サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. hontoトップ
  2. レビュー
  3. 雑多な本読みさんのレビュー一覧

雑多な本読みさんのレビュー一覧

投稿者:雑多な本読み

197 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本慰安婦問題論

2022/12/31 11:46

慰安婦を政治的に定型ストーリーでとらえるリスクを考える

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書を手に取って感じたのは、2008年に韓国人研究者がシカゴ大学出版から英語で刊行した研究書であり、日本語版は2022年に出されたのかということである。しかし、内容的に古いものでなく、刊行当時から現在まで慰安婦問題をめぐる基本構図は変わらない。日本軍の慰安所について、丹念に調べた上で、認可業者型、軍専属型、犯罪型に分類し、商業性と犯罪性があることを指摘する。公娼か性奴隷かの二元論で、特定の勢力の主張として、困惑された方も多かったのではないだろうか。実態を軽視しがちな論争は問題の核心すら見逃すのではないかと警鐘を鳴らす。そもそも日本と朝鮮半島で、女性蔑視・搾取の構造があり、植民地化、戦争を通して日韓双方が国家レベルでも国民レベルでも加担していた事実、見たくないであろう事実に迫ろうとする。一貫した問題意識であるから、家父長制下の女性に対する抑圧、日本の敗戦後は、占領軍に対する日本の女性供出(日本の多くの女性を守ると言いながらの自己保身か)、朝鮮戦争時を含む在韓米軍に対する女性供出に言及している。当然、日本政府や日本軍の責任を軽くするものではない。本書の目次を見ると、
 はじめに
 序―ジェンダー、階級、セクシュアリティ、そして植民地下における労働と帝国主義戦争
 第1部 ジェンダーと構造的暴力
 第1章 多様な慰安婦像から定型ストーリーへ
 第2章 韓国人サバイバーの証言ナラティヴ
 第3章 歴史としての日本の軍慰安制度
 第2部 パブリック・セックスと女性の労働
 第4章 慰安婦をめぐる戦後/解放後の公的記憶
 第5章 パブリック・セックスをめぐる個人の記憶
 第6章 パブリック・セックスと国家
 おわりにー真実、正義、和解
 補遺―「在外者人類学」を実践するということ
 謝辞      となる。また、解説も読むべきところである。
 日本で、戦前から公娼制度が幅を利かし、国際的な批判を浴びて廃止したといいながら、公娼制度の実態を継続した上に、植民地に持ち込んでいった。歴史的事実と家父長制や公娼制度等を直視した取り組みを考えるにも、一読する価値がある。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本日本の地方財政 第2版

2021/06/18 19:59

地方財政を多面的に分析・解説するテキストとして好適な一冊

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2014年に本書が出版されたが、昨年11月に第2版が出されたということで、地方財政の制度的改革が行われたことを示すもの。
 本書は、先ずは地方自治制度から入り、国と地方自治体の関係を説明したうえで、地方財政を説明し、必要なポイントを短くまとめている。
 地方財政で、主な収入となる地方税を説明しているが、次いで地方交付税という難問にページを割き、丁寧に制度や問題点を取り上げている。
 地方自治体は、国によって位置付けが違い、日本の場合は地方税等の独自財源が少ない割に、国庫補助金等を含めて、支出額は多い。地方交付税が自治体の独自財源で、自治体間の財源不均衡を修正するはずであるが、国の政策誘導に利用されている一面にもスポットを当てている。
 地方債、予算・決算、財政健全化、地方分権改革に触れながら、コンパクトのものになっているので、全貌を見るのに適当なものである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

環境保全と経済成長を対立させる時代は終わった

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

SDGsという言葉を知っている人は多いが、ごく普通に実践している人は少ないというのが日本の特徴と言われる。SDGsのトップに来るのは貧困の克服だが、環境問題としてしか見ていない。しかし、開発途上国の絶対的貧困の問題が克服されるまえに、地球温暖化・気候変動による新しいリスクが高まっており、一部の先進国が行き過ぎた開発や環境負荷を考えない経済成長を追い求めていることは否定できない。ただでさえ、氷河が解け、水位が上がることにより生活場が奪われかねない状況が生まれつつあり、EEZが変わりかねないと言われている。少なくとも、気候変動により集中豪雨が続き、一方では日照りが続く地域が頻繁に出ていることは間違いない。目次を見ると、
 第1部 総論 ― いま何が問われているのか
   1 本書の構成と概要
   補 章
   2 経済成長・幸福と自然
   3 環境と経済成長
   4 温暖化の緩和・適応と貧困・格差問題
 第2部 新たな社会を展望する
   5 新しい経済構造を切り拓く サーキュラー経済の意義
   6 経済成長の定義・測定の見直し
   7 現代社会のウェルビーイング
       ― 経済成長・格差・地域との関わり
   8 持続可能なライフスタイルを選択できるのか
       ― 日独のアンケート調査の分析より
 あとがき、参考資料、索引      となっている。
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、将来発生する巨大災害リスクの可能性とコストについて警告を発している。これを回避するには、直ちに温暖化・気候変動を緩和し適応する必要があり、資本主義のあり方、金融システム、生産・流通システム、コーポレートガバナンス、働き方・労使関係などをトータルで見直す時期にきているという。そこで、リニア経済からサーキュラー経済への転換、リサイクル程度にとどめることがない取り組みを提起する。各章とも読みごたえがある。一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

