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hmさんのレビュー一覧

投稿者:hm

8 件中 1 件~ 8 件を表示

大きな鳥にさらわれないよう

2019/03/26 12:49

読みよく読みごたえあり

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

何もこの小説のことを知らずに手に取りました。少し前(何年か前、という意味ですが)に、この物語がとてもいいと評価をしている方がいて、いつか読んでみようと思っていました。ふと思い立ち、手にとってみた次第です。今まで、川上弘美の作品は短編集2冊、エッセイも同じく2冊ほど、読んだことがあります。

一章ずつにしっかりした重みがありつつ、読み手の受け取りやすい長さに限られ、馴染みやすい言葉で書かれた物語です。読みやすく、かつ読みごたえがありました。
読み終えた後にまた初めから、ゆっくり読み返したくなる物語です。

川上弘美の物語には強い生命力を感じます。優しげで、かつ図太い。作中で困っている登場人物には、生きるように仕向ける「なにか」が訪れる。あるいはあっけらかんと生きる登場人物が、読んでいる私の前に現れる。

読み終えると、「まあ、とりあえずやってみようか」という気持ちになる。背中を押されるわけじゃなく、生きるための力を満たされるような。あるいは逆に、余分な力を抜いてくれるような。弱っているときに読みたくなるのが、私にとっての川上弘美の作品です。
そういう生命力を、言葉を使って著したような物語でした。

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自転車、急カーブ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

読むことができてよかった。おりあるごとに、この本の中の色々な景色を思いだすだろう。政治の話を耳にするときだけじゃなく、どこかの急カーブや走っていく自転車を見たときや、ビスケットをかじってるようなときにも。

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されど舞城王太郎

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

舞城王太郎の小説は読めてる気がしない。文字は入ってくるけど、作家の、表に出さず語ろうとしているものを読み取れている気がしない。

あるいは図る必要がないのかもしれない。無意味ということではない。「これだ」「こういう意味だ」という答えを、必死に求めなくてもいいのかもしれない。
読んだけどなんか読み切れてなくて、なんとなくもやもや残り、考え続けるのでいいのかもしれない。私の、舞城王太郎の本の読書はそういうものだ。

この本の物語には、妖怪の類は出てこない(たぶん)。だけど舞城王太郎の醸す、恐ろしいものは漂っている。
人間の起こす奇怪なことや様子を、完全な「リアリズムの小説」として書いたのが、この本なのかと思った。

直接的にこちらに話しかけてくる文体で、疲れた。同時に、読みやすいのですぐ終えられる。この舞城王太郎スタイル、文体も物語も、これからどこへ行くんだろう。

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初夜

2019/04/20 16:56

「人生」におけるバイオリンの応答

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

とても現実的なフィクションだと思った。
丁寧に人物の心理を書き、その心理とは裏腹になりうるセリフを並べてある。恋愛を経て結婚したばかりの、言葉にするには大変な「問題」を持つ二人が、この小説の成り立ちをがっしりと支えている。
二人の物語というより、物語のための二人、だと私は思った。

「ただ第二バイオリンが第一バイオリンに応答しただけだった」という一文が作中にある。ただの応答が「人生」を右へ、あるいは左へ切り替えさせうる。
楽譜に載った応答は、書き込まれ、演奏される時点で必然になる。
「人生」ではどうだろう。起こった応答が偶然だったか、あるいは必然だったか、私にはとても判別できない。

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叶えられた祈り

2019/04/20 15:24

汚れていない怪獣

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サリンジャーは、「うまく」夢を叶えなかった人物に当たるのだろうか。酒、薬、社交とゴシップの、無数の宝石や汚れから逃げおおせたから。田舎に腰を据え姿を現さないことで(たとえそうだとしても、そこではそこで、サリンジャーにはサリンジャーにとっての闘いはあっただろう)。
書き上げられていたら、どんな作品になっていただろう。
完結したものを読んでみたいと思うけど、この三章で成る『叶えられた祈り』からも、語り手の目にしたルビーや金や、まだ汚れたいない怪獣を見せてもらえる。
叶えられた祈りに、より多くの涙が流される理由も。

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さよなら、愛しい人

2019/04/08 18:43

言えずじまいの

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村上春樹訳『ロング・グッドバイ』のつぎに読んだフィリップ・マーロウの物語。
「さよなら」は簡単な言葉じゃない。親密な思いを互いに抱いていなければ、伝えられないのかもしれない。伝えるための努力を絶やさないこと。受け取るための手間を惜しまないこと。
たぶん『ロング・グッドバイ』で、テリー・レノックスはマーロウのために努めたんだろう。さてマロイとヴェルマは?…

マロイ、ランドール、「ヘミングウェイ」にレッドという、マーロウの気に入った人物が魅力的だった。親密な気持ちを持つことや、友情のようなものを感じることは、少し「弱さ」を見せることだ。気を許すということだから。
タフなマーロウが気を緩める場面が、私はとても好きだ。
楽しい読書だった。

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真昼なのに昏い部屋

2019/04/08 10:55

籠の外へ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

私の中では、美弥子さんが白い文鳥に見えた。つるつるした身体と黒い瞳、ときどき小さな顔をかくっと傾ける。
ジョーンズさんは鳥籠の扉を開ける。

まず手を差し入れる。手乗りにする。つぎに手と一緒に、籠の外へ出す。そのまま少し歩き回る。籠の外の景色を教える。
小鳥は止まり木ではなく、差し込まれた手を好きになる。外の景色に興味を持つ。知ってしまえば、今までの冷たい止まり木や狭い籠(軍艦並みの大きさであっても)に違和感を持つ。
それで、小鳥は籠の外へ出て行った。

家から出た美弥子さんは、もう小鳥のようではなくなってしまったとジョーンズさんは思う。
美弥子さんはずっと遠くの高いところへ飛んでいって、そのうち、ジョーンズさんの手にさえ戻って来なくなるだろう。

美弥子さんの解放および変身の譚だ。(世間様としてはとうてい認め得ない、不倫の物語にも関わらず、)心楽しく読んだ。

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久しぶりに読んだ舞城小説

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

久しぶりに読んだ舞城王太郎の小説。さらさらさらっと流れ込んでくる言葉は相変わらず。
奇譚や怪談の風情を奥にやって、誰かと誰かの結びつきの物語がくっきり描かれている。それでも、ぼーっと読んでる読み手の方に斬り込んでくる場面やセリフもあった。
あー読みやすかったなぁ、だけで、本を置けないのが舞城作品らしいな、と思った。ふとした折に思い出しては、どういうことだったんだと悩ませてくる物語。
昔読んでいた舞城王太郎の小説をまた読みたくなった。

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