L療法さんのレビュー一覧
投稿者:L療法

悪党・ヤクザ・ナショナリスト 近代日本の暴力政治
2021/08/01 07:56
土俗的思考
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日本の文化と政治についての本。
ここに描かれてることは、今も続いており、私が幼い頃の少年漫画、本宮ひろ志系統などを思い出します。
直系ではないものの本宮を強く意識した、宮下あきらや、梶原一騎フォロアーであろう、小林まことらによって、硬派や、不良というものは、茶化しの対象になりつつあったとはいえ、なんだかんだ今でも、不良文化や、男らしさを讃えるような物語は、途絶えることはありません。
どおくまんの漫画で、応援団がスト破りに駆り出される話がありましたが、暴力装置、あるいは、明治を温存するものとして、体育会系や不良文化があるんだなと納得してしまいます。
(現在はお笑い芸人などが、彼らの役割を担ってます)
これらの旧弊なもの、保守反動は、理念で動いているというより、損得でうごいます。ご主人様のいる封建制の中で染み付いた階級意識、島国根性の飼い犬の発想でしょう。
何も変わってないどころか、近年、この傾向が肥大化していることにお呆れてしまいます。
この本は、第二次安倍政権以前に書かれたものです。
民主化革命を経験しなかった、日本的なことを余すところなく描いてますが、本来、日本で問題提起すべきことだったんではないでしょうか。
メデイアが彼らに屈服し、自民党に何か問題があると野党がだらしないからと、責任を転嫁する、家畜化されたこの国で、民主主義が掴み取られる日は来るのでしょうか。
暗澹たる気持ちになります。

タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源
2022/10/07 17:56
オルタナティヴって言葉の意味を考える。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
原題は”OTHER MINDS”
そのほかの精神(たち)とか、そのほかの心(たち)と訳される。
この本では、タコと、コウイカとツツイカの「知性」のようなものを考えながら、人類あるいは脊椎動物の精神についても考えていく。
ダイバーでもある作者のエッセイ風の文章から始まるけれど、本書は軽い読み物ではないし、作者の体験が全体から浮き上がるようなこともない、きちんと主要な論点に触れる事柄である。
とにかく面白い。
共通の祖先は遥か昔、おそらく、全く別個に知性を育んできた、頭足類と脊椎動物。
ひとまとめに頭足類としているが、コウイカとタコも、まあまあ昔に分岐しており、見た目以上にかけ離れた存在である。
最も古いオウム貝を別にして、何のために彼らは高度な情報処理能力を蓄えたのか、見た目に反して、機械的なまでに短命な種が多いのはなぜか?
本書は魅力的な謎を繰り出してくる。
魅力的な謎とは、解明されざる謎だ。
注を読んでいくと、現在進行形で研究が進んでいることも伝わってくる。
人の体は、ネットワークの一部だ。
タコもまたそのネットワークに繋がってる。
オルタナティヴって言葉の意味を考える。
文章は平明で鮮やか。
これは未来の古典になるような本だと思う。

負債論 貨幣と暴力の5000年
2021/08/12 17:44
おすすめです。 長めの訳者あとがきに、要約が書かれているので、図書館などでそこだけ読んで興味を持ったらお読みいただきたい。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
幅広い視点で縦横無尽に語られる様は、イデオローグかくあるべしの、語ることの愉楽に満ちている。
信用(取引)についての記述が多い。
信用は、交換を支えるとともに、束縛と化す。
しばしば不当な(選択の余地がなかったりする)負債であっても、借りたものは返すべしとの、「道徳」についての疑義でもある。
この疑義が、アナキズム人類学たる所以だろう。
ここには権力、階層を生み出す、強化する働きがある。
債務は対等な取引にはならない。
返済の義務を負うことは、文字通り負い目となる。
それは、縛り上げ身動きを奪うのである。
債務を、貨幣の根幹に置く信用取引、資本主義の強奪は、格差を加速する。
賃労働は実の所、奴隷労働の洗練された形態に過ぎない。
全ての人が負債を負っているが、権力者、多くの債権を抱える豊かなものは、守られていて、極端な話無限に返済を先送りしたり、国家に助けられたりする。
それに対し、小学の金を消せないほど困窮したものは、それによって罰せられる。
負債の多くは、生活の必要によるものだ。
十分なお金を得てないにもかかわらず、消費が求められるし、消費をしなければ、生きていけない。
奴隷たちは、自らの他に売るものはない。
イヌイットは言う。
「この地でわれわれがよくいうのは、贈与は奴隷をつくり、鞭が犬をつくる、ということだ。」
これは資本主義のオルタネイティヴ、外(この地)からの的確な視点だ。
キリスト教の「原罪」は、返済不能な債務である、私たちは、見知らぬ債務に苦しめられ、債務の帳消しを、死後に与えられる。
これはまさに、犬の生活ではないのか?
奴隷制は、家父長制と深いところでつながる。
家父は栄誉を求める。
本来、栄誉を求めることは倒錯である。
求めて得られるものは虚偽である。
栄誉とは他者から剥奪することで増えるものである。
資本主義は自らの破壊に向けて突き進む。
信用によって立つ仕組みは、信用によって視野を狭める。
長大なるこの本は、視野を広げる助けとなるでしょう。