生活保護を本当に分かっている人はどれだけいるの?

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、特定行政書士が書かれた生活保護を受けるための手続きを書いたものといえる。しかし、それではこの本を説明したことにならないであろう。
 生活保護を受けるべき人が読むべきものであるとともに、生活保護という制度がよく分かっていない、かつ生活保護に無縁と思われる多くの人が読んで、正しい理解をするための本であり、生活保護業務に従事する市区町村職員にも読んでほしいと思う本である。
 まず、日本国憲法第25条から入り、基本的理念を十分かみしめ、厚生労働省の生活保護は国民の権利というところから始まる。この権利性を国会では、当時の安倍総理大臣が答弁で明確に言い切ったものである。
 最初に、この本の使い方の解説、はじめにで著者の行政書士になった経過が書かれ、第1章で「わたし生活保護を受けられますか」で生活保護制度の説明を行う。本書は行政関係が作った解説書ではない良さが出てくる。
 第2章では、生活保護 申請から決定までで、具体的な流れが解説される。扶養照会や水際作戦といった最近話題となっている点も触れている。
 第3章では生活保護申請の事例で、生々しい生活保護受給に至る紹介がされる。そこでは、不正受給の話が出るが、給付総額の1%に満たない程度に過ぎないことは知る人ぞ知る(知らない人は知らないし、国民の大半が入るだろう)であるが、その中の多くは無知や手続き漏れに過ぎないことが多い。不正は、生活保護制度以外でもあるとともに、どの制度でも、ごくわずかの人が手を染めていることがわかるのではないだろうか。
 とにかく、一読をお勧めする。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

日米安保体制を支持する人ほど読んでみる価値あり

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日米地位協定と言われても、何のことかわからないのが普通だと思う。私も読むのをためらうテーマである。そもそも、日米安保条約から始まり、日米地位協定とこの取り扱いを定めた日米協議の議事録まで読まないとわからない言われるとウーンと唸ってしまう。
 これを在日米軍基地と米軍が自由に使える自衛隊基地。それどころか、日本のどこでも米軍が訓練に使えるというのはどういうことかと思ってしまう。
 これを条文等に沿って解説されても頭が痛くなるのは当然だと思う。この「日米地位協定の現場を行く」という新書で、現実に沿いながら解説されると少しはわかりやすくなるし、本書はそれに応えていると思う。
 「はじめに」で、筆者の一人である宮城さんは、沖縄出身の記者であることから、自らの心情にも触れながら書き出す。
 在日米軍基地は、狭い沖縄に集中しているが、沖縄が求めたものはない。
 日本が第二次世界大戦で敗北を喫し、ファシズムに勝利した連合軍に占領され、日本全土に占領軍が基地を配置したが、米軍を中心としており、次々と米兵が犯罪や事件を引き起こした歴史的事実は動かしようがない。結果、米軍基地を追い出す住民運動が盛り上がり、結局、アメリカが支配する沖縄に基地が移される。1972年に沖縄が日本に返還されても、基地は沖縄に移されている。
 ここで、安保条約とは、特に条約を実際に動かす日米地位協定とは何かと第1章で解説する。そもそも、戦後、日本がサンフランシスコ講和条約で独立を回復され、1960年の日米安保条約で占領から対等に変わるはずなのに、日米地位協定とこの運用を協議する場での議事録で骨抜きにされることをわかりやすく示す。
 日米地位協定の問題整理を4点にまとめている。また、在日米軍の飛行訓練の定めがないことから、日本のどこでもできることになっていることを指摘する。さらに、協定の合意議事録の存在で、米軍の権利をさらに保障している。それも国民不在を明らかにする。そして、日米合同委員会の存在。この辺りは他書でも整理されているところである。
 米軍基地が沖縄に集中しているから、沖縄の基地のことを書いているかと思いきや、第2章は「三沢基地―青森県」、第3章「首都圏の米軍基地」、第4章「岩国飛行場―山口県」、第5章「自衛隊築城基地ー福岡県」、第6章「自衛隊新田原基地ー宮崎県」、第7章「馬毛島ー鹿児島県」、第8章「嘉手納基地ー沖縄県」というように、「基地のある街」の現実を描こうとする。
 沖縄の経済の基地依存度は大きく減らしてきており、中国の経済発展、軍事力増強の中で、米軍が徐々に引き、自衛隊が前面に出ていることは多くの方が知っているだろう。本土の基地があるところは、大都会でなく、これといった産業がなく、基地に依存する問題を明らかにする。まさに、苦悩の中の受け入れとも言える。単純な問題でないことを示してくれる。
 最後の「おわりにかえて」では、もう一人の筆者の山本さんは、在日米軍の海兵隊のグアム移転に触れ、日本から出ていけばよしとならないことに触れる。環境破壊の問題を取り上げる。安全保障の問題を現場に押し付けることでは何も解決しないことを示し、各々が考える必要があることを示す。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

