泣き上戸さんのレビュー一覧
投稿者:泣き上戸
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空虚成分
2020/11/19 13:49
ぐいぐい引き込まれる不思議ワールド
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レビューというものを書き込んだことは一度もないが、書かずにはいられなくなり、初投稿した。この本には七つの短編が収められているが、それぞれ独特な雰囲気がある。
表題作は、主人公である私が、夏の日にいきなり父親の墓地を訪ねるところから始まる。純粋な墓参りではなく、太陽光で熱くなった墓石の上で目玉焼きを作るためだ。ずっと墓石の上で目玉焼きを作ってみたかった、とあるが、実はそれは生前父親が「オレの墓石の上で目玉焼きを作ったら現れるぞ」と言っていたからだった。その通りに父親は現れ、私に空虚成分について話す。
空虚成分とは、特に人生の目的もやりたいこともないドーナツの穴的なもので、父親から娘である私に受け継がれてしまったらしい。成仏できない父は、私の前に再度現れ、父の弟であるせいじ叔父さんとボウリングをして私が勝ったら、自分も成仏できるし、私の中にある空虚成分も持っていってやる、と告げる。私は仕方なく、かつてプロボウラーを目指していた叔父さんとボウリング対決をすることになるのだが……と、なんかこう書くと支離滅裂なようだが、文章が小気味よく、実に面白い。
ラストで、空虚成分とは実はなんだったのかが明かされる。着地点もスッキリしており、終わり方も爽やかな傑作といえるだろう。
もう一編、特に引き込まれたのが「ヒエログリフの鳥」という短編だ。
ペットショップで買ってきたインコが、ある日いきなり数字を喋り出す。誰かの電話番号だと思った「私」は電話をかけてみる。出てきた相手は、逃げたインコを探していて、それは自分鳥だ、と主張。今新しく飼いだしたインコと交換しないかと「私」に提案する。提案をのみ、インコを無事交換するのだが、そのインコが再び数字を喋り出す。その数字が実は──という話で、先がどうなるのか気になって一気に読んだ。
物欲もなく、ごく普通の生活をしていた人が、ひょんなことから大金を手にしたら人生がどう変わってしまうのか。
根源的ともいえる問題を、独特な目線で描いた良作だ。
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