touchさんのレビュー一覧
投稿者:touch
紙の本コンビニ人間
2018/09/25 09:16
普通って何だ?
18人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
私のように、コンビニを冷蔵庫替わりとして利用してしまう依存のしかたもあるが、この作品は、逆に「店員」としてコンビニに依存してしまう女性の物語。
作者の村田沙耶香氏も、長年コンビニでバイトをしている(今も続いている?)らしく、そのためか、店内の描写が生き生きとしていて、素晴らしい。
主人公・恵子は、他人の感情などがうまく読み取れない、いわゆる発達障害?(アスペルガー?)の傾向があるようだ。
だから、マニュアルで行動を徹底されるコンビニが、とても居心地よく感じるのだろう。
周りの友達や妹からは、「どうして結婚しないの」とか「なんで、その歳でバイトなの」とか聞かれるが、何故それがいけないことなのか分からない。
恵子目線で描かれる世界は、我々が「普通」だと思っている方が不思議に感じられてしまう。
でも、読んでいるうちに、だんだんと私も恵子に同調し始め(白羽にはイライラしてしまうが・・・)、「普通の人」が気持ち悪く感じられてくる、、、のが面白い。
何が「普通」なの?「まとも」って、どういうこと?
「最近の新人はマニュアル人間だ」なんて言われることもある世の中への痛烈な批判のようにも思えた。
紙の本夫のちんぽが入らない
2019/03/07 15:35
恥ずかしがらずに手にとって
12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ど直球なタイトル。
最初は受けを狙っただけかと思っていたが、巷の読書評を見ると、大真面目で深刻な話とのこと。
読んでみたかったが、男性の私は、なかなか手に取る勇気がない。
そんな時、ある書店で、カバーされて売られているのを見つけ、レジへ持っていく。
間の悪いことに女性店員にあたり、しかも、バーコードをピッとすると、金額と同時にタイトルまで表示されてしまったが、無事に(当たり前だが)購入することができた。
内容は確かにヘビーなところも多かった。
作者は「夫のちんぽが入らない」という問題だけでなく、職場、家族、世間からの常識にも苛まれる。
そう、作者が受け入れられないのは、ちんぽだけでなく、周りからの「これが普通でしょ」という悪意ない思い込み・・・。
そして、それらを無理に受け入れようとして、体と心が悲鳴をあげてしまう。
そんな心情が切々と綴られて、読んでいるこちらも苦しくなってくる。
作者は、勇気をもって、すべてをさらけ出した。
それに比べて、私は、この本を買うだけで恥ずかしいと思ってしまった。
今は、そのことが恥ずかしい。
文庫版の巻末に収録されているエッセイの中で、「自分と違う選択を頭ごなしに否定しない人間でありたい」という言葉が、胸に響いた。
紙の本そして、バトンは渡された
2021/02/24 09:31
嫌な人がいないというのは
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
世の中がギスギスしている反動か?
朝ドラの『ひよっこ』あたりからか、嫌な人が登場しない物語が増えている気がする。
お笑い芸人でも、仲の良いコンビやグループの方が人気があるらしいし……。
この物語も、嫌な人が出てこない(途中、同級生とのちょっとしたいざこざはあるものの)。
大人の都合で、何人もの血のつながらない親に育てられた主人公・優子。
いかにも波乱万丈の人生を送るのかと思いきや、”困ったことに”全然不幸ではない。
嫌な人がいないというのは羨ましくて、ある種ファンタジーみたいだけれど、結局のところ、”嫌な人”って自分が嫌っているだけのこと(その人のことを好きな人もいるのだから)。
だから、人から好かれるとか人に恵まれるというのは、自分から人を嫌いにならないということなのかもしれない。
そのヒントは「ニコニコしていたらラッキーなことが訪れる」という言葉にあるのだろう。
幸せのバトンが引き継がれていく話に、胸が暖かくなった。
2019/11/14 10:53
脳の性質を知って、ちょっと気が楽に
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書は8つの章から構成されている。
1.集中力のしつけ方
2.記憶力のしつけ方
3.判断力のしつけ方
4.モテ力のしつけ方
5.アイデア力のしつけ方
6.努力のしつけ方
7.強運力のしつけ方
8.愛情力のしつけ方
どれも身に付けたい力である。
それを脳科学の観点から解説している。
まあ、身につける方法は、この手の本の全般に言えることだが、「そんなにうまくいかないよ」的な話も多いが、この本では、なぜ身につかないのかという理由が説明されていて、それがとても面白い。
集中力というのは、本来、続かないのが普通である。
何故ならば、集中して、危険が迫っているのに気がつかず、命を落とすといけないからだ。
「自分は集中力がない」「記憶力が悪い」などと落ち込んでいたが、この本を読んで、ちょっと気が楽になった。
他にも、なぜ女性はダメ男に惹かれるのか?といった話など、「へえ、そうだったのか」と思えるトリビア的な面白さもある本だった。
紙の本羊と鋼の森
2018/06/29 10:42
とても静かなお話
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ピアノは、「羊」毛のフェルトで「鋼」の弦を叩いて音を奏でる。
そのピアノの調律という「森」に入り込んだ青年の話。
何ともおしゃれなタイトルだ。
このタイトルが表すように、内容も、とても静かで優しい世界。
ふとしたきっかけで、調律の世界に足を踏み入れた青年が、迷いながらも成長していく姿をゆったりと描いている。
いわゆる職人の世界なのだが、ストイックになり過ぎず、でも自分の世界を追い求める様子が、読んでいて心地いい。
何かに魅了され、夢中になって行く様は、ちょっと羨ましくもある。
調律や音楽に関する専門的な話も出てくるが、説明的な表現でないため、スッと理解することができた。
今度、コンサートに行くとき、ピアノの聴き方に楽しみがひとつ増えた。感謝。
2017/10/30 15:56
何故、言葉にできないのか?