ネット情報で振り回されるのではなく、リアルな生活から差別にアプローチする

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、差別感情を増幅させた犯罪を追い、ヘイトクライムの実像を、最前線の現場で取材を続ける記者が書いたものである。単なるルポでなく、ヘイトスピーチやヘイトクライムとは何かを問う書である。特定の属性のグループに対し、差別意識を動機にした犯罪をヘイトクライムというが、なぜ、簡単に発生するようになったのか、その社会背景も追う。在日コリアンを狙った2件の放火事件を取り上げるが、京都府宇治市のウトロ地区の放火事件、大阪府茨木市のコリア国際学園の放火事件である。犯人は、ネットのフェイクニュースやプロパガンダに引きずられ、短期間で見たものを調べ上げたと勘違いし、犯行を起こし、有罪となっている。裁判所は差別による犯罪と判決に入れたくないのだろうか、そのことも明らかにする。犯人は在日コリアンとの付き合いがない。どの社会にもいい人も悪い人もいるが、特定の集団を悪のように決めつけることは誤りというのは明確だろう。犯人は未だに反省できていないという。そうであれば不幸な人であることは間違いない。ヘイトスピーチ等に対し、政府や自治体が、世界潮流に外れ、正面から取り組まない(仕事が嫌いなのだろうか)ことが問題を深刻化している。世界ではデモや街頭宣伝は当たり前なのに、日本では規制が厳しく、ヘイトスピーチ等に対し「表現の自由」を持ち出し、規制することに及び腰なのは、はっきりしない力にすくむ体質だろうか。北朝鮮がミサイルや人工衛星を発射したからJアラートを鳴らしているが、頑丈の建物がないところで、そこに避難しろとか意味がないとしかいえない。それどころか、その度に、在日コリアンへの攻撃が発生する。政府は人の心にまで配慮するのが当然だろう。目次を見ると、
 まえがき
 第1章 ヘイトクライムの転換点―ウトロ放火事件
 第2章 連鎖するヘイトクライム―コリア国際学園事件
 第3章 脈々と続く差別という「暴力」
 第4章 100年前のジェノサイド―関東大震災時の虐殺
 第5章 ヘイトクライムの背景
 第6章 ヘイトクライムとどう向き合うのか
 第7章 ヘイト解消への希望、共生
 あとがき
 主要参考文献一覧        となっている。
 以上のように展開される。関東大震災にも話が及ぶが、そもそも政府・自治体が震災対策を怠り、大規模な火事が発生し、植民地である朝鮮の独立運動があったことに恐怖を覚えた政府が朝鮮人に対する敵視通知や戒厳令を発した事から虐殺の引き金を引く。ところが、住民は暴走を始め、朝鮮人・中国人を収容した警察署まで襲撃する。途中で気付いた政府は、事件を隠ぺいし、住民の責任に転嫁し、国際社会に対し、適切な対応を取ったと発信する。現在、日本国憲法のもとで政府や自治体、警察は本当に変わったのであろうか。ヘイトクライムを容認する政治家、政府だけでなくマスコミの問題も取り上げる。世界各国では外国人の参政権を容認する動きも紹介する。外国人の地方参政権を認めた国を分類し、程度の差はあるが69か国にのぼる。世界中に、滞在期間を超過した日本人も多い。そこを理解した日本人の活動も紹介する。国連の人権理事会から批判される国から、評価される国に。そのためにも一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本コモンの「自治」論

