Benzeneさんのレビュー一覧
投稿者:Benzene
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なぜ科学はストーリーを必要としているのか ハリウッドに学んだ伝える技術
2018/09/04 06:37
科学以外にも使える「伝え方」の極意、たった3つの接続詞がカギ
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専門家が聴衆に向けて語るとき、どうすれば相手がその話を理解し、夢中になってくれるだろうか?元大学教授である著者は映画監督へと転身し苦難を経験する中で、人気映画に共通する「物語の構造」に気付き、それを科学プレゼンテーションに応用した「ABT方式」を提案している。このユニークな着眼点とメソッドの簡潔さが、他のプレゼン技術本には無い、本書の最大の売りだと感じた。
この「ABT方式」とは、A (And, そして) B (But, しかし) T (Therefore, したがって) という3つの接続詞をつかって話を組み立てる技術。会話がこの構造をとると、聞き手の脳は活性化し、話を理解しやすくなるそうだ。一見単純で、そんなの当たり前に聞こえるが、大抵の専門家はこれがうまくできないために、話が「退屈」または「複雑」になりがちだという。私自身、研究者としてこの問題に悩まされてきたが、著者の解説を読んで目からウロコが落ちる思いがした。
本としては、軽妙な語り口で興味をひきつつ、テクニックの要点を絞って紹介してくれるので、分量の割に苦労せず、楽しく理解しながら読み進められた。本書の真ん中辺りに登場する「ABT方式」やその前後にあるテクニックをおさえれば、少々難しくなる後半部(科学論文をつかった検証)は読み飛ばしても大丈夫だと思う。
紹介されているテクニックは単純だが、実践し身につけるまでには多くの鍛錬が必要だ。私もさっそく知人を相手に試してみたが、驚くほどスムーズにいかず、肩を落とした。それでも、上記のような著者の失敗談や人間味あふれるエピソードに勇気づけられ、著者と共に頑張ろうという気持ちが湧いた。
若手研究者として、著者のやってきたこと(大学教授としての成功、その後の映画監督への転身、異業種への発表技術の伝導)には正直なところ圧倒される。しかし、それぞれは自慢話でなく(むしろ失敗談が多い)、本書のコンセプトが生まれるきっかけ、メソッドの意義の裏付けとして興味深く読めた。
「ABT方式」の適用範囲は科学に限らず、著者は多数の企業や政府団体に向けて講演を行っている。科学者だけでなく、仕事内容を伝えるどんな業種の人にも、広くおすすめできる本だ。また、専門分野が決まっていない学生の頃から、本書に沿って「物語の構造」を意識して訓練することができれば、どんな分野に進んでも強力なアドバンテージになると思う。大学や大学院で、積極的に取り上げてもらえればと願う。
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