flowerofzabonさんのレビュー一覧
投稿者:flowerofzabon
最高のおにぎりの作り方
2020/09/30 18:22
古くからの言い伝えを知っている人ほど目から鱗の本
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ハンバーグやらパスタやらの作り方について徹底検証するシリーズが別著者にあり、そちらも面白いが、こちらは表題のおにぎりに留まらずベーシックな品目について科学的調理法を追求している。勿論樋口氏も調理しているが、参照できるものについては出展を明記した上でフル活用している。調理の科学については適当な言説がまかり通っており、それはプロでも然り。自分で調理する人は無論のこと、メディアの記事やコメントへのリテラシーを養いたい人にもおすすめ。
最後にもう一回ねんおし。おにぎり本ではありません。
食で巡るトルコ
2023/11/22 10:48
画期的な「トルコ料理名鑑」かつトルコ風土記
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
インド亜大陸の料理関連の本を立て続けに出版し、存在感、信頼感ともに近年急上昇中の阿佐ヶ谷書院からの画期的なトルコ料理本。
「世界三大料理」と称されるトルコ料理だが、日本にいてその全貌に触れることは難しい。その理由は(1)トルコは日本の2倍以上の面積を持つ広大な国でエーゲ海、黒海など複数の海に囲まれるが、イスタンブールや代表的な観光地以外の情報を得ることが日本では難しい。(2)日本におけるトルコ料理店は1980年代のエスニックブーム時から存在し、ベリーダンスの人気とも相まって底堅い人気があるが、一定のフォーマットを突きぬけた店が増えることはなく、現地感を感じられる店は少ない。ことがあげられると思う。
筆者は7地方、81県のトルコ全土のうち70県以上を訪れ、その地域の料理を地元の人と同様に味わう。すると、これがいかにもトルコなのだが、いろんな人が寄ってたかって地元の料理の紹介をかって出てくれたり、いろんな手配をしてくれたりするのだ。こうした人とのやりとりがまさに料理を通じたトルコ風土記になっている。その中には「少数民族」に該当する人も多く、トルコのエスニシティの多様性も感じられる。オールカラーの写真も楽しい。「先進国」の大都市に住む人以外の世界の大多数の人は食に保守的傾向を持つが、トルコもそうなのだろう、各地域の料理はイスタンブールでは見かけないもののようで、私も初めて知るものだらけで、本当に楽しくて興味が尽きない。トルコ料理を食べたことがない人でも十分楽しいと思う。
トルコ料理関連の著作も多い音楽評論家、DJで中東料理研究家のサラーム海上氏によれば、トルコ全土の料理を網羅したこんな本はトルコでも見たことがないとのこと。大部の力作だが続編をすぐにでも刊行できる材料はあるという噂なので、それまでは本書を堪能して待ちたい。(トルコ料理にも触れているサラーム海上氏の次作も阿佐ヶ谷書院から近々=2023年内に刊行とのこと。こちらも楽しみ)
唯一の欠点は、本書で書き立てられた食欲を満たす手段がトルコに行く以外にないこと。あー、トルコの郷土料理を提供する料理店が日本にも増えないかなあ。
気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?