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「言葉にできない」のは、言葉にできるほど「考えていない」から。
昔、読んだ本に、「日本人は、英語が話せないのではなく、そもそも話すことがないのだ。話したいことがあれば、何としてでも伝えるはずだ」ということが書いてあったのを思い出した。
「考える=内なる言葉」を磨く方法だけでなく、それを「外に向かう言葉」として効果的に表現する方法も解説されている。
後半のいろいろなテクニックを見ると、『論語』や『菜根譚』といった人の心に長い間響く言葉は、確かにこの法則に則っているのだと気づいた。
紙の本AX
2020/06/16 08:44
愛妻家の殺し屋
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
『グラスホッパー』『マリアビートル』に続く、殺し屋シリーズ。
このシリーズは伊坂作品の中でもお気に入り!
今回は、殺し屋「兜」の日常も描く連作短編集となっている。
何故か妻を異常に恐れる「兜」。でも、それ以上に愛していることもちゃんと伝わってくる。
そして、唯一の?味方の息子。
家族を守るために、殺し屋稼業から足を洗おうとするが・・・。
途中の展開には驚いたが、ラストのオチはちょっと見えてしまったかな(だからといってガッカリはしなかった)。
章を区切る伊坂印のハンコが、「兜」だけ傾いたり、掠れたりするという粋な演出も。
エンディングのエピソードが、「兜」の妻に対する想いをすべて表していて、涙を誘った。
やはり、「兜」は恐妻家ではなく、愛妻家なのだ。
紙の本ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー The Real British Secondary School Days
2021/12/04 09:45
リアルな英国
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
タイトルを直訳すると、「ぼくは日本人(黄色人)で白人で、ちょっと憂鬱」。
そうノートに走り書きした中学生の息子を持つ母親(ブレイディみかこ氏)が書いたノンフィクション。
日本では、よく「欧米では・・・」なんて言われて、あたかもヨーロッパやアメリカの方が進んでいる印象が強いが、いやいやイギリスだって、色んな問題を孕んでいることがよくわかる。
その代表が、「貧富の格差問題」とタイトルにもある「人種問題」。
息子の学校生活などを通して、それらが如実に伝えられる。
それにしても、この息子。こんな環境で過ごしてきたためか、かなり大人びていて、感心する。
文庫の帯に「60万人が泣いて笑って感動した」とあったが、私は別に泣きはしなかったかな。
「多様性」を考えるには、とてもいい本。
帯には「親子で読みたい一生モノの課題図書」とも紹介されているが、これは頷ける。
2017/09/19 16:06
伊坂幸太郎の恋愛小説
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
伊坂氏は長編もいいけど、短編もいい!しかも連作短編。
相変わらず、張り巡らされた伏線に楽しく翻弄されながら、時にはニヤッとしたり、時にはほっこりしたり……。
解説で伊坂氏自身も書いているが、伊坂作品としては珍しく、殺し屋やギャングもいなければ、喋る車や死神、4人の父親を持った息子や暗殺の濡れ衣を着せられた男も出てこない。
つまり、現実離れした設定ではなく、普通?の人々の日常を題材にしている。
それでも、過去と現在にわたる登場人物のつながりが、ファンタジックな奇跡を起こしていく。
最後まで読んで、もう一度、確認しながら読み返したくなる作品。
※個人的には「ルックスライク」が好き。
紙の本満願
2017/08/24 17:57
まるで長編を読んだかのような読後感のある短編集
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
地味なタイトルなので、普通であれば手に取らないが、帯に「このミステリーがすごい」「週間文春ミステリー10」「ミステリが読みたい」の3冠で、山本周五郎賞も受賞とあったので購入。
連作短編でもない、まったく異なる六篇の短編集。
それなのに、まるで長編を読んだかのような読後感がある。
それぞれが、長編作品にしてもいいような設定やストーリーで、一捻りも二捻りもあるミステリー。
作品に合わせて、文体までも変えているので、より話にのめり込んでしまう。
最近読んだミステリーでは、抜きん出て面白かった。
紙の本星の王子さま
2017/04/17 13:58
かつては子供だった全ての大人たちへ
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
