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  3. ゲイリーゲイリーさんのレビュー一覧

ゲイリーゲイリーさんのレビュー一覧

投稿者:ゲイリーゲイリー

191 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本三体 1

2020/08/05 23:49

圧倒的スケールで描かれるSFの原点。

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本作は、アメリカ最高のSF賞とも言えるヒューゴ賞を受賞している。
しかもアジア人初受賞であり、そもそも翻訳小説としてヒューゴ賞を受賞すること自体が初快挙なのである。
そんな大注目作品である本作、結論からいうと前評判に劣らない見事な作品だった。

本作のコンセプトは異星文明とのファーストコンタクトである。
これだけを聞くと今まで何度も使い古されてきた題材であると思われるかもしれないが、本作はそのシンプルさが強みとなっている。
最近のSF作品は身近な出来事や日常生活に焦点を当てた、こじんまりとした作品が多いと思われる。
そんな中、本作は圧倒的なスケールで話が展開されていく。
それはまるでSFの原点に立ち返ったかのようで、誰もが宇宙規模の「未知」の世界や科学技術に魅せられることだろう。

また、そのシンプルさに併せてSF要素以外のエンタメ要素をうまく取り入れているのも、本作の魅力の一つだ。
主人公であるワン・ミャオが撮影する写真に映る謎のカウントダウン。
科学者たちの相次ぐ自殺。
そして物語の中盤でワン・ミャオの身に起こる事件。
これらのミステリー要素やサスペンス要素を盛り込むことでページを繰る手が止まらない。

個人的に最も素晴らしいアイデアだと思ったのは、物語内で出てくるVRゲーム「三体」である。
これを用いることで三体世界の説明を登場人物に理解させつつ、読者にも物語の世界観を説明する構造が非常に上手いと思った。
またVRゲームのパートは世界観の説明ではあるのだが、このゲーム内の描写もとても面白い。

そしてもう一人の主人公である葉文潔の過去も本作の欠かせない要素である。
彼女が経験してきた辛い出来事の至る所に政治的問題が描かれており、彼女の下した決断について非常に考えさせられた。
彼女を通して人間に対する「絶望」を描き、ワン・ミャオや史強を通して人間に対する「希望」を描いている。
この人間に対するそれぞれの考え方や、三体協会の内部分裂などが物語に奥行を与えていた。

本作はSF好きな方は勿論のこと、今までSFを遠ざけていた方にも是非読んで頂きたい。
ジャンルに囚われることなく、ただひたすらに面白い小説として本作は素晴らしい作品なのである。
しかもこれがまだ三部作の一作目というのが恐ろしい・・。
二作目以降にも大いに期待したい。

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電子書籍

電子書籍スキップとローファー(8)

2023/01/28 20:44

みつみの決断、志摩の葛藤。

13人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

明るくて実直な主人公・みつみ。
いつも真っすぐで失敗しようとも挫けず、勇気と自身に満ち溢れた彼女は、周囲の人々を笑顔にし励ます存在となっている。
しかし一方でみつみの屈託のなさに、嫉妬し疎ましいと感じる人物や、彼女のそうした言動に負い目を感じる人物も一定数存在する。

8巻では、上記のようなみつみの特性を手放しで褒めたたえるのではなく、そうした特性や価値観を持っていることは幸運だからではないか、と問いかける。
そもそも彼女が持っている特性に関しても彼女本人だけによるものではなく、むしろ家族や友人に愛されてきた環境のおかげでそうした言動が身についたのではないか、と。
もしそうだとしたら彼女の様に恵まれた環境下で育たなかった人たちの価値観や特性を糾弾するべきなのだろうか。

これまで周囲と壁を作ってきたことで、自身の想いに鈍感になってしまい、主義主張のない自分は中途半端だと思う志摩。
みつみの性格や価値観を恵まれていたからにすぎないと一蹴する八坂。
そんな八坂や志摩とのやり取りを通じて自分が如何に恵まれていたのか、本当に自分が優先すべきことは何なのかに気付いていくみつみ。

彼女たちを見ていると如何に人と人との分かり合えなさ、を痛感させられる。
しかし私たちはそれでもどうしても大切な人と分かりあいたいと強く想う。想ってしまう。
本作はそんな分かり合えないというもどかしさを直視し描きつつも、それでも分かり合いたいと想う気持ちは美しいと肯定してくれる。
みつみが志摩に放った言葉に心打たれたのは私だけではないはずだ。

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紙の本

紙の本ストーンサークルの殺人

2020/10/20 22:31

ゴールド・ダガー受賞作は本物だ。

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

猟奇的な連続殺人事件、関連性のない被害者、真相を明らかにするためには手段を択ばない型破りな警察、と聞けば既視感を覚えずにいられないだろう。
私自身本書の序盤では、どこかありきたりだなと思ってしまった。
しかし本書の面白さはその既視感をぶっ飛ばしてくれる。
怒涛の展開で読む手を止めさせることなく、あっという間にラストまで持っていく展開力には脱帽だ。

過去の事件を掘り起こすと次々と浮かび上がってくる謎や巧妙に張り巡らされた伏線。
この様に書いてしまうと既視感が増すかもしれないが、本書のそれらは一級品でゴールド・ダガーを受賞したのも納得できるクオリティである。
真相を追えば追うほど更なる謎が浮かび上がり、予想だにしない描写が伏線だったと気づかされる。
これこそがミステリーの醍醐味だと改めて感じさせられた。

本書で起こる事件の手口は残酷で、目を覆いたくなるような惨い事実も明かされる。
それでも陰鬱な気分を引きづることなくサクサク読み進めていけるのは、キャラクターの持つ魅力だろう。
正義のためなら手段を択ばず、周りの警察からは嫌われている不器用な主人公ワシントン・ポー。
持ち前の直感と規則に縛られない行動力を見ているのはとてもすがすがしい。
そしてその主人公と同等かそれ以上に魅力的なのがティリー・ブラッドショーだ。
一般常識に疎く人付き合いが苦手だが、天才的な頭脳を持ちデータ処理においては右に出るものがいないほどの実力の持ち主である彼女。
ポーとの出会いをきっかけに、自らの正義を貫く逞しさと行動力を身に着けていく彼女の成長ぶりも本書の見どころの一つであろう。
そして何よりポーとティリーの友情が今後のシリーズにおいて最も楽しみである。

個人的に本書で最も好きなシーンはラストシーンだ。
1つの物語の終止符でありながらも、今後の展開にも期待させる見事な幕引きとなっている。
また、本書はシリーズなのでまだ完璧に謎が解明されたわけではない。
訳者あとがきによると、本シリーズはすでに三作品が刊行されているらしい。
本書ですっかりファンになってしまったので、翻訳される日がとても待ち遠しい。

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紙の本

「自分」のペース、「自分」の気持ち、「自分」の人生

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「自分」を大切にすること、その重要性を本書は教えてくれる。
本書読了後、私たちが背負っていると思い込んでいる義務やルールという荷物をそっと取り除いてもらった気がした。
著者は自らの考えが正しいと我々に押し付けるのではなく、様々な角度から世間の常識や暗黙の了解に対して疑問を提示してくれる。
そしてその根幹にあるのが「自分」を大切にすることだ。

皆が良いというものが果たして本当に自らにとって良いものなのか。
今の自分の欲望がどこから来たものなのか。
世間に騙されることなく生きているのか。
といった問いかけから「自分」の気持ちや欲望などを素直に表現、発露する大切さについて述べている。
「自分」の人生なのだから周囲の目などを気にせずに自らのやりたいようにやるべきと述べている部分は、アドラー心理学や「ファイトクラブ」に通じるものを感じた。

不特定多数のレビューや意見などを参考にし、皆が正しいと信じる価値観に同意しないものを叩く現代社会において本書はより多くの人に読んでもらいたいと思う。
個性が大事と口では言いつつ皆が同じものを求め、同調圧力に反発する者に対して正しくないというレッテル貼る。
その様な大多数が同じ道を選ぶ中で、勇気を出して別の道を選べる人になりたいと思った。

また、人生への捉え方について書かれていた部分も素晴らしかった。
なぞなぞの答えを探すことに夢中になりすぎるあまり問題を解く楽しさを忘れてはいないかと述べている部分や、人生は答えじゃなくてリアクションが重要な試験だと述べている部分などが特に心に残った。

競争社会で勝つことを念頭に置いた教育を施される社会にて、本書は諦観的・悲観的に思われるかもしれない。
その様な考えがよぎった人にこそ本書は読まれるべきだと思う。
ありのまま生きることや人生を楽しむこと。
誰しもが一度きりの人生なのだから、結果のために耐える人生ではなく過程そのものを楽しめるようになれたらいいと思わせてくれた一冊だった。

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紙の本

紙の本海をあげる

2021/09/13 22:44

託された絶望の連鎖を断ち切るために。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

想像を絶する戦争の記憶、恋人に援助交際をさせて稼ぐホスト、一方的に責任を押し付けられた10代の若い母親、
声を奪われないためにハンガーストライキを決行した人物、父親から性的暴力を受けていた女性。
このエッセイで描かれている人々は皆、不条理な搾取を受け続けている。
加害者もまた時計の針を巻き戻せば被害者であるということが当たり前の環境において、著者は特定の個人を肯定も否定もしない。
「聴く耳を持つものの前でしか言葉は紡がれない」と本書にあるように、著者はただひたすら抑圧され続けてきた声を聴く。

そしてその構造は沖縄と日本の関係にも当てはまる。
沖縄の痛切な叫び声を無視し続け、観光地としての素晴らしさだけに注目する日本。
最良の決定という大義名分の元、辺野古に土砂を投入した日本は聴く耳を持たない。
沖縄の言葉を蔑ろにし、一方的な搾取を続ける。

そうした搾取を強いられ続けた彼らは、次第に口を噤むようになっていく。
米兵による性的暴力や軍機の爆音による騒音問題などについての問題も、沈黙させられてしまうのだ。
「差別をやめる責任は、差別される側ではなく差別する側の方にある。」にも関わらず、彼らの問題として全てを押し付ける。

本書は、そんな彼らの絶望を私たちに託している。
彼らの絶望を受け取った今、私たちは聴く耳を持つだけではなく、具体的な行動を起こさなければならない。
不条理な搾取の連鎖を断ち切るためにも。

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紙の本

紙の本ザリガニの鳴くところ

2020/04/07 21:18

自然を通して描く「孤独」

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本作は、孤独や人とのつながりといった人間なら誰しもが経験しうる事柄を、自然を通して丁寧に描いていた。
その普遍的なテーマをとても深く掘り下げており、特に孤独に関しては本作の核とも言えるほど深く掘り下げていた。

主人公であるカイアの様な苛酷な環境を経験したことがあるわけではないのに、カイアに自己投影してしまう。
誰しもがどこかで感じた疎外感や孤独といった感情を、カイアが一身に背負っているかのような感覚を覚えた。
なので、どこまでもカイアに感情移入してしまう。
読者はカイアの抱く苦しみ、喜び、苛立ち、といった様々な感情をともに感じるであろう。
ここまで登場人物に感情移入させる著者の卓越した人物描写には感服せずにはいられない。

本作の魅力は人物描写にとどまらず、フーダニット的ミステリー要素や詳細な自然描写なども挙げられる。
著者自身が動物学者であるので、自然描写は特に素晴らしかった。
野生動物の生態を人間の愚かな行動の比喩として用いている点や、自然界の美しさの描写などが特に印象に残った。

ミステリー要素や卓越した人物描写、事細かな自然描写やそれらを用いた文学的表現など本作は色々な要素を含んでいる。
それらを見事に混合させ、差別や偏見といった社会問題や孤独や愛などの個人的感情を浮き彫りにした本作。
本作を読んでカイアの人生に何を見出し、何を感じたかを様々な人に聞いてみたいと思った。

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紙の本

富と権力の犠牲者たち。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

どれほどの悪行を重ねようと、富と権力さえあれば検察や弁護士さえも買収できる。
そうして買収された彼らは、被告人がどれほどの悪事を重ねていようとも事実を歪曲し、法さえをも軽視する。
金に目が眩んだ事実を指摘されようとも、被害者側が懸命に訴えようとも聞く耳を全く持たない。
その結果、庇護されてしかるべき被害者が更なる責め苦を受ける始末になる。

こんな馬鹿げた、唾棄すべきことがまかり通ってしまう事実に戦慄が走った。
自身に何が起こっているのかを理解するのもままならない年齢だった被害者たちの傷口に、塩を塗りたくった関係者たち。
被害者だけが苦しみに向き合わされ、加害者たちは良心の呵責に苛まれることなく同じことを何度も繰り返していく。
そんな現実を突きつけられると、何もかもがどうでもよくなり匙を投げたくなってしまう。
こんな奴らが蔓延る世界が良くなるわけがない、と。

しかし本書の著者や被害者たちは、決して正義を信じて諦めなかった。
何度声を掻き消されようとも、幾度となく立ち向かい声を上げ続けたのだ。
彼女たちの様に正義を信じ屈しない人がいる限り、正義は存在しうるのかもしれないと一縷の希望が垣間見える。
その一方で過酷な状況のサバイバーたちがファイターとして、加害者に立ち向かう姿を美談として片づけるのではなく、彼女たちが矢面に立たなければならないような状況になる前に私たちに何ができるかを今一度考え直す必要があるだろう。
もうこれ以上被害者が責められ、加害者が擁護されるようなことがあってはならない。

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電子書籍

電子書籍ブルーピリオド(13)

2022/11/23 18:31

二項対立に囚われない、解釈。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ひょんなことからノーマークスというアーティスト集団と関りを持つことになった八虎。
そこの長である不二桐生は、独特な人柄で数々の人々を魅了しており、八虎もまた彼女との交流を経てアートの楽しさを再認識していく。
しかしノーマークスには良くない噂が流れており、藝大の教師や学生からはいい顔をされない。
このままノーマークスや不二桐生との交流し続けていいのか、という葛藤する八虎だったが、その悶々とした思いが次第に「罪悪感」について描きなさいという課題と結びついていく。

ブルーピリオドの魅力の一つとして、登場人物たちの悩みや葛藤がアートという枠組みに留まらず、人生や哲学といったより普遍的なテーマを内包していることが挙げられるだろう。
前巻ではアートと学歴、アートと環境、といった藝大の存在意義を問うテーマが主題とされていたが、13巻ではそこから更に一歩踏み込んでいき、"正しいもの"と"正しくないもの"の境界線、良い悪いの判断基準、といったより抽象的な概念に対して疑問を突き付ける。

そうした哲学的な問いを「罪悪感」という課題のテーマに落とし込むことができたのは、人一倍他者からの視線に敏感な八虎だからこそ。
これまで以上に哲学的なコンセプトを扱った課題だったからこそ、八虎は新たな視点で物事を見るようになっていく。
誰かにとって忌み嫌う場所でも誰かにとっては守りたい場所になり得るし、誰かにとって肯定したいものが誰かにとっては否定の対象となり得る。
白か黒かという二項対立に囚われるのではなく、そのはざまで揺れ動くことでしか見えないものもあるのだと八虎と共に私たち読者も気付かされるはず。

そして後半ではついに八雲がフォーカスされる。
個人的に最も好きなキャラクターなので今後の展開が非常に楽しみ。

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紙の本

紙の本べつに怒ってない

2022/11/12 22:32

曖昧なものを曖昧なままに。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

結果が何よりも重視される今の世の中で、とりとめのなさや曖昧さというのもは見向きもされない。
優先されるのはいつだって、意味のあることや結果に繋がるであろうことのみ。
そんな世の中と正反対の本作は、成果主義や結果主義から距離を置き、自分のペースで自分の言葉で考えてみようかなと私たちを立ち止まらせてくれる。

著者がその日その時々に考えたあれこれが詰め込まれた1遍1遍に、ハッとさせられたりフーンで終わったり共感したりとリアクションを重ねるにつれ次第に、私だったら、、、と考え始めてしまうはずだ。
そうやって考えることで何かの役に立つとか、明日から人生が劇的に変わるとかではなく、考えることそれ自体の楽しさに気付かされていく。

すぐにメリットやデメリット、正解や不正解、役に立つか立たないかという物差しで測ってしまうのではなく、とりとめのないことや曖昧なものをそのままにしておきつつ、それでも考えることは止めたくない。
そんな風に思わせてくれた一冊。

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紙の本

紙の本ミッドナイト・ライブラリー

2022/02/24 23:07

何を選ぶかではなく、何が見えているか。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人生は選択の連続。
ほんの些細な選択から人生が180度変わってしまうような大きな選択まで、
私たちは日々選択に迫られている。
今この時この瞬間の私という存在は、これまでの膨大な数の選択が作り上げてきたものだ。
つまり、これまでの選択がたった一つ異なるだけで今この時この瞬間の私は存在しえなかったとも言える。
だからこそ誰もが一度は考えたことがあるはずだ。
もしあの時あの瞬間に私が選択しなかった方を選択していれば、どんな人生を歩んでいただろうか、と。

本作の主人公・ノーラはとある出来事がきっかけで、そんな「もしも」の人生を体験することになる。
もしあの人と結婚していれば、もし親友と仲違いしていなければ、もし自身の才能ととことん向き合っていれば。
「もしも」の人生を渇望するということは、それだけ今の人生に、これまでの選択に後悔ことがあるということ。
もちろんそれはノーラだけではなく、私たちの誰もが抱いているに違いない。
誰もが胸の内にそれぞれの「もしも」を持っているのだ。

ではその「もしも」の中から、自身が最も満足できる人生を選ぶことが幸せなのか。
有り余るほどの富や誰からも注目される社会的地位、幼少時代に追い求めていた夢。
誰もが夢見るそれらを手にすることで人生は満たされるのか。
これまでの後悔を全て精算し、過去の選択を今の自分がベストだと考える選択へと上書きすることによって、果たして本当に人生から迷いや不安は取り除かれるのか。
即ち、幸せとは選択に依拠するものなのか。

ノーラはいくつもの人生を経験することで、次第に人生への見方が変化していく。
「もしも」に囚われず、選択に依拠しない人生の歩み方を知った時、
生きていることがどれほどの可能性に満ち溢れているか思い知らされるだろう。

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紙の本

紙の本マチズモを削り取れ

2021/08/09 15:16

保身による現状維持が蔓延しきった社会に風穴を空ける一冊。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

通勤ラッシュや電車内の液晶モニター、各メディアで報道される政治家及び芸能人による発言、結婚式や社内の昼食の風景など日常的に見られる光景。
当たり前のように繰り返されるそれらには、マチズモ(男性優位性)がこびりついている。
そのこびりついたマチズモを削り取るため、誰もが疑問を抱くことなく受け入れている様々な風習や社会構造についてとことん考えようというのが本書だ。

本書では、各章ごとに1つのテーマに沿ってマチズモを暴いていく。
あらゆる場面で見受けられるマチズモだが、その根底にあるのは男性の保身による現状維持。
自らの優位な立場を維持するため女性が受けている問題を矮小化し、男だって大変だと言い続け、問題解決をうやむやにする。
そういった愚行が繰り返されることにより、悪習であるはずのそれらが常識や基準へと挿げ替えられてしまうのだ。

今なおよに蔓延り続けているマチズモを一掃するためには、まず男性がマチズモの存在を自覚する必要がある。
美化され続けている体育会系の理不尽さや男が社会を背負っていくべき存在だという傲慢な態度を自覚するためにも、本書は必読と言えるだろう。
また本書は、削り取るべきマチズモを可視化するだけでなく、加害者に呆れ顔をされようと問題提起を繰り返すことの大切さも提示してくれる。
考えすぎだよと鼻で笑い現状維持に固執する社会に対して、考えすぎることで澱んだ社会に風穴を開けようとする著者の姿勢は誰もが見習うべきだ。

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紙の本

紙の本テスカトリポカ

2021/07/10 14:01

社会の暗部を映し出す鏡。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

善悪を超越した暴力。
正義や優しさ、倫理観や愛などが介在する余地などない純粋な暴力が本作では描かれている。
逃走用の車を手配するため、車の持ち主である夫婦を躊躇なく撃ち殺すような登場人物が本作では度々登場する。
どんな手段を使っても自らの利益を追求する彼らの残酷さと暴力性が圧倒的リアリティを持って描かれているにもかかわらず、悪趣味だと感じることは一切ない。

メキシコの麻薬カルテルやドラッグ、そして臓器売買。
私たちとは無関係だと思っていたそれら社会の暗部、裏側が私たちのすぐ後ろで行われていることを知り戦慄する。
もちろん本作はフィクションではあるものの、安易な気持ちで購入したドラッグが悲惨な麻薬戦争とつながっているということや、
臓器売買ビジネスでは子供のような社会的弱者が搾取されるということは事実に変わりない。
そのような資本主義社会の影を圧倒的暴力を交えて描いた本作。
筆力と創造力、そして入念なリサーチ力によって紡ぎあげられたこの物語は、日本国内では収まりきらない世界水準のクライム・ノベルといっても過言ではないだろう。

また、本作の最もユニークな点は現代社会の闇と血塗られた文明であるアステカをミックスさせた部分にある。
作中に登場するスペイン語やインドネシア語、ナワトル語や当時の小道具や紋様などからは、アステカ文明を全く知らずとも当時の雰囲気やおどろおどろしさを味わうことができる。
どこか神話めいたアステカ文明が次第に現実味を帯び、現代の日本で再現されていく展開は圧巻の一言。
著者の着眼点と、それらを見事に物語として完成させた手腕に脱帽する他ない。

アステカ文明を筆頭に、世界中で行われてきた人身供犠と臓器売買が絡み合って描かれた本作。
生贄を必要とする人間の本質的は今なお変化していないのではないだろうか。
そして、資本主義という弱者から搾取し続ける社会構造をこのまま存続してもいいのだろうか。
私たちが目をそらし続けているこれらの問題を、「テスカトリポカ」という鏡が映し出す。

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紙の本

自己肯定感と物事の捉え方の重要性。

7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

どこまでも共感できる一冊だった。
何もせずにいながら、やるべき事を先延ばしにしている罪悪感と消えることのない不安に苛まれること。
気心知れた友人たちと遊んだ後の帰り道に寂しさが倍増していること。
「私は全然期待していないから駄目でも構わない。」とうまくいかなかった時、傷つかないように初めから希望を持たないようにすること。
本書に記載されていた内容は、どれもこれも私にも該当することばかり。

本書は、今まで私が一人で悶々と抱えながらも見て見ぬふりをしていた問題を浮き彫りにしてくれた。
そしてそれらを頭ごなしに否定し糾弾するのではなく、そっと寄り添い物事の新たな見方や考え方を教えてくれた。

特に重要だと思ったことは、上記した問題は自らの視点次第だということ。
他者との関係に行き詰った時は自らの心を最優先に考えるべきことや、未知な状況には不安だけでなく興味や好奇心も存在すること。
また、その不安を抱いて人生に飛び込んだ者だけが波を楽しめるという部分には納得させられた。
ベストな選択など存在せず、選ばなかった道を常に渇望するのか、それとも選んだ道に喜びを見出すか。
重要なのは選択よりも自らの選択を愛することが出来るかどうかという考え方は、とても素晴らしいと感じた。

そして個人的に最も感銘を受けたのは、コップに水が半分あるという命題において、
なぜ水が「満たされている」状態を良しとするのかと書かれていた部分だ。
「まだ水が半分ある」、「もう水が半分しかない」。
ではなく、時には「もう半分も水が空いている」や「まだ半分しか水が空いていない」というように、
「良い」の基準が多種多様であるべきと著者は述べていた。
この発想は非常に素晴らしく、まさしくその通りだと思った。

最終的に自らを立ち直らせることのできるのは、自分自身だけである。
その事実は厳しいものだが、本書は必ずその一助となってくれるだろう。
読了後は肩の重荷をスッと降ろした様な気持ちになり、
また自らの足で歩いていけるように私達を充電してくれる一冊だ。

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紙の本

私たちが日常的に行っている心の働きがもたらす影響。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

悩みや苦しみの原因とは。
誰もが知りたいその答えは「心の反応」であると本書は説く。

本書には、「心の反応」とは何かということが段階的にかつ論理的に記載されている。
私たちが日々感じている漠然とした焦燥感や不安などの心の状態を、仏教の言葉で的確に言語化し、それに呼応する解決策も記載されている。
(渇愛:求め続けて、いつも渇いている、満たされない心、貪欲:過剰な欲求に駆られている状態のこと等々)

また、心の欲求を正しく理解することの重要性には驚かされた。
あらゆる物事に反応せず、客観的に心の状態を理解するだけである程度の悩みが解決できる。
と同時に、日々当たり前の様に無自覚で行っている執着や判断などを手放す重要性についても詳しく記載されていた。
判断することを止めて、あるがままの状態を見て理解することは心掛けていきたいと思った。

私たちが日常的に行っている心の働きがもたらす悪影響だけでなく、私たちがあまりできていない心の働きについても触れられていた。
特に自己肯定の大切さはとても重要なことだと思った。
自ら自身を心の拠り所とすることで、承認欲求や他者との比較から解放されることは私たちが最も優先するべきことだと思う。

インターネットやSNSの普及により他者との距離感が近くなった現代だからこそ、承認欲求は今まで以上に蔓延している。
そして承認欲求の蔓延により他者との比較が激化し、自らの人生の目的が競争社会で勝つことになってしまう。
そんな時代だからこそブッダの考え方がより重宝されるであろう。
より多くの人に本書を読んでもらいたい。

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紙の本

共感と包容力に満ちた一冊。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

他者比較によって、自身の不甲斐なさに苛立ち、努力を怠ってはいけないと自身に鞭を打つ。
その様な自身に対する攻撃が繰り返すことで、苦悩や不満は更に増すばかり。

本書は、そういった自分自身に向けた攻撃や呪詛の言葉をも優しく包み込んでくれる。
仕事や恋愛、将来への不安や夢の追い方など各章ごとにテーマ別で分けられているが、その根底にあるのは読者への信頼と共感だ。

他者との比較によって自らの価値を見出すのではなく、あなたがあなたでいることにこそ価値があるのだと著者は述べる。
相対価値ではなく、一人一人に絶対的価値があるのだと。
この考え方を身につけることができれば、将来の不安や他者比較による不安などに苛まれることはなくなるだろう。

また、自己肯定感と他者信頼、正直であることと未来を信じることが如何に大切なことかを本書は私たちに教えてくれる。
自己肯定感、他者信頼、正直さ、そして希望。
これが大切なことだなんて誰もが知っているに違いない。
しかし、一体何人の人がこれらを意識しながら生きているだろう。
本書は。共感と包容力を用いて、誰もが大切だと知っていながらも疎かにしている大切なことについて今一度私たちに考えさせる。
自分の人生を送るために、一旦立ち止まり本書を手に取ってみるのも良いかもしれない。

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