2022/09/15 11:22
いろいろな点でのリテラシーが必要
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原題は “UNSETTLED: What Climate Science Tells Us, What It Doesn’t, and Why It Matters" Steven E. Koonin 2021
科学っていってもいろいろな分野があり、気象に関してのそれは確度を持って語れることなんてそうはない。(日本人は地震で同様の事象を経験しているのだが・・・)温暖化などの気候変動は認められるが、人為的活動による原因部分はそれほど大きいとは思えず、コストとベネフィットも考えれば人間ができることはそんなに多くなく、「適応」策が妥当なのではないか。マスコミ、科学者、政治家、活動家それぞれが利害に基づく行動をとれば気候変動は扇情的になりがちだ。特にモデルを回して得られる予測はパラメーターの設定が恣意的になりがちなので要注意。
本書でいっていることはそんなところか。いまや温暖化への警告本とともにそれに反論する本も多いが、本書の著者はアメリカの有数の科学者で、お騒がせ本がベストセラーになってもメリットはなく、それでも科学者としての良心から本書を書いたのだから信頼度はそれなりに高い。
温暖化などの気候変動にどんな態度を取るにせよ本書は必読である。
美味すぎる!世界グルメ巡礼
2020/08/05 11:35
好奇心と料理の腕を備えた著者の興奮を追体験できる本
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旅行で訪れた土地の美味しい物を書いた本はごまんとあり、編集サイド主導と思われる署名からは、凡百の類書と区別がつかないが、そんなお手軽に作った本ではありません。たっぷりと元手がかかった内容の濃い本です。
著者のサラーム海上氏は長きにわたりインドや中東などの音楽を文筆やDJなどで紹介してきた方。ミュージシャンの取材やフェスなどで訪れる各地の料理の豊饒さに魅せられ、自らも料理を作り、紹介している。特に近年は日本で初の本格的な中東料理のレシピ本の出版も果たした。(そういえば、音楽関連には食においても深い探求の成果を披露してくれる方も多い。ぱっと思いつくだけでも加藤和彦、小倉エージ、U-zhaan、マッキー牧元、菊地成孔などなど)
本書の優れている点として私が強調したい点は以下の通り。
1.筆者のメインフィールドである音楽関連の仕事で訪れた土地での体験なので、最初から料理ありきではない。行った、食べてみた、旨い!という体験の新鮮さを追体験できる。いい旅行記には必須の条件。
2.筆者は料理の作り手でもある。料理を分析するにも多面的な視点があるし、自らが作ってからのフィードバックもある。レシピも豊富。
3.ミュージシャンやその他の仕事での関わりのある人との交流に基づく家庭料理も取り上げられている。世界の多くの地域ではレストランと家庭の料理は違うし、その本領は家庭にある地域も多い。多くの旅行者は時間もないし、術もないしで家庭で食事をする機会は持てない。そうした空白が本書では埋まる。サラーム海上氏は語学も堪能だし、作り手でもあるので料理を教えてもらう機会を作り家庭での体験を重ねている。
本書を読んだ方は、現地に出かけて追体験するもよし、興味をもった地域の専門書や洋書などで深堀りするもよし、配信やCDに走るのもよし、どんどん楽しみが広がります。勿論、コロナ禍の今は自宅で料理を作って楽しむのもよし、ですね。
十皿の料理 コート・ドール
2017/03/31 22:25
料理人によるエッセイの古典
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昨今ではティエリー・マルクスやジェイミー・オリヴァーなど料理を職業として教えることで、人生をやり直そうとする若者を支援するシェフも増えている。
本書に登場するランブロワジーのシェフ、ダニエル・パコーも料理人になることで人生をつかむことができた一人。彼と筆者、斉須とのソウルブラザー振りは感動的。
人であれ素材であれ誠実に向き合うことの素晴らしさと、難しさがよくわかる。
後世に伝えていくべき古典。
2025/06/03 15:51
30年以上のインド食歴を持つ筆者ならではの卓見
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インドと陸続きのパキスタン、バングラデシュ、ネパール、更にはもろもと要素の源流であるイラン(ペルシャ)といった横の広がりと、歴史的な縦糸を視野に入れながら、筆者自身の30余年の食体験を重ねあわせ、インド料理を紹介しながらその背景に思いを寄せ、更には将来までを予見する、そんな刺激に満ちた本。うんちく本、食紀行、飲食店ガイドといった性格は勿論備えながらも、白眉は多様な知識と体験に基づいてインド料理の動態的な把握を試みている考察である。いわゆる「カレー」だけでなくスイーツや酒、飲料、定食など多岐にわたるのも楽しい。小林氏にはいろいろな引き出しがまだあるだろうが、本書でも片鱗が披露されている、インド国外のインド人街に関する文章もまとめて出版してほしいものだ。半可通が書くインド料理に関する本も増えてきたが、簡単には真似できない傑作である。
