執事のひつじさんのレビュー一覧
投稿者:執事のひつじ
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自炊力 料理以前の食生活改善スキル
2019/02/20 17:21
初心者にとことん優しい
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やがて一人暮らしを始める息子のために購入しました。料理に気合を入れるとは思えない子だけれど、せめてスーパーやコンビニで弁当や総菜を買うときに、栄養バランスのよい組み合わせで買ってほしい、部屋に戻って余力があれば、なにかちょっと足して栄養を強化してほしい。そのための知識や方法が書かれている本です。
料理の本を見てもコトバがよく分からない、食材を買いにスーパーに行っても、どこに売っているのか、どれを買ったらよいかも分からないというレベルの読者に対応しています。
巷の「栄養情報」への対し方も書かれているのはスバラシイ。
家庭科でも、もっとこういうことを教えてほしいです。
柄谷行人と韓国文学
2020/10/29 16:35
システムの外へ
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「柄谷は一四年前[一九九二年]から韓国文学に手を差し伸べてきた。それは友人であり仲間である中上健次の影響があったからでもあるが、彼の思想(ネーションを批判するためにはネーションの外に出なければならない)が要求するものでもあった。だから労を厭わず彼は日韓文学シンポジウムにたゆまず出席するのはもちろんのこと、『創作と批評』側との交流にも積極的だったのだ。しかし、結局、そのどちらからも歓迎されなかった。そして、韓国の批評は視野をネーションの外に拡張する絶好の機会を失ってしまったのだ。」
しかし、若い世代からは熱烈な賛意を得た・・・と著者は述べていて、彼もその一人であったことが分かる。「近代文学の終り」という柄谷のテーゼは、大きな、そして長く続く反響を呼んだという。著者は、韓国の批評は「国文学(ネーション)、大学(制度)、出版(資本)というボロメオの環に閉じ込められていると言い、果敢に批判を加えていく。また柄谷が韓国とのかかわりにおいて「単に『政治的に正しい』態度をとる代わりに両国の間の暗黙のルール(一種の礼儀)を疑い、それに異議を唱えることをためらわなかった」ことを強調する。
私が学生の頃、柄谷の『日本近代文学の起源』はよく読まれていたが、結局、ほとんど「様々な意匠」の一つとして消費されて終わった感がある。著者の真摯な態度に打たれた。
オルガ
2020/10/29 15:48
現代史への一視点
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本書「あとがき」によると、主人公オルガの恋人ヘルベルト・シュレーダーには同名のモデルがいるという。すると、(作中ではオルガの死後になって)、ヘルベルトの足跡を求めて北極圏に遠征隊が赴いたというのも史実なのだろう。作者はこれをきっかけにヘルベルトに関心を持ち、彼への愛と拒否を抱き続けるオルガという人物を創造して対置したのかもしれない。
ヘルベルトもオルガも独立不羈の人物であって、与えられた境遇に甘んじることなく、自己を超えていこうとするが、貧しいオルガが苦学して教員となり、地に足のついた生活を営み、公正な社会を求めるのに対し、大農場主の息子ヘルベルトは遥かなものへの憧憬をドイツ国家拡大の野望と同致させ、広大な砂漠や極地への探検行に明け暮れるようになる。神は存在しない、では無限は?永遠は?と問うヘルベルトのうちに、オルガは「彼自身がまだ知らない絶望」を感じ取る。第1次世界大戦を前にヘルベルトが北極圏で消息を絶ったのち、彼女はヘルベルトが虚無の中に自己を消したがっていたのだと考えるようになる。
(日本人にとって無との合一はむしろ安らぎであるが、もちろんそれとは違い、自己と世界の有限性を超克しようとするロマン主義的情熱の行きつく果ての光景である。だがどちらも、若者たちを戦死に突き進ませる原動力の一部となったのかもしれない。)
オルガは「偉大なドイツ」という夢想の空疎さや誇大さを非難し、長い間祖国(統一国家)を持たなかったドイツの歴史にその原因を帰しているが、当時の先進諸国はどこも広大な植民地を持ったり求めたりしていたわけで、もちろん日本も例外ではない。(現代においても、主に経済分野に領域を移しているとはいえ、状況はあまり変わっていないとも言える。)うろ覚えなのだが、昭和10年ころの子供たちへの「将来なりたいもの」を問うアンケートに、女子を含め多くの子供が「偉人」と答えていた・・・という記述を、30年ほど前の『中央公論』誌上の論文で読んだことがある。「偉大さ」に憑かれていた点で日本人も同じであった。オルガの批判には普遍性があると言えるだろう。
オルガは返す刀で孫世代の学生運動をも批判し、「自分たちの問題を解決する代わりに、世界を救おうとしている」「守られていて、道徳的であるために犠牲を払う必要もないのに、自分たちを勇敢だと思って威張りくさっている」として、「大きすぎる目標」を掲げている点で同様だと断じる。グローバル化が進み、絶えず「情報」を送受信しイメージによって思考してしまう我々にもこの批判は痛い。
重いテーマを扱っているが、読後感が明るいのは、逆境を乗り越えていくオルガの強さによるところが大きいが、風景描写の美しさも一因だろう。オルガが最後にとった行動とその結末については、見方が分かれるかもしれないが、私はアイロニカルなユーモアを感じ取った。
雨をよぶ灯台 新装版
2021/06/26 16:14
怖くない怪談、夢だと分かって見る悪夢のような。