2023/09/12 19:26

コモンとは。自治とは。これまでの公共や地方自治とどう違うのだろうか。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

コモンとは何か。公共というと、これまでの役所にお任せや役所に何かしてほしいというイメージになることが多い。大阪維新の会等の主張を見ていると、大阪城公園の樹木を伐採し、特定の企業に任せて、有料の商業施設を作って利益を上げることを絶賛している。これに対抗するしているようなイメージがある。別に維新に限らず、ヨーロッパの国々で水道事業を民営化し、当然、請け負った企業は利益を出し、株主に配当することから、高い水を購入できる人にはサービスし、払えない人は慈善事業でないとばかり切り捨てる事態が発生し、結局、再公営化せざるを得ないことになり、企業に多額の違約金を払うことになっている。なぜ、こんなことが起こるのか。企業が利益を出せる事業を見いだせず、税金にぶら下がってきている面がある。赤字をなくせ、効率化や身を切る改革と言って時流に乗ってくる面もある。どんどん進めると人間としての生活を切り捨てる社会になってしまう対抗軸として、自治という構想が出てくる。しかし、自治といえば、地方自治といって、地方の時代ともてはやされた時期があったが、これは地方自治体や首長、政党等が上からのアプローチといえる。結局、ブームで終わったのは市民から日常的なものとして出てこなかったからであろう。目次を見ると、
 はじめに ― 今、なぜ<コモン>の「自治」なのか?   斎藤幸平
 第1章 大学における「自治」の危機         白井 聡
 第2章 資本主義で「自治」は可能か?       松村圭一郎
    ― 店がともに生きる拠点になる
 コラム1-「自治」の現場から 「京都三条ラジオカフェ」がつなぐ縁   藤原辰史
 第3章 <コモン>と<ケア>のミュニシパリズムへ  岸本聡子
 コラム2-「自治」の現場から 市民一人ひとりの神宮外苑再開発反対運動   斎藤幸平
 第4章 武器としての市民科学を           木村あや
 第5章 精神医療とその周辺から「自治」を考える  松本卓也
 コラム3-「自治」の現場から 野宿者支援からのアントレプレナーシップ  斎藤幸平
 第6章 食と農から始まる「自治」           藤原辰史
     ― 権藤成卿自治論の批判の先に
 第7章 「自治」の力を耕す、<コモン>の現場   斎藤幸平
 おわりに ― どろくさく、面倒で、ややこしい「自治」のために  松本卓也
 註     となる。
 以上のように、複数の方が、多角的にコモンと自治に対してアプローチしている。上からの自治や学問上の自治というと、自治を生み出す過程は無視されることが多いし、一度制度化されると腐敗してくることが多い。絶えず作り直しが必要だと感じる。地方自治法で、自治は団体自治と住民自治があり、団体自治というのはわかりやすいが、住民自治とは何かといえばなかなか難しい。テーマを定めて住民投票というのも手段としてわかるが、議論が十分されずに、賛成、反対で投票させることが自治なのかといえば違うといえる。学校で学ぶことは正答があることが多いが、世の中で民主主義を踏まえての議論や課題は正答がない場合が多い。スピード感というわけのわからない言説が蔓延る時代に、幅広く熟議し、より多くの人が参加するという一見無駄に見えることの価値をどれだけの人が理解できるかにかかっていそうだ。答えが見出しにくい時代だから大切にすべき思想であると思う。一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

