魚太郎さんのレビュー一覧
投稿者:魚太郎
破壊者たちへ
2021/10/19 16:39
怒りを絶やすな、忘れるな
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
怒りである。冒頭の「序に代えて」という序文が凄まじい。読んで震撼した。私自身は正直なところ、破壊者たちに対する感情は憤りを通り過ぎて諦めの境地に冷めかけていたのだが、目を覚まされた。そして再び怒りを共有したものの、私の思いは「破壊者たち」だけにとどまらなくなってしまった。彼らを許し、長期にわたって政権を支持した人々、国民の3割以上いると思われる、破壊者を支持し続ける人々への懐疑である。いうまでもなくこの3割強の人々の選挙における投票率は高く、残りの7割弱の人々の投票率は低い。選挙というフィルターを通ると、破壊者たちが圧勝して権力を握り続ける結果となるのである。支持する人々というのは、忖度をしてでも甘い汁を吸う仲間の側に入りたいと願う人たちなのだろうか。
暗澹たる思いに陥りそうな私に、怒り続けろと、青木理氏は喝を入れてくれた。
人新世の「資本論」
2021/01/30 10:29
人類への希望の光
8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
資本主義が継続する限り、地球は破滅に向かう。現代人は資本主義を止めることができない。ゆえに地球は破滅する。これは否定できない論法だと思う。
著者の主張は「脱成長コミュニズム」である。資本主義の超克。現代人が資本主義を止められない限り、資本主義の超克など夢物語であり著者の主張は非現実的と言われるかもしれないが、その認識は誤りだ。地球が破綻すれば当然、資本主義も破綻し終焉するのである。もしそこに生き残っている人類が存在するとすれば、彼らには希望がある。脱成長コミュニズムという思想を基礎とした社会の形成が可能だからである。著者はそのように、人類の生きる指針を示してくれたと思う。資本主義が破綻した焼け野原で、途方に暮れる必要はない。この本は、生き残る人類へ向けた希望の光である。
2017/02/13 18:04
気がついていなかった真実を知らせてくれる
9人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日本会議のような「右翼団体」は、戦後の民主主義社会において特異な価値観を持った人々の集まりで、多様性という観点からその存在は黙認するというのが私の態度だった。しかしこの本を読むとそれは、戦後民主主義を大前提とする相対的リベラル派(中道及び左派)の自己満足であり思考停止の罠に嵌っていたにすぎないと気付く。筆者は真摯なジャーナリストの立場で、日本会議の正体を暴いてくれる。日本会議の思想信条は、戦後民主主義とは相いれない。水と油ならまだ分離しているのでよいけれど、それは油というよりも悪性のウィルスである。彼らが増殖すれば、戦後民主主義はむしばまれ、体力がなければ民主主義は死亡する。今そのことを、この本は知らせてくれる。
自民党の統一教会汚染 1 追跡3000日
2022/11/12 12:55
宗教系右派団体と政治家
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
参りましたというしかないだろう。これだけ丁寧に淡々と客観的事実を積み上げられたら、反論のしようがないのではないか。この本は読み物として面白いわけではない。感情的になって場を盛り上げるような記述は皆無だからである。それがかえって不気味に、著者の心にふつふつと煮えたぎる思いを感じさせる。これほど長期にわたって、著者に取材を続けさせた動機というのは何だろう。それはおそらく、選挙を通じて自らの地位や権力の保持に統一教会を都合よく利用し続ける政治家への、憤りではないか。統一教会の非倫理的な資金集めの実態には目をつむり、関係を隠そうとしたり指摘されると逃げ回る様子は、みっともないと言うしかない。それにしても、他の団体でも感じたことだが、日本の宗教系右派団体の政治活動は組織的かつ周到で、日々の地道な努力にはむしろ感心する。これだけ熱心にやられたら、政策目標で類似部分の多い自民党はこれら団体を無視できないだろう。この関係はどう見ても持ちつ持たれつで、長い年月をかけて醸成されたものであり、これからも続いていくのではないか。日ごろ政治活動などしない中道や中道左派が、選挙で勝てないのは当たり前と思わされる。
2022/08/03 10:18
倫理的な抵抗を
