まるちゃんさんのレビュー一覧
投稿者:まるちゃん
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2021/01/24 06:19
時代を超えて心に残る医療ドラマ
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本書は捕虜生体解剖事件をテーマにセンセーショナルな作品である。
僕とこの小説との出会いは小学校の頃。それこそ国語の文章題で、ちょうど勝呂の幼少期の回想部分の抜粋が出題された。今は読書の僕自身が30歳を超える大人になったが、改めて読み返すとあの頃は感じえなかった強烈な読後感を残す。歳を重ねて感受性が変化したこともあるだろうが、皮肉にも僕自身が医者になったことも作品へのシンパシーの要素として大いにあるに違いない。
主人公の勝呂のように、僕は内科医だから手術こそしないが、家族や患者に予後説明や死亡診断をして人の生き死にを語りかける機会はある。本文にあるようにいちいち感傷に浸っていては仕事にならず、深い面持ちを携えながらフラットな感覚に過ごす。でも内心は独特の感傷に揺れ動いているといった感情の挙動。厭に身についてしまった機敏がこの小説では丁寧に言語化され、物語の中に実に見事に組み込まれている。ただただ驚嘆するばかりである。純文学を損なうことなく手に汗握るエンターテイメントでもある。
また本小説は多視点でオペを通じて「罪とはなんぞや」を考えている作品である。そこに映し出される倫理観、原罪といったテーマは現代も色褪せず。寧ろ、感染症、戦争、テロリズムと、毎日のニュースを介してグローバルな死を身近に感じやすい今の時代だからこそ、より心に響く名作であると感じた。
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