ひこにゃんさんのレビュー一覧
投稿者:ひこにゃん
天子蒙塵 2
2023/12/03 16:31
満洲国成立まで
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第二巻は、1924年の北京政変で紫禁城を追われ天津に居を移していた溥儀が日本の手引きで中国東北地方へと移動してゆく1931年から始まります。『中原の虹』で活躍した馬占山(秀芳)、李春雷、張景恵(元豆腐屋の”好大人”)、日本の陸軍中佐吉永将ら張作霖の元部下たちや、『マンチュリアン・リポート』の主人公・志津邦陽陸軍大尉、そして『蒼穹の昴』からの李春雲、梁文秀も登場し、1932年の満洲国成立までが描かれます。本巻のラストシーンは、ここで一連のシリーズの完結としても違和感がないほど感動的で、これほど壮大で精密な小説を書き上げる浅田次郎という作家に畏敬の念を覚えました。
儒教とは何か 増補版
2022/01/24 19:56
儒教の宗教性を力説
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礼教性(道徳・倫理)と宗教性との両面を持つにもかかわらず、前者のみが論じられ認識されてきた儒教について、葬儀や夫婦の姓など身近なところから説き始め、「祖霊信仰こそ儒教と最も深い関りを持つ」として、地下水脈のようにして在る儒教の宗教性を浮かび上がらせた力作です。法家、道家や仏教(著者は真言宗信者として受戒している由)との比較も織り込みながら展開する儒教史は、(第五章 三 朱子学 1 存在論宇宙論を除き、)門外漢の自分にも大変分かりやすく感じられました。
時々現れる断言癖が気になるかも知れません。それだけ論旨は明快です。
他書からの引用部分にはページ数まで書かれており、また本書内の別の箇所で論じられている場合はその点も適宜案内されていて、学者・書き手としての良心を感じました。
中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録
2023/05/05 15:34
中国で拘束されると・・・
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2016年7月に北京の空港にてスパイ容疑で拘束され、服役の後2022年10月に帰国した日中青年交流協会元理事長の手による実録。拘束の理由の一つとされる2013年12月北京での中国外交官との会食に同席していた元毎日新聞社記者の企画により毎日新聞出版から出版された一冊です。
中国の「居住監視」という制度、起訴状,判決文(いずれも全文掲載)や、拘置所,刑務所内の実態、在華日本大使館の対応等に関する具体的な記述は、中国に語学留学,出張,駐在経験のある自分には大変興味深いものでした。最高人民法院(中国の最高裁判所)元判事と同室に収監されていたというくだりにも驚きました。
第5章の「どうする日中関係」に記された論考は特に目新しくは感じませんでしたが、日本はあくまで日米同盟を基軸とし、その上で中国との関係もしっかり考えていくべきとの主張は首肯し得るものでした。
今後も中国問題に関わっていきたいと言いながら、おそらく二度と渡航しない覚悟を決めて本書を上梓したと思われる著者に敬意を表したいと思います。
天子蒙塵 3
2024/02/04 13:45
張学良、中国へ
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張学良が欧州へ渡航する船上の場面からこの物語は始まりましたが(第一巻 序章)、およそ8か月の滞在を終えて中国へ戻る船旅のシーンで第三巻は終わります(1933年12月)。祖国を一つにすることが自分の使命だ、との心境に至った張学良が最終巻でどのような活躍をするのか楽しみです。
天子蒙塵 1
2023/12/03 15:22
『蒼穹の昴』に始まる中国近代史シリーズの続編
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『蒼穹の昴』、『珍妃の井戸』、『中原の虹』、『マンチュリアン・リポート』に続くシリーズの第一巻です。設定は1933年の北京。日本人新聞記者に聞かせる形で、主に清朝最後の皇帝・宣統帝溥儀の元皇妃(側室)が、1922年の輿入れから1924年の北京政変(馮玉祥が溥儀一族を紫禁城から追放した事変)、1931年の離婚までを振り返るという物語です。『蒼穹の昴』からの登場人物である李春雲、梁文秀なども出て来ます。
日本鉄道史 昭和戦後・平成篇 国鉄の誕生からJR7社体制へ
2023/08/26 15:03
日本鉄道史 全3編の完結編
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全三巻の最終巻で、戦後から2010年代後半までを扱っています。前二巻同様、業界誌・新聞をはじめ、各種議事録、鉄道会社の社内報まで様々な資料を丹念に追った労作です。出典も明示されており、巻末には年表も添えられている点、筆者の学者としての良心を感じました。前二巻で散見されたような誤謬もなく、今の時代に近づいて来るにつれ興味深く読むことが出来ました。