日本は国際社会の一員として発展できるのであろうか

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者は国際法の中で、人権法の研究者であり、憲法学者というわけでない。しかし、日本国憲法は国民主権、人権擁護、国際協調主義を標榜しており、国際人権法と親和性が高い。国際人権法だけ、憲法だけというのも理解できたと言えないであろう。本書は、国際人権法と憲法の人権規定の相違点に着目する。また、世界人権宣言、自由権規約、社会権規約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約などと憲法の規定を巡り、その整合的な解釈のあり方を法令や判例に照らして分析している。憲法の人権条約適合的解釈とは、融合的保障といった複数の条文を憲法の体系解釈を重視している。目次を見ると、
 はじめに
 凡例
 第1章 国際人権法上の人権と憲法の不文の人権
 第2章 憲法の人権条約適合的解釈
 第3章 世界人権宣言15条2項と恣意的な国際剥奪禁止
 第4章 自由権規約2条1項・26条と社会権規約2条2項の差別禁止
 第5章 自由権規約7条・憲法13条と補完的保護
 第6章 自由権規約9条と恣意的な収容の禁止、同7条と品位を傷つける取扱いの禁止
 第7章 自由権規約12条4項と自国に入国する権利・在留権
 第8章 自由権規約20条・人種差別撤廃条約4条とヘイトスピーチの禁止
 第9章 自由権規約25条等と参政権・公務就任権
 第10章 社会権規約13条・子どもの権利条約28条等と教育への権利
 第11章 難民申請者の司法審査の機会を実質的に奪われない権利と行政の 適正手続
 第12章 出入国管理に関する人権条約適合的解釈
 第13章 入管法と憲法の媒介項としての国際人権法
 文献一覧  索引        となっている。
 以上のように、世界人権宣言から始まり、国際人権規約(自由権規約及び社会権規約)のウェイトが高いように思える。もともと無国籍をなくそうというのが国際的に承認されていたが、いずれか一つの国籍でないといけないというのは、1930年代の水準という。そのレベルの日本人が数多いというのが現実であろうか。ロシアのウクライナ侵略でも出てきたが、ウクライナ東部はウクライナとロシアの両方の国籍を持つ人が多いという。複数国籍を持つ人を容認する国家も多いことを明らかにする。徴兵制があって、その国に忠誠を誓えという時代ではないことは明らかだろう。ロシアやアメリカは民間軍事会社が幅を利かせているが、国籍は関係ないと言えばそのとおりであろう。長期在留外国人に地方参政権を認めている国も増えている。メリットを受けている日本人も多いだろう。日本国憲法を狭い解釈で終わらせ、条約の規定を軽く見る司法は、国際社会で通用しなくなっていることは明確だ。私たちも理解していかないと駄目な時代になったと言える。一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

なぜ、犯罪を起こしていないのに自供するのか、当事者に迫らないとわからない

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者は被差別部落史の研究で有名であり、狭山事件で本を出されたことに違和感はなかったが、ご本人は書く「資格」があるのかと問う。普通は、警察や検察、裁判所が十分調査した上で、それなりに適正な判決を下すと思ってしまう。しかし、現実にはそうでない場面が出てくる。本書は、裁判制度や経過を詳しく追うものでない。女子高生を誘拐、殺害したとして逮捕され、地裁で死刑判決を受けた石川一雄の生活や自供に追い込まれていく経過、一審での自供維持、獄中でのこと、何故、無知無学から勉強をしたのか等を追っていく。目次を見ると、
はじめに
 第1章 狭山で生まれた少年 ―仕事と青春
 第2章 つくりあげられた「犯人」
 第3章 文字の習得と「部落解放」への目覚め ―東京拘置所時代―
 第4章 労働と闘いの日々 ―千葉刑務所時代
 第5章 「見えない手錠」をはずすまで
 おわりに
 主要参考文献  石川一雄略年譜 【資料】被告人最終意見陳述
 あとがき       となっている。
 以上のように、石川一雄が逮捕されるまでの生活に触れ、1950年代という朝鮮戦争で多額の外貨を得て高度成長期を謳歌する日本で、小学校にも行けず、子守奉公に呻吟することから、部落差別を受けているにもかかわらず、それさえも気づかない日々がある。字もまともに読めないし、書くこともできないままで、18歳で正社員になることもできないから、アリバイも証明できない。巧妙に構成された脅迫状、身代金の受け渡しで、警察は裏をかかれるが、どこで警察の動きを知ったのだろうか。疑問だらけである。別件逮捕され、殺人容疑で逮捕され、厳しい取り調べの中で1か月も殺人を否定しており、自供し、一審で死刑判決が出ても、自供を維持し続けたのは何故か。同房者から10年で出してもらえるというはなしはウソだと指摘され、徐々に気づいていく。控訴し、東京高裁で弁護士に相談もせずに、殺人を否定するなど、驚くことが多い。字を覚える努力をしたのは、刑務官(看守)からの働きかけで、文房具類を差し入れしてくれている。それも長期で支えている。生きた犯人を捕まえ、有罪にしようとすることに血眼になっている者、冤罪事件として、容疑者を支援するのでなく、政治的に利用する者との違いを感じる。
 石川一雄は、東京高裁で無罪を訴えて以降、差別や冤罪と闘う人間としてクローズアップされるが、等身大の姿を描き出している。あれもこれも書いてほしいという点はあるが、絞り方は優れている。一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