スピノザ全集 3 エチカ
2023/01/31 17:58
人格的神など想定する必要はないのではないか。 愛のシステム。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
解説によれば、この翻訳は、最近まで主流であった全集に基づく岩波文庫版よりも若干読みづらいらしいが、特に難しい訳文ではないようです。
訳註は、編纂時の事情などがメインですので、こまめに参照しなくても問題ないかも。
逆に、編集の苦労が伝わるという意味で、訳註だけで、独立した読み物となり得る。
スピノザは、神というものを、キリスト教の概念から遠ざけるような定義をつけつつ、神というものを信じ切ってるようである。
本書は、そのあたりに『神学政治論』よりもっと踏み込んでいる。
それだけに、論理的な神の肖像、絶対的領域には、無信仰者として違和感を覚えてしまう。
ならば、人格的神など想定する必要はないのではないか。
愛のシステム。
そういうものを定義づける手続きは厳密に感じられるが、神という言葉が、どうにも引っかかる。
この神は、旧約・新約の神であると、スピノザは考えていたのだろうか。
本書は、断片を編纂したものではなく、設計に基づいて、書き進められたものと思われる。当初の予定通りではないものの、構想として全体があったと、推測されている。
だから、断片の重なりとして、切れ切れに読むのではなく、ある程度短い期間に読んでしまうことが良いように思う。
他の本を読みながら、断片的に読んで、反映が頭に入ってこない部分があったので、ある程度集中が必要。

諏訪信仰の発生と展開 日本原初考
2022/11/25 16:50
三部作完結。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
縄文時代までダイヴしていく、祭祀の旅は、今回割と見取り図的なモノを提示してくる。
具体的な資料が多いため、若干読みにくくはありますが、視覚的に、祭祀の様子、神秘体験の現場の様子が描き出されてくると、めまいのようなモノを覚えます。
2017年に出た文庫版、2022年で5刷。
このようなものが善くぞって数字だと思う。
元になる本はかなり古いので、その後の進展などを伝えるブックガイドなどがあるとよかったように思う。
狩猟民の系譜で、隼人族の話が出てくるのだが、『薩摩義士伝』のあの鮮烈なエピソードが思い浮かんでしまう。
九州の狩猟採取民の末裔は、信濃の人々より、手荒く古を伝えていたのだと思われる。

それでも、日本人は「戦争」を選んだ
2022/05/23 16:21
日本学術会議任命拒否事件(これは事件なのです)で、任命拒否された学者の一人である、加藤陽子さんが、中高生のために行った授業。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日本学術会議任命拒否事件(これは事件なのです)で、任命拒否された学者の一人である、加藤陽子さんが、中高生のために行った授業。
ですので、義務教育を受けていれば読み通せる本です。
扱っている事柄には、正解などないような物で、そう言ったことを難しいと思ってしまう人もいるかもしれません。
本書は、問いを立てることを訴えています。
適切なる問いと、無意味な問いがあります。
問いは直感的な物ではありますが、何かを知っていれば、その精度を上げることが期待できるでしょう。
我々は問いかけて、わからないことはなにかを知らなければならない。
明確な答えは歴史において成立するのか、私は、消え去った多くの物事ゆえに、厳密には不可能なことだと思います。
私たちは、経験と記録と、痕跡を通してしか、過去を知らず、それは常に不十分な物です。
問いを立てる、考えることは、その抜け落ちた部分を読み解き、仮の答えに近づくことです。
そのためには、出鱈目であってはならない、恣意的であってはならない。
欲望に負けてはならない。