本覚坊遺文
2022/07/31 17:07
弟子の本覚坊を通じて語る千利休最期の心境
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千利休の弟子・三井寺の本覚坊という茶人が遺した手記を基にして、利休の侘茶に対する考えや、最期の心境を井上靖が本覚坊の口を借りて述べてゆきます。
「なぜ太閤は利休に死を与えたか」「なぜ利休は申し開きをせず死を受け容れたか」について、本覚坊は東陽坊、岡野江雪斎、古田織部、織田有楽、千宗旦(千家三代目)らと対話を重ねます。全章を通じて、「自分ごときには判らない」が繰り返されますが、後者の問いに対しては終章で答えが明示されます。
200ページ、すいすい読めました。山口誓子の「学問のさびしさに堪へ炭をつぐ」をなぜか思い出しました。
死ねない時代の哲学
2020/05/10 15:01
安楽死・尊厳死をどう考えるか
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書名にかかわらず 「この人が書いた本は買う」 という著作者の一人です。三十余年前に大学で科学史の講義を聴いて、知の巨人だと圧倒されました。
本書の主題は、安楽死・尊厳死です。医学の歴史、古今東西の死生観、現代における医療や安楽死・尊厳死をめぐる様々な主張・法制・事件が紹介され、著者自身の考えが示されています。重いテーマですが具体性に富んだ内容で、2日で読めました。
先生ご自身癌で、残された時間が少ないとのこと。一日でも長くご活躍され、そのご見識を一冊でも多くの本に残して頂きたいと願います。
いま知っておきたい「みらいのお金」の話
2020/05/07 18:47
師弟の会話形式で仮想通貨を解説
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仮想通貨について、先生と生徒の会話形式でとても分かりやすく説明してくれる好著です。「ブロックチェーン」「ノード」「マイニング」などの概念も、予備知識なしでも意味・仕組みが理解出来ました。
物々交換や肩たたき券の例から 「信用取引の債務の記録が、お金の概念を生み出した」 「目に見える貨幣がなくても記録さえあればいい、というのがお金の本質ならば、キャッシュレス社会になっても不思議じゃない」 というテーゼへの展開もとても説得的で、中央銀行が法定通貨を発行するという現在世界中で行なわれているモデルが変わる日が来るかもしれない、という気がしてきました。
本書で一箇所だけ腑に落ちないのが、285~287頁のコラム 「暗号通貨が日本の切り札?」 です。
政府と日本銀行のバランスシートを連結させて「統合政府の連結バランスシート」を作成する場合、日本銀行が保有する国債について政府の負債と日本銀行の資産は相殺消去されますが、日本銀行の負債である日銀当座預金は市中銀行に対するものなので消えずに連結バランスシートに残るのではないかと思います。これがなぜ「返済不要な帳簿上のお金にすぎません」と言えるのかが分かりませんでした。
日本鉄道史 大正・昭和戦前篇 日露戦争後から敗戦まで
2020/05/07 12:30
日本鉄道史 大正・昭和戦前編
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国鉄を中心に、私鉄・路面電車・地下鉄・南満州鉄道までカバーする概括的な鉄道史の続編です。著者自身が手掛けたという沿線の自治体史や鉄道会社社史の他、官公庁の報告書や新聞記事、さらに田山花袋や徳冨蘆花らの文章まで参照しながら、標題時期の鉄道事情が詳しく述べられています。首都圏では京急・東急・小田急・京王、関西では近鉄と南海が合併して一つの会社だった時期があったこと、関門トンネルや東海道新幹線のいくつかのトンネルが戦時中に掘られたこと、終戦翌日も国鉄は時刻表のとおりに動いていたことなどは知りませんでした。また、昭和初めのお召列車の運行時刻、国際周遊券の経由地、特急燕号の食堂車のメニューなど、具体的な情報も満載で興味深く読めました。
このように網羅的でinformativeな好著であるのに、前編に続いて誤謬が散見されました。
37頁 「軽便鉄道に指定変更されたものが三三社」 → 二七社
58頁 「柏原」 は 「かしわら」 でなく 「かしわばら」
65頁 「上野~直江津(上越線、九三年四月)」 → 信越線
75頁 図2-4 縦軸の単位は(千円)でなく(百万円)
84頁 「一九二二年の市内人口は約二四七八万人、郊外人口は約一四三二 万人」 「二三年には、市内人口約一五二七万人、郊外人口約一七一六万人」 の人数はすべて一桁過大
86頁 「建設費一億六二〇二万人」 → 円
90頁 図3-2 縦軸の単位は(人)ではなく、おそらく(千人)
109頁 「目黒蒲田電気鉄道」 のルビ
156頁 「一九三六年には訪日外国人観光客が四万二五〇〇〇人」・・・ゼロが一つ多い
