minorinoriさんのレビュー一覧
投稿者:minorinori
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朔が満ちる
2021/08/11 07:30
傷ついた魂の再生
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何と壮絶な物語だろう。この物語はあまりにも凄惨な幼少期を死に物狂いで生き、サバイブした子供たちの記録だ。
過酷な幼少期を潜り抜けてきた人間ばかりが登場する。その中には自死を選ぶ人間もいる。そこには慰めなどない。
この物語はそんな彼らの再生の物語である。再生の過程の何とエネルギッシュで生きることに真摯であることだろう。
いつまでも彼らの幸せが続くことを願って本を閉じる。
平和な現代の日本においても親に捨てられ、あるいは人間としての尊厳すら奪われている子供たちが想像以上にいる。
そして祈るのだ。そんな彼ら、彼女らに幸せがあらんことを。
この再生の物語は、切実なまでの作者のそんな願いに満ち溢れている。欠けてゆく月がやがて満ちてくるように彼らが少しでも温もりに浸れることを。
人の世の生業のなかで紡がれる、縁というものに。切っても切れない親子の縁というものにわずかでも希望の光が射すことを。
人間の悲しい業というものにあらがえるわずかな力を彼らに与えられんことを。少しでも幸せが満ちてくるようにという痛切なる願いとともに。
強く魂を揺さぶられる名作である。
あこがれ
2016/08/09 05:20
どこか懐かしいピュアな小説
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断然、圧倒的に、第1章の「ミス・アイスサンドイッチ」が良かった。
とても懐かしい気持ちで読んだ。
中学高校のころ耽読していたレイ・ブラッドベリあるいは宮沢賢治の世界。
あるいは大島弓子の少女コミックの世界。
ピュアで、すぐに壊れてしまいそうで、男性でも女性でもなく、中性的な子供独特の世界。
いつの間にか失われてしまった世界。
取り戻そうとしても決して取り戻せない世界。
今となっては「あこがれ」るしかない世界。
この人の本質はやはり詩人だと思う。
振り幅の大きい彼女の作品群のなかでももっとも詩情豊かな作品と言って良いだろう。
特に印象に残ったのは主人公の心の動きを、スチールカメラで切り取ったような情景描写で積み重ねてゆくところ。
「ミス・アイスサンドイッチ」でいうと84ページ。
ミスサンドイッチに絵を渡したあと、帰るところの転換。
この繊細さは見事というしかない。
<本文引用>
アスファルトの地面は黒いところと濃い灰色がびっしりつまっていて、靴底にあたる感触はいつまでもかたかった。
スーパーのわきにきちきちにならべられた自転車。クリーニング屋さんの看板の蛍光の色をしたまるっこい文字。政治家の顔がいっぱいに写ってる四角いポスター。ペンキがはげて途切れ途切れになった白線。もう誰も住んでいる気配がなくて古くなった家の紙とかちらしが飛び出している郵便受け。名前を知らない緑の草たち。たくさんのダンボールに野菜を入れてトラックに積んで売りに来ているいつものおじさん。このあいだヨークシャテリアをみかけた茶色のベンチ。何に使うのかはわからないけれど、誰かの庭の、水をいっぱいにためた大きなたる。掲示板にはられた何枚かのお知らせの紙。マンションの三階のはしっこのベランダから飛びだしてる色あせたサーフボードのゆるいさきっちょ。鉢植え。ドアの前の三輪車。表札。マンホール。門とかゴミ箱。ぼくはそんなものを眺めながら、家までの道を歩いていった。
みごとだ。
わたしを離さないで
2016/03/01 05:10
読んでから見る
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すでにドラマを見ている方には申し訳ないが、この本については先に読むことをお勧めしたい。
おそらくはかなり最初の段階で、作者も明らかに意図的に悪い予言でもするかのように、何気なくキーワードをひそませてくる。それに読者も気付く。しかし、その悪い予感を信じたくない思いの方が強く、物語を読み進める。
作者はこれでもかというくらいに、絶妙のタイミングで悪い予兆を投げかける。それもわずかなばかりのヒントを。
最後にすべてが明らかになる。読者の予想通りだ。絶望的なまでのストーリーのはずであるのに、どこかに安心感が漂う。いかにも英国文学。
最後まで一人称の独白で450ページを読ませる作者の力量に感嘆する。翻訳もうまい。
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