責任という虚構 増補
2021/10/04 12:26
真実とは個人的な視点である。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
責任の根拠となる、意思、自由な意思に基づく決定はあり得るのかを、行動時に測定された神経の働きや、法学、哲学などを縦横に引用して、責任が、社会のための一つの装置であり、物語的なものであること立証していく。
これは現実とは何かってことにも関わる。
真実は個人的な視点である。
個人は、自由意志があやふやである以上、あやふやなものとなる。
いろんなものを沈殿させた、流されゆく個人が、そのほかの何かと絶えず交差する時に生じる、あぶくのようなものが、実態のある意思のように見えて、その見せかけが、責任の根拠のようなものになる。
(体験が沈殿物の一つだし、想像もまた体験だろう。虚構も沈澱する。)
あぶくは、外的状況による、偶然が形作る。
責任あるいは、自由意志が必要とされるのは、社会あるいは共同体のためである。
それは、巡り巡って個人のためにもなるかもしれないが、ついでのようなものだろう。
この虚構は、虚構だからけしからんと言ったものではない。
そもそも事実の存在すらあやふやになりかねない考えではあるが、作者による立証を否定するのは難しいだろう。
なかなか衝撃的な本。
本書は、フランスでの出版を、やんわり拒絶されたとのこと。
(フランスの人文書は、数百部という小さな市場のようです。図書館だけに置かれるのでしょう。)
ホロコーストに関する責任という、ナイーヴな問題に難色を示したのだろうと、作者は推測している。

カラー図解アメリカ版大学生物学の教科書 第5巻 生態学
2021/08/25 17:56
この星で生きることについての見解。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
今回はこれまでと雰囲気が異なり、地球の生物環境の変化に対する危機意識が全体を貫き、教科書というよりも、啓蒙書のような感じがある。
最近、わたしが住む地方の大手新聞の一面に、地球温暖化は左翼のでっち上げといった趣旨の、Canonのシンクタンクの人によるフジサンケイグループの書籍広告が載っていて、金を持ってれば何でもできてしまう、野蛮な世界に自分が住んでいるのだと、嫌な気分になった。
現代は、時代区分として、人新世と呼ばれ始めている。
人が世界の構造を書き換えているのだ。
温暖化のみならず、環境破壊、生物の選別、移動、品種開発など、地球の歴史上かつてないような速度で、生命圏が書き換わっている。
現在求められるのは手付かずの自然を残すことよりも、ごく最近まであった多様性を、積極的に回復させ、気候風土に合わせて新たな生物サイクルを生み出し、人類による破壊を止め、修復を急ぐことである。
これは経済活動と両立すると思う。
なぜなら、長期的に見れば経済の基盤をも再生するからである。
基本的に、日本人は、(多分世界中ほとんどの人も)いつも忙しく暮らしている。
質の良い情報を入手することが、困難になってきている。
情報に触れる機会は、ネットによってとてつもなく増えたものの、情報を見極めるための知識、まともな情報の蓄積を作ることが難しくなっている。
差し出された、適当な言葉達に、ともすれば埋もれがちで、いったんまともな見解を身につけていたはずの人たちまで、おかしな論理にはまり込んでいく。
科学的な捉え方は、政治や歴史にも有効である。
このシリーズのような、まともな情報に、たくさんの人が触れることを切に願う。
人は、学び続けねば、愚かになります。

言語・思考・現実
2021/07/30 02:18
言の葉
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
言語についての本です。SF好きにもおすすめ。
言語の構造が文化よって大きく異なることが実例によって示されていくところは、
文化人類学のようでもあります。
言葉のありかたが異なる場合、翻訳は非常に困難となります。
私が子供の頃、西部劇などの影響で、インディアンの喋り方が、強調された表現で描かれていました。
あれは、カタコトであるのではなく、そもそも文法が異なるんだということが、この本を読むと理解できます。
同じ出来事を示す文章が、異なる構造を持った文法で示されているのです。
これは単語を直訳し、文章の組み立てを再配置することでは、解決しないものです。
直訳では、意味が伝わらなくなります。
そもそも対応する言葉の使い方がないことすらあります。
翻訳することの困難が、よくわかりますが、これは同時に思考にもあてはまります。
文化の違いとは別に、言語の違いから、私たちは、異なる世界を見ているとも言えます。
本書で語られてることは、言語や、哲学の初心者には少し難しいので、理解したとは言い難いのですが、大変面白い本です。
文字通り世界の見え方が変わります。
本書には、長めの編者解説と翻訳者解説がついています。
この本は、サピア=ウォーフ仮説関係のみ抜粋したもので、ウォーフの一面を切り取ったものに過ぎませんが、驚くべき人物です。
原著の未収録部分や、そのほかの論文なども収めた、次なる翻訳を期待したいです。

鮎川信夫詩集
2020/11/30 15:30
過去の傑作を恐れよ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
現代詩分庫の9番であり、その後、続、続々と、編まれることになる、鮎川信夫撰集。日本について語っている言葉は、とても鋭く。その頃の日本から、日本は何も進歩してこなかったことに驚く。怜悧な方であったのだな。

ロボ道楽の逆襲 (CUE COMICS)
2024/02/12 06:11
企画もの。 (とり・みきの場合、コンセプチュアルなものが本領発揮)
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
超絶技巧と、長年の蓄積がメガミックスされている作品を含む。
パロディや引用、カヴァー多めで、元ネタ全てはわからない。
作者と同世代でも、宇宙人怪談的なものまで、知ってる人は少ないような。
とにかく、おたく度が非常に高い本を、カッコよくまとめ上げる凄さに、圧倒される。
発表当時すでにベテランで、今も尖った仕事を続けてる。
封印された『バラの進さま』をはじめ、代表作が入手困難なのが残念でならない。

ポジ (BAMBOO COMICS)
2024/02/11 17:15
BLというにはボーイの年齢超えた話もあります。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
表紙のキャラ。
成人マークはついてないものの、SMポルノなので、未成年は隠れて読みましょう。
明るいバカエロと書いてますが、やってることはハード路線で、多分、掲載誌のカラーなんでしょう。
読ませるエロ漫画です。
AVや風俗のプレーを、漫画に置き換えただけってのも珍しくない中、好感が持てます。
エロに抵抗感がない漫画好きにはお勧めできる内容。
実質成人向けなので詳しい話は書けません。
が、
ポジティブなのかな?

ネガ (BAMBOO COMICS)
2024/02/11 17:07
『ポジ』と対をなす短編集ですが、特に関係はなし。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
連作が二つと読み切りが二つ。
最初の連作は、もう少し整理したほうがいいのではないかって気もするけど、感情の振り幅とか共感能力が私にかけてるだけかも。
お気に入りは、ピアッシングの、ディシプリンの話。
身体改造党作は乱歩の子で、かつて知ったる何とやら。
続いての話は切ない系。
これがネガってことなのか、でも(この本)全体的にそうネガティブな話じゃない気がする。
最後の読み切りはおふざけ漫画で、女子主人公目線ってことで、一番少女漫画してる。
ネガポジって言葉、写真とか、明暗とか、あまり重たくは考えてないんだろうか。
高低差キツい、感情のドラマは、運命に流されまくって、メロドラマだと思う。
『ポジ』に比べたら、ポルノ的暴走はほぼないので、BLやポルノ苦手な人にも恋愛ものとして読めると思う。

マイ・ブロークン・マリコ (BRIDGE COMICS)
2024/02/04 07:14
劇画だ。 セリフよりもコマ割りが、構図が感情と物語を構築していく。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
こういうのが読みたい。
やたらと説明的なセリフや、過剰なノリツッコミに、馬鹿馬鹿しいキャラたて。
違うんだ。
漫画ってもっと映画みたいにやれるんだ。
そんなことを思い出す。
大ヒットしたんで、あんまりお話には触れないけど、取り戻す話。
踏み込んで取り戻して、もう一度失って、取り戻して、それでやっと、本当に取り戻す。
そんな話。

蟷螂の檻 5
2024/02/04 07:05
登場人物が少ないこともあり、まるで舞台劇のように凝集される。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
リアリティー的には詰めが甘いところもないではないが、そんなもの、お話にとっては重要ではない。
この本では濃厚な時間が流れる。
作者的には、愛の話だったのかもしれないが、ずっと支配・非支配の共生関係の話だったように思う。
BLは、関係性を凝視する。
なんなら、描かれてない事柄を妄想する。
ここに愛を読み取って紡ぐことが、正統派の鑑賞法なのかもしれないが、力と依存の話に思える。
本来なら、BBCよりも先に、日本のテレビがジャニーズスキャンダルを伝えるべきだったし、ずっと早くに、司法が動くべきだったと思う。そういったことを思い出す、児童への性的虐待のはなしでもある。
だからこれは、傷の話。
傷つけられることと、傷つけることの話。
出版社の本書の紹介文が下品なのが残念。
BLにおける、オスメスって用語の使われ方、ポルノの一ジャンルでもあるけど、男性同性愛者ではなく、主に女性向けのジャンルで、侮蔑的にメスって言葉を使うことの屈折。
これはマゾヒズムなのだろうか?