見張りを見張るのが私の仕事さんのレビュー一覧
投稿者:見張りを見張るのが私の仕事
紙の本ウクライナ戦争
2023/01/30 15:28
ウクライナ戦争
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小泉悠氏によるウクライナ戦争の解説。『現代ロシアの軍事戦略』と重複する部分もあるが、2022年の世界を揺るがした一大事であるロシアのウクライナ侵略について、戦争の背景から開戦に至るまで、戦争が始まって実際にどのように戦況が推移していったのかが述べられている。
予想外のウクライナの善戦、ロシアの当初のプラン通りに事が進んでいないこと、最新兵器が戦場で果たした役割といったことがわかる一方で、NATO東方拡大の脅威や、ルース民族の統一の野望など、プーチンが戦争を始めた実際の動機というものはいまだによくわかっていないのだという。
紙の本国際政治史
2022/05/29 22:51
主権国家の誕生から第二次世界大戦までの国際政治を一望する優れた書
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本書は絶対王政期から第二次世界大戦に至るまでの国際政治の変動について記述したものである。
国際政治を説明する際、古典的な勢力均衡論の立場がある。各々の利益を追求する主権国家を念頭に、各国間の軍事力のバランスに注目するもので、勢力均衡(バランスオブパワー)が保たれている状態では戦争が抑止されるが、バランスが崩れてしまうと戦争が起こる、というものである。
本書はそうした勢力均衡論をふまえてはいるものの、勢力均衡論でヨーロッパの国際政治のあゆみのすべてを記述する、という単純な記述にはなっていない。国際政治の動向にはさまざまなファクターが絡んでくるのであり、例えば民族主義、共産主義、ファシズムといったイデオロギー。市民階層の発達、労働者運動といった階級や、政治制度等の国内の要因にも目配りがきいているので、立体的で複雑な国際政治のありさまを読者は学ぶことができる。
相手国に外交交渉を目的とした使節を常駐させることは、現在では外交の一般的な形態であるが、この起源は中世イタリア半島の都市国家群立期にあることが述べられている。同時期では都市国家どうしが均衡状態にあり、一都市国家が他を征服する絶対的な優位を確立することはなかった。そのため都市国家間は互いに相対的な優越を獲得することを目指して外交術が発達することになった。
ウイーン体制はフランス革命とナポレオン動乱の混乱を回復することを全ヨーロッパ共通の目的としてヨーロッパ協調が成立した。そうはいっても各国の思惑は異なっていて、オーストリアは民族主義を抑圧する態度を取ったが、立憲的自由をすでに獲得して他国の革命の波及を恐れずにいたイギリスは、輸出先の市場を発展させるものとして捉えていた。
三国協商と三国同盟について。ウイーン体制下ではイギリスは光栄ある孤立によって、劣勢の側にある勢力に肩入れすることで大国間のバランスを維持する第三勢力の役割を演じることを外交目標としていたのだが、三国協商の成立によってイギリスが対立するブロックの一方の所属となり、欧州政治はバランサーを欠くことになった。
三国同盟の側はイタリアがエチオピア征服失敗を機に帝国主義政策の方針を転換したことでフランスとの関係が改善したことで、イタリアがしだいに離れつつあったことや、オーストリア=ハンガリーは民族主義を抱えて国内政治が動揺していたために、三国同盟は弱体化してゆき、三国協商と三国同盟の間の均衡はしだいに崩れていった。
第一次世界大戦終了から第二次世界大戦まではヴェルサイユ体制と呼ばれる。ヴェルサイユ体制は、ウィルソン主義を表向き掲げてはいたが、内実は帝国主義体制のままであった。