2025/03/24 15:15
現場、学術的な考察、大阪の歴史などがバランス良く記述されている
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在住外国人支援に関する本は山ほどある。本書を強く推薦できるのは1専門性に欠けがちな日本の新聞記者の限界をふまえながらも、記者ならではのバランスの取れた記述であること。2ボランティアの経験に裏打ちされたものであること。特にロンドンで自らが言語弱者、移民的立場にありながらのボランティア体験に救われた経験をふまえていること。3大阪の「同和教育」「解放教育」「民族学級」などの歴史をふまえていること。「しんどい子ほど手をかける」という公正さへの理念の重要性を明示していること。4研究者的なアカデミアの視点もあり、そうした知見に基づく考察があるべき姿の模索へのヒントとなっていること、にある。5外国ルーツの子どもにとっての支援教室という場所の在り方が、一般的なサードプレイスの議論などとも通底していることを示唆していること。 などの点による。残念なのは私が本書を知ったのは居住地である大阪ではなくある地方都市の書店だったことだ。新聞記者による単行本は、物足りないことが多いのだが、本書は新聞記者であることが活きたと感じられる近年では珍しい収穫本と思う。
2024/08/20 16:51
市井の人々の心の中までは変えられない
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現在の政府が権威主義的、歴史上人民が高度な文化を育んできた、といえば中国をはじめいろいろな国家、国民が頭に浮かぶがイランもそうした国だ。私もあの厳格な宗教ゴリゴリの政府とルバイヤーを生んだ文化、バブル期の代々木公園に集まる群衆が頭の中でどうにも整合的に整理できずにいた。本書をよめばそうした矛盾は解消する。
現実と乖離する建前を守りつづけると矛盾が生じ、「イスラム・ヤクザ」的な存在まで登場するわけだが、こうしたことはレベルの強弱はともかくどこにもあるわけで、日本でも本書の相似形の構図はいろいろ見出せるので、思考実験のもととしても楽しそうだ。
2024/07/25 16:25
音楽出版社の仕事を具体的なエピソードから知る
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長年のポップスファンであれば大瀧詠一氏のロンバケのエグゼクティブ・プロデュサーとして、あるいは高崎一郎氏や亀渕昭信氏らニッポン放送系のポップス人脈の一人として名前を記憶しているであろう朝妻一郎氏。彼は長年日本の音楽出版社の草分けのパシフィック音楽出版(現フジパシフィックミュージック)の社員一号として働いてきた。氏がその生涯を振り返って業界紙に連載したものをまとめた一冊。出版社は音楽関連で興味深い出版物を次々に繰り出しているアルテスパブリッシング、面白くないわけがない。
事務所、レコード会社、ライブのプロモーター、レコーディング関連の裏方、放送局、レコード店、配信メディア、スタイリスト、デザイナー、写真家やMVの制作者、作詞家・作曲家・編曲家、音楽雑誌の出版社。ミュージシャンの周りの「裏方」の多くはその仕事が想像できるが音楽出版社と著作権管理事業者はその業務がわかりにくく、正確に理解されていない存在だろう。筆者によれば音楽出版社の仕事とは作詞家・作曲家の書いた楽曲の著作権を預かり、その著作権からの収入を増やすべく、ありとあらゆる努力をする、ということになる。素晴らしい楽曲やその作り手を発掘し、契約し、それを世に出し、いくばくかの分け前をいただく仕事ということになろう。したがって海外の楽曲や作家については代理店的なビジネスだし、日本国内のそれに関しては才能の発掘や育成、普及までのプロセスに関わることになる。それぞれについて、具体的な曲名、人名をあげて筆者が想い出を語るので本当に面白い。
巻末の索引は有益で、出版社の丁寧な仕事が光る。
著作権をめぐるアドヴォカシー、ロビーイングなどの記述に関しては、理論的な説明や論点などには触れずに、音楽出版社の行為を追認、是認する姿勢だが、これについては異論もあるので他の書籍で勉強した方がいいと思われるが、音楽を仕事にしたいと思う人は必読の一冊である。
赤坂璃宮譚彦彬自伝 「勉強がイヤならコックしかない」と言われた少年が料理の世界に飛び込み、時代の波に乗り銀座の真ん中でオーナーシェフとなるまで。
2023/02/10 17:41
横浜中華街で生まれ一流の中国料理シェフになった男の自伝
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料理人の自伝は多い。が、中国料理のシェフは本場の中国や香港で修業することがなかなか叶わないので、「異国での修業時代の苦難」といった盛り上がる部分がなく、フレンチのシェフの自伝本に比べて面白みに欠けることが多い。本書では横浜中華街に生まれ、「ヤンチャ」をしながらも、料理で人を喜ばせることが好きで、バブルなどの時勢にも翻弄されながら、仲間に恵まれた人生が実に面白い。浅草橋ヤング洋品店の頃は周富徳や金萬福らとテレビに登場していた姿がなつかしい。
証言沖縄スパイ戦史
2021/08/30 08:58
