クッキーパパさんのレビュー一覧
投稿者:クッキーパパ
悪意の心理学 悪口、噓、ヘイト・スピーチ
2016/10/25 21:33
重い内容だが、読後は爽快でもある。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
家庭内や職場のあの会話、この言葉も、こういう風に整理できるのか。店や病院でちょっと気になる日本語も、そう感じるのは自分だけではなかったのだ、とすっきりする。ヘイトスピーチのメカニズムもそう考えるのか。日本社会が抱える問題点もズバリと言い切ってくれる。最初から最後まで納得出来る一冊はすばらしい内容だった。
名画を見る眼 カラー版 1 油彩画誕生からマネまで
2023/07/17 12:06
カラー版で待望の名著復活です。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
昔、本書の旧版を読んだ際の自分のメモに「やはり絵はカラーで見たい」と書き残していましたが、それが出たということで即断です。その後の調査結果や図版などが追加され、先ず本書の企画に敬意を表します。著者の言う通り、絵画は漫然と見るよりも専門家の説明を踏まえて見た方がぐっと興味と理解が深まるし、その絵が書かれた時代の歴史的背景も知っていればもっと楽しいのは間違いありません。殊に著者の文章は簡潔で、各章の内容も長過ぎず短過ぎず、品格と趣のある素晴らしい解説です。何回でも読みたいですね。もちろん続編も購入します。
怒り 心の炎を静める知恵
2022/03/12 21:20
禅僧の言葉
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
生来の短気もあり、タイトルだけ見て手が伸びてしまいます。読了後、偶然にも先日、著者の特集番組が深夜に放映されていました。1月に祖国ベトナムで95歳で逝去された禅僧を追悼するため、2015年に2週に亘り放映されたNHKの「こころの時代」が再放送されたのです。
著者が平和を訴え続け、その熱い言葉と行動に、キング牧師やダライラマなど世界の多くの人が共感した高名な禅僧であることや、生前のその活動ぶりなどをはじめて知りました。本書には「怒りは赤ん坊で、その母親は自分だ。怒りを受け入れてゆっくり呼吸すれば、赤ん坊は安心する」など分かりやすい言葉やたとえが数多く書かれています。今回知ったその穏やかな表情や肉声をイメージしつつ再読してみたいと思います。平和を願う著者がもう少し長生きしていたら、今どんな言葉を発するのか、と思います。
旅のつばくろ
2020/10/13 19:22
エッセイもいい。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
かなり昔になりますが、東京駅八重洲にある大型書店での著者のサイン会での、あの暖かな握手を思い出しながら、一編一編楽しみました。小説もいいけど、やっぱり著者のノンフィクション、そしてエッセイが好きです。
コロナという問題はありますが、旅がしたいと心からそう思いました。
ヒトラーの馬を奪還せよ 美術探偵、ナチ地下世界を往く
2023/12/16 21:54
これってノンフィクションですか?
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「これは面白い!」中野京子さんの書評の一行目に100%同感です。著者はオランダ人の美術調査員というより美術探偵。これも日本では馴染みが無いので、ますますフィクション感が増しますが、ネットでチェックすると、2015年5月21日AFPはきちんと報道しています。殊に本書の前半は、掲載された「証拠写真」と共に、驚きの展開。美術品闇取引を舞台に次々と登場する仲介者、スリリングな内容はホントに面白いです。ドイツ戦後史にも触れつつ、ヨーゼフ・トーラック、アルノ・ブレーカーといった芸術家も知ることができました。但し登場する人名をきっちり覚えておけばもっと集中して楽しめたかと思います。翻訳もスムーズですね。お薦めです。
みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記
2023/03/12 13:28
日本人として知っておくべき事を教えてくれる労作です。
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書評をみて『旅ごころはリュートに乗って』を読もうかと思ったのですが、先ずはこちらと本書を買ってはみたものの、暫しツン読になっていました。早速読むべきでした。これまで自分は注目したこともないリュートという楽器を著者は自らレッスンを受けたり、自分は見向きもしなかった日本のキリシタンの歴史を、そのために著者は運転免許まで取得して足でかせぎ、そしてスペインの地方まで訪れ、五感をフル回転して描いたそのエネルギーに圧倒されました。そして歴史は今に繋がっている、それが4世紀前の地方のことであれ、日本で起こったことを日本人として知っておくことが大切だと痛感します。「殉教」とは何か、「信じる」とはどういうことかなど様々なことを考えるきっかけを与えてくれる労作です。また著者は分からんことは分からんと言える実直な、素直なお人柄と感じます。欲を言えば、もう少し関連の地図とか図柄などを掲載してくれれば嬉しいですが、自分で調べるべきですね。機会があれば長崎にも行ってみたいものです。
しろがねの葉
2023/01/24 20:56
堂々たる力作です。
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書店に平置きされた直木賞候補作の中から、表紙の美しさにも魅かれて、本書に手が伸びました。初めて読む著者の作品ですが、すぐに受賞作品が発表され、嬉しい気持ちになりました。石見銀山の過酷な労働環境下、主人公の成長と、天才山師との微妙な関係などが、きっちりした文章と、美しい自然描写とともに描かれていきます。時代背景はあまり多く描かれないことで、ストーリーに集中できたと思います。主人公の強さ、生命力を感じつつ、後半の展開も良くて、殊に最後の二章は感動的でした。著者はインタビューで現場を歩き回ったと言っていましたが、この世界遺産も一度訪れて「間歩」を実際に見てみたいと感じています。素晴らしい力作です。
夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く