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この本の帯には「なぜ、いつも頭から腐るのか!?」とあるのだが、これは少しピント外れである。この言い方だと、何か健全なものがあらかじめあってそれが頭から腐り始めるという印象を与えるが、事実はそうではないということがこの本を読めば理解できる。実態は、すでに腐っているものを社会が(選挙で)選んでいるのであり、選ぶ主体の有権者の多くが思考停止して、根腐りしているのである。「このような選択をする社会とはどういうものなのか」という問いにも、本書は切り込んで考察している。「日本の多くの有権者は各政党がどんな政策を掲げているのかロクに見ていない」という調査結果には信憑性がある。「とどのつまり民主制とは多数派獲得競争を原理とするもの」であり、その術に長けたものが政治的権力を掌握する。これは民主制そのものが持つ本源的な危険性であり、結果として衆愚制に至っているのは必然であると考えられる。この現状を踏まえたうえで、「今日本人が問われているのは、各人がそれぞれの持ち場で、その持ち場が本質的に要求することをどれほど真剣にやり遂げられるか、ということ」であると著者は述べる。そこからの倫理的抵抗である。心に沁みる。
2018/12/28 14:48
知らなければいけない
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「知ってはいけない」とは、そのように扱われてきた歴史的真実という意味である。CIAから資金提供を受けて成立した岸信介内閣以降、この国が主権を喪失していく過程が丁寧に書かれている歴史書である。これは真実であり、現在政治的権力を握っている人々にとっては、まさに不都合な真実である。著者は、右派も左派も目を覚ましてほしいと切実に訴える。まさに我々は次の時代に向けて、この真実を知り、認め、理解し、アイデンティティを再確認することから一歩を始めなければならない。その時が来ている。我々は、知らなければいけない。
月の満ち欠け
2020/02/05 09:08
小説の楽しみ
7人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
小説だから、筋書きは想像で創造できる。そんなことはありえないと興ざめすることなく、それが面白いと楽しめばよい。小説だから。
日本が売られる
2019/03/08 15:39
日本を売らせないために
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
何故だろうかと疑問に思うのは、日本を売っている旗振り役が「規制改革推進会議」のメンバーであり、これをやらせている「政府」であるということである。筆者の表現を借りれば「今だけカネだけ自分だけ」というところに思考停止している人々が、日本という国の、社会の在り方の方針を、牛耳っている。彼らが愚かであると、一方的に言うことができないのは、これが思想信条の違いであるからだ。格差を当然と容認して自由競争の勝者を目指す人々。かたや、分かち合い共生する社会を目指す人々。残念ながら現在は、前者が国の政策を牛耳っているというに過ぎない。諦めてはいけない、諦めたら終わりだ。本書の第3章に、希望を見いだす。
安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由
2019/01/07 10:02
権力と対峙する
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この書のタイトルは正確ではなく、誤解を生む。正しくは「安倍官邸とそれに追従するNHK vs. 一記者」である。権力とは、絶大である。国家権力はサンゴの海に土砂を投入することもできるし、組織権力は不都合な真実を暴こうとする一記者を簡単に左遷し葬ることができる。権力者と、そこにおもねる人々の自己保身が、正義感あふれる個人を揉み潰す。邪魔なものには蓋をして、捨てる。そして、のうのうと生きる。権力を前に、個人は無力だ。絶望。しかしこの著者のように、絶望を乗り越えて声を上げ続けること。それしかない。
力と交換様式
2023/03/14 15:37
Dへの希望
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
交換様式A・B・C、そして ”Aの高次元としての回復”としてのD。ほんとうにDは到来するのだろうか。交換様式A・B・Cがもたらす観念的(霊的)な「力」というものは著者の説明の通りあるように思われる。観念的にそう思うだけかもしれないが。いま現実にはBとCによって必然的にもたらされる戦争と恐慌が繰り返されている。いつになったらD がと思いを馳せると、大洪水が来て相当数の犠牲者が出て、人類が破滅した後にわずかの人が生き残り、その時ようやく生存者たちのもとにDが訪れる、そんな悲観的イメージしか今は持ちえないのだけれど。
真説日本左翼史 戦後左派の源流1945−1960
2022/03/16 08:36
右傾化即ち左派衰退の理由