映画を見た人も是非、戦争の本質を知りたい人も是非
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太平洋戦争下沖縄では米軍との戦闘以外で多くの人が亡くなった。集団自決、マラリア、スパイ容疑による粛清が主なもの。これらについてはヤマトンチュによるウチナンチュ差別に原因が求められることが多いが、ことはそんなに単純ではない。
沖縄でいわば「裏部隊」に従事することになった多くの人の証言を通じて、沖縄で引き起こされた悲劇は戦争のある種の必然であることを浮き上がらせるのが本書である。
沖縄で起こした悲劇から学ぼう、ではなく、今も世界で起こっていること、日本全体で起きていることと直結している現在進行形のドキュメントに読めてしまうとろこが本書の優れた点だ。
城山三郎賞(角川文化振興財団)・JCJ賞(日本ジャーナリスト会議)・早稲田ジャーナリズム大賞草の根民主主義部門大賞(早稲田大学)
AOMORI CITY GUIDE BOOK
2021/03/29 18:13
何もない、わけではない青森を美大の教授が切り取る
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2017年の青森トリエンナーレの仕事で青森を頻繁に訪れることになった京都芸術大学(当時は京都造形芸術大学)の教員が自分の視点で切り取った青森のガイド。範囲は青森市とその近郊。県内に弘前や八戸など魅力的な観光資源を持つ都市を持つがゆえに影が薄い県庁所在地の青森だが、見る人が見れば魅力ある店や人が沢山いることがわかる。本書はいわゆるcity guideなので名所旧跡の由来来歴にのみ興味がある人には向いていない。青森に関しては大手出版社のガイドは似たり寄ったりで魅力に乏しいが、本書や泰斗舎、星羊社が出している「ガイド」が面白い。また、青森は地元ならではの雑誌も複数あるので、紙媒体としてはそうしたものがお薦めである。
Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2020年 9/17号 [雑誌]
2020/09/15 17:50
菊池寛が喜んでいるぞ。趣味の特集でバカ売れ。
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創業者の菊池が将棋好き/パトロンだったこともあり、文藝春秋社は将棋と縁が深い出版社。週刊文春でも名棋戦を主宰していたのを覚えている。numberで将棋とは目の付けどころが良くバカ売れしているのは将棋ファンとしては嬉しい。内容も近年の傾向通りで棋士のパーソナリティというよりは内容に踏み込んだものが多く、意欲的である。将棋人気が盛り上がったのはキャラ立ちしている棋士をTV番組が発掘したこと、AIの発展と将棋の関係がわかりやすかったこと、藤井二冠の登場、動画サイトと将棋の相性が良かったことなど多々あるが、いずれも深堀りしやすいテーマなので他のメディアもどんどん将棋を掘ってほしい。
記事で棋士は勝負士、芸術家、研究者という谷川永世名人の言葉に言及しているが、実は一部の棋士は公益法人日本将棋連盟の運営者という側面も持つ。同じ公益法人の日本相撲協会は引退した力士が担うのに比して棋士は現役でいながら担う棋士が大半だ。それはいい点もあり弱点もあろう。カンニング疑惑問題や某会長の多くの不正問題で露呈したガヴァナンス欠如、女流棋士問題など負の側面に言及した記事が全くないのはちょっと物足りないが、まあこれはしょうがないか。
シチリア美食の王国へ 極上レストランとワイナリーを巡る旅
2018/09/19 07:57
出版後年数は経過しているが、今なお最良の一冊
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イタリアの食文化、レストランを現地から伝え続けている筆者が愛するシチリアのガイド。車で巡ることを前提にしているので、アクセシビリティありきの配慮はされていない。シチリア料理に関しては、半島内の大都市の料理とは異なり、世界的な流行りやトレンドの影響をあまり受けていない。よって出版されてから15年を経過しているものの、十分に役に立つ一冊である。帯の推薦文は今は亡きラ・ゴーラ澤口知之氏。
利益を生みだす人事改革7つの法則 人事科学の新たなグローバルスタンダード
2017/03/31 20:57
AI関連の人事本を読む前にこちらをどうぞ
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サラリーマンの皆様は自社の人事部に不満はないだろうか?「本当に会社の収益に貢献している仕事をしているのだろうか?」
ごもっともな疑問です。採用人数が目的っておかしくないか?会社の収益に貢献する人材を採用、配置してこそ人事部門の仕事ではないのか?
その通り。なのに日本の人事部は経験則で仕事をし、その成果を計測しない。本書は採用や評価を専門分野とするコンサルを創業し、研究者としても活躍する筆者が、心理学や統計学に基づいて、会社の収益に貢献する人事の考え方を示す。
日本語の類書は殆どないので貴重だが、おそらくは多くの人事部には都合が悪いことが書いてあるのでなかなか売れないだろうなあ。煽りがないまともな本です。