資本主義の発達とともに、共産主義、ファシズムが台頭してくるというイデオロギー面も重要である。ドイツ、イタリア、スペインでファシズム体制が成立するが、資本主義国はファシズムを共産主義からヨーロッパを守る防波堤の役割を期待しており、これが対ヒトラーの宥和政策につながったとする。またファシズムの側もそういった資本主義国の期待を背景に、共産主義拡大阻止を名目として侵略政策を行い黙認を獲得していったという戦略的な背景があるのだと言う。
2018/10/09 19:07
これはすごい本になる。
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経済学、貨幣論、歴史学、地理学、政治学、軍事学のあらゆる知見を総動員して世界を読み解こうとする著者の試みに敬意を表する。
今年亡くなった西部邁氏はインテグリティを大切にすることを説いておられたが、一つの学問の理論(例えば経済合理性)に拘らず全体に目配りが利かせ、あらゆる学問領域を渉猟し、その境界を軽々と越境してみせる教養と知性を備えた著者は、著者は、やはり西部氏の弟子なのだと感じた。
2022/05/23 01:18
百年戦争についての手軽で優れた概説書
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カペー朝の断絶に伴ってヴァロワ朝が誕生するが、イングランド王家のエドワード3世が仏王位継承権を主張して始まった戦争、この戦争は100年以上続いた、というのが当戦争に対する一般的な認識である。
一般的な教科書では戦争勃発の原因の一つにフランドル地方の毛織物産業の利権があったと書かれているが、本書では、あくまで戦争の目的は、英王の仏王に対する封建的臣従関係を精算することにあって、フランドル地方をめぐる対立は、英王が大陸に同盟者を確保するために行われたものであったという指摘が勉強させられた。
後世の人間は、イギリス対フランスという構図で戦争を理解しているが、実態はフランスの一地方を所有する臣下が王に対して起こした反乱であり、フランスとしてはあくまで国内での内乱という認識であったという。内乱なのでフランス王家側の封臣たちの中にもイギリス側につく人間があらわれたのである。もちろん、イギリス対フランスの国家間戦争という認識を示していた者もいなかったわけではなかった。しかし、そうした認識は政治的にラディカルな立場の者が行ったもので、一般的な認識ではなかった。ジャンヌダルクの働きなどが、後に祖国解放戦争というイメージを作り上げていく側面があったのだという。
紙の本二都物語
2022/05/10 20:31
愛する人のために命を懸ける
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長らくバスティーユ牢獄にとらわれていたマネット医師とその娘ルーシー。フランスの貴族であったがイギリスへ亡命したチャールズ・ダーネイ、無頼の弁護士シドニー・カートン…味方になってくれる銀行家や酒屋の主人だとかいろいろ登場人物が出てくるので一種の群像劇のように感じないことのもないのだが、物語の本筋は一人の女性に想いを寄せる二人の男、である。
まず、ルーシーと結婚するのはダーネイで、二人の子供に恵まれる。一人は幼くして無くなるが、もう一人の娘は同じルーシーという名前である。カートンもルーシーへの愛を打ち明けて、「あなたへの愛を証明するためにあなたとあなたが愛する人のために喜んで自分は犠牲になる」という約束をする。この約束が達成されるところが物語のクライマックスである。
紙の本人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」
2022/04/28 00:05
ゲノムを解析することで古代人類の拡散ルートを明らかにする!