204頁 「JR相模原線」→ 相模線 (ブクログでも指摘されている)
こういう誤りは全体の信頼性を揺るがしかねず、労作だけにもったいない気がします。
日本鉄道史 幕末・明治篇 蒸気車模型から鉄道国有化まで
2020/04/26 23:19
日本鉄道史 幕末・明治編
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手に取り易い日本の鉄道史だと思います。
1里の換算に少しおかしいと思われる箇所がありました。初版15頁に 「マルセイユ~パリ間の距離は660里 (2,591.8キロメートル)」 とありますが、グーグルマップで775kmです。11頁、12頁に19世紀半ばの米国の汽車の記述があり、「その速度は一日に300里(1,178キロメートル)を走る」、「汽車の時速は25里(98.2キロメートル)とおどろくべき速さである」 とあるのも、同様の換算によるものかと。
また、99頁 関ケ原~四日市間鉄道 という項に、「途中の信濃と近江の境には山谷があり」 とあるのは信濃ではなく美濃、108頁 東海道線についての記述で、「国府津で鉄道を降りれば江ノ島・鎌倉まで『僅かに一里少余に過ぎず』」というのも、国府津ということはないと思います。
このように、鉄道に関する書籍には少しそぐわない誤りも含まれていますが、全体としては手軽な入門書だと思います。
エリートと教養 ポストコロナの日本考
2022/05/08 14:34
6つのテーマで語る教養
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教養学部を卒業され教養学部で長く教鞭を執られた著者による教養論/教養についての考察です。"政治と教養"、"コロナ禍と教養"、"エリートと教養"、"日本語と教養"、"音楽と教養"、"生命と教養"の6つの章で構成されています。
「もともと纏まった一冊の書物に仕上げるつもりで書き始めた仕事ではなかった」と “おわりに” にあるように、6つのテーマに関連して教養について思うところをエッセイ風に書いたという印象で、『やりなおし教養講座』(NTT出版2004年)に似た趣向の一冊と思いました。
特に "日本語と教養" や "音楽と教養" の章では、「脱線」として著者のこだわりや思い入れが垣間見えました。例えば、日本語の表記に厳格で、「ワープロ」等の略語を嫌悪され「ワードプロセッサー」、BとVの発音も峻別し、「レヴェル」「ヴァイオリン」。だから「テレビ」などとは絶対に書かず「テレヴィジョン」, 「TV」。2022年4月10日読売新聞の書評で「私もまったく同意見です。」という橋本五郎氏もそこまでは、というところでしょうか。
万葉の巨星柿本人麻呂 その知られざる生涯
2025/02/08 13:33
柿本人麻呂の生涯にかかる一仮説
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著者は元静岡大学等教授。柿本人麻呂の作品を鑑賞しつつ生涯を振り返る一冊です。活字が大きいこともありサクサク読み進めます。事績を伝える資料が乏しいことから、推測・想像が必要にはなるでしょうが、著者自身「あとがき」に「万葉学者ではない気楽さから、また眼疾による文献博捜の不如意から、実証を軽んずるような著述スタイルとなった」と書いているように、根拠薄弱な断定という印象を受ける箇所がいくつかありました。「こういう説も可能なんだ」という感覚で読めばよいでしょう。
流人道中記 上
2024/12/31 11:30
1860年夏の25日間、侍二人の江戸から津軽半島への道中記
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作者の中国近代史シリーズをすべて読み終わったので、初めて幕末ものを手に取りました。1860年夏の25日間、侍二人の江戸から津軽半島までの道中記です。設定や時代背景など精密に描かれており、舞台となった伝馬町牢屋敷跡、芦野宿や仙台を訪れてみたいと思いました。何度も感嘆し十分楽しめましたが、展開に少し無理があるのでは…という箇所もありました。他の幕末ものを読みつつ、中国シリーズの新作を待ちたいと思います。
風琴と魚の町・清貧の書 改版
2023/02/05 19:42
続・貧乏物語 +α
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9つの小篇からなります。6つは自伝的小説、2つは自伝とは全く関係ない創作、そして、作家として名を成した後のエッセイのような短篇が1つ付いています。自伝的小説は『放浪記』と似たような内容で、違いと言えば、登場人物に架空の名前が付けられているところ。創作の2篇も、特に名作という印象は残りませんでした。「耳輪のついた馬」と「牡蠣」はなぜそのような作品名が付いたのか謎でした。
林芙美子がなぜ文豪と評されるのか ― 未読の『浮雲』を読んで納得出来ればいいなぁと思っています。
