある。古典一般は登場人物の心情を自然描写に仮託することを好むものも多いと感じるが、クライストは自然描写一切ナシ。語る言葉と行動のみで人物の本質を生き生きと描き出す刑事ドラマの脚本家である(実はクライストの肩書は戯曲作家である)。本格推理のようなトリックも鮮やかで芸術的にキマっているし、時代を先取りした新しさときたら、誤解を恐れずにあえていえばもはやSF的ですらある(なんとゲーテと同時代)。ストーリーの推進力は息もつかせぬほどなのだが、なぜか女性たちの言動でかなり理解しがたい斜め上を行くものがあり「えええっ?」と二度三度読み返してしまうことがあったことは附言しておきたい。表題作の『O侯爵夫人』然り、『決闘』然り。さて読者諸賢はどう読まれるだろうか。これは個人的な読書体験ではなく、ワイワイ仲間うちで読んで語らって楽しさ倍増タイプの小説ではないだろうか。川上未映子としては、まあ若いうちに一度読んどきなというメッセージであったと私はそう受け止めている。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本1984年に生まれて

2021/03/01 20:33

ビターな自伝体小説

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『折りたたみ北京』は二度読んだ。ハヤカワのケン・リュウのアンソロジーと、白水社の短編集とで。この『1984年』は(ほとんど)SF小説ではない自伝体小説と知ったうえで手に取ったものだが、個人的にはこちらの方が好きかもしれない。すごくざっくりいうと「自分探しもの」だ。(全く関係ないが、アンドレイ・タルコフスキーの映画『惑星ソラリス』を思い出した。)私が中国文学を好むのはその独特のリアリティのとらえ方なのであるが、この小説のディテールの造形もなかなかで感心する。この独特なリアリティはいったい何だろうとよく考えたところ、回想のように過去を描いているときも、現在の結末を踏まえた描写になっていないことに思い当たった。たとえば1984年のシーンで登場人物らは1984年を自分がまさに生きている現在としてあくまで一寸先は闇なものとしてふるまう。現実ではごく当たり前の話なのだが、じっさいに小説として見せつけられるとピカソのキュビズム作品を見たような独特のリアリティを感じるのである。
ところでハオ景芳の作品にはエリートの憂鬱ともいえるものが通奏低音のように流れていて何とも重い。この「生きづらさ」は日本のそれとはちょっと趣が異なる。作者自身もたいそうなエリートな筈であるが、そこは広大な版図と人口の大国である。エリートの数も膨大で数多くのエリート達を残酷に丸飲みしていく。これは北京の街中を歩けば感じずにはいられない人海中での自己埋没感そのものである。(大自然の中のちっぽけな自分とはまた違う体験である。)改革開放後から現在に続く「カネ」の危うさ、「自由」の危うさ、そして文革の傷痕、暗示される六四の出来事が織り成す独特の雰囲気。きわめてパーソナルな心象風景でありながら今の中国の政治情勢においてギリギリのところを攻めている部分もある。(最後にひとこと。全く関係ないが、本書の装画の平野実穂も1984年生まれであるという)

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本土門拳写真論集

2020/09/19 21:39

写真を見る目が変わる本

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

随分と積読していたのを最近ひょんなことで読みだしたところ、これが実に面白い。一気に読んでしまった。
それもそのはず目次の表題をひろい見しただけでも、「世界の有名写真家のベスト・テン」、「なんでも勝手に撮っていいか」等など面白いに決まっているのである。
本書は前半が『カメラ』『フォトアート』の月例選評の抜粋。アマチュアの応募作品にコメントしたものである。後半に評論・エッセイ(講演、座談を含む)が収録されている。
まず驚くのはその文章のうまさだ。文筆家といってもよい美文である。内容も凄い。月例の特選を褒めたと思うと油断したすきにズバッと刺されるから堪らない。いわゆる厳しい先生と言ってよいが愛が感じられる。優れたアマチュアの作品に感動したならそれを隠さないところが素晴らしい。音楽の評論と違って掲載された作品を見ながら読めるのでわかりやすい。凄すぎてなるほどわからん部分も少なくないのではあるが、土門拳が常に写真の社会性、レゾンデートルを常に意識してきたのはよくわかる。
そして次の驚きは溢れるヒューマニズムである。これほどの第一人者にして、写真より人間優先。ここは揺るがない信念が感じられる。
『ヒロシマ』についての座談では峻厳な批判を自己にも向けている。単なる頑固オヤジではない人柄がひしひしと伝わってくる。
土門拳の写真は、後付けの加工でどうこうするタイプのものではなく、パチリと一瞬で勝負するタイプ。撮るのは心象風景ではなくモチーフのリアルである。
アーティストというよりアスリートに近いのではないか。いつか山形酒田の土門拳記念館に行って土門拳の作品をしっかり見てきたいと思う。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

電子書籍異邦の仔

2020/08/07 00:23

壮絶バイト体験++

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作者が若いころODAがらみの出稼ぎでイラクに行き、イラク戦争に巻き込まれ命からがら帰ってきたという壮絶バイト体験がバズっていたのを読んで即買いした。
電子書籍で読んだのは紙がなかったから。作者いわく一番売れなかったというのはタイトルも表紙も地味なせいだろうか。仕事に行く途中の電車の中でスマホで読んで乗り換えを忘れてしまったほどだから、面白くなかったというとウソになる。当初は件の壮絶バイト体験が詳述されるだけでも十分と思ったのだが、きちんとスケールも、プロットも、キャラもしっかりした小説になっていて、なんというか上手い。作者の正義感というか、誠実な人柄が伝わってくるのも好ましい。昼下がりの刑事ものテレビドラマのような雰囲気もあるので、そういう系統が好きな方は大いに楽しめると思う。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

57 件中 16 件~ 30 件を表示
×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。