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人類は類人猿からどのように進化してきたのか、アフリカで誕生した人類はどのように世界に広がっていったのか。古代人類の研究は発掘された化石をもとに形態などを分析して行っていたのだが、近年、ミトコンドリアDNAやY染色体DNAを分析する技術が飛躍的に向上して、遺伝子レベルで人類の進化と移動を解明できるようになった。古代人類学の領域は、ここ数年で新たな発見が次々と見つかる状況にあるという。
ゲノム分析の技術はPCR法といって、最近では新型コロナウイルスの陽性判定に使われていることで一般にも知られている。ゲノム分析に際して細心の注意を払わなければならないのは検体汚染を防ぐことだという。標本や化石に皮膚片などの発掘者のDNAが混ざってしまうと、正しい分析結果を得ることができないからだ。昔はこのあたりがいいかげんだったのだが、近年の研究ではゲノム分析をすることが前提になっているので、発掘段階から検体汚染を防ぐ試みがなされているのだと言う。そうはいっても大昔の化石から得られるDNA情報は風化によって断片化したものだから完全とはいかず、断片化したゲノムから如何に正確な情報を再現するかがこれからの課題でもあるのだという。
本書ではゲノム解析によって出アフリカ以降の人類の移動ルートが再現されていくのだが、移動だけでなく形質に関わる問題も面白い。例えば白人の目が青く、髪が明るく、皮膚が白くなったのはいつ頃なのかという問題も、どのDNAが形質の発現にかかわるものなのかを調べることによって分かってしまうのだと言う。ここにはIPS細胞、ゲノム編集といった最先端の技術が関連してくる。見つかった古代人の化石をゲノム解析にかけて遺伝子配列を読み取り、IPS細胞で培養した体のパーツに、ゲノム編集技術によって古代人の遺伝子配列を再現すれば、発現した形質を観察して古代人がどのような姿(たとえば顔立ちなど)をしていたのかまで正確に推測可能なのだそう。
勢いのある研究分野と最先端の技術についての記述はダイナミックで面白い。この分野に興味のある人はぜひ。
紙の本珈琲店タレーランの事件簿 1 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を
2022/04/27 02:17
バリスタが日常の謎を解く
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現場に赴かずとも事件の情報を聞いただけで犯人を突き止める、のをミステリ用語で安楽椅子探偵というそうですが、本書の切間美星バリスタがまさにそうで、喫茶店タレーランに持ち込まれる日常の謎を聡明な頭脳で解き明かしていきます。
キャラクター文芸(ライト文芸ともいうらしい)というジャンルを初めて読んだのですが、この切間美星バリスタ、コーヒーミルを片手にコリコリコリ…と豆を挽くリズムにあわせて推理をめぐらし、「その謎、たいへんよく挽けました!」という決めゼリフ!?まであって、いかにも漫画に出てくるキャラクターが言いそうなことを文章で表現しているなと感じて面白いです。
紙の本リベラリズムとは何か
2022/01/06 22:27
リベラリズムとは何であろうか
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リベラリズムとは何かという問いに答えを出すために著者は二つの点を挙げている。まず一つ目は、リベラリズムには核となる思想が七つあると言う点である。それは、自由、合理性、個性、進歩、社会性、一般的利益、制限されたアカウンタビリティを負う権力、である。これらが相互に作用しあってリベラリズムというイデオロギーを形成しているのだという。
次の点は、リベラリズムには時間的な五つの層が存在するということである。個人の権利を保護し、政府の権力を抑制する理論。自由市場の理論。人間の進歩に関する理論。国家管理的福祉に関する理論。多元的で多様な社会を目指す理論。著者の説明では歴史的にリベラリズムとは中核的な七つの概念が、時期によって強調される概念、周辺化される概念が異なり、それによってリベラリズムとされる思想の主要な主張が変わってきた、それが歴史的な五つの層と言うのである。
中核的な価値概念と歴史の層がリベラリズムを形成しているとすれば、ではリベラリズムをめぐって論争が起こるのはなぜか。それは著者のこの一文に集約される。「リベラリズムのようなイデオロギーが、自らの中核的な価値や概念の一部だけを、他の価値や概念を顧慮せずに極端な仕方で追及するとき、イデオロギーとして行き詰るさまを例証している。寛容や一般的な利益への配慮を欠いたままで法的妥当性を追求すれば、制度の残虐な運用となる。社会正義を欠いたままで無制約な市場の富の蓄積を擁護すれば、不当利得行為や規制を欠いた新たな権力集中を生み出す。民主的感受性を欠いたままで文明的生活水準を追求すれば、冷淡なエリート主義に帰結する。多様性と差異に注意を払わないままで合理的コンセンサスや民族的同質性を信じ込むならば、社会的排除を生み出す。」pp.219