原発賛成、反対の立場に関係なく、問題だらけ、現実的な解決策があるのだろうか

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、NHK解説員・ニュースデスクが福島第一原発事故後の、政府の原発政策の大転換を解説し、「はじめに」で原発反対、推進のいずれの立場でもなく、日本のエネルギーはどうあるべきかを考えてもらうために出されたものという。昨年のロシアのウクライナ侵攻がエネルギーや食料等の価格上昇の原因として、防衛予算の増と共に、老朽原子力発電所の再稼働から新増設までに踏み込む政策が、政府から打ち出されてきたことは否定できない。電気代のアップで四苦八苦している家庭や事業所が多いことは事実である。しかし、戦争だけが問題でない。パンデミック後の世界経済の回復によるエネルギー消費量の増、日本の超低金利政策による円安、物価上昇を下回る賃金や年金の改定を見ると問題は別にあると思われる。本書でもこの点は明確に指摘している。原子力発電と聞くと、普通の人にはわからない高度科学技術で専門家に任せればいいという風潮があり、過去、第三の火と原発推進は当然とされたが、大したものでないことが素人にも解ってくる。それどころか、現時点では人間にはコントロールできないものということも解ってきた。福島での処理に四苦八苦しており、放射能に汚染された大量の水も、アルプスで処理を繰り返しても完全に除去できないし、除去後の核汚染廃棄物も出るだろうに。現場の方々は大変だと思う。地元の約束も守れないのが実態であることは間違いない。政府の脱炭素に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)と言っても、原発頼みであることを解説してくれる。目次を見ると、
 はじめに
 序 章 エネルギー危機は何をもたらしたのか
 第1章 原発回帰、5つの課題
 第2章 原子力業界はなぜ変われないのか
 第3章 福島第一原発事故と廃炉の行方
 第4章 立ち遅れる再生可能エネルギー
 終 章 特別鼎談 日本のエネルギー政策をどうすべきか
 おわりに        となっている。
 以上のように、政府や電力会社が言う次世代革新炉という新しい技術があるかのようなネーミングも、現在の軽水炉の改良型を革新軽水炉と言っているだけ、小型化した軽水炉、高温ガス炉、各融合炉を解説する。原子力業界の体質も取り上げる。横並び、護送船団方式、実態がわからない本社の技術者を含むエリート集団と現場の技術者との乖離は、日本の企業、経済界の悪体質を見ているかのようだ。長年、取材をしている経験で、多くの問題を感じ取っているのであろう。原発推進でも、極めて解決困難、課題先送りを克服しないと無責任すぎることはよくわかるし、現実的でもない。再生可能エネルギーの普及の立ち遅れは痛い。現実的な解決策を消し去ってきたとも言える。一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

自治体レベルで民主主義を学ばないと政治は変わらない

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

杉並区長選挙と言えば、政党の組織選挙、現職区長の既得権益に頼った手法や地元の利益代表的選挙とは違った候補が、宣伝カーで訴え回らず、対話型の街頭宣伝等を行ったことで注目を集めていた。確かに投票率はアップしていた(驚くほどではないが)し、自発的に駅頭でポスターを持って、静かな街頭宣伝は注目に値する。しかし、本書は、それだけを伝えるものでなく、著者が海外で活動してきて、その実践を踏まえて、自治体での取り組みが、国や世界を動かせることを実際にやってみようとチャレンジしていこうとするものである。地方の時代や地方分権を強化していこうという運動が日本でもあったが、今は自治体の財政が弱いままで克服できず、下火になっている。ミュニシパリズム(地域主権主義)という思想を提起しているが、なぜ、ヨーロッパで生まれてきたのか。それを明らかにしつつ、日本でも実践しようとしている。目次を見ると、
 はじめに
 序 章 杉並区は「恐れぬ自治体」をめざす
 第1章 ミュニシパリズムとは何か
 第2章 新型コロナパンデミックと「公共」の役割
 第3章 気候危機に自治体として立ち向かう
 第4章 「もうひとつの世界」はもう始まっている
 おわりに
 初出一覧      となっている。
 ヨーロッパは、民主主義が定着し、福祉制度も整備されというイメージがあるかもしれないが、住宅、上水道等の分野で民営化が進み、日本以上に普通の生活が脅かされている現実に対して、再公営化や公共の役割を問う取り組みが進んできたことが明らかにされる。新自由主義で生活が破壊されていると言っても、新自由主義がごく一般化されている現実に批判にもならない状態であろう。本書の大半はヨーロッパで、どんな取り組みをしてきたか、教訓になることは何かということを具体的に取り上げていく。日本で官が関与すると非効率的で硬直的と言われ、公共の世界で民営化が進み、委託丸投げ、公共財産を売り飛ばしていき、市役所に行けば委託や派遣で来ている人か非常勤ばかり、正規公務員はわずかしかいないというのが実態である。金融商品ともなっている。「公共」の役割と力を取り戻すと言っても、官僚的な世界に戻すものでなく、民主主義を実践する挑戦的な取り組みを提案している。現在の地方自治制度の中で、どう民意をすくいあげ、対話の中で何を生み出し、何ができるのか。そもそも、対話や議論が苦手な政治風土がある。行政窓口がある。現代的な地域コミュニティをつくりあげながら、直接民主主義を活かし、地方議会とどう折り合いをつけていくのか。課題も多いが、期待することも多い。一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