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散文詩または行の長い行分け詩の形で、生々しい、しばしば不気味な心象風景が語られていく。
にもかかわらず、怖いとか、気持ち悪いといった印象を受けないのは、そんな風景を、風景の移り変わりを、動じずに受け止めている「私」の存在があるからだろう。
読み終えると、自分の中の薄明にも、うごめくものがあるのを感じる。
ランスへの帰郷
2020/07/31 10:59
社会的暴力の告発と、内省と。
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本書の主眼は格差、ことにブルデューの指摘したハビトゥスや文化資本の格差の、体験に基づく指摘であり、その格差により、職業や社会的地位が決定されてしまう現実の告発である。(ブルデューや著者の活躍をその反証としてはならないだろう。「結局出世できたんだからいいじゃないか。」という見方こそ、彼らが戦ってきた選別システムを肯定し、固定化してきたのだから。)日本でも、バブル崩壊後「一億総中流」の幻想は崩れ、格差の固定化が問題視されるようになっているが、たとえば教育問題を考えるうえでも、階級という観点はもっと考慮されるべきなのかもしれない。
労働者階級の「右傾化」の分析も興味深い。労働者の支持を得ていた左翼の党が、ソ連の崩壊、左翼政権の成立とともに「新自由主義」に接近し存在意義を見失う一方、学生運動に熱中した学生も就職とともに秩序の維持を望むようになったという。(案外、日本の左翼の歩みに似通っている。)そのため、代弁者をなくした労働者階級はまとまりを失い、移民への反感が顕在化し、自分たちの尊厳を守るための最後の手段として右翼に投票するようになったとする。注意すべきは著者が「認識の諸相や政治的主体としての自覚をもたらす方法を創出して、人々に固有の「利害関心」とそこから生じる選挙での選択についての概念を規定するのは、組織された言説にほかならないからだ。」として、理論の重要性を指摘していることである。
教訓を引き出そうとするなら以上のようになるが、抑制のきいた文体で語られる、苦渋に満ちた内省こそ読み取るべきだろう。粗暴な父を「愛したことがな」く、父母の絶えざる暴力的な諍いのため、長い間、「家庭」や「夫婦」はもとより「持続的人間関係、共同生活などの観念自体が私をぞっとさせた」という著者にとって、故郷ランスへのretourは「目的地にたどりつけない心理的で社会的な旅でさえあるかもしれない」のであった。母の回想と自身の記憶でたどられる、祖父母と両親、彼自身の歩みは、自らの中に内化された、労働者階級のエートスと、それと相いれない知的、性的志向との相克を絶えず思い起こさせるものだった。したがって、著者は親族の中で例外的に知識人として自己を形成するが、単純な成功譚にはなりえない。本書は母にアミアン大学教授就任を報告する場面で終わっているが、これは両者の文化的な隔たりをあらためて意識させる場でもあったのである。
本書の解説がドイツ思想研究者の三島憲一氏によって書かれていることが意外だったが、ドイツ語訳を読んだ三島氏が日本語版の出版を働きかけたとのことで、日本語で読めるのは三島氏のお陰であり、感謝しなければならないが、長文の「解説」の半分以上は本文の冗長な要約にすぎず、ちょっとがっかりした。ブルデューの『自己分析』への「批判」についても、本文を読めばエリボンの真意がよく分かることである。
なお、24ページ1行目の「名誉」は「不名誉」の誤植ではないだろうか。
慵斎叢話 15世紀朝鮮奇譚の世界
2020/12/27 17:16
隣国を知り自国を知る
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題名に『慵斎叢話』とありますが、『慵斎叢話』の全貌を紹介するというスタイルではなく、僧侶、夫婦などのトピックごとに、他の説話集からも引用しながら、当時の世相の分かる奇譚を紹介しています。なので、随筆を読むように気軽に読めます。
隣国のことで、日本との対照も面白く、日朝関係に関わる話や、日本の儒者のエピソードなども紹介されています。
架空論文投稿計画 あらゆる意味ででっちあげられた数章
2018/01/19 17:15
笑える、が、深刻な内容。
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ユーモアたっぷりの架空論文が笑えます。いずれも身近なテーマを論文の体裁に仕立てたものなので、科学の知識がなくても楽しめます。
しかし、「成果主義の横行により論文の数が増えすぎ、専門家の善意に頼る査読制度が危機に瀕している」というのは現に進行している深刻な問題であるようです。実はまじめな問題提起をしている小説です。
マンガ親が終活でしくじりまして
2017/07/20 22:15
情報量は少ないが。
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タイトルから想像される内容とはやや異なり、ことさら終活をしていなかった母を亡くしてからのあれこれを書いた顛末記。
情報量は少ないが、絵も内容もほのぼのとしていて、楽な気持ちで読める。そろそろ親に終活を考えてほしいがそういう話を嫌がるので困っているという方や、終活をがんばりすぎてストレスになってしまっている方にはおすすめ。
驚いたのは、「全員娘さんでお嫁に行った先のお墓に入られるということでしたら、お父様が亡くなられた場合3回忌までして墓じまいということでいいと思います。」というお坊さんの言葉。時代は確実に変わりつつありますね。
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