著者の分析を借りれば、現代社会においてリバタリアニズムやネオリベラルが「われこそはリベラリズムの本家本元である」という自認のもとにリベラリズムを攻撃している現象にどのような問題が含まれているのか一目瞭然である。すなわち、リベラリズムの持つ7つの思想のうち特定の思想の価値のみを過剰に強調することでその他の価値を等閑視しており、リベラリズムが持つ中核的価値の相互作用を、ないものにしているということなのである。この分析によって、現代リベラリズムが何故隘路に陥っているのかという疑問に答えを出すことができると思う。
リベラリズムについて考えたい人には一読を進める一冊である。
2021/11/17 16:55
アケメネス朝の概説書
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アケメネス朝の通史を扱った概説書。日本でこの分野を扱った通史的な本は少ないので貴重であると思う。
著者は研究について史料の問題を挙げている。アケメネス朝の歴史研究はヘロドトスやクセノポンといったギリシア人の手による文献史料に負うところが大きかったのだが、70年代のポストコロニアリズムの影響によってそういったギリシア人のペルシア観にはバイアスがかかっているのではないかという批判が起こる。ギリシアの文献史料に依拠したギリシア中心に支配された従来のペルシア帝国史像は脱ギリシアが必要だというのである。
著者はこのようなポストコロニアル的批判に一定の理解を示しつつも、ギリシア人歴史家も帝国の一部であったのであり、西洋、東洋、といった単純な二元論が通用しないとする。ギリシア語文献史料を排除するのではなく、多角な視座から読み直すべきとの立場を取り、こうした史料を「スルメか酢昆布のごとく味がしなくなるまでしがみつくす」ことがアケメネス朝研究の醍醐味だとしている。
2021/11/17 16:34
そんなこと言ってないよと言う視点
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デカルトの入門書は既にいろいろ存在しているのだが、本書が普通の入門書と違うのは、デカルトの主張は~である、という記述ではなく、デカルトは~と言ってないという形式を取ることである。誤解、誤読、単純化、不正確な解釈によって歪められたデカルト像をただすために、本書では21の「言ってないこと」をあげて、それらがデカルト本来の思索とかけ離れているかを明らかにしようとするのである。
巻頭に挙げられている「言ってないこと」は「学校で教わることはどれも役に立たない」というものである。デカルトの通った学校とはイエズス会によって設立された伝統的なキリスト教の学校で、デカルトの試みた新しい哲学にとって、そこで教わることは確かに役に立たなそうではある。この言説を著者が如何に否定するのか詳しくは本書をお読みいただきたいが、私はこの章を読んだ際に、芸事における「型破り」や「守破離」のことを考えた。
本書を読み終えて、著者のデカルトの読みは文献学者のそれであり、一語一語を大切にする読みである。なんらかの哲学書を読んだ際、この哲学者の主張は○○であると合点しようとするとき、哲学者の著作に本来含まれていた豊かなニュアンスを平板なものにしてはいないかとの自戒の念を持ちたくなった。
2021/01/25 01:20
財政赤字が増えると大変だという神話を打ち崩す
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MMTの本と言うとランダル・レイ氏の教科書が翻訳され、平易な解説本もいくつか出版されている。レイ氏の教科書は理論の話で複雑な会計の仕組みなど、専門的に勉強していないととっつきにくい感があったのだが、本書はより一般向けに、財政赤字にまつわる巷の通説のどこが間違っているのかを具体的に指摘していく内容になっている。
財政赤字にまつわる通説とは、日本でいうと、時事問題や社会の仕組みを分かりやすく解説する番組だとか、ワイドショーのコメンテーターなどが話していること、「国の借金が大変で云々…」だと思ってもらえて結構である。この本を読み終わった後は、地上波の番組を見ながら、このコメンテーターの言っていることは間違っているぞ、と見抜く力がついているだろう。
2023/02/10 19:39
3級の実戦問題
