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chipaさんのレビュー一覧

投稿者:chipa

3 件中 1 件~ 3 件を表示

平易な文章で書かれていますが、精神病理学的知識があればより深く読めると感じました

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

小生、山登先生と同じ精神科医ですが、複数の人から自閉症スペクトラム障害(ASD)と指摘された当事者でもあります。東田さんと山登先生の、丁々発止の往復書簡、ワクワクしながら読んています。

まだ半分くらいしか読んでいませんが、なるべくネタバレにならぬよう気をつけて感想を書きます。


『記憶や生き方、嘘や愛についてなどの哲学的なテーマ』とありますが、哲学的と言うより、精神病理学的に自閉症とはなにか、お互い考察しているように感じます。山登先生は精神医学者なので、やや理屈っぽく解説していようで少し気になりますが、それを東田さんが分かりやすく当事者の立場で具体的なエピソードを交えて応答しています。一方、山登先生の定型(発達)者の立場からみた障碍当事者像に対し、東田さんが当事者の立場で答えています。

一見、平易な文章で書かれていますから、読み物としては、理解に難くないと思います。“ヤスパースを読め!”・・・とまでは申し上げませんが、ある程度、精神病理学の基礎があった方が、より深く理解できそうです。


東田さんは『正義』とか『コミュニケーション』といった言葉を東田さん独自の概念で使っておられますね。精神科医の内海健先生も指摘されていますが、これは自閉症者特有の母語獲得によるものでしょうか? とても興味深く感じました。


ただ少し気になったこともあります。

『そもそもエジソンの時代にはADHDという障害はなかったのだし、アスペルガー症候群という概念が生まれるのもアインシュタインの没後三十年ぐらいしてからのこと。ですから、診断すること自体がナンセンス。』(162ページ)

これは少し言い過ぎではないでしょうか? 東田さんは自閉症、古典的には、カナー・タイプの自閉症ですが、すべての自閉症者が東田さんと同じじではない。それと同様、すべてのADHDがエジソンと同様でなければ、すべてのアスペルガー症候群がアインシュタイン同様でもない。とはいえ、疾患概念が確立する前だからADHDもASDも存在しなかったと言い切ることはできないし、この論理だと病跡学研究の全面否定になりかねません。また、ウィングがアスペルガーの論文を再発見し “Asperger's Syndrome” と銘打った1981年、小生はこのときにはすでに10代半ばですが、ある日突然アスペルガー症候群を発症した訳でなく先天的に持って生まれたはずです。

何でもかんでも特定の天才と発達障碍を結び着ける最近の風潮はどうかとは思いますが、精神科医である山登先生には、もう少し慎重な表現をしていただきたかった(同業者としてちょっと厳しい目かな?)


『なぜなら、自分の力だけではどうしようもないことが、世の中には多すぎるからです。自分の力の限界がわかった時、人は立ち止まり、運命に身を任せるのでしょう。』(153-154ページ)

ミンコフスキーは精神分裂病(現在の統合失調症)における自閉症状を “貧しい自閉” と表現しました。一方、自閉症の自閉は “豊かな自閉” です。こころの内面を何らかの方法で表出出来れば、実に豊かな表現が可能です。東田さんのお母様をはじめ周囲の方の努力には敬意を表します。

しかし、小生が驚いたのは、弱冠二十歳の青年が『自分の力の限界がわかった時、人は立ち止まり、運命に身を任せる』と断言する力強さ、小生は50歳つまり天命を知る歳にしてやっとわかりかけたことですが、そう断言できる若い世代がいる世界に明るい希望を感じたのは小生だけでしょうか。

(参考)『自閉症スペクトラムの精神病理 星をつぐ人たちのために』(内海健著,医学書院,2015)

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ガラスのうさぎ 新版

2019/03/17 15:55

他人事とは思えない

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

小生は戦後生まれですが、父は著者の高木敏子さんと同じ昭和7年生まれ、父の妹(つまり叔母)は昭和10年生まれです。父の家族は神戸市神戸区下山手通(現・神戸市中央区下山手通)に生まれ、戦争中、父は縁故疎開で富山県の高岡に、父の妹は学童疎開で兵庫県の北条(現・加西市)に疎開していたと小さいときから聴かされていました。

おそらく平成生まれの若い人たちには遠い世界のように感じられるかもしれません。しかし、それほど昔の話ではありません。

戦争が現実世界から遠ざかると、とかく戦争は、イデオロギーとか、パワーバランスとか、そういうことでしか考えられないようになりがちです。

でも、仮定の話をするのもなんですが、もし、父が省線で神戸から高岡に疎開する途中、米軍機の機銃掃射に出くわしたら

・・・なんて想像したら、決して他人事ではありませんよね。

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著者自身の信仰告白か?

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小生も日本基督教団所属のプロテスタント。その立場で評するならば、残念ながら、特別、目新しい内容というほどのものではない。

とはいえ、フスにせよ、フロマートカにせよ、我が国ではあまり知られていない(クリスチャンの間でさえ)。そういう意味では、宗教改革における“ルター前史”を紹介した意義は、大きいかもしれない。

著者は、外交官時代から、フロマートカの神学の研究をライフワークとしていらっしゃる。フロマートカは、当時無神論国家であった、社会主義時代のチェコにおいて、如何にして宗教と国家と、どう“折り合いをつける”を着けるか、苦心したのではないだろうか。

それはまた、火刑に処せられた、ヤン・フスとて然り。

いやいや、誰よりも愛国者であったがために、時の為政者の忖度を受けた検察官による、国策捜査により有罪判決を受け、外交官の途を絶たれた、著者自身もそうではないか。

そう思えば、愛国者でありキリスト者たる、著者、佐藤優氏の信仰告白ともいえる著作ではなかろうか。

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