スタートアップと言えばITや新規事業開拓等で儲け話と思ってしまう

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日本に就労困難者が約1500万人いると言えば、本当に信用するだろうか。人口1億2千万台なのに、8人に1人になるというだろう。しかし、日本財団の根拠のある推計と言えばどうだろうか。本書はそこから始まる。スタートアップと聞くと、障害者を始め、就労困難者を焦点にした取り組みと思うだろうか。しかし、その発想が間違いと気づく取り組みを新書にまとめている。
 目次で見ると、
 はじめに
 第1章 障害者雇用制度を基盤とした日本版インクルーシブモデル
 第2章 世界トップクラスのポテンシャルを秘めた就労支援業界
 第3章 日本の労働人口減少問題を突破する方法
 第4章 就労困難者が「大活躍」するためのプラットフォーム
 第5章 薬だけでなく仕事をー企業のきっかけ
 第6章 データテクノロジーがつくる就労困難者と日本経済の未来
 第7章 スタートアップが挑戦する社会性×経済性
 第8章 インクルーシブ雇用2.0
 第9章 就労困難者ゼロ社会
 おわりに     となる。
 日本の障害者雇用を法定化、つまり強制し、法定雇用率に達しないと課金し、これを原資に法定雇用率以上の企業の補助金にしたりしており、決して悪い制度ではない。しかし、成果はまだまだという弱点もある。障害者だけでなく、就労困難者は幅広く存在しているから、1500万人になるし、障害や病気だけでない現実がある。生きづらさという課題に挑戦していると言っていい。インクルーシブとは何かを考えさせる。インクルーシブ雇用で10のポイントを提示している。また、福祉からアプローチすると助ける、救済するという発想から出るのが難しいし、企業活動に結びつけることが難しいというのもうなずける。学校を卒業して福祉の世界だからだろうか。
 国内に就労支援事業所は数多くあるが、努力の割に成果が小さいという課題を示し、これをつなげる、ITを活用する等々の提示を行い、ネット化させることで力を発揮させ、成果を上げていく。そのための、資金も集める。福祉事業で成果がなかなか見えない、福祉を食い物にする業者がいるなかで、この手があるのかと思わせる。本書を評価する人が少ないのが不思議である。一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

自治体は社会政策を担っていると、どこまで理解しているのだろうか

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、2022年9月17日に行われた地方自治総合研究所主催「自治総研セミナー」の記録であり、社会政策でも「住まい」の支援を中心に検討されている。特に、新型コロナウイルス感染拡大で社会や政策の弱点をあぶりだし、経済面では、企業業績の悪化として宿泊、飲食、生活関連サービス、娯楽など、特定の非製造業に集中しており、リーマンショックと違うが、多くの居住困難者を生み出したが、国や自治体は生活保護を活用せず、生活困窮者自立支援制度を中心に、1兆4千億円にのぼる生活資金貸付やごくわずかの人だけ住まいの給付金で対応した。生活面で基盤となる「住まい」を軸に政策を議論する数少ない資料のうちのひとつであると思う。
 目次で見ると、
 (趣旨説明) コロナ禍で問われる社会政策と自治体―「住まい」の支援を中心に  ー 飛田 博史
 (報告1) コロナ禍と社会政策-現状と今後の課題 田中聡一郎
 (報告2) コロナ禍における高知市の生活支援策の概要とその課題-新型コロナ感染における生活困窮者支援の取組から 吉岡 章
 (報告3) 社会政策としての住宅政策 岩永 理恵
 (報告4) 「社会保障としての住宅政策」のあい路 砂原 庸介
 (討論と質疑)
 (まとめ)        となる。
 コロナ禍で、所得5分位階級で、可処分所得を見ると最も低所得層がマイナスとなるなど、格差拡大がより明確になっているが、女性の就業率が上がっているという反面、不安定な実態を明らかにしている。収入低下が出てくると、「住まい」の問題が大きいことがよくわかると思う。高度成長期に安定した所得を伸ばし、政府の持ち家政策という産業政策に応えることができた層と就職氷河期でどうしようもなく、それどころかこの30年は経済成長がなく、マイホームは夢でしかない層とくっきり分かれつつある。その時に、最後のセーフティーネットである生活保護制度が今のままでいいのかという疑問を投げかける。住宅扶助の独立した制度も検討の対象となろう。また、高知の報告は地方特有の問題もはらみ、わかりやすいものである。ぜひ、一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