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別途販売しているテキストを終えたらこの問題集に挑戦するとよい。この問題集を2-3周もすれば出題範囲は完璧になっている。本番形式の模試が3つあるので実際の試験と同じ感覚で解くことができる。
2023/02/10 19:36
3級の勉強を始めるために
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簿記3級を勉強しようと購入。トピックごとに全部で13章に分かれているので、1日あたり1章のペースで進めていくとすれば、2週間程度で3級の範囲を終えて、あとは実践問題を解くだけ、という状態に持っていける。以上は毎日2時間程度の勉強時間で可能と思われる。
2023/01/30 15:23
人権理念の現実
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普遍的人権の観念の成立から国際政治の中でどのように人権システムが発達していったのかを説明している。
普遍的人権のルーツは他者への共感から始まっているという。奴隷貿易撤廃運動、女性の権利運動、遠く離れた異国の地の他者への苦しみへの共感が社会を動かす運動になっていった。労働運動はマルクス主義の文脈で語られることが多かったが、経済的に困窮する他者への苦しみの共感と言う点で通じるるものがあると言う。
世界人権宣言として人権の理念は一つの結果を結ぶのだが、では国際政治の中での取り組まれ方はどのようなものであったか。人権と一口に言ってもその意味する領域は多岐にわたる。結論から言えば各国は自国に都合のいい人権理念には賛同するものの都合の悪い部分は無視する態度を取った。アジア、アフリカ諸国は白人中心主義やヨーロッパ帝国主義への反発から、民族自決権や人種の平等については人権の名の下に支持したが、民主主義が未発達な中での独裁的な政治体制による人権侵害については内政干渉だとした。
冷戦期では米ソの対立においては互いに相手を人権の名の下に批判するという応酬が見られた。ソ連はアメリカの人種差別、経済格差を批判し、アメリカは市民権、政治権の抑圧を批判するといった構図である。人権は大国間政治の批判の道具として使われていたのだが、高次の理念としての人権は尊重すべきものとして扱われており、反って国際規範としての人権の地位は高まっていった。
国際人権の取り組みがどれほど人権侵害を防げたのかについて、天安門事件やコソボ紛争、ルワンダのジェノサイドなど、防げなかった部分もある一方で、東ティモール等の成功例も挙げられている。
人権実践も外からの押し付けでは成功しない例としてFGMが挙げられている。先進国の視点から後進国の風習を野蛮で遅れたものと一方的に見做す視点では現地の反発を招きうまくいいかないと言う。植民地時代のケニアではイギリス人がFGM撤廃運動を行ったが、遅れた現地人の野蛮な風習を上から矯正するという態度でのぞんだためにこれが現地人のナショナリズムに油を注いで独立運動につながったとされる。一方で中国の纏足撤廃運動では域共同体のリーダー自身が改革の必要性を痛感して多くの賛同者が得られた。地域住民の全体を味方につけるような根回しが必要で、人権実践は根気強くやっていく必要があるのだとうかがえる。
紙の本法医昆虫学者の事件簿
2023/01/30 15:17
法医昆虫学について
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法医昆虫学とは聞きなれない言葉であるが、人間の死体の分解過程で発生する昆虫の生態相から死亡時の状況や、死体がどのような環境に置かれていたか、死亡推定時刻はいつなのかといったことを分析し、その結果を裁判で刑事事件上の証拠として利用する、という学問領域の話である。
死体の腐敗過程で集まってくるハエやカツオブシムシといった昆虫の種類が違うこと、さらにその昆虫を捕食する昆虫まで分析するという根気のいる作業をしている。法医昆虫学者はどういった専門的知識を備えていて、死体をどういう視点で見ているのか、どこに注目しているのかなどが知れる。
人間の死体の腐敗過程を分析する実験でまさか本物の人間を使うわけにはいかない。そこでブタの死体を資料として使うのだが、いざ豚の死体を用意しようとすると動物の権利の観点から横やりが入る、というのが興味深い。例えば人道的に屠殺されたブタであることを証明せよだとか、絶命させる際の苦しみを取り除くために麻酔をかけたらどうか、といった提案が来るのだという。薬剤などを使ったら実験結果が変わってしまうのでそういう申し出を断ったというエピソードが紹介されていて、昨今の実験動物を使用する際の困難などが知れて面白い。