2022/12/24 00:25
著者の思いが、最後までじっくり読ませてくれます。
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聞いたことも無いロシアの文学者の名前が数多く出てきて、そこは少し気後れするのですが、著者の文学への情熱が溢れていて、素晴らしい内容です。文学大学での生活は苦労の連続でしたでしょうが、アントーノフ教授との思い出は羨まし様な気もします。後段は更に重厚で、「人と人を分断する言葉ではなく、人と人をつなぐ言葉をどうしたら選んでいけるか」、言葉が大事なのだとその思いは一貫しています。生意気ですが、この人は本当に優秀な研究者なのだろうと思います。クールな描写と鍛えられた文章で、最後までじっくり読ませてくれる好著です。
一汁一菜でよいと至るまで
2022/07/16 09:13
行き着いた場所
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著者の事はテレビを通じて知っていましたが、楽しく読みました。著者とはほとんど同い年で、幼少期の思い出などは自分のそれと重なったり、フレンチや日本料理の店での修行時代のエピソードも、雑学的な知識は参考にもなり、面白かったです。そのような経験を経た到達点が一汁一菜で、感覚的にはそれでは栄養不足ではと思いましたが、著者の思想は遥かに柔軟且つ筋が通っていて、その視点に感心しました。著者のお人柄も感じる好著です。
レストラン「ドイツ亭」
2022/05/30 18:16
読み応えあり、面白かったです。
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「戦争犯罪」の報道に触れて、暫しツン読になっていた本書を読み引っ張りだしましたが、ページを捲る手が止まらない面白さでした。ホロコースト裁判への丹念なチェックが窺われ、同時に、設定とストーリー展開は映像が浮かんでくる見事な展開です(これは非常に優れた翻訳の御陰でもあります)。事実を知ってからのエーファの苦悩と変化。一方カナダ人司法修習生ダーヴィトの役回りがこんなに重要とは意外でした。微かな希望を感じさせるエンディングも良かったと思います。2022年の戦争犯罪行為も、時間がかかったとしても、必ず裁かれることを信じたいと思います。
新型コロナ7つの謎 最新免疫学からわかった病原体の正体
2020/12/16 21:48
「そもそも」の確認
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この種のテーマは最新情報がどこまで反映出来るか難しい所だと思いますが、ぎりぎりまで引っ張って頂いたと思うし、細菌とウイルスの違い等「そもそも」を理解していない自分には、頭と情報が整理できて、ありがたい内容です。理解するには難しい箇所もそれなりにありますが、「今そこにある危機」に、緊張感をもって最後まで読めました。100年に一度のこの禍に関する本を持っていること、再読したり共有できることは意味のあることだと思っています。タイムリーな好著だと思います。
モード後の世界
2020/11/29 15:44
示唆に富む好著です。
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ファッションには無縁の自分と同じ年代の人が何を書いているのか、それが知りたくて本書に手が伸びた。文章に多少堅さはあるが、その内容は示唆に富み、鋭い観察眼に感心した。また豊富な経験を踏まえた確かな見方に、思わず唸らせる箇所も多い。むしろこれから日本が業界をリードしていく期待感も抱いたし、また著者のアフリカへの情熱も刺激になった。好著だと思う。「洋服屋…」などと謙虚な著者だが、その視線で、最新動向や現況も含め、是非続編をお願いしたい。
サイクス=ピコ協定百年の呪縛 中東大混迷を解く
2016/08/06 10:38
中東情勢の理解を深めてくれる好著
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放送大学の高橋教授が講義の最後に「これで分かったと軽々に言ってほしくないが」と補足していたが、確かに複雑で迷路のような中東情勢。その迷路を案内してくれる本書は、気鋭の専門家の好著であり、140ページの量を遥かに超える濃厚な内容なので、予想以上に読了に時間を要した。中東を巡る歴史ばかりか、クーデターが発生したトルコの位置付けの重要性も再認識した。欧米のビッグニュースで、日本では多少報道が減った印象の中東情勢に今後も注目したいと感じさせてくれた本書を、その理解を深める為の教科書として再読していきたい。一方で、最新情勢を盛り込んだ著者の新刊も楽しみに待っている。
ヨーロッパ覇権史
2016/03/12 22:07
じっくり再読します。
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新書という紙幅の制約がありながら、過去に教科書で習った事とは異なる事実も含めて、これだけの内容と情報量が手際よくまとめられていることに敬意を表します。最後はきちんと自分の立ち位置や考えを言い切っておられるので、好感が持てますが、この部分をもう少し膨らませて欲しかったと思います。全体を通じてとても勉強になりました。私にとっては是非再読したい一冊です。
欧州戦争としてのウクライナ侵攻
2023/04/23 07:32
優秀な研究者によるタイムリーな好著です。
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10年前にウクライナを訪問したことがあり、以来この国の事が気掛りで報道をチェックしてきましたが、優秀な専門家が記述するとこうなるのかと、その情報量、分析力、論理的構成力に敬服するばかりです。殊にNATOについては、自分の理解不足もあって、大いに勉強になりました。著者は、鳥瞰的視点で冷静にこの軍事侵攻の本質を探ります。冒頭で本書の構成がきちんと説明され、スムーズに読み進められますし、謙虚なあとがきと相俟って、著者への信頼感が増します。分断化される世界を少しでも理解したいと思いますが、本書はそれを強力にサポートしてくれるタイムリーな好著です。著者が「戦友、いや英雄」とする小泉悠氏や著者のように優秀な研究者がいることを、少し大袈裟ですが、日本人として誇らしく感じました。一読をお薦めします。