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自民党右派が権力を掌握し、世の中がなんとなく引きずられている現在。社会が右傾化するとはすなわち、左翼が衰退するということである。その理由を知るためには、左派衰退の歴史と経緯を知る必要がある。その時現在の現実認識の甘さ、稚拙さ、将来展望の浅薄さ、そして基本理念の脆弱さがあったことがその原因と思われる。歴史と社会を俯瞰する視座を欠いていた。結局左翼は、社会の中のごく一部でしか在りえなかったのだと知る。勉強になる一冊。
2022/01/31 11:13
感染症学の純粋な専門家の正論
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この本は読んでおかなければならない。これは感染症学の純粋な専門家による、真摯な正論の訴えである。なぜこれが「秘闘」という題名の本になるのか。これは皮肉か諧謔か。社会全体の中における正論の取り扱いを、表象していると言えるのではないだろうか。感染症学の純粋な専門家の価値判断の基準は、「感染症を広げてはならない、感染症による死者を出してはならない」という当然の大前提に基づいている。これは専門家に限らず、現場に携わる多くの医療者にも共通する考えである。しかし国(政府)はそうではないのだ。「死者は増えるであろうが社会経済を止めないことを優先する」という判断のようである。そうでなければ世界的流行(パンデミック)下においてオリンピックなど強行できるはずがない。方針を決定するための価値判断の礎、すなわち、よって立つところの土俵が全然違うのである。「死者を出してはならない」という信念と、「死者が出ることは想定内として社会経済を回す」という考えが、相容れる余地はない。そして圧倒的に後者の方が権力を持っている。我々が注意すべきことは、政府が利用している「専門家」は人選段階から政治的バイアスがかかっていて、必ずしも純粋な専門家ではないということであり、一般国民向けのメッセージもその立場から発信されているということである。考えてみればそのようにして、その時代の政府が戦争を始めた歴史もあった。戦場にいる軍医は目前の兵士の命を救おうとするが、大本営にいる幹部は兵士の死を想定の上で作戦を実行するのである。今回の新型コロナ感染症対策と、重なるところがあるのではないか。
我々国民は、自らの命は自ら守るしかない。政府が想定する死者に、自分がならないという保証はないのだ。純粋な専門家をはじめとして医療現場や保健所、自治体は、死者が一人でも出ないようにと必死になっている。国(政府)はこの様子を、「何パーセントくらい死ぬだろうか」と上から眺めている。この本を読んで、そんな構図が見えてきた。
国体論 菊と星条旗
2019/03/04 10:30
政治的エスタブリッシュメントの地位保全のための国体
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そうか「国体」というものがあるのだなと知る。戦前戦後を通じて連綿と。そして現在はアメリカ隷従がその本態。日本の政治的エスタブリッシュメントたちは、それを隠しながらそれに立脚し、自らの地位の安泰を保っているという仕組みだ。一国民としては、政治的行政的なあらゆることに、と言えば言い過ぎだが、少なくとも重要な多くのことに対して、無力であると自覚するしかないか。
2017/09/12 15:06
知らない方が幸せだった真実
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日本国あるいは日本国民という、プライドや矜持を、実は我々は持つ資格すらなかったのだ。日本が、軍事的にアメリカ従属を続けており、事実上アメリカの支配下にある。主権国家の体をなしていないのだという現実を突きつけられた。しばし呆然とせざるを得ないが、ここから立ち上がらなければ戦後が終わらないと思うと、つらいものを感じざるを得ない。
2017/07/22 11:55
冷静で思慮深い、稀有な政治家だったと知る
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「日本はミドルパワーとして、東アジア共同体の中心的プレイヤーになるべきだ」という提言。「東アジアに多国間の安全保障の枠組みを作ることで、東アジアの緊張を緩和し、地域覇権国家の行動を慎重にさせ、日本を含む中小国家の自立を確保する道」・「東アジアにおける連携に努め、内にあっては低成長経済の下での新たな分配政策を実現する、成熟国家としての新国家モデル」を世界に向けて提示する。鳩山由紀夫は変人で宇宙人だという印象を、マスコミはこぞって作り上げ、短期間で総理の座から追い落とした。本書を読めばわかるが、この人はそのような人物ではない。むしろ、冷静で思慮深い稀有な政治家であったことがわかる。我々日本社会は、大切なものを見誤ったのだ。今一度、鳩山由紀夫の政治的復活を期待することは困難だが、この理念は次の世代に語り継ぎ、多くの人々に訴え続けなければならないだろう。