『星の王子さま』は読んだ気でいた。
「象を飲み込んだ蛇」を描いて「帽子」と間違えられるくだりが、あまりにも有名だったからかもしれない(この絵を描いてのは王子さまだと思っていたが、それも違った)。
今回、読み直してみて(否、初めて読んで)、これは大人こそ読むべき本だと思った。
王子さまが、地球にくる途中で会った様々な星の住人は、まさしく今の自分ではないか。
数字にしか興味がなく、大切な事は何も聞かないというのも、今の自分だ。
「王子さま」は、もう無くしてしまった子供の頃の自分なのだと思う。
紙の本よるのふくらみ
2017/02/13 08:27
ドロドロなのに清々しい
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
窪さんの小説が好きだ。
男性の私から見ると、女性のドロドロした部分に驚きつつ、その生々しい描写に惹かれてしまう。
けど、単にドロドロした話ではなく、そこには救いがあり、最後には清々しさを感じる。
同じ出来事を、それぞれの登場人物の視点で切り替えて進む話の展開に、読み始めたら止まらない。
紙の本殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件
2017/03/07 08:40
文庫X
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ある書店員が、「文庫X」として、あえてカバーを隠して推薦した本。
ノンフィクションなのに、まるで小説を読んでいるかのような出来事。
緻密な取材に基づいた、圧倒的な迫力。
そして、まだ真犯人が捕まっていないという怖ろしさ。
私も、おそらく題名だけでは手に取らなかったと思う。
カバーを隠して薦めてくれた書店員に感謝。
そして、これを機に、真犯人逮捕に向けた更なる捜査を警察には望む。
紙の本逆ソクラテス
2023/10/31 15:27
子供を否定しちゃいけない
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
個人的には、伊坂作品の中でもかなり好きな部類。
全5編からなる短編集で、ファンタジーでもサスペンスでもない、普通の、日常の物語。
それぞれが独立した話だが、磯憲先生が2回出てきたりして、何となくゆるーく繋がっている感じも。
これらの物語には、大きく3つの共通点がある。
ひとつめは、どれも小学生の頃の話が中心になっていること。
ふたつめは、どのタイトルにも「否定(反対)」の意味を表す言葉がついていること。
1."逆"ソクラテス
2.スロウでは"ない"
3."非"オプティマス
4."アン"スポーツマンライク
5."逆"ワシントン
そして、みっつめは、タイトルに「否定」の言葉があるにもかかわらず、テーマとなっているのは、「子供を否定しちゃいけない」「駄目だと決めつけちゃいけない」ということ。
伊坂作品の中には、悪者が完膚なきまでにやられるという結末も少なくないが、この本では、そこまでいかない。
クラスに一人はいた意地悪な同級生や嫌なことを言う先生。
でも、彼らが圧倒的に叩きのめされることはなく、代わりに、ちょっとだけスカッとするような、ニマっとほくそ笑むような結末になっている。
そこがまた良い。
表題になっている「逆ソクラテス」も、冒頭のシーンは、語り手の目線だと思っていた。
でも、あれは馬鹿にしていた先生だったんだと気づくと、ニマっとしてしまう。
「逆ソクラテス」も良かったが、私は「スロウではない」のゴッドファーザーごっこが好きだなあ。
紙の本その本は
2022/09/16 09:31
ヨシタケシンスケ氏と又吉直樹氏の想像力&創造力が詰まった一冊
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ヨシタケシンスケ氏と又吉直樹氏が、変わりばんこに執筆しているショートショート風な物語。
ある国に、本がとても好きなのに、歳をとって目が見えなくなってしまった王様がいた。
王様は二人の男に、世界中の珍しい本の話を集めて、その話を聞かせてくれと命じる。
旅から帰った二人の男は、集めた話を王様に語り始め・・・。
という体で、各話、「その本は」で始まる物語。
「共作」ではなくて、それぞれが個別に書いているため(ヨシタケ氏は絵本調、又吉氏は小説調で)、作家のスタイルが壊れていなくて良い。
一話が数ページで終わるので、ショートショートのようにスイスイ読めて楽しめる。
だが途中、又吉氏が約40ページの話を載せているところがあり、そこだけリズムが悪くなってしまったかな。
でも、その話がちょっと泣ける話で・・・。
お二人とも、「どこからこんなことを思いつくの?」というほどの想像力&創造力で、笑ったり、泣けたり、時折は考えさせられたり。
最後のオチも、なかなかに捻りが効いてて良かった。