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としさんのレビュー一覧

投稿者:とし

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本本や紅茶や薔薇の花

2016/05/17 05:13

陸奥A子の「言葉」

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

私がこよなく敬愛する漫画界のレジェンド、陸奥A子さん待望の新刊。1972年にデビューして以来44年、漫画ひと筋で今なお描き続けておられる陸奥さんですが、今回は初めて漫画ではなく一般書籍として作品を出されたことになります。

 陸奥さんはあるインタビューの中で、長い漫画家生活の中で「絵よりも言葉にずっとこだわり続けてきた」と述べておられます。一般に知られている陸奥さんの「乙女ちっく」ブームの立役者、「ラブコメ」の元祖、今や世界語となった「かわいい」カルチャーのルーツ、といったイメージやレッテルからすると意外な言葉に思えるでしょうが、陸奥作品をこよなく愛しつづけるファンにとってはごく自然に「そうでしょうね」と受け取れる言葉でもあります。

 プロである以上絵にこだわっていないわけはないでしょうが、そもそもこのお方は何を描いても勝手にかわいくなってしまう、それこそ電柱や郵便ポストや公園のベンチやヤカンでさえ、陸奥さんが描くとかわいく、表情を帯びた「いきもの」と化してしまうという具合で、「かわいい」の息吹を万物に吹き込み生命をもたらす天才、いや「かわいいもの」を司る女神、天女様なのであります。何かを意識してかわいく描こうとしたことなど、恐らく一度もないのではないでしょうか。

(ちなみに陸奥さんは「丸文字」の元祖でもあり、この言葉や概念が存在しなかった1970年代初頭から一貫して、コマ内の書き込みはもちろん、日常生活でも見事な丸文字を描いておられたそうで、日本の乙女たちはこれをお手本にして少しは字も書きなさいと言いたいほど美しい、真正なる丸文字を描かれます。余談。)

 さて、陸奥さんがこだわってきたというその「言葉」ですが、私自身、一生忘れられないというほど心に焼き付いている、名シーン中のセリフ、モノローグがいくつもあります。陸奥さんの選ぶ言葉は常にシンプルで、素直で、生きている人間のありのままの心の動き、喜びかなしみに沿ったものばかりです。作者が自分の思想や主張をお説教したり、教養やお趣味の高さをスノッブにひけらかしたりするために漫画のセリフを用いる、というような浅ましいことは、陸奥さんの描かれる世界には一切存在しません。あくまでも作品世界の中で生きている登場人物の、そのシーンでの自然で素直な気持ちだけが常に、動かしようのない正確さで述べられます。陸奥さんが「言葉にこだわる」というのは、嘘や飾りや衒いのない、まさに「その言葉」を得るためなのでしょう。

 そうした忘れ難い「言葉」の数々は、それだけを取り出して読んでみても十分に魅力的ですが、やはり陸奥さんの描く「絵」、そして彼女が構成するコマから切り離されるべきものではなく、その中で読まれてこそ真の存在感を発揮し、読者の心に深くしみいる実感と感動を生むのではないかと思います。わかりやすく言いましょう。陸奥さんの「言葉」、陸奥さんの「詩」、あるいは思想、美、アート、うた、何と言ってもいいのですが、それはやはり「漫画」なのです。

 その意味で「イラスト・モノローグ集」という今回の新作は、ストーリーと登場人物から離れたところで語られる、陸奥さんの「言葉」そのものにふれる上で、理想的なかたちなのではないでしょうか。

 この機会に、どうぞこの唯一無二の「陸奥ワールド」に足を踏み入れてみてください。真心を込めてお薦めします。

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