学力格差の多くは経済格差から生み出される

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、京都の小学校で解放教育を積み重ねてきた著者が、格闘してきた経験をもとに、教師になった人たちにメッセージを送ろうとしたものであるが、教師以外も読むべきものである。部落差別や民族差別に取り組んだものであるが、相対的貧困率が高い日本で、教育の場で考えるべきものが示されている。
 差別を解消するには、思いやりや優しさでなんとかなるものではないだろう。道徳で差別がなくなるわけではない。その現実に立ち向かうことがないと教師としての役割を果たしたことにはならないことを問いかける。当然、教師だけで何とかなるものではないが、取り組まないと何も進まないことを教えてくれる。
 目次で見ると、
 はじめに
 Part1 お兄ちゃん先生と呼ばれて 新採教員の教育実践
 Part2 この町のこと、もっと知りたい 子どもたちと学んだ地域教材
 Part3 本当の思いを伝えたい みずからの立ち位置を問われて
 Part4 学力格差をどう乗り越えるか
 Part5 道徳教育と人権教育 あなたの実践はどっち?
 Part6 「いま」「ここ」にある部落問題にむきあう教育とは        となる。
 学力格差を是正するのに、テストを繰り返しても解決しないし、地域格差、学校格差を表面化させるだけで、何の解決にもならず、差別を拡大している現実がある。学力格差を調べ、その原因を明らかにし、それを乗り越える努力が示されている。親の無理解とか、やる気がないとか、自己責任にしがちな現代であるが、経済格差との関係性を明らかにし、それをどうすればいいのか、その取り組み例が示されている。すこしずつでも学力がついてくると新しい景色が見えてくることを経験した人もおおいであろう。ぜひ、読んでいただきたい一冊である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

部落差別を利用してまで、日本政府、軍は満州侵略の手先に使った

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者はアメリカの日系4世であり、満州開拓団をどう描くのか、部落差別とどうとらえることができるのかと思ったが、その疑問に応える書である。本書は、日本政府や関東軍の画策により、満州に開拓団が送られるまでの歴史から始まり、部落差別を利用して、熊本の来民開拓団の送り出し、そして、1945年8月に敗戦となり、現地の住民を差別、圧迫してきたことによる襲撃、開拓団ほぼ全員の自決、その事実を追い求め、問題の本質に迫ろうとしたものである。
 この来民開拓団は、熊本の被差別部落で、差別と狭い農地で呻吟していることを利用し、融和事業の一環として、農村の満州開拓移民事業の国策として、満州に送り出された。農地を格安で、関東軍や警察の力を使って取り上げられた現地住民は、ソ連軍が迫る中、敗戦を機に、各地の開拓団を襲撃する。来民開拓団は、子供を含む276人全員(証言を後世に残すために脱出した1人を除いた)が集団自決するに至たる。その全容を明らかにするため、当事者の証言、資料を丹念に調べ、現在までを追っている。また、同じ開拓団といっても、住民に襲撃を受ける前に、ソ連軍と交渉し、ソ連兵の「性接待」で独身女性を供与したことで知られる黒川開拓団とを対比する。どの開拓団も、敗戦がわかると真っ先に逃げ出した関東軍、日本政府は国民保護を何も考えていなかったことが明らかにされる。
 熊本で、周囲から差別され、水平社運動が起こることなく、ものわかりのいい部落として、融和事業の対象とされたものの、分村で満州開拓団とされた。差別を解消する目的になっていない融和事業であった。満州に行けば部落差別はないと思わされていたが、部落差別があるから行かされたと言える。満州では、現地の人々を差別する実態があり、今度は差別する側に回ってしまう。開拓団は結局、関東軍に食糧を供給し、政府や関東軍を守るために派遣されたものである。それにもかかわらず、日本の形勢が不利になると、開拓団の男性は次々と徴兵され、主に高齢者、女、子どもの集団になり、それが自決に追い込まれる。単なる悲劇ではなく、国策や利権を貪る一団の犠牲であることを明確にしている。一読してほしい本である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

197 件中 1 件~ 15 件を表示
×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。