usa_0814さんのレビュー一覧
投稿者:usa_0814
ゼロからの金継ぎ入門 器を蘇らせる、漆の繕い
2019/07/10 22:18
初心者におすすめできます。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
土鍋の蓋を割ってしまったので、どうせなら金継ぎというものをやってみようかと思いましたが、初心者向け金継ぎセットがなかなかお高いのでまずは知識から入ろうと思い、本だけ購入しました。
そもそも割れた破片を接ぐだけなら、金粉はなくても漆だけでできることすら知らなかったので、漆とテレピン油を数百円で購入して無事「金なし継ぎ」ができました。
このあと金粉を購入するか、それとも他の仕上げ方をしようか、悩みながら検討することにします。
千年図書館
2020/01/26 18:23
読後感がすごい
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優しさと怖さが同居した、最後の一行で持っていく独特の読後感がある短編集。
どの作品も意外性を含めた構成力が見事で、中でも「見返り谷から呼ぶ声」と「終末硝子」が飛び抜けていて、他もそれに劣らぬ作品ですが、少しでも説明しようとするとすぐにネタバレになってしまうのは感想を書く人にはツライところでしょうか。
SF的だったりファンタジー的だったりもする舞台の中で、ミステリとして謎が明かされていく展開を見せながら、登場人物たちの強さや弱さが物語を動かしていく、人間の描写に最後の読後感を合わせて引き込まれてしまいます。
神さまの貨物
2021/01/21 13:48
名作です
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二度目の大戦が起きていた当時。ナチス占領下の地域で「人でなし」と呼ばれていた、ユダヤ人の捕虜たちを収容所に運ぶ貨物列車の窓から捨てられた赤子を拾った、子のいない貧しい老夫婦が育てていくお話です。と、こう書くと戦争への反対や平和への賛美が語られるお話に思えますが、終始変わらずに語られるのはこの作品のテーマである「愛の尊さ」についてだけで、それ以外はすべてが瑣末な事柄に思えるほど、ただひたすら真摯な愛が綴られていきます。
そらおそろしくなったのは、この舞台、この背景でこの内容の物語を、安易な善悪への批判に向けずに、最後まで一貫したテーマに沿って書ききっている抑えられた筆致でした。彼らが人でなしと呼ばれることになった背景、くすんだ緑の制服の連中による占領、赤い星の解放軍による暴挙など、これらを非として断ずるのではなく、どのような世界でも誰かを育む愛こそが尊いとだけ語り続けることで、神聖に思えるほど強烈なメッセージを投げかけてきます。
この作品に対して書評を書くこと自体が、すさまじく野暮なことをしていると思わせるくらいに、余計なもののすべてを排して、愛の尊さだけを語ることができるのかと思わされました。
そしてただひたすら感動しました。
これ以上の感想は余計だと思います。
線は、僕を描く
2020/01/18 11:50
とにかく描写が美しい。
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水墨画を題材にした、心を閉ざした青年の成長を描くお話です。
とにかく内面描写や情景描写が美しいの一言。主人公の霜介や周囲の人物たちの性格や心情や成長を、彼らが描く水墨画の描写で表現する見せ方がとても上手く、これは推薦されるのももっともだと感心させられた良作です。
個人的な感想では、読後に千瑛の視点でもこのお話を読んでみたくなりました。
ブリタンニア物語
2019/05/14 22:45
サトクリフ風
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滅びていく帝国に残された人々のお話で、主人公の少年ジャンと少女フィオレンティナを中心にした、ジュブナイル風で歴史小説風の物語です。
ローマ撤退後の属州ブリタンニアという舞台はやや珍しいかもしれません。歴史考証はともかく、サトクリフ調のお話が好きな人にはおすすめできそうです。
乙女ゲーのモブですらないんだが 1
2021/01/21 13:43
優しい世界
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いわゆる異世界転生もの。急逝した主人公が転生したのは妹が遊んでいた乙女ゲームの世界で、ゲームのモブとしてすら登場しない「ライバル役の公爵令嬢の家に仕えている庭師の息子」に生まれついたというお話です。
まず率直な感想として、これって異世界転生ものの必要はあるんだろうか?とは思ってしまいました。とはいえこれはそうした背景や設定がなくてもよいお話だという意味でもあり、急逝した後悔に起因する主人公だからこそ、その性格が魅力的なものになっているのは楽しいところです。
コンピュータゲーム的な魔法世界だからこその世界観や設定の描き方は面白いので、欲を言えば「優れた技術は魔法にも思える」ことと「紫陽花が魔法の属性で色を変える」ような描写をもっと前面に出して、この作品ならではの世界をもっと伝えてほしいと思いました。
そしてせっかくの多彩な花木や庭園の美しさを伝えるのに、和名だけではなく、直接的あるいは比喩的な描写があればもっと美しい絵が思い浮かんだろうにと思わされるのはもったいないところです(ちなみに続巻では花木の描写がもう少しわかりやすくなっています)。ちょっとした文章や校正にひっかかるところが散見されるのももったいないところかと。
という感じで先に気になるところを書きましたが、この作品の魅力はなにしろ主な登場人物たちがよい人たちばかりで、最初から最後まで読んでいてあたたかい気持ちでいられること。恋愛ファンタジーと銘打っていますが、愛情のある世界でリュディア嬢やロイ王子たちの成長を見守っていく心地よさが得られる作品ではないかと思います。特に登場する大人たちがしっかりしているのは、こういう作品を支えてくれる存在として頼もしく思えます。
子供にも大人にも、誰にでも安心してすすめられる良作ですが、個人的な感想は「乙女ゲームのライバル役の令嬢って結構いいやつだよね」というのと「エルンスト公がとにかくかわいいよね」という二つですね。
忘却城 炎龍の宝玉
2021/01/21 13:41
愛しているよと言えるまで
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亀珈(かめのかみかざり)王国という、死者を蘇らせる術を用いる国で、生者と死者のあいだに生まれた界人の儒艮が、私塾を開くために幽霊屋敷を手に入れたところから物語は始まります。ようやく塾を始めたと思いきや、死にかけた炎龍が都を訪れると、界人として龍の言葉を解する儒艮に王宮から声がかかります。
シリーズものの続編で、名前も舞台も設定も特異な世界でのお話にも関わらず、初めて読んだ読者が理解できるようにとにかく丁寧な描写や説明がされていることに感心します。界人の儒艮と、彼が連れている金魚小僧という少年が、これまでどのように生きてきてどのような経緯で一緒に暮らすことになったのか、この国の歴史がどのように続き、どのように政が行われているのかなど、あるいはこの世界の技術や生き物や風俗その他、とにかく丁寧に描かれていることに脱帽します。
巷にあふれるファンタジー小説と呼ばれる作品が、「魔法とかモンスターとか知ってるよね?」と言わんばかりに、何の説明もなく語られがちなことを思えば、本来これだけの親切さはあるべきだと思います。
ですが、この世界が好きでたまらない人にはご褒美でしかないこれらの描写が、あまりに丁寧すぎてそこまで語らなくてもいいですよと思わされたのも事実で、たとえば「千金全席」という単語はこの世界における「満漢全席」の意でつくられた言葉だと思うのですが、言葉の由来まできちんと説明してくれるおかげで世界観や雰囲気がよく伝わってくる一方で、話の筋とは必ずしも関係ない言葉をここまで描写する必要はあるだろうか?と思わされてもしまいます(私はこういうのは好きでたまらない人なので尚更)。
そして肝心のお話は、やや世間ずれした知識人の青年に引き取られた少年が、愛する(敬愛する)青年のために成長するという流れで、定番といえるかもしれませんが、だからこそ読んでいてしぜんに好感を覚えますし引き込まれます。むしろ見事だと思ったのは、登場人物一人一人の内面の描写で、素朴な感情から歪んだ愛憎、半ば狂気にまで達した性格までよくも描きわけられるものだと感心するしかありません。
この作品の中に登場する、愛している、という感情が、人も獣も人外も含む登場人物それぞれまったく別のものとして描かれていることを知ると、最後の「愛しているよ」も彼だけの言葉であることが伝わってくるのは見事としかいいようがありません。
人にすすめるなら、描写が丁寧すぎるのでこの半分の長さで綴ってほしい作品です。自分が読むなら、この丁寧な描写を隅々まで味わいたくなる作品です。
二百十番館にようこそ
2021/01/21 13:38
ニートの館
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三十路を前にしたひきこもりニートの主人公が、両親にだまされて?伯父の遺産である孤島の研修センターに放り出されると、老人ばかり十七人しかいない島で暮らしていくことになるというお話。インターネット用の回線を引き込んで、ひきこもり時代から続けていたネットゲームを再開した主人公は、生活費のためにも空いている部屋に他のニート連中を受け入れていくことになります。
もともと「犯罪すら起きない優しい世界のミステリ」を描かせたら随一の著者ですが、主な登場人物が二百十番館で暮らすむさくるしい男たち四人と、島にいる老人たちなので、絵面にしたら華やかさのカケラもありません。それでいて、このむさくるしい男たちに終始涙腺をゆるまされっぱなしになる描写は著者の真骨頂といえるかもしれません。ひきこもりでコミュニケーションにうとい彼らだからこそ、人の好意に対してしぜんと涙を流すことができる存在にもなっています。
ニートの主人公が、伯父の遺産となる研修センターに捨てられるという導入はまず強引ですし、登場人物や起きる事件も都合がよすぎる側面はありますが、そんなものはミステリ小説で殺人事件がかんたんに起きるなんて強引だというくらい野暮というものでしょう。むしろ主人公が「君それだけしっかりした人間なのによくニートになれたね」というくらいには行動力があることに、苦笑しなくもありませんでした。
かなり親切で丁寧な描写が用いられていますが、それでもインターネットを用いたネットゲームというものに親しみがない人には、彼らが楽しんでいるゲームというものが理解しづらいかもしれません。だからこそ、いわゆるライトノベルを読んでいる人や、個人的にはライトノベルを書いている人に読んでみてほしい作品です。
これだけのロジックとこれだけの描写があれば、ネトゲ廃人のむさい男を主人公にして、これだけ感動するお話を書くことができるんですよと。
なめらかな世界と、その敵
2020/02/06 20:58
ロマンチックSF
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斬新な視点と、深い恋愛観に引き込まれるSF短編集。SFとロマンスは相性がよいというのは常識?ですが、全編とも独特な世界が描かれていて作者の発想と構想力を見せつけられます。
どちらかというとロジックの妙よりも、優れたアイデアで生み出される世界と、そこで交わされる登場人物たちの感情がテーマになっていて、往時のロマンチックなSF小説を思い出させる作風が魅力。特に書き下ろしの「ひかりより速く、ゆるやかに」などはタイトルも内容も含めて、1990年代に出たらそのままアニメ化できるんじゃないかというほど、展開にのめり込まされてしまいます。
どの作品も短編にするよりも、長編にして更に作り込んで欲しいと思ったのは、作り込みが足りないのではなくて舞台がそれくらい壮大だからです。
泣くな研修医
2020/02/04 22:44
応援したくなる作品
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新人研修医の苦労と成長を描いたお話ですが、著者が現役のお医者さんのためか、現場の雰囲気が伝わってくるリアルで専門的な描写は流石です。患者の視点でもなく、家族の視点でもなく、医者になったばかりの未熟な研修医の視点で、ストレートな感情が伝わってくるので、これはもう読めば感動するよねという内容です。
主人公が次々と出会っていく患者や出来事が盛りだくさんなので、もう少し深掘りして欲しかったと思う事件や人物がまま登場するのですが、それだけ主人公が日々振り回されている様子が伝わってくるので、飽きずに一気に読める楽しさは秀逸かと。先輩医師の隠れたエピソードが出てきたり、主人公が未熟だからこそ見えないところもありますが、その彼だからこそ、人の命を扱うことに誠実に向き合おうとしているのは魅力。「こうあってくれたらいいなあ」と思わせてくれる医者の姿を見せてくれる、読んでいて応援したくなる作品です。
偽りの春 神倉駅前交番狩野雷太の推理
2020/01/31 23:33
吉田一沙に持っていかれた
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かつて「落としの狩野」と呼ばれた、もと刑事の警察官によって事件が解かれていく短編ミステリ。ですが、どちらかといえば狩野は各編を繋ぐための存在で、各編は犯人の視点で語られるので、彼らが犯罪に手を染めて暴かれるまでの心情が生々しく描かれる作品です。ミステリとしての意外性もある一方で、とにかく人間の描き方が見事。
全五編の連作という体をとっていますが、後半の書き下ろし三編の完成度が高く、特に「サロメの遺言」が珠玉。主人公狩野雷太の存在どころか、物語全編を食ってしまうほど強烈な吉田一沙の個性をここまで描けるのは恐ろしいほどで、失礼な書き方をするなら、彼女を主軸にした連作にするか、書き下ろし三編で一冊の本にしてもよかったのではないかと思うほどでした。
不老虫
2020/01/26 18:21
とにかくテンポのよい作品。
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農林水産省に勤める若い防疫官が、密入国した寄生虫「不老虫」を駆除するために、ハンターの若い女性と猫のコンビを連れて秋葉原周辺を駆けまわるというお話。
人間に寄生する不老虫とそこから採れる不老石、それを退治する女性という、ある種ファンタジーめいた存在を物語の軸にしながら、主人公を含む登場人物たちが推理と行動によって事件を解決する、あるいは事件を起こしていく構成が見事です。限られた情報の中で、登場人物たちが推理を進めていく場面は作品の白眉。
不老虫の設定のために対象年齢が高めですが、とにかく軽快なテンポとスリルが満載で、あっという間に引き込まれてあっという間に読み終えてしまう映画のような作品でした。
いつかの岸辺に跳ねていく
2020/01/18 11:51
エピローグで泣く
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作者お得意のミステリ風味でファンタジー風味の優しいお話。
護の視点で幼馴染の徹子との半生が語られた後で、徹子の視点で謎が解かれていく構成が流石。
なのですが小難しい評価よりも、それらを置いて最後に畳みかけてみせる展開と、エピローグで泣かせてくれるお話です。
それにしてもこの作者は本当に格好いい男性を描きます。
盤上に君はもういない
2021/02/04 15:32
四部が
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一千年におよぶ歴史の中で、女流棋士はいても棋士は存在しない。その将棋の世界で初めて女性として棋士になった千桜夕妃という人物を中心にして、彼女を追いかけていく人々を描いた作品です。女性記者の亜弓、義弟の智嗣、若きライバルの飛鳥、天才棋士の稜太の視点を経て、千桜夕妃の将棋と人生が紐解かれていきます。
内容は将棋ものですが、リーグ戦や大会の規定などを知らなくても通じるよう簡潔に説明がされていて、将棋のルールを知らなくても、初心者が読んでわからなくなることはありません。各章を語る登場人物たちもそれぞれが異なる性格で、それぞれが魅力的に描かれています。特に棋士の家に生まれたエリートだからこそ誰よりも負けてきたと自負する飛鳥や、コンピュータのロジックを実践することで無類の強さを持つ稜太の二人は、千桜夕妃にも劣らず惹かれる存在です。
各章を個別で見れば面白く、各章がそれぞれ深く関わってもいるのですが、惜しむらくは全体を通すとテーマがばらけてしまい、誰を中心にして読めばいいか、何を伝えたいお話なのかがぼやけてしまう印象があります。千桜夕妃の一貫した物語ではなく、夕妃と飛鳥のライバル物語でもなく、将棋を舞台にした群像劇にも見えません。
もう一度いいますが各章を個別で見れば、特に三部、四部、五部は間違いなく面白い作品です。だからこそせめて誰か一人の視点に絞って、その人の目で千桜夕妃を追いかける話にして、それ以外のエピソードをばっさり省いてしまうか、いっそ飛鳥の話、稜太の話、夕妃の話で三冊の別の本にして書いてほしかったというくらいに一冊で全部読むのがもったいない感じでした。
「私だけじゃ難しいかな」をクライマックスに持ってくればと思わせるくらい、四部が白眉です。
本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません 第5部3 女神の化身 3
2021/02/04 15:30
この主人公は
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コミカライズやアニメーション化もされている人気シリーズとのことで、話題に疎い身としては申し訳なく思いつつも読了。いわゆる異世界転生もので、信仰と魔法が結びついた世界の貴族社会で、領主候補となった少女として自領に貢献するもと「本好き」の女性のお話である。
最初に登場人物の紹介絵がずらりと並んでいるのを見て、これ覚えるのたいへんだなと腰が引けてしまったのだが、実際に読んでみると主要人物を中心に見ていけばふつうに読みやすくて一安心。おそらくシリーズが長く続いて登場人物が多くなっているのと、イラストレーターがそれだけ手の入った仕事をしてくれていただけらしい。これまでの展開はプロローグで、今後の予告はエピローグできれいに分けて描かれていて、本作のことは本編に収めている構成も読みやすくて好感。中途から読んでもふつうに面白い作品だ。
気になったところとして挙げておくなら、この世界独自の固有名詞に対する説明で、むしろシュミルやディッター、シュタープといった独自の単語は読んでいるうちにどういうものか分かるのだが、レッサーパンダややハルバードやコンソメといった単語が主人公ローゼマインの口から出てくるとつい引っかかってしまう。もちろん彼女の視点があるからこそ、この世界独自のものが伝わってくるので、「ローゼマインが知っていたもとの世界にあったもの」は分かるように描写してもらえると更にこの世界にすんなり入れるのではないかと思う。
世界観や貴族社会の描き方や、その社会ならではの風習や人々の考え方は丁寧に描写されていて、その中に現代的な考え方を取り入れて領地を発展させていくという主人公の立ち位置は面白い。彼女の潜在的な魔力が強いという設定よりも、知識とそれを活かす発想を持っている性格の方が印象に残るのも、主人公の描き方が上手いからだろう。
そしてこれは批判でもなんでもなく、題名にある通り主人公の「本好き」の度合いが尋常なものではないのが気になった。明日までに新しい本を読んでこいという課題をご褒美だと感じたり、本棚の本は端から順に呼んでいくものだと思っているという、普通ならただの変人なのだが、確かに本好きといえばこんなものだったりする。その本好きの変人だからこそ、彼女の魅力である知識や発想に結びついていたり、他者とのやり取りにほほえましいギャップが生まれる原因になっているので、これも描き方が上手いと思わされるところだ。
総じていえば、とにかく主人公を中心とした人々や周囲とのやり取りが本当に面白い作品。一冊の物語として見ると、主人公が変えていく社会の姿か、主人公が関わる人々との関係か、どちらかにもう少し動きが欲しかったところはある。領地対抗戦と、奉納舞後の話し合いのどちらかを主軸にしたほうが、更にクライマックスが盛り上がったのではないかというのは正直な感想だ。
ちなみに「フェルディナンド様」が主人公と同じ性格にしか見えないのは正しい認識なのだろうかと思いつつ、このお話を彼の側から見た独白でも読みたかったというのも正直な感想。
