びびすけさんのレビュー一覧
投稿者:びびすけ
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2016/01/11 15:37
地方鉄道の「一所懸命」
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地震や台風の被害を契機として廃止に追い込まれた鉄道は、過去に幾つもあります。東日本震災のときの三陸鉄道の被害も、損傷300個所、復旧費用試算108億円という深刻なもので、会社の存続が危ぶまれる状況でした。この漫画は、そんな危機に陥った三陸鉄道の奮闘を記録したものです。
最終的には、国費での支援が決定し、全線で運行再開できたのは周知の通りですが、この漫画の制作が始まった時点ではそれは未定でした。漫画に登場する社員たちも、地震直後はもとより、作者の取材に対応している時点でも、大方は先の見通しが立たない状況の中にあり、それでいて、前向きに取り組んでいます。
ことに強い感銘を受けた場面が二つあります。大津波警報が解除された直後、全線の被害状況を社長自ら見て回り、その余りの深刻さに一時は呆然としますが、帰社すると決然とした顔でこう宣言します。「落ち込んでいるヒマなんかないぞ」「早く列車を走らせるぞ」「運賃はタダだ。1週間無料で走らせるぞ」。そして、地震から9日後、一部区間で運行が再開されると、乗客は口々に「ありがとうございます」と述べ、沿線住民は、その列車を笑顔で手を振って迎えます。運行再開に至らない区間では、近所の住民が、列車の来ない駅を毎日自主的に掃除して再開を待っています。
もう何回も読み返していますが、いまだに、ぼろぼろと涙が出てきます。
地震の4年前に岩手県を観光で訪れた折、宮古駅で時刻表を見ると、そこから三方向に伸びている鉄道の内、運行本数が最も多いのは、三陸鉄道でした。旧国鉄が経営を放棄した路線が、旧国鉄が自社線として残した路線よりも高い利便性を提供しているという、一見倒錯した状況に、考え込んでしまいました。
この漫画を読んだ時、その答えを見たような気がしました。多くの事業所を保有し、不採算部署からは撤退することが会社全体のためになるような大企業と異なり、三陸鉄道には、あの路線、あの地域が全てです。彼らの運命は地域社会と一蓮托生であり、その取り組み姿勢は、文字通りの「一所懸命」でした。そして、その姿勢が鉄道の利用者にも伝わり、この漫画に描かれているような、鉄道事業者と地域社会との幸福な関係が出現したのでしょう。
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