炭水化物スキー子さんのレビュー一覧
投稿者:炭水化物スキー子
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はてしない物語
2019/12/30 22:58
異世界トリップは家に帰るまでおわらない
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ふと云十年ぶりに読み返したくなって、通販で購入。程なくして子どもの頃図書館で借りたのと同じあかがね色の本が手元に届き、「そうそうこれこれ」と懐かしい気持ちが一気に溢れました。
但し、あかがね色の絹で装丁された本のことは覚えていても、内容はかなり忘れてしまっていたので、読書中「こんな話だったっけ?」と思うことがしばしば。特に、後半についてはほぼ記憶していなかったので、終始はらはらしっぱなしでした。おまけに涙腺が刺激されるわ、刺激されるわ……“変わる家”の辺りからは数ページ毎に泣いてました。
子どもの頃、自分がどんな思いでこの物語を読んだかは残念ながら覚えていませんが、大人になって読み返してみると、物語終盤、ファンタージエンの住人たちがバスチアンにかける言葉は、どれも本当に胸に突き刺さります。
ただ、最も一生に残ったのはバスチアンと彼の父親のシーンです。黒と白、二匹の蛇が守る“生命の水”。ファタージエンの外には、ファンタージエンで得たものは何も持っていけません。けれどバスチアンは、“生命の水”を父親に持って帰ろうとします。結局、バスチアンが両手にすくった水は、いつの間にかこぼれてなくなってしまっているのですが……父親との会話の中で、こぼしてしまったと思っていたはずの水が、無事に届けられていたのだとバスチアンが気づくシーンは、涙なくしては読めません。『はてしない物語』はバスチアンだけでなく、バスチアンの周りの大人達をも救う物語なのだと思います。
ファンタジーの傑作といってしまうと陳腐な気もしますが、本書は間違いなくファンタジーの傑作中の傑作です。何よりファンタジーの魅力だけでなく、ファンタジーの魔力、恐ろしさを書いているのが素晴らしいです。
家に帰るまでが遠足といいますが、異世界トリップも同じで、帰りたい場所があるからこそ、冒険には意味があるのだと強く思える